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ポワミエ伯爵家では早朝から慌しかった。
ポワミエ伯爵夫人が領地へ戻るからだ。
王都の方が医療は充実しているが、喧騒を離れて領地で穏やかに過ごしたいという意向を尊重することに。元々、王都には短期間の滞在を予定していたこともある。
まだ、母親が恋しいサロモンも領地へ戻ることに。
夫人は荷物をどこに積むかを使用人に指示している。その一方、サロモンは、乳母に身だしなみを整えてもらっていた。
ポワミエ伯爵は執務室で仕事をしているので、見送りにはコレットと数人の使用人のみ。
元々、体調を鑑みて短期間を予定していたので、ポワミエ伯爵夫人が領地へ戻ることはコレットにも知らされていた。しかし、二人を心の支えにしていたため、いなくなると思うと、やはり寂しい。
「お母様やサロモンがいなくなると思うと、寂しくなるわね……」
使用人たちが次々と馬車へ荷物を運び込むのを見ながら、心の内を吐露するコレット。しかし、その言葉は周囲には聞こえないほど小さな声で呟いていた。
聞かれてしまうと、領地へ戻ることを取り止めてしまうかもしれない。母親の体調のためにも、寂しさを悟られないように堪える。
コレットが思わず切なげな表情を浮かべていると、サロモンが自分の袖を引っ張っていることに気付く。どうしたのだろうかと、彼の背丈に合わせて少し屈む。
「あら、サロモンどうしたの?」
「あのね……おねえさまに、おくりものがあるの」
そう言って、手首から肘ほどの大きさのある長細い箱を手渡される。
「まあ、ありがとう。開けても良いかしら?」
「うん!」
相手の了解を得て包装を解き、箱を開ける。
その中には、可愛らしいピンク色のマカロンが綺麗に詰め込まれていた。
「お店で『これが良い』って、言ったのよね」
荷物を積み終わったのか、いつの間にかポワミエ伯爵夫人が会話に加わる。
サロモンは理由を聞かれたと思ったのか、無邪気に答えた。
「だって、おねえさまは、いつもピンクのマカロンを、めしあがっているんだもん!」
確かにと、コレットは密かに同意する。
マカロンは、サクサクとした口当たりの生地なのでお気に入りだ。ピンク色の見た目も可愛らしいので、好ましく思っている。
また、ピンク色のマカロンは木苺を使われていることが多い。仕事で忙殺されている中、自然と体が求めるのか、つい甘酸っぱいものに手が伸びてしまうのだ。
自分のことを、よく見てくれているのを知り、嬉しくなる。
「嬉しいわ、サロモン。大切にいただくわね!」
「えへへ!」
コレットはサロモンを抱きしめた。彼も嬉しそうに、小さな手で姉を抱きしめ返す。
その後、ポワミエ伯爵夫人が彼女に話しかける。
「私が言うのは、おかしいけれど、健康には気を付けてね。もし辛くなったら、お父様に仕事を押し付けて領地に戻ってきちゃいなさい」
「ふふ、お母様ったら! ありがとうございます。お母様も、道中お気を付けくださいませ。サロモンも、また遊びましょうね」
「うん!」
ポワミエ伯爵夫人は、コレットに笑いながら冗談を言う。冗談のように言っていたが、娘を案じているのだろう。コレットは、その想いに感謝する。彼女も自身の母親に、安全に領地へ戻れるよう気遣った。
夫人とサロモンは馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出す。
二人を名残惜しそうにしながら、手を振るコレット。馬車が見えなくなるまで見送っていた。
ちょうど見計らていたかのように、邸宅内で仕事をしていた使用人がコレットに話しかける。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「ええ、すぐに行くわ」
余韻に浸る間もなく、コレットはポワミエ伯爵が仕事をしているであろう執務室へと向かった。




