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氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
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幕間5 大人な子供 後半

 治安が悪いで有名なゴーストタウン、ベリアを超えたさらに先。鬱蒼とした森の手前に建てられた教会、その隣。

 湿った土と森林の匂いに包まれた孤児院では、今日も少年少女の甲高い声が騒がしく飛び交っていた。

 

「はいはいハロー小坊主ども!!元気してっか〜?」

 

「わぁぁぁ!ライアだ!!魔神が来たぞーーーー!」

 

「今日こそ倒してやる、くらえ!!」

 

「あっはは!積み木を投げるなクソガキ共め…………ってルイ!積み木の中に爆弾を混ぜるな、危ねーだろ!」

 

「兄貴の仇ぃぃぃ!」


 ライアは以前葉と共に、この孤児院に住む子供二人と軽い戦闘をしたことがあった。もっとも原因は互いの勘違いによる事故で、誰も怪我をする事はなかったが。

 そのうちの一人が、今しがた容赦なく自作の爆弾を投げてきた少年、ルイ。


「ルイ。積み木が燃えるとシスターに怒られるだろう。煙幕くらいにしておけ。あと兄は死んでない」


 もう一人が、この他の子供よりも落ち着いた声で場を収める少年。ルイの兄であるシルク。

 

「あ、シルク!お前宛の薬預かってきたから後でルゥンに場所聞いとけよ」

 

「わかった。いつも感謝してます」

 

「いいよ別に。ついでだし〜」


 魔力を多く使うと生命力を削ってしまう病――魔力-命力変換異常症を患う彼が、ライアの目的、その一つである。

 普段から彼の主治医であるリフレットから薬を預かり、届ける手伝いをしていた。


 そしてもう一つの理由。それ即ち、子供達への魔法指導。

 完全な気まぐれによって突然始まったこの講義。何を思ったか、ライア自身も分からない。しかし案外子供達には好評で、なんだかんだ続き既に四ヶ月になる。

 やんちゃが過ぎる歓迎を一蹴し、ライアは子供達の前で仰々しく声を張り上げた。


「喜べ諸君!今日はテメーらに合わせたいスペシャルゲストを連れてきた!」

 

「スペシャルゲスト〜〜?」

 

「ノリがよろしくて何よりです。紹介しよう!バルフィレム国軍最年少のシュテル隊長だ〜!はい拍手〜〜」

 

「…………引きずられてきたの間違いでしょ?」


 肩書きの意味など何も分からない子供達。

 無邪気な歓声と拍手がシュテルを包み、彼はどう反応したら良いか困ったように後ずさった。


「元気だな〜」

 

「響さん!笑ってないで止めてよこの暴君!」

 

「ごめん無理!」


 既に元気溌剌、動きたくて仕方がない子供達に追いかけ回されるシュテル。

 それを眺めるのは孤児院の創設者……ではなく、その創設者の幼馴染みにして、シュテルの同僚でもある八番(ライド)隊の隊長――響。

 

 コーヒー片手に高みの見物を決め込む彼。唯一頼れる大人への救援をキッパリ断られたシュテルは、年相応に不服そうな顔を作っている。


「はいはい、いい加減観念しろ〜?ってわけで、ガキ共。今日の特訓はこのシュテルくんを捕まえることでーす!」


「はぁ?何、鬼ごっこでもしろって言うの?」


「その通り。ただし、範囲は孤児院の敷地内。裏の森も使っていいけど、レイトが張ったテープより外には出るなよ。あと……」


 子供達の前に立ち、ルールを述べるライア。その声をキラキラとした目で聞く彼らは、自分達と歳の近い人間と遊べることが楽しみで仕方がないようだ。

 しかしこれはあくまで魔法の特訓。ただの追いかけっこで終わらせるつもりは毛頭ない。


「魔法の使用はシュテル以外全員、ありだ。トラップ、爆弾、攻撃もOK。シュテルは気配消してもいいけど、魔法は無しでどうにかしろ」


「はぁぁぁぁ…………わかった。やるよ、やればいいんでしょ!」


 一足早く姿を消したシュテルを見て、子供達の間に動揺が走る。彼の気配を殺す技はバルフィレムでもライアを除けばトップのだろう。


「よろしい。ここまで質問はないな?」

 

 子供達は萎縮することなく、むしろ今すぐにでも追いかけたいと言わんばかり。血気盛んでやんちゃな彼ら、その様子はまるで散歩の気配を感じた犬のよう。

 

「いよっし。質問無いなら全員――かかれー!!」


 ビシッと森を指さしたライアの号令。

 弾かれたように子供達がキャーキャーと叫びながら不規則に走り出しす。彼らの行先は様々だが、そのやる気は我先にと地を駆ける馬をも思わせる。


「ヒャッハーー!」

 

 中でも特別煩いのはルイだろう。爆音に混ざり、彼特有の盗賊のような歓声が聞こえる。


 あっという間に姿を消した子供達を見送っていると、ただ一人だけ、その場から動かない者がいた。――シルクだ。


「……ん?シルクお前は行かないの?」


()()行かない。僕はトラップ係だからね。ある程度みんなが動いてから、その場に応じたのを仕掛ける…………って、貴方がこの前教えてくれたのだろう」


 彼は孤児院の中では最も聡明で勤勉だ。ライアが初めて見た時も、既に魔法を使いこなしていた。

 

 しかし彼の病は魔力を使いすぎると命に関わる。

 で、あれば。教えることは魔法ではなく戦術や盤面の見方、罠の仕掛け方。安全に使える少ない魔力で、如何に手数を増やすかが彼の課題である。

 

「ほほーん。少しは学んでるようで結構。なら、お手並み拝見といこうか」

 

 ここは彼らの庭同然。

 シルクの頭脳と地の利を活かす罠の数々。

 相対するは、ライアにとって暗殺技術の弟子であるシュテル。

 遊びとはいえ、ある意味では弟子同士の戦い。ライアは珍しく心を踊らせていた。


 ☆。.:*

 

「で、なんで響ここにいるんだよ。レイトは?」


 子供たちに鬼ごっこをさせることで自由の身になったライアは、優雅にコーヒーを飲む響の横に座り込んだ。 ほんのりと漂う焙煎された豆の香りと、近くの森の空気が彼女らの心を落ち着かせる。


「あいつ今日は最近気が緩んでる野盗連中(大きなお友達)を締めに行くって、大剣片手にどっか行った。だから遊びに来てた俺が留守番」


 本来居るべき、不良神父こと孤児院の院長、レイト。

 なんでも、以前治安の悪いこの町のゴロツキ共を締め上げ、全員教会で力仕事させる手下にしたとか何とか。

 響はそう言いながらもう一杯のコーヒーを手渡してきた。予め用意していたのだろう。


「俺のことよりも気になるのはシュテルだよ。まさかこんな所で会うなんてさ!あの子、仕事じゃなければ滅多に家から出ないだろ」

 

「おいおい、あいつだってまだ12歳よ?同年代のダチは必要でしょ。あの出不精は、外に出てやることがないからだ」


 興味津々に尋ねる響を横目に、受け取ったカップに口をつけた。 初秋の風が肌を撫でる中、暖かなコーヒーがそれを緩和する。

 ライアの視線の先には、孤児院の庭と森を駆け回る子供達。そして、それに混ざって落ち葉を被るシュテルがいた。


「お前も知ってるだろうけど、シュテルって子供は生まれた時から変な暗殺組織にいて、その後はそのまま軍務に所属。そんなんだから趣味の必要性を感じてないんだよ。ただな……ガキはガキなりに遊ぶ時間が必要なんだ」

 

「ライア…………意外と考えてるんだな」

 

「おっと〜響くん?私をなんだと思ってやがる」


「ごめんって」


 軽口を叩く響。彼もライアの視線に釣られるように、はしゃぐ子供を眺めている。

 そして視線はそのままに、ずっと気になっていたらしい疑問を口にした。


「この際だから聞くんだけど、何でシュテルが隊長なの?さすがに12歳は若すぎない?しかも就任したのは去年だったはずだし……」


 「ライアなら知ってるだろ?」と続いた問い。その疑問はもっともだろう。

 もとより、バルフィレムは幹部の平均年齢が若いと侮られやすい。シュテルはその中でも特に目を引く明らかな子供。内部の人間でもその実力は軽視されがちだった。

 

「響、お前のとこは隊長副隊長って何で決める?」

 

「え?……あ〜、基本は前任者が引退する前にロボコン開催してその優勝者が隊長、準優勝が副隊長」

 

「……学生か何か?」

 

「あ、でも今回は代替わりが急だったから……ドラ……前任者が居なくなった後に開催したんだっけ。結果はゼルリオの一強だった……けど、アイツは社交性というかコミュニケーションに難アリだから俺が隊長に繰り上がった」


 軍の隊長、副隊長は任命こそ大臣や王女によって行われるが、その選出は隊によって様々だ。

 現に、響たち技術班もなかなか個性的な選出方法を取っている。

 ――ではシュテルたち暗殺(七番)部隊はどうなのか。ライアはカップの中の黒い液体に写った自分を見ながら答えた。


「七番隊は前任者の指名制でな。その時に一番暗殺技術の高いやつが隊長。諜報技術の高いやつが副隊長なんだと。実力主義なんだよ」


「あぁ、だから……元々そうやって育ってきたシュテルが、頭一つ飛び抜けてたわけだ」


「そういうこと」


 少なからずシュテルの出生を知る一人である響が、納得したように、そして憐れむように言葉を吐いた。

 静かに見つめるライアたちの目には、恐らく初めて同年代と遊ぶ少年の下手くそな笑顔が映っていた。


 ☆。.:*


 日が傾き、森に入るには少々警戒心が必要になってきた時間。

 子供達はライアの号令で大人しく孤児院に戻り、響の指示で夕食の準備に取り掛かっている。

 ライアは一人残されたシュテルの頭に軽く手を置いた。


「同年の奴らと関わった気分はどうだったよ、シュテル」


「……別に?魔法使うって言ってもみんな下手くそだし。あんなのに捕まるボクじゃない」


「とか言って〜、鏡見てみろよ」


 その声は、「あくまで付き合い。自分は楽しくなんかなかったですよ」と言いたげだ。しかし、鏡に映る彼の顔は隠しきれないほど爽快感に溢れ、紅潮し、年相応に輝いていた。


「あ…………いや!別に!これはほら、動いたから!!」


「国仕えの暗殺者が多少運動したくらいで顔に出すなって。素直に言えよ〜?――楽しかった?」


「…………楽しかった」


 ぽつりと零れた本音に、ライアの口角が上がる。

 そして一度零れてしまえば、二つ目は直ぐに落ちてくる。


「特にあのシルクって奴。あいつの罠は……ちょっと危なかったかも」

 

「あっはは!お前にも対等に話せそうな奴がいて何よりだ!」


 恥ずかしそうに述べる小さな頭が、酷くいじらしく、微笑ましい。

 ライアは次に孤児院に来る時も、この「一足先に大人達と肩を並べてしまった子供」を連れてこようと決意した。

 きっとその今度は、今回ほど抵抗せずに着いてくるだろう。そんな気がした。

 

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