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氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
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5章 11 使用人の目

「いやぁ、シアン=ディアスタシアが防壁張ってくれていたお陰で助かりましたぁ」

 

「タダ乗りしてんじゃねぇっての……」


 サヴが寄越したというカエルによって目の前の女が味方であると判明した現在。葉の引き起こした爆風を、全くの無傷で切り抜けたトーンはどうやらシアン達の背後にいたらしい。葉やアミナと同様、防壁の隙間に入り込み難を逃れたのだそう。


「いやあの…………本当に信用できるの?このカエル……」


 先程までの大寒地獄のような景色から一転。当たり前のように会話に混ざるトーンへ、葉は懐疑的な視線を向けていた。尚その時、カエルはアミナの手でもみくちゃに撫でられまくっており、葉は極力カエルを視界に入れないようにしていた。


「それは葉姉、あんたが一番証明出来るはずだぜ?このエインスカイで日本語を正しく、且つ毛筆でここまで達筆に書けるやつはそうそういねぇ」

 

「サヴのおじい様は日本人の迷イ人なのであります!確か……ニンジャ?みたいなこと言ってたので!」

 

「ニンジャ…………忍者?!」


 突然のカミングアウト。

 確かにサヴ本人の口から暗殺部隊の副隊長だとは聞いていたが、今の今まで記憶にある朗らかな笑顔とその血腥い職業が噛み合っていなかったのだ。それもまさかの忍者。


「なんでも、おじい様からそれはもう過酷な修行を受けたそうです。だからこのカエルも…………なんだっけ、虫獣遁の術とかいう?やつであります。多分」

 

「正確には違うんだろうけどな。私も忍術はよく知らねぇからなんとも言えねぇけど、あえて魔術的に言うなら使い魔だと思っとけばいいだろ」

 

「迷イ人二世、三世ってやつですねぇ。私が知り合いなのもその共通点故ですからぁ」


 何年も前にこの世界に来て、そのままエインスカイで家庭を持つ迷イ人の話は以前も耳にしていた。その実例が案外多く、そして近くにいるとは思わなかったが。

 戦闘の緊張と、衝撃の事実に力が入らない。

 葉は座り込んだままシアン達の会話を聞き、逸る鼓動を落ち着かせることにした。


「にしても、召喚魔法に透明化……いや、保護色か。その組み合わせがここまで脅威になるとは。なんでメイドやってんだよお前」

 

「いやぁ、戦闘なんて初めてしましたから。保護色だって親父が使えたのでそういうものかと思ってましたし。『凍結の魔人』に勝てるとは思ってもみませんでしたよぉ」


 相変わらず悪巧みをする猫のように目を細めるトーンに、シアンが「うるせぇなぁ……」と悪態をついた。勝てないのは事実だったので、強く言い返せずもどかしいようだ。

 その後シアンは眉間を揉みながら何かを思い出すように「親父」、「冴原」、「保護色」と唱え始める。そのうち無事答えに辿り着いたのか、パチッと軽快に指を鳴らした。

 

「あ!お前、冴原透哉の娘か!」

 

「正解ですぅ。十数年前は親父がお世話になりましたぁ」

 

「冴原透哉?」

 

「あ!確かこの国で有名な音楽家の迷イ人さんでありますね」

 

「そうだ。二番世界の異能力者。道理で全く感知ができないわけだ。魔力ごと異能で押し殺したな……?」

 

「へぇ。そうなってたんですね」

 

「本人が知らねぇのかよ……」

 

 聞きなれない名前が出てきた思ったと葉だが、アミナの言葉からよくよく思い出してみれば、先日のバルフィレム建国記念の祝祭に招かれていた音楽家の名前と一致した。

 確かにあの楽団も脳裏に曲の風景を描くような抑揚と臨場感があった。尤も、トーンの方は実際に世界をその風景に近づけると言った方が正しいようだが。それもかなりの荒業で。

 漸く呼吸が整ったことに気がついたのか、トーンが座り込んでいる葉へ手を差し伸べた。葉はその何も考えていなそうな顔を見て、彼女に本当に敵意がないのだと実感した。――が、それで納得はできるはずもない。


「それで、さっきまでの攻撃はなんだったの…………。サヴの味方ならもっと早くに言ってくれれば良かったのに」

 

「できない理由があったんですぅ。具体的にいえば監視カメラがあったので。まぁ、それもこれも全部貴女が爆風でぶっ飛ばしてくれたから、こうやって呑気に話ができるわけですけどぉ」


 聞けば、壁に張り付いていた写真がギルドーの魔法によって監視の機能を付け加えられていたらしい。もとよりトーンはカルヴィテリアの使用人。念の為裏切らないようにとのことだそう。


「それぞれ相性悪いのを配置するって言ってましたぁ。三手に別れて、特にヤバいのはライア=ディアスタシアの方だと思いますね」


 そう言いながらトーンは床の端に顔を覗かした窓に手をかけている。継ぎ接ぎの部屋には他の扉も穴もない。唯一の出入口なのだろう。

 それについて行くシアンは頭を抱えていた。葉は一気に魔力を使ったため、多少ふらつきながらも何とかアミナに支えられてそれに続く。

 

「用意周到極まってるな……分断されて相性悪いのを充てがわれるまでは予想ついてたが、それがここまで強いとは。つか、使用人ってあと何人いるんだよ」

 

「私ともう一人だけですよぉ。レグラ君は自己肯定感低いせいで指示ならなんでも実行しようとするちょっと冷酷な子なのでぇ。ギルドー=ガンド的に扱いやすいんだと思いますぅ。あとはもう一人、フィブルからの派遣みたいなヤンキーがいます」


 「あ、私は参加させろって駄々こねましたぁ」と呑気に話すトーン。

 葉は分断されたシャナと蓮夜や、潜入班として動くライア達を思い浮かべ、その無事を祈るように胸に手を当てた。


「さて、狭いですけどこの窓通ればリザイア様のとこに行けるはずですぅ。一応私用の非常連絡通路ですし」


 人一人ギリギリ通れる程の小窓。仮にトーンを倒していたらこの窓を通るという発想は葉達にはなかっただろう。

 

「まさかリザイア様にここまで必死になってくれる友人がいるとは思いませんでしたぁ。あんのワガママお嬢様ホントぉに信じられないくらい自分勝手で、才能もなくて、ディリシア様の出涸らしみたいなやつなんですよぉ」

 

「おぉ……なんだいきなり。喧嘩売ってる?」


 先陣を切るように窓を覗き込むシアンを見下ろしながら、トーンは唐突に愚痴を吐き出した。何を言い出すかと目を丸くしたシアンと葉、友を貶されたと再び睨みつけるアミナを気にする素振りもなく、彼女はここに来て初めてメイドらしく優雅に姿勢を正す。そして、葉達に向かって静かに、礼儀正しく頭を下げた。


「――けど、とっても努力家なんですぅ。だから……あの方をどうか助けてください。こんな、こんな終わり方をしていい方じゃないんですよ」

 

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