5章 4 決起集会
ギルドー=ガンド。以前の戦闘を引き起こした張本人。迷イ人の研究と謳い、執拗に蓮夜を狙う不審者である。
その彼が、リザイアの実家であるカルヴィテリアの屋敷に足を運んでいたのだそう。
「なーるほどね。だからクロウドは戦力が欲しかったんだ。あの野郎レベルが関わってるとなると、半端な戦力じゃ対抗できないってことだろ?」
前回ギルドーと戦ったのはライアだ。彼女曰く、ギルドーの実力はバルフィレム軍隊長クラスだそう。バルフィレムと敵対関係にあるヴァツルナ大陸の組織ということもあり、彼は向こう側の主戦力と考えて良さそうだ。
ライアの言葉に頷くクロウド。それを確認したライアが「けどさ〜」とわざとらしく続けた。普段よりも僅かに大きい声。これは何かを探るときの癖だ。
「戦力に関しては軍呼べばよかったんじゃね?いくらカルヴィテリアとはいえ、このお嬢さんの証言さえあれば充分国が介入する理由になるだろ」
「あまり大事にはしたくないんですよ。リザイアの為にも」
クロウドの言葉にサヴがピクリと反応した。友人枠でこの場にいるが、サヴもアミナも軍の副隊長。これは軍としてカウントしないのかと不安らしい。その様子に気づいたクロウドは言い聞かせるように言葉を続けた。
「この場にいるのはあの子の友人たち。まずはそこから話を進めたかったのです。……それに、何より神に詳しい者が必要でしてね。神の知識に関して、貴方達以上の適任は存じませんので」
「ふーん。ま、それならそれでいいけど〜。で?この人数で行くわけ?大所帯がすぎるだろ」
ぐるりと場を見渡したライア。この場にはディリシアを抜いたとしても十人。カチコミをするにせよ、忍び込むにも確かに多いだろう。
「あ、今回悪いけどオレは行かないぜ。リザイアは心配だけど別件でやることがある」
「集めておいて申し訳ないが私も参加はできない。ただ、ジオーネくんにもう一度連絡を取ってみようと思っていますよ」
「そっか、お前元々ウッズメイズ関連で呼ばれてたんだっけ?」
「そ。長いことクロウドに管理任せてたけど、最近見知らぬ動物が増えたらしいから一回確認に行かないといけねえんだよ」
ここで、ソラとクロウドが離脱。彼らには彼らの仕事があるのだそう。
クロウドに関しては本当に心残りなのだろう。どうにか仕事を手早く済ませられないものかと手帳を見返している。
「これで残り八人……正面戦闘、潜入捜索に別れれば、まぁいけるか」
「つーと、潜入は私とサヴ、正面はシアン、アミナ。ここは確定としてあとはどうする?」
シアンが残りの人数から軽く計画を立て、ライアがそれに呼応する。また、ライアはどこからか取り出した紙をディリシアに渡し、家の見取り図を書かせていた。普段の軽薄さからは考えにくいが、こいつは案外物事を理論的に組み立てることが多い。
「はい!俺正面希望っス!」
「蓮夜正面……と。あと葉姉、シャナ、リュウガな」
「正直みんな正面って感じじゃないな……」
やんややんやと学生のグループワークのように話が進んでいく。
シアンが皆の顔を見渡していると、彼らの様子にディリシアがポカンと口を開けていることに気がついた。
「どうしたよ、ミス・カルヴィテリア。家の事情を一番知ってるのはアンタなんだから、ボサっとしてないで参加してくれ」
「いえ、その。どうしてそこまで真剣に話し始めるのか、不思議で……」
「はぁ?助けてくれって言ったのアンタだろ」
「それはそうなのですけれど……だって、戦いになるのですよ?どうしてそんなに即決できてしまいますの?」
その煮え切らない反応に苛立ちを覚えたが、貴族の次期当主様は価値観が違うのだろう。そう思うことで何とか心を沈めたシアン。
「友達が大切だからだろ」
一言、最も大切なことを言ったつもりだったが、肝心のお嬢様には届いていない様子。不思議そうな、非合理的と言いたげな顔をしている。
(ここまで来ると立場による価値観の相違ってよりも、この嬢ちゃん本人の問題だな)
シアンは目の前のお茶に映る自分の顔を見ながら、どういえば伝わるだろうかと思考したが、それもやめた。きっとこの女は言ったところで伝わらない。何故だかそう感じてしまったのだ。故に、それらしい事を述べて、感情については深く説明しなかった。
「この場にいるのは軍属と迷イ人関連でしょっちゅう狙われてる蓮夜とその兄貴分だぜ?私達護リ人に関しては言わずもがなだろ。皆戦闘慣れしてるんだよ。今更怖気付くようなやつじゃない」
と。
ディリシア本人も、とりあえずは納得したようで「野蛮な人達の考えはわかりませんわ」と、興味を無くして紅茶を啜っていた。
☆
ある程度の作戦が定まったところで、外を見れば既に真っ暗。空を見あげれば満点の秋星が天を彩っていることだろう。
「さて、ささやかながら夕餉を準備しております。夜の森は危ないですからね、宜しければ今晩は我が家でお休み下さいな」
クロウドによる計らいで、華やかな食事を囲むことになった一同。各々好きなものを取る立食型にしたらしい。蓮夜が「知ってる!こういうの決起集会って言うんスよね」とはしゃぐ中、クロウドの召喚霊が次々に大皿を持ってやってきた。
「そんなに作ったって、たかが十人程度じゃ余るだろ」
と、リュウガがクロウドを諌めたが、彼は誰かをもてなすのが楽しいらしく聞いていない。まあ、余ったとて最終的にソラの胃袋に入るのだから問題ないだろう。
ディリシアのみ、父や使用人の目を掻い潜って抜け出してきたらしく、自身の召喚した翼竜に乗ってさっさと帰宅して行った。マイペース極まりない。
「あの嬢ちゃん、どーも私らと距離取りたがってる感じあるよな〜。シアンどう思う?」
「あいつ私達のこと野蛮人つったからな」
「あっはは!野蛮人と優雅に食事はできませんってか!失礼なやつ〜シャナはどうするんだよって話」
香辛料の効いた肉を囓るライアがケラケラと笑った。
同じ公爵家であるリザイアとシャナだが、カルヴィテリア家は歴史が長いのに対してアウスレイン家は新進気鋭。ここ数年で成り上がってきた実力派である。どちらも人生の難所をクロウドに救われたという共通点があり、そこをきっかけに娘たちが仲良くなったのだという。
「うん。多分だけどディリシア様はアウスレインのことをよく思われていないんだと思う。わたしの家は新参者だから」
もぐもぐとリスのように頬張るシャナ。話を聞いていたらしい。彼女の皿には、蓮夜が監修したという魚の煮付けが乗せられていた。飴色に煮詰められたタレが甘い匂いを漂わせている。
「つか、シャナは今回の作戦参加して大丈夫なのか?公爵家同士が揉めることになると流石にまずいだろ」
「ううん。お父様に許可とってあるから大丈夫。『家のことより友達を大切にしなさい』って」
「うーん人格者。シャナはいい父親を持ったな、本当に!」
「うん。自慢の父です」
以前も感じたが、アウスレイン公爵は本当に柔らかい思考で、等身大の人間という印象だ。近寄り難い貴族の中ではいい緩衝材になっているのだろう。
(リザイアもいい友人に恵まれてんだよな……だから、こんなところで終わらせていい人間じゃねぇんだ)
シアンはサヴやアミナに呼ばれて次の料理を取りに行ったシャナを眺めていた。蓮夜や葉も交えて同年代で談笑する彼ら彼女ら。その中に、一人足りないことが悔やまれる。否、悔やまれない未来を作るために、確実に止めに行かねばならないのだ。
自然と手に力が入り、持っていたグラスの中身が揺れる。
その様子を、ライアだけが黙って見ていた。




