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二人が談笑していると、数人の店員が紅茶や料理を運んできた。
「こちら、梨のタルトでございます」
そう言って、コレットの前に梨のタルトが置かれた。
コレットは梨のタルトに、目を輝かせる。
タルトはカップタイプのもので、縁を波のように囲っている様がまるでフリルのようだ。
その上に薄く切られた梨が、黄色みがかった白色の円を描きながら重ねられている。梨が艶めいているのは、表面に薄くゼリーが塗られているせいだろう。絞った生クリームにミントの葉が添えられ、とても可愛らしい。
「こちらのソースは木苺とオレンジを使用しております。どうぞ、お好きなように、ご堪能ください」
皿には左側に赤色、右側にオレンジ色のソースが線を描いて添えられていた。ところどころ、木苺とオレンジのソースが混じり合い、そこがまた美しい。
梨のタルトも見事だが、皿に盛りつけられることで芸術品のような仕上がりになっていた。
料理を提供し終えた店員は壁際へ移動し、待機している。
「お皿の上にあるもの、すべてが美しいわ!」
コレットはひとしきり見た目を楽しみ、いよいよ梨のタルトへ。
ナイフとフォークで一口大に切り、口へと運ぶ。
サクサクとしたタルト生地が最初にくる。すぐに煮詰めた梨のねっとりとした食感と自然な甘さが口に広がり、芳醇な香りを楽しむことができる。
ここで、コレットはあることに気付く。
「あの、こちらのタルトに使用されている梨の品種を教えていただけますか?」
「お客様はお目が高い。そちらは、ポワミエ領で収穫された高級品種の梨を使用しております」
確認するように店員に尋ねると、自身の実家であるポワミエ伯爵家の領地で収穫されたものだと教えられる。
店員は梨のタルトができた経緯について説明を始めた。
「実は、当店の料理人が昨年に王都で開かれた試食会で大変、感動したようで、梨を使用した菓子を考案したのです。しかし、レシピが完成した頃には既に旬が過ぎてしまったので、今年、初めて提供する運びになりました」
それを知った瞬間、コレットの目から涙がにじみだす。
「コレット!?」
「お客様!? 申し訳ありません、何かこちらに不手際が……?」
コレットの目に涙が浮かんでいるのを見て、ロデールと店員は慌てふためく。控えていた侍女も不安そうに様子をうかがっている。
迷惑をかけてしまったことに申し訳なさを感じたコレットは、首を振り、謝罪と自身の出自を明かした。
「いいえ、ごめんなさい……実は私、ポワミエ伯爵家の者なの。自分の領地のものが使われていると知って嬉しくて……」
領地で収穫された高級品種の梨を任されてから、品質や完成度の高さを知ってもらいたくて広報に努めてきた。高品質を維持するために、領民が一つひとつ丁寧に育ててきたのだと。
言葉にはしなかったが、今までの努力が実っていたことも知ることができて嬉しかったのだ。
「左様でございましたか」
嬉し涙だと知り、安心する店員。そして、今度はお願いするように言う。
「現在、王都の市場で少量を買い付けておりますが、定番化いたしましたら直接ポワミエ領で買い付けたいと考えております。その際はぜひ、お引き立ていただければ幸いでございます」
販路が広がることは、コレットにとっても好都合だ。それに、この店は貴族の間で流行している。梨の魅力を宣伝する良い機会になるだろう。
「ええ、こちらこそ。それでは、こちらのお店を、友人に紹介させていただきますね」
「ありがとうございます」
店員との話を終えると、コレットはロデールに顔を向ける。
「ロデール様に連れてきていただいて、本当に良かったわ」
「私はまた、君の役に立つことができたのだろうか?」
「ええ、とっても! ありがとうございます」
コレットは晴れやかな表情を向ける。
ロデールにこの店に連れてきてもらったお陰で、高級品種の梨の魅力が再び広がりつつあることを実感することができた。
自身の努力が実っていることに気付くことができた。
そう思うと彼に感謝せずにはいられない。
再びロデールは、コレットの役に立つことができたことを喜ぶ。
「どういたしまして」
談笑していると日が傾いてきたのか、大きな窓から光が差し込んでくる。
二人は、長い時間、会話に夢中になっていたのだと笑い合った。




