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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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 タウンハウスなので小規模だが、庭園には季節の様々な花が見ごろを迎え、良い香りが漂っている。特に、サルビアやユリが美しく咲き誇っており、見る者を楽しませていた。

 気候は少し暑いが、風が心地よく、お茶や会話を楽しむには打ってつけだと考えたのだ。


 お茶や軽食は屋根付きの四阿に用意されており、季節の花を眺めることができる。

 多くの植物を楽しめるよう、手前には草花があり、遠くなるにつれて背の高い木々が植えられていた。背の高い木々は、隣接する別の貴族邸宅からの目隠しや、都市の喧騒から離れるためでもある。


「今回はハーブティーをご用意いたしました」


 そう言いながら、コレットはロデールにお茶を淹れるため、ポットに茶葉を入れる。その上から熱湯を注ぎ、じっくりと蒸らす。


 今回のために用意した茶葉は、心の癒しや疲労回復の効果がある乾燥ハーブを数種類、配合したもの。

 用意したハーブはレモングラスとラベンダー、その中にほんの少しのミント。

 気候が少し暑いというのもあるが、王宮での仕事で忙しいであろう彼を気遣って選んだのだ。


 ちょうど良い頃合になったのでポットを軽く揺らし、とぷとぷと音をさせながらティーカップに注ぐ。

 注ぐ音と共に、レモングラスの柑橘系にラベンダーの華やかな香り、そしてミントの清涼感が二人を優しく包み込んだ。

 コレットはハーブティーを注ぎ終えた後、ロデールの前に出す。


「どうぞ、召し上がってください」


「ああ、いただこう」


 ロデールは始めに香りを楽しみ、その後ゆっくりと口に含む。


「美味しい!」


「わあ、良かったです!」


 褒められたコレットは嬉しそうにする。


 給茶は侍女の方が得意なので、ほとんどの場合お願いしている。しかし、今回は幼少期の友人。

 彼のために、心を込めてお茶を淹れたいと思ったのだ。


 その想いが通じたのか、ロデールは更に褒める。


「スッキリしていて華やかな香りと味に、日ごろの疲れが癒されるよ。ありがとう」


「ふふ、どういたしまして。お役に立てて嬉しいです」


 この日のために侍女やお店の店員に相談して良かったと、コレットはしみじみと思った。

 すると、ロデールは少し恥じらいながら彼女に話しかける。


「コレット、その……う、受け取ってもらいたいものがあるのだが……」


 そう言って、バスケットを差し出した。


「まあ、何かしら。開けてみても良いですか?」


「あ、ああ……」


 バスケットを受け取ったコレットは、ロデールの了承を得て中から包みを取り出す。

 両手より二回りほど大きく、白い布に包まれていた。

 しかし、決して粗雑なわけではなく、清潔な布で丁寧に包まれている。

 匂いからして焼き菓子だろうかと予想しながら、丁寧に解く。


「わあ、私の好きなケーキ!」


 そこには、ベルワーテ侯爵夫人が手作りしたものと、ほぼ同じケーキが入っていた。

 見た目は少々素朴で、練り込まれている乾燥した果物と甘いバターのほのかな香り。表面には少量だが木の実のようなものが見える。

 夫人からのケーキは箱に六切れほど入っていたが、ロデールから渡されたものは丸々そのまま包まれていた。


「箱に入らなくて……コレットは母上の作ったケーキが好きだっただろ?」


「覚えていらしたのね」


 ロデールもいる、ベルワーテ侯爵家の者とお茶会の席を共にしたのは幼い頃。それも数回ほど。

 ジョイルは覚えていなかったが、ロデールはしっかりと把握していた。


 コレットは、思い出を大切にしてくれていたことに感銘を受ける。


「早速いただいても、よろしいですか?」


「どうぞ。ただ、私がうろ覚えで作ったものだから味の保証は無いが」


「まあ、ご謙遜を。ロデール様が作ってくださったのですもの。美味しいに決まっていますわ」


 丁寧に布に包まれていたのだ。きっと、ケーキも丁寧に作ったのだろうと容易に想像できる。


 コレットはその想いに応えるよう、丁寧にケーキを皿に移動させてから切り、取り分けた。


「それでは、いただきますね」


「あ、ああ……どうぞ」


 コレットはフォークで一口大に切り、口へと運ぶ。


 乾燥した果物が少し大きく、ねっとりしている。ロデールの作ったケーキにはクルミが入っており、カリッとした食感も楽しい。砂糖やバターは少量なのか、甘味やバターの風味は控えめ。しかし、乾燥した果物やクルミを多く使っているせいか、自然な甘さをしている。


 ベルワーテ侯爵夫人のケーキは優しい味がするが、ロデールの物もまた違った優しい味がする。


「とっても……優しい味がします」


「……それは、私に気を使っているのか?」


 コレットの感想を聞いて、ロデールは不安そうな表情をする。

 不味さを“優しい味”と誤魔化しているのではないかと。


 そんな彼を安心させるように、コレットは笑顔で答える。


「いいえ。美味しいと思う以上に、ロデール様の優しさが伝わってきます。私のことを想って作ってくださったのですね。ありがとうございます」


 きっと、自分との再会に心を弾ませ、このケーキを作ってくれたのだろう。

 そう思うと、愛しさが込み上げてくる。


「こちらこそ、ありがとう……」


 ロデールは泣きそうな、しかし、優しい笑みで感謝の言葉を口にした。



 この後も、お茶や軽食を口にしながら談笑する二人。


 庭園に咲き誇る、サルビアの周りを可愛らしい蝶が舞っていることに気付かないほど、楽しい時間を過ごしていた。

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