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氷炎護リ人  作者: 有麻環
三章 フォリアーテ教会編
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3章 8 不良神父

「あ〜〜、誰かポケットに石とか玩具とか入れっぱなしだったろ。変なとこ入っちまってるから動かないんだよ」


 教会の隣にある孤児院の一角。そこには一般家庭のものよりも二回りも大きな洗濯機が鎮座していた。所謂ドラム式のそれは、動力も水も魔力で動く、乾燥機能付きの優れもの。見たところ霊脈――魔力の噴出口の上に置かれているため、魔力切れの心配は無い。都会じゃ真似出来ないサステナブル仕様だ。

 それが壊れたとなると配線代わりの魔法陣が崩れたか、そもそも部品が劣化したかと当たりをつけたライアは、まず魔力感知で洗濯機全体をスキャンした。魔力の流れに異常はないが、明らか余計なものが詰まっている。玩具の破片のようなものがドラムの隙間に入り込んでしまったようだ。

 

孤児院(ウチ)のガキだな……。注意しておかねーと」

 

「どうすんの?一回バラさないと取れないんじゃね」

 

「ま、ふつーはそうでしょうね」


 響の言う通り、一度全て外すのが一般的だろう。しかしそうなると、大掛かりな上手間がかかる。それは面倒。

 ライアは「私がいてよかったな」と立ち上がり、今一度洗濯機をスキャニングした。異音の正体の位置がわかっているのなら、それを取り出すだけでいい。手の届かない場所だろうと自分との距離方角が分かれば充分だった。

 集中するように目を閉じ、目標物(破片)の位置を把握する。空間を歪め、それだけが落ちるように機械内部の目標座標に小さく穴を開ける。破片は出口となる歪み――ライアの手の上に空いた穴からコトリと落ちた。

 

「はいよ、取れた取れた〜。魔法陣とかその辺に問題はなかったからこれで大丈夫のはず」

 

「感謝するよ、これで余計な機能付けられなくてすむ」

 

「っは〜〜、流石。激やべぇな空間魔法。なんの参考にもならない!!」

 

 破片をレイトに渡し、修理の完了を知らせたライア。まさか魔法で解決するとは思ってなかった響が手を叩いた。


「あはは!そう言うなって、機械関連でわかんねーことあるなら聞いてくれれば教えるから」

 

「それは助かる。ゼルリオは何言ってるかわからんから……」

 

 軽い点検はできるものの、本格的な修理や製造となると未だ分からない部分があるらしい響。曰く、ゼルリオの説明は端折りに端折った超簡易説明の上、電波的というか不思議ちゃんというか。とにかく言っていることが分かりにくいのだそう。

 遠い目をし始めた響を置いて、話題を変えようとライアはレイトに向き合った。

 

「そういえば、いつから孤児院なんてあったの?前私ら来た時なかったよな」

 

「前って……アンタらが前直接協会に来たのは、まだティノが生まれて直ぐの時。その後はオレらが王都に行くか遠隔での会話しかしてないよ」

 

「え、マジ?少なくとも4年近く経ってるって?時の流れって残酷〜」


 ついこの間来たように感じていたが、こうして足を運んだのは年単位で前だという。それは新しい施設ができていてもおかしくはない。

 言われてみれば、以前来た時はまだ周囲の町がはぐれ者の巣窟で、今ほど静かな場所ではなかった。かつて大きな顔をしていた彼らが、レイトに締められて孤児院建設に助力させられたと言う無法者達だったのだろう。


「誰が孤児院作るとか言い出したの、ルゥン?それとも老夫妻?」

 

「…………」

 

「おい、なぜ黙る」


 素朴な疑問をぶつけた所、レイトはスンっと真顔になり口を閉ざした。

 表情を読み取ろうと顔を覗き込むも、逸らされる。


(なーにを恥ずかしがってるんだか)


 頑なに目を合わせない彼に大方の予想は着いた。しかし、本人が言わないのなら他の者に聞くしかない。「仕方ねーなー」と、ライアは質問の矛先を響に向けた。

 

「響〜お前知ってる?」

 

「知ってる!レイトが提案した」

 

「あっバカお前!!」

 

「あはは!やっぱり?信仰心ゼロどころかマイナス値叩き出してるレイトくんでも迷える子羊は見過ごせないってか?」

 

 責任者に着いているあたりそうだろうとは思っていたが、発案者もレイトだったらしい。恥ずかしそうに耳が赤くなった彼は、響に容赦のない拳骨を食らわせていた。


「痛ってぇ!何するんだよレイト。隠すことでもないだろうに」

「うるせぇバカ野郎。第一、そんな理由じゃないよ。神だのなんだの関係なく、ガキが何人も居場所を求めて彷徨ってんの見たら、どうにかしたくなったんだ」


 形式上とはいえ神父の職につきながら全く持って信仰心がないレイト。しかし、その心は多少天邪鬼ながらも清く正しい行いを是としていたらしい。何より彼のいい所はそれを実際行動に移すことだった。

 

「あいっかわらず信仰心の欠片もねーな、お前は」

 

「見えないものは信じない主義なんだ」

 

「信じるものは救われるって言うのは?」

 

「長年祈りを欠かさず、人に尽くした姉さんが何一つ報われてないのを見てどう信じろと?返ってくるかも分からない投資をする気は無いね」


 漸く羞恥心が消え去ったのか、彼は信仰の話題になった途端表情を消した。その目にはうっすらと怒りのような炎だけが残っている。隣に見える響が少し心配そうに見ていた。

 現代において、この国(バルフィレム)で神を信仰している者はあまり多くない。それでも居ないわけではないため、こうして教会というものが存在する。

 

「神はいない。いたとしてもその一瞥はこちらを向いていない。ならば今自分が見える範囲の地盤を固めた方がよっぽど有意義だと、オレは思うよ」


 長年教会に足を運ぶ信者達の祈りを見続けた彼だからこそ、それを不毛と一蹴した。救いを求めるものが行うべきは祈りではなく行動なのだと。いつだって、己を救う手段は己にあるのだと。彼は言い聞かせるように呟いた。

 

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