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馬車の中で談笑している間に店に到着したらしい。
御者から店に着いたことを知らされて馬車を降りた後、早速、店内へ。
そこには、子供が好きそうな品が所狭しと並べられていた。
定番の絵本やオルゴール、人形や木馬、少し離れたところには子供用の服まで。
ほとんどの品が小さく作られているので、とても可愛らしい。陳列棚などの什器も子供の背丈に合わせてか、少し低く作られていた。怪我しないように、装飾も最小限だ。
幼い子供が好むようにだろう、全体的に原色、または木のように優しい色が多い。そのおかげで、店の雰囲気がとても明るい印象を受ける。
客層も若い親子連れが多く、子供は並べられている可愛い品に興味を示していた。
コレットも子供と同じく、可愛らしい品々に目を輝かせる。
「まあ! とっても可愛い!」
そう言いながら店内をゆっくりと歩き回ったり、少し屈んで陳列されている品をじっくりと見たりしている。サロモンのために訪れたというのに、自分自身が店を堪能していた。ロデールもそっちのけにして。
「ふ、ポワミエ伯爵令息への贈り物を買うのではなかったのか?」
「そ、そうでした……」
ロデールは目を輝かせるコレットを、愛しいと思った。
しかし、本来の目的はサロモンへの贈り物なので軽くたしなめる。
彼の言葉で本来の目的を思い出し、恥ずかしそうにするコレット。弟の好きそうなものを探すことに。
「そうね……サロモンへの贈り物は、絵本かオルゴールが良いかしら」
この二つは、一人でも楽しむことができるものだ。
自分以外に姉弟はいないし、いくらか持ち直したとはいえ母親は体調を崩している。乳母も、サロモンから離れている時間があるかもしれない。
サロモンは簡単な文字なら読めるようになってきたし、オルゴールはゼンマイの巻き方さえ教えてあげれば、曲を聞くことができる。
コレットは姉として、弟が楽しめる贈り物は何か思案していた。
彼女が悩んでいると、ロデールは横から助言する。
「私なら絵本を贈るだろうか。本格的に領地運営についての勉強が始まる前に、本を読む習慣を付けた方が後々、有利だろう。オルゴールも良いけれど、もしかしたら壊してしまって、その破片で怪我をするかもしれない。男の子は力が強いだろうから」
これは私たちが幼い頃に、よく母上が愚痴をこぼしていたのだと、照れながら教える。
コレットの記憶では、幼少期のロデールは兄の自覚があったせいか比較的に大人しい性格だった。教えてくれた話は、二人が出会う前のものだろう。
自分の知らない彼の一面を知ることができて、嬉しくなる。
「それでは、絵本にしますわね!」
そう言って、絵本が集められている場所へ足を運ぶ。
絵本が集められている場所に着いた二人。こちらも種類が豊富で、コレットは目移りしていた。
動物が主人公の絵本、算術の教材として果物や野菜が描かれている絵本、絵画のように美しい絵本など。
これらを前にして、どれが良いだろうかと悩んでいる。
「種類が多いと迷うわ」
「そうだな」
二人が悩んでいると、店員の若い女性が近寄ってくる。
「いらっしゃいませ。どのような絵本をお探しですか?」
「えっと……三歳の男の子に贈ろうと思っているのですが、どの絵本も素敵で迷っているのです」
店員に話しかけられ、コレットは贈る相手について教える。
「ありがとうございます。そうですね……三歳の男の子でしたら、こちらの絵本はいかがでしょう」
店員が少し思案した後、少し厚みのある絵本を差し出し、中を開いて見せる。
「わあ! 素晴らしいわ!」
その絵本は、絵が飛び出すように仕掛けが施されていた。絵も素晴らしく、細かく描かれているので、ずっと見ていたくなるほどだ。
ページをめくるのが楽しくなる。次は何が飛び出すのだろうかと、幼い子供のようにワクワクした。
「恐れ入ります。絵が立体になっておりますので、文字を勉強し始めたばかりでも楽しめると思います。少々、厚みがありますが、その分ページ数が少ないので想像なさっているよりも軽いかと」
店員はそう言いながら絵本を閉じ、コレットに差し出す。
受け取ったコレットは、仕掛けが施された絵本が想像より軽いことに驚く。
「本当ね! もっと重いものかと思っていたのに」
ロデールにも知って欲しいからか、彼にも差し出す。
「本当だ」
受け取った後、腕を上下に動かしながら、仕掛けが施された絵本がどれほど軽いかを確かめた。
「こちらの絵本をいただくわ」
「ありがとうございます!」
すっかり気に入ったコレットは、仕掛けが施された絵本を購入することに決める。
会計を済ませ、店員は一旦、絵本を預かった。受け取った子供が喜ぶよう、可愛らしく包装するために。
店員から包装された絵本を渡され、それを見たコレットは、可愛いと絶賛した。
店を出た二人は大通りを歩く。
絵本をよほど気に入ったのか、コレットは購入した品を自分で持っていた。良い買い物ができて嬉しそうだ。
「サロモンに贈るのが楽しみだわ」
「私はあまり役に立たなかったな」
ロデールは申し訳なさそうにしている。
そんな彼を、コレットは否定する。
「いいえ。ロデール様が助言してくださったから、素敵な絵本を購入することができたのよ。私だけだったら、幼くても男の子の力が強いなんて思い至らなかったもの。ありがとうございます」
「コレットの役に立てて良かった」
コレットの言葉を聞いて、ロデールは嬉しそうな顔に。
「そろそろ食事に行こうか。私が予約した店を君が気に入ると良いのだが」
「まあ、楽しみだわ!」
ロデールが予約している店へ案内している間、コレットの心はウキウキとしていた。
相手に対して気配りのできる彼のことだ。
きっと素敵な店なのだろう――と。




