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氷炎護リ人  作者: 有麻環
四章 アイシハイク編
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4章 15 思惑

「どいつもこいつも神、神、神!!八神の力がそんなに欲しいかよ、わっかんねぇなぁ!!」


 つい先程、フィルクルの口から告げられたのは、彼女らがスノーマンを利用して神牙鍛造を目論んでいること。それは小さな子供が夢を語るように、無邪気に希望に満ちた顔で言い放たれた。

 

 エインスカイに古くから伝わる八神伝説。その力を欲する者はどの時代、どの国においても必ず存在した。シアンが見てきた700年、そんな彼らの行く末は決まって破滅だった。

 眷属を使役しようとして、死より酷い惨状を迎える者。

 神牙を奪い合い、人間同士で殺し合う者。

 漸く手にした神牙に拒絶され、その身を武器に喰われる者。

 これらをそばで見た結果、シアンの中に生まれた結論がこれだ。


「神に関わるとろくな事がねぇ!」


 ☆。.:*


 ――葉と冬が戦闘を始める同時刻。

 トラリアとレディアは互いに武器を構え、ただ白い息を吐いていた。葉たちの戦いなど耳に入っていないかのように、微動だにせず睨み合う。


「神牙なんて造ってどうするつもり?バルフィレムに害をなすつもりなら、わたしたちは容赦しないよぅ」

 

「それはわかりませんわ。造るのはお姉様のため。お姉様が何をしたいかなんて、あたくし達如きが知るはずもありませんもの」


 静寂を破ったのはトラリアだった。しかし、その問いはするりと躱される。

 現状、こちらにはあまりに情報が少ない。レディア達が神牙を造るためスノーマンを利用することはわかった。その影響でスノーマン達が暴走し、人を襲うようになったであろうことも。

 しかしそれだけである。相手が有名な宝石店のオーナーであると言えど、知られているのはレディア=レッドファンドという名前と顔だけ。それが別の組織、ひいては他国の息がかかっているか否かは定かではなかった。

 

 「お姉様」と言うのが本当の意味でお姉様なのか、組織の長を指し示すのか……。何より重要なのは、我が国(バルフィレム)に敵対の可能性があるかどうか。

 再び警戒から口を閉ざしたトラリアを見て、レディアがくすくすと笑いだした。

 

「小さな隊長さん。実は一つ謝らないといけないことがあるの」

 

「…………?」

 

「一番最初、貴女のことを知らない風にと言ったけれどね、わたくし実は貴女をよ〜く知っているのよ。『隻甲の虎』さん。その機械の腕が神牙の魔力を制御できなかったせいだということも。――――貴女のお兄様のことも」


 全身の産毛が逆立った。自己紹介の際、トラリアはわざわざ自分の通り名など語らない。否、異名を知っていたくらいならまだ不思議では無い。

 しかしレディアは知っていた。トラリアが片腕を失った理由を。バルフィレムで酷い大事件を引き起こした、兄のことも。


(バルフィレムの情報を持っている……?それともわたしに関して?…………どちらにせよ、あんまりいい傾向ではないよぅ)


 真意を見抜こうと目を細めるトラリア。次に放たれるであろう言葉に、冷や汗が垂れる。脳裏に、目の前の女と同じく真紅色の髪がよぎった。

 対してレディアは、愉快と言わんばかりのしたり顔で話を続けた。

 

「よくもまあ、国の為なんて言えるのね。貴女のお兄様こそ、5年前に武装国家として最強を誇るあのバルフィレムを崩壊させた張本人でしょうに」


 ☆。.:*


「きゃはは!な〜に一人でブチ切れちゃってんの?キモいんだけど」


 スノーマンと機械が複合した化け物の後ろで、フィルクルがシアンを指さして大爆笑を響かせていた。

 勿論、シアンの怒気は膨れ上がるばかりである。


(あまりに、あまりに空気が悪い!気分的な意味で!)


 ウィンはかつてないほどこの場から逃げ出したかった。しかし、先程スノーマンを助け出すと啖呵をきったばかり。流石に舌の根も乾かぬうちに背を向けるのは、己のプライドが蟻の頭より小さくとも許されなかった。

 隣から恐る恐るシアンに目を向けると、握られた剣が可哀想になるほど拳に力が入っている。もはや表面張力ギリギリを保つ水面よりも不安定だ。

 

「ってか!神の力云々って、神器を使うアナタが言うんだ!」

 

「げ」


 その表面張力もウィンの心配虚しく、決壊した。どうやらフィルクルという女、人を苛立たせる天才らしい。

 確かに神器も神牙も、細かく言えば異なるが神を元に作られた武器という点では変わらない。材料となる神が死んでいるか否か、エインスカイ産か否かの違いである。

 思わず声が漏れたが、当のシアンは未だ黙り。否、一周まわっておかしくなったのか、くつくつと笑い出している。

 

「あっはは!それを言われちゃ返せねぇよなぁ…………今日はバックだツゲイナギ。正真正銘私自身の魔力だけで行く。


 ――神壊(しんかい)術・樹氷甲冑」


 シアンは徐に持っていた剣を虚空にしまった。敵対の意思が無くなった?まさか、むしろ逆である。鑑定眼を持つウィンにはよくわかる。神器(かみ)を捨てたことによる『神殺し』の会得。神器の魔力と混ざりあっていた先程よりも爆発的に高出力なシアン本人由来の魔力。それらがシアンの腕に集まり、やがてガンドレッドのように固まった。


「うっっわ!あれ一番痛いやつ……」


 魔法を教わりつつ根性を鍛え直せと、父親に放り投げられたかつての記憶。形式上シアンの弟子となったはいいものの、何がなんでも攻撃に当たりたくないウィンは師の猛攻から逃げる毎日だった。そんな攻撃の数々でも、特別威力の高い技がこの『樹氷甲冑』。下手な剣技、下手な魔法よりも、魔力込みの全力殴りの方が痛いのである。


「歯ぁ食いしばれ、クソガキ」


 一瞬の無音の後、爆風のような衝撃がウィンを襲った。見れば既にシアンはフィルクルの頭上、殴る寸前のモーション。

 二回目の爆風。石造りの神殿の床が、薄いクッキーのように粉々になっている。あんな攻撃当たれば即死である。否、『人間だけは何があっても殺させねぇ』を信条に掲げるシアンにとって殺すことは無いのであるが。


「は…………あっぶな。人間が出していい威力じゃないでしょ、そんなの」


 フィルクルは寸前のところで化け物のコードに引き寄せられ、事なきを得たらしい。しかし、悠然と化け物の上に乗った彼女にも恐怖はしかと刻まれたようだ。目を見ればわかる。何故なら、ウィンがシアンを見る時と同じ色をしているので。

 そして、ウィンは()()()()()()()


「師匠、一応報告です。あの女の魔法は『思考操作』で間違いないよ」

 

「あぁ。だろうとは思ってたが、お前が言うなら確定だな。けど、それって化け物にも通じるのか?」

 

「あの化け物の機械部分に思考モジュールというか、思考回路を模したコンピュータのような物があるんでそれかと」


 先程、化け物は明らか意図的にフィルクルを助けた。

 さらに言えば、ウィンの目にはフィルクルと化け物の間に幾つもの線が見えていた。彼はそれを遠隔操作系の魔法を使う際によく見られるコードのようなものだと認識している。例えるなら、有線のコントローラー。通常ワイヤレスに見えても、ウィンには有線に見えているようなものだ。

 

「なぁるほど。つまりそれをぶっ叩けば動きも止まるってことでいいんだな?」

 

「多分……うん、多分」

 

「そこは自信持てよ」

 

「うっ……だって責任負いたくないし…………あとはあのコードを切れば確実だと思う」

 

「よくそれで副隊長が務まるなお前……。ま、とりあえずコードはお前に任せる。私は本体をぶっ叩く」


 広間の神座に繋がるコード。動力源にも等しいそれを叩けば、敵の思惑は防ぐことが出来るだろう。


『最近、ニンゲン、イナイイナーイ』

 

『寂シ、寂シ』


 突然、化け物の金属部分とシアンの氷がぶつかる中、ウィンの耳に雪を擦るような音が聞こえた。雑音のようなそれはアイシハイクの者なら毎日聞いているであろう鳴き声。それと同時に、スノーマンの意志が頭の中で響いた。


「え?師匠今なんか聞こえた??」

 

「あ゙あ゙?なんも聞こえてっ……ねぇよ!」


 しかし、その意思はとてもか弱く、遠く、ウィンがしっかりと認識するには至らなかった。シアンに尋ねるも、彼女は化け物との戦闘でそれどころじゃないらしい。

 空耳だろうか。後ろ髪を引かれるが、今は機械と一つにされたスノーマンを弔うためにも、コードを切ることに集中しなければ。

 サバイバル用に常に身につけていたナイフを取り出し、コードを持ち上げる――


「人がせっかく造ったもんの完成間近でコード抜くとかありえないでしょ!」


 ――が、そうは問屋が卸さない。当たり前だと言わんばかりにフィルクルが化け物の上から飛び降りてきた。その勢いのまま針のように鋭い蹴りが繰り出される。


「ひぃぃ!な、何するんだよ危ないだろ?!」

 

「はっ、アナタさぁマジでキモい。その言動もだけど、背後からの攻撃ノールックで避けるって何?草食動物かって」

 

「そりゃあ、ありとあらゆる攻撃に当たりたくないから……」


 タイミングを合わせ、地にへばりつくほど低くしゃがみ、回避成功。

 『凍結の魔人』(シアン)という世界でも最高レベルのアタッカーを師に持っておきながら、彼が修行で得たのは回避能力だった。本人曰く「だって痛いのは嫌すぎる」とのこと。尚、参考元はシアンと手合わせをするライアである。


「あぁもう!あと少しで神牙の種ができるのにぃ!」

 

「その……邪魔するのは結構だけど、コード切るだけだしその計画もすぐ終わるよ?」

 

「だからさせないってば!なんでそこまでして私達の邪魔するわけ?」


 計画瓦解の危機に癇癪を起こしたフィルクル。最後の足掻きのように何故と問われると「上司に呼び出されたから」としか言えないウィン。正直、呼び出された理由も何も彼はよくわかっていなかった。


「スノーマンを助けたいって?感情を暴走させたくらいで人間を殺すような化け物を?意味わかんない」


 だから、フィルクルのこの言葉の意味をウィンには理解できないのだ。


「スノーマンが人間を襲った……?なんの話だよ、それ」

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