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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 16 ラストダンス

 地面に無数の武器が刺さる。剣、刀、槍、斧……。世界中の武器を集めたと言われても驚かないほどの数。これらは全て、ガルが落としたものだった。

 天に浮く星の魔力を槍のように落とす魔法『スターズ』。

 無から武具を創り出す魔法『メイカー』。

 これら自体は特別珍しい魔法ではない。しかし、全く異なるこの二つを組み合わせることが、こうも強力な技となるとは。

 

 創り出した剣はフックの着いた鎖状の武器によって引き上げられ、不規則に飛んでくる。容易に近づくことは出来ないし、近づけば近づくで鎖本体が立ち塞がる。剣と拳で打ち合いをしていた時よりも遥かに闘いにくかった。


「ったく、加減してたのはどっちだよ」

 

 初めこそ狼化による身体向上でソラの方が優勢だったが、今は拮抗していると言っていい。投げられる剣を爪で砕いたとしても次が生まれる。気を抜けば星の光が落ちる。一進一退、終わりが見えない。


「別に加減をしていわけではない。魔法発動に時間がかかっていただけだ」


 漸く剣の雨を掻い潜って殴り掛かる。ガルが鎖を握り、防御に入る。ソラは殴る寸前、拳を開き爪を立てる。一つの爪は鎖の隙間を越え、ガルの顔に傷をつけた。しかし到底、致命傷には程遠い。


「むしろ――――!加減しているのはそっちだろう。ソラ=ドラッド」


 ガルがソラを振り切った。上から魔力を感じ、即座に距離をとる。――間一髪。先程までソラが立っていた場所に衝撃が走り、地面は焦げ付いている。


「こちらはこれで出し惜しみ無しだ。だがお前はどうだ、まだ武器どころか雷も使っていない」

 

「…………魔法はそんなに得意じゃねえんだよ」


 不貞腐れたようなガル。表情にはあまり出ていないが、不服さがありありと声に浮かぶ。ソラは「あ゙〜〜」と唸りながら頭を搔く。本人的には魔法より殴った方が早い、という思考だった。

 瓜二つと言っても過言では無い2人のやり取りは、傍から見れば兄弟喧嘩のようだ。


「それはそれとして、だ。いい加減二つ目の質問に答える気になったかよ」


 ソラが投げた三つの問。

 一つ、フィブルが迷イ人を探す目的。ガルには詳しいことが分からなかったため大した情報は得られなかった。

 二つ、今回の襲撃の本当の目的、つまりは屋敷の魔法陣の意味。

 三つ、ガルの正体。同じ魔力を持つソラの姉との関係性。

 この二つ目に答える条件として、ガルはソラに魔法を一つは使うように提示し、今に至る。

「確かにそろそろ答えなければ道理に合わない」とガルが攻撃を止めた。


「二つ目……フォレイグン屋敷に敷いた魔法陣についてだったな。オレは説明を聞いていただけだから詳しくは答えられない」

 

「それでもいい。少しでも情報が欲しいんだ」

 

「そうか。ならば答えよう。ギルドー(魔法陣製作者)が言うには、『人を代償に神本人を甦らせる』ことが目的らしい」

 

「はあ?」


 ガルはサラッと答えたが、なかなかにとんでもない机上の空論だ。要は、太古の昔に死んだ神をたった一人の人間を贄に甦らせるという荒業だ。これが出来れば奇跡に近いだろう。


「甦らせるってお前、人間だって死んだら生き返らねえのに?いくら何でも無理があんだろうよ」

 

「正確に言えば神の魔力を人に宿らせ、擬似的に神を作る。だそうだ。神の眷属がいれば、その魔力をアンカーに世界から神の残滓を集約できるんだとか。よく分からんが」


 ソラは頭を抱えた。神と人の同化などロクな事にならない。神の意識ではなく、単に『それ相応の魔力を持つ者』という意味ならば確かに不可能では無い。実例がいる。


「つまり何か?例えば、 『陽光』の神(ソウェル)をクロウドに降ろすとしよう。その場合魔法陣に天使本体、もしくはその魔力を入れればいいってことだな?」

 

「そうだ。そうすれば世界中の天使が有する『陽光』の残り火を一気に集められる……らしい」

 

「らしいってお前…………。けどやっぱりムリだろ。魔力が集まったとて、それを受け入れる人の体が持たないぜ」


 神はその世界を覆うほどの膨大な魔力を以て、神と呼ばれる。それを高々一人の人間に集めれば、良くて肉体の消失。悪ければここら一体、国単位で丸ごと消えてもおかしくはない。


「それは、なんか……その……仕掛けがあるそうだ」

 

「わからないんだな?」

 

「ああ。すまん」


 ガルは目を逸らしながら口ごもる。そこまでは分からないらしい。

 ガルや先程までシアンと戦っていたベルクはともかく、フィブルの幹部勢は粒揃いの研究者。それなりの対策があり、その一つが屋敷の花なのだろう。


「…………眷属なあ…………眷属」


 何かが引っかかる。それもかなり嫌な方向で。

 この場にいる眷属と言えば――『蛮勇』の神、ソーンの眷属である鬼。その分類の一つ、吸血鬼の血を引くリュウガ。

 草原に蔓延る『陽光』の神――ソウェルの眷属、天使。

 そして――神話の中で唯一、死んだと語られない『狂熱』の神、カノ。その眷属…………。


「まずい!リュウガ!!」

 

 ここまで考えて理解した。

 眷属の魔力が起動の鍵ならば、リュウガがクロウドと接触するのは非常に宜しくない。シアン曰く、クロウドの周りに例の魔法陣があったらしい。それに彼が触れれば、それだけで魔法が発動すると見た。


(どうにかして連絡を取らねぇと……)


 もはや三つ目の答えを聞いている暇は無い。個人的にものすごく気になるが、それどころではなくなった。


「ガルでいいんだっけか?悪い、ここで何時までも戦ってる訳には行かなくなった」

 

「問いにはまだ答えきっていないが」

 

「どうせそのうちまた会うだろ、そん時聞くわ。だから――」


 ――この一撃で最後にしよう。


 ☆。.:*

 

 ソラの周りに魔力が集まる。バチバチと空気が弾け、所々に閃光が見える。


(やはり加減していたんじゃないか)


 彼の異名、『雷霆』の所以。文字通りの神話級の(いかづち)

 人が深呼吸するように、ソラが遠吠えをあげる。その姿はまさしく人狼。

 ガルは地に刺さる剣を全て己の元に引き寄せた。ソラの発言を汲めば殺されることは無いだろうが、おめおめと負ける必要もない。

 相打ちは狙わない。今ガルが持てる全てを防御に回す。剣を格子のように組み壁を作る。残った魔力をその強化に回す。真正面から来るとも限らない。全方位、どこから来ても対応できるように。


「行くぞガル。お前の素直な態度に免じて真正面から当ててやる――――頑張って死ぬなよ」

 

「無茶を言う」


 ソラが屈む。クラウチングスタートの様な、獣が獲物を狙う姿勢。姿勢が低くなり、閃光が消えた。


 ☆


 雷の落ちる音がした。彼の脚が土を蹴ると同時に、組んだ剣の壁に衝撃が掛かる。光速レベルのスピードで当たる拳。雷が落ちる衝撃のような威力、それ以上かもしれない。ジリジリと後退する。押し負けている。剣にいくつかひびが入った。一本でも割れれば崩れるだろう。


 (今のオレに勝てるわけが無いというのはわかっている。――だが!大人しく負けるようでは一生コイツに敵わない!!)


「――ぐ、う………………あ゙ぁ゙!」


 喉を潰すような声を出し、出せる魔力を振り絞る。

 そろそろ剣が限界だ……というところで、ソラが後ろに飛んだ。防ぎきったのだろうか。

 ガルは膝をつく。災害を人一人で防いだようなものだ。意識があるだけ彼もまた異常だった。


「やっぱりシアンに言った通りだ。お前相手じゃ他のことに気を回せない。厄介だなあ……」

 

 対するソラは腕をブラブラ振りながらこんな事をほざいている。まだまだ、余力はありそうだ。

 震える足にムチを打ち、何とか立ち上がった。ソラの出方を伺う前に、誰かが肩を叩いた。

 振り返ると、珍しく前髪をあげたギルドーがいる。

 

「ガル。ここは引きましょう。向こうもロカがやられました。ピアーナも早々に撤退したそうです」

 

「こいつらはどうする」


 現場監督直々の撤退命令。正直このまま戦っても気絶する未来しか見えない。ガルは大人しく従うことにした。

 それはそれとして、撤退ならば転がっているベルクややられたというロカはどうするのか。と、問うガル。

 

「可哀想ですが……貴方も満身創痍でしょう。人を抱えてあの『人狼』から逃げきれますか?」

 

「……無理だな」


 ギルドーの言う通りだ。自身さえ動くのも一苦労だと言うのに、ほかのメンバーを抱えるなんて到底無理だ。ソラが追ってくるとは思えないが、この場には他にも機動力に優れたライアや蓮夜がいる。

 ガルはソラを見た。


「なんだ、帰るのか」

 

「ああ。悔しいが、今のオレではこれが限度だ」

 

「充分だと思うけどな……。まあいいぜ、オレの目的はお前らが撤退するなら果たされる」


 意外にも、ソラは友好的な態度を続けた。迷イ人もクロウドも無事だとわかっているからだろう。

 ギルドーも彼に声をかける。

 

「おや、おやおや、貴方がかの有名な『雷霆の人狼』。うちの者がどうもお世話になりましたね」

 

「おう。ソイツにはまだ聞きたいことがあるんだ、ちゃんと休ませろよ」

 

「言われずとも。(ワタクシ)達の大切な最高傑作ですので」


「では」と、ギルドーがゴーレムを作り出す。これに乗って帰るつもりなのだろうか。

 車のような形のそれに乗り、はぁ、と安堵のため息を吐いた。普通に死を覚悟した。

 後ろをむくと、既にソラはいなかった。魔法陣の解除に向かったのだろう。

 

 あの時は言わなかったが、『蛮勇』の眷属(リュウガ)がクロウドと接触しても実は何も起こらない。その前にシアンが結界となる戸――隠し扉を開けているからだ。『神殺し』とも呼ばれるシアンが触れたことで、神を呼び出す式は崩れた。ベルクと共に外に出てきた瞬間、魔法陣が効果を失ったことはわかっていたのだ。

 ふと隣を見るとギルドーが満面の笑みを浮かべていた。今回の襲撃。ギルドー的には目的を何も果たせていないはずだが、何やらとても嬉しそうだった。

 

「ギルドー。何をそんなにニヤついている?」

 

「ああ、すみません。つい、ね。新しいサンプルを見つけたんですよ。それもただの迷イ人じゃない。あれは……」

 

「あれは?」

 

「いいえ、まだ仮説が多すぎますね。人に聞かせる話じゃない」

 

 そう言ったきり、彼は何も答えなかった。ガルにはそこまで重要な話ではない。こちらもそれ以上の質問はしなかった。


 

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