表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷炎護リ人  作者: 有麻環
幕間
62/95

幕間3 建国記念日 前半

 バルフィレム城、軍務六番(ソウェル)棟。またの名を、軍医の要塞。塔の入口には誰の趣味かエインスカイではなかなかお目にかからない達筆な毛筆で、「怪我放置、絶許」とでかでか掲げられている。勿論、ここはエインスカイ。書かれているのも日本語ではないのだが。

 そんなヒラ隊員から歴戦の隊長格まで、軍務総員まるっと恐れる六番(ソウェル)棟。その病室の一つにシアンはいた。


「どうだ、リフレット……あのガキ、何とかなったか?」

 

「とりあえずはオッケー。アンタの移転魔法のおかげだね。あのまま放置してたら普通に死んでたっしょ、穴でかすぎだし」

 

 移動可能な浮遊椅子に腰掛ける、派手な見た目の女性。六番(ソウェル)隊を率いる隊長、『調和の棘』ことリフレット=カイン。

 リフレットとシアンの視線の先には、医療用ベッドで静かに眠る少女の姿があった。先日アイシハイクで、スノーマンの死体からできた化け物を操っていたフィルクルだ。彼女はウィンとの口論の後、急に彼女の操作権から逃れた化け物に腹を貫かれ、生死を彷徨っていた。


「でもお前ならどうにかできると託したんだ。実際、何とか命は繋いだみたいだし……どうやったんだ?」

 

「んー、治験段階の環境適応型スライム使ってワンチャン?」

 

「は?スライム?」


 下手をすれば即死も有り得たフィルクル。しかし、今は比較的穏やかに眠っている。バルフィレムが誇る軍医の長に何をしたのか尋ねると、なんだかとんでもない単語が飛び出した。


「そ。全身魔素で構築されたスライム。こいつがが失った臓器とか、血管とか保管するように変形、変質するの。代価として需要エネルギーが増えるけど。ま、よく食べるようになるってコト」

 

「それ、寄生っていうんじゃねぇの」

 

「共生って言ったげて。ウチ的には風穴開く患者なんてそうそうお目にかかれないから良いじっけ……医療試験対象かなって」

 

「今実験つったな?」

 

「言ってナイナイ」


 彼女の言葉が事実であれば、今フィルクルの腹にはスライムが詰まっているということになる。どうにかして命を救ってくれと言ったのはシアンだが、なんとも言えない有様に多少の後悔と哀れみを抱いた。

 

「つか、治験段階の技術って患者の許可を取る必要があったんじゃねぇの」

 

「死にかけてる人間に聞けるわけなくね?背に腹はかえられないってコト」

 

「まぁ、いいけど…………」


 敵対していたフィルクルの性格を思うと、腹にスライムなど「キモい」と拒絶する可能性が高い。そもそも、敵に情けをかけられたことすら嫌がるかもしれない。

 シアンの普段の堂々とした態度はなりを潜め、酷く自信の無い、小さな声で呟いた。


「こいつを助けて欲しいって言ったのは私のエゴで、あの時私の目の前で死んで欲しくなかっただけなんだ。だからもし万が一このガキがこんな形で生きていたくないって言ったら、そん時は好きにさせてやってくれ」


 リフレットは長いまつ毛に縁取られた目を数回瞬き、キョトンとした顔をした。人の死を何よりも嫌うシアンの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。

 一瞬、僅かに天井を見てなにかを考えた後、満面の笑みでこういった――


 

「絶対イヤ」


 

 ――と。

 シアンも薄々そう返される気はしていた。

 

「…………だよなぁ」

 

「だってウチの手で紡いだ命よ?誰がなんと言おうと絶許っしょ。それに真面目な話、この子は捕虜として尋問される未来が待ってる」

 

「身も蓋も救いもねぇ」

 

「ま、バルフィレムの外、遠く離れたどこかに行って一人で死ぬなら、それはもう止められないからしょうがないよね」


 リフレットもシアンと同じく、否、それ以上に人の死をいたく嫌う人間である。彼女は、医療に携わる中で何度も「救える技を持っているのに救えなかった」と凹んで、その度に立ち上がってきたのだ。そんな彼女に、シアンの言葉は酷であり、聞く価値もないものであった。

 そして何より、フィルクルはバルフィレム領地であるアイシハイクを襲った張本人。気持ちの問題以前に、軍人としての仕事のため死を与えるわけにはいかないそうだ。


「そういえば、シアン達三馬鹿は今年の建国記念パ出るの?今年は凄いよー、あの冴原透哉の楽団が来るってマリーシャ様が喜んでた」

 

「冴原って……あぁ何十年か前に保護した異能力者の迷イ人か。あいつ音楽家なんだ」

 

「なんで知らんし。チョー有名だかんね?シアン達も招待状は来てるんでしょ?」


 フィルクルの様子を紙に書き留めたリフレットは、思い出したようにシアンへ問いかけた。


「あぁ、例年通り二日目だけは出るかな。ライアも二日目だけ、ソラは両日出る…………って、誰が三馬鹿だっての」

 

「てへぺろ!」

 

「いい歳してよくやるわお前……」


 きゅるんと可愛こぶるリフレット。ノリの良さは流石、バルフィレムの隊長格と言ったところか。

 余談だがこの軍務、副隊長は奇人変人の集まり、そして隊長は真顔で悪ふざけに乗りかかる悪ノリ集団だった。


「ま、とりあえず!この子のことはウチに任せて、アンタはアンタの仕事をしてよね」

 

「仕事って……私軍務所属じゃねぇんだけど?」

 

「ここまでバリバリに関わっといてよく言うよね〜。それはそうと、仕事って言っても具体的には弟子の面倒的な?」

 

「あぁ、トラリアとウィンね」

 

「そ、トラちの方。神牙の特性上仕方ないとはいえ、怪我を放置するなって強く、強く!言い聞かせといて。ウィンくんは怪我してないから別にいい」


 リフレットはずいっとシアンに顔を近づけ、鬼気迫る勢いで忠告した。シアンは壁に追い詰められ、何も言い訳が許されない雰囲気にただただ頷いた。これが軍務、否、騎士ですら恐れる医者の圧である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ