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氷炎護リ人  作者: 有麻環
二章 フォレイグン屋敷編
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2章 17 覚悟

 目を覚ますと知らない匂いの部屋にいた。病室……という訳でもなく、見たところ旅館の一部屋に近いようだ。

 体を動かそうとするも思うように力が入らず、声にならない悲鳴をあげた。

 この倦怠感。全身を支配する激痛。割れるような、裂けるような……。これは覚えがある。そう、まるで――――

 

 ☆。.:*

 

「筋肉痛だな」


 ベッドで寝かされていた葉を見下ろすリュウガ。その隣には涙で顔面をびしょびしょにしている蓮夜と、それを眺め腹を抱えているライアがいた。

 

「魔法初心者がいきなりあんな大技ぶちかますからだ。安静にしてろ」

 

「葉さん、すみません!オレのごたごたに巻き込んじゃって……無事でよかったっス」

 

「いやー、いずれは葉姉もたどる道だから。いい経験ってことで!」

 

「……全然状況わかんないんだけど」


 葉が覚えているのは、リザイアが倒れたあと土の腕に襲われたところまで。その後はまるで夢を見ているような曖昧な記憶だった…………否、もう一つ覚えている。


「ねぇ、ライア。あたしあの時ちゃんと魔法使ってなかった?あ……いや、あたしがって言うか、多分違うんだけど……」

 

「うん、使ってた。そりゃーもうドデカい一撃を。だから倒れたんだろ?」


 やはりあれは夢ではなかったのだ。自分ではない何かが語りかけ、自分の体で魔法を撃った。あの時の感覚はまだよく覚えている。ただ闇雲に発動させるのではなく、形あるエネルギーとして打ち出す。きっと、これから自分が学ばなければいけないことはコレなのだろう。と、葉は拳を握りしめた。

 それにしても全身が痛い。思わず呻き声が漏れた。

 

炎災(フレイムギフト)の言う通り。いきなり普段使わない魔力回路を回したせいで、疲労が一気に来たんだろう。だから倒れて筋肉痛。気をつけろよ」

 

「あはは!誰が炎災だ、ダンピールこの野郎」

 

「えぐっ、ううぅ、こんなところで喧嘩しないで欲しいっス」


 と、リュウガが紙に何かを書き、ライアがその余計な一言に突っかかる。蓮夜はまだ泣いている。なかなかにカオスだ。


「じゃあこれ、後でリフレットさんに渡しといて。一応軍の管轄なんだろ?」

 

「はいはーい」

 

 リュウガは書いていた紙を「失くすなよ」と、ライアに渡した。カルテ的なものだそう。

 葉は雑用とはいえバルフィレム国軍に所属することになっているため、クロウドの後釜である軍医班に渡すそうだ。

 今回のように言い合いの無い場合もあるのか……とぼーっと眺めている葉。突然「あっ!」と声を荒らげ、焦ったように彼らを見た。


「ねぇ、リザは?!リザイアは無事なんだよ……ね」


 リザイアは葉が気絶する前、自身の許容を超える魔力を使い、倒れたはずだ。あの時、ライアは「とりあえず放っておいても大丈夫」と言ったが、彼女は生きているのだろうか。

 冷や汗を流しながら青い顔でライアを見る。ライアは一瞬キョトンとした顔の後、ふっと優しげに笑い、葉の後ろを指さした。

 

「もちろん。そっち見てみ」


 筋肉痛で悲鳴を上げる体を無理やり回し後ろを向く。

 サイドチェストを挟んで隣に置かれたベッドには、布団の山があった。その上にはシャナが覆いかぶさっていた。

 耳を澄ますと、微かに布団から声が聞こえる。

 

「………………無理。ホント、ありえませんわ。ギャンブルって限界超えるものを呼び出して、葉を守りきる前に自滅とか…………穴があったら入りたい」

 

「ううん。リザはよくやった。ほら、飴あげるから」

 

「何味?」


「大根おろし醤油」

 

「絶対いらない」


 割といつも通りのやり取りでホッとした。少なくとも怪我や酷い後遺症がある訳では無さそうだった。

 シャナがふとこちらに気づいた。彼女は困ったように眉を下げながら、人差し指を口に当て、声をかけないようにジェスチャーをする。その後口パクで「お大事に」と言った。恐らくリザイアは、葉に話しかけられると更に布団から出なくなるのだろう。彼女のためにも大人しく従うことにしよう。

 ホッとため息をついたのもつかの間。ライアがポンッと葉の頭に手を置いた。


「さて、葉姉。リザのことは気にせず答えてくれ。あんたは今回の事件で何を感じた?直接戦闘に巻き込まれて、下手すりゃふつーに死んでたこの状況。あんたの感情はなんて言ってる?」


 ライアは確かに笑っていた。と言うより、いつも通りの顔だ。口角は上がっているものの目が笑っていない。エインスカイに来て直ぐに攫われた時と同じ、何を考えているか分からないあの顔。

 言い方だけ聞けば冗談のような雑談じみた問いかけ。しかしその目は鋭く、「真面目に答えろ」と言っていた。

 固唾を飲んで見守るリュウガと蓮夜。葉の背筋に冷や汗が垂れる。この時の葉にはまだ名前がわからなかったが、ライアは明確な殺気を出していた。張り付く喉を無理やり開き声を出す。


「怖かった。ものすごく怖かった。これは死んだなって思ったよ。リザは倒れちゃったし、ライアは競り合ってたし。他に自分を助けてくれる人がいない状況。自分の身は自分で守れって意味がよくわかった」


 恐る恐るライアを見上げる。その顔は逆光ですこし見えづらかった。小さい笑い声と共に再び頭を撫でられる。妙に安心する手つきだった。

 

「そうだ、けどそれはフツーの感性でもある。決して弱さじゃねー」


 先の冷たい空気が嘘かと思うほど、慰めるような暖かい声だった。しかし、「けどな」と声が続いた。


「シアンやスザク達が散々言ってた『覚悟』ってのはこういうことだぜ。誰も助けちゃくれねー時が殆どだ。むしろアンタが助けに行くくらいでないと。それでも()()()弟を探す?」


 葉の頭から手をどかし、しゃがむライア。目がはっきりとかち合った。嘘は通じない、と言う圧を感じる。


「やめたっていいんだ。弟くんも迷イ人ならどっちにしろ私達の責任だからな。私達が探すのは終わりにならねー――――」

 

「探します」


 食い気味の即答だった。葉の目に映るライアはほんの少しだけ目を見開いた。その後「へぇ」と愉快そうに目を細めていた。

 葉はバカにしたようにも見えるその顔に反抗するかのごとく語気を強め――

 

「大丈夫。すごく、すごく怖いけど、あたしが強くなればいい話でしょ?一度自分が決めたことだから――――最後まで貫き通すよ」


 と、言い切った。その目に一切の迷いは無く、かと言って死への恐怖がない訳では無い。

 無言で見つめ合う二人を蓮夜が慌てて交互に見ていた。

 暫くすると満足したようにライアが立ち上がる。


「そーかよ。そこまで言うんならしゃーねーや。私が言うことはもうねーな。後はほら、お師匠様から一言どーぞ」

 

「そうだな、今後の訓練には実践を多く入れることにしよう」

 

「ス……スザク先生?!」


 ライアが部屋を出て入れ違うように現れたのは、葉の戦いの師匠でもあるスザク・カケルだった。何故ここにいるのだろう、と言う葉の疑問を察した彼はリュウガを見た。


「コイツに呼ばれたんだ。『偽緊急要請に蹴りが着いた。逃げた連中はともかく、のされたヤツらを回収してくれ』とな」

 

「ん?待ってください、全然状況が分からないんですけど……。偽ってどういうことですか?」


 確か、そもそも葉が三馬鹿に連れられてフォレイグン辺境伯の元へ向かったのは、彼からスザクに緊急の増援要請がきたからだったはずだ。それをスザクが三馬鹿に引き渡した。

 その要請が偽物だと、スザクはそう言った。彼は呆れたようにリュウガを見た。

 

「………………リュウガ、説明してないのか」


「説明も何もこの姉ちゃんはほぼなんにも知らねえよ。つーかオレ達側(フォレイグン一家)もオレしか事情わかってねえんじゃないか?なぁ、蓮夜」

 

「はい!なんも分からないっス!!」

 

「元気でよろしい」


 リュウガはさらに呆れた顔でスザクを見た。すっかり泣き止んだ蓮夜は満面の笑みでハテナをうかべている。

「つまりだな」と、スザクが話をしようとした。しかしその言葉は別の声にかき消された。

 ひょっこりと、スザクの後ろからシアンが顔を出した。


「なぁリュウガ!もうこれ外していいか。片目が見えない」


 その右目には大きい眼帯が貼られている。どこからどう見ても重症患者だった。

 

「シアン!目どうしたの」

 

「あ、葉姉はよさん。目ね、爆ぜた」

 

「爆ぜた?!」


 なんて事ないようにサラッと衝撃を落とされた。爆ぜたと言う状況も分からないが、それを翌日に眼帯一枚つけて走り回るのも分からない。なんなら彼女はそれを外そうとしている。

 深いため息をついたリュウガが「見せてみろ」と、シアンに手招きした。医療を齧っていると言うだけあって、この場にいる者の処置はリュウガが行ったそうだ。最も、不幸中の幸いか、怪我らしい怪我をした者はシアンのみ。他は魔力切れの気絶だった。

 

「あーー、もういいんじゃねえの。外してどうぞ」

 

「やった!開放感!!サンキュー」

 

「まって。まって?!目が爆ぜたって何?当たり前のように走ってきたし!これってエインスカイでは常識なの?」


 流れるようなやり取りに耐えられなくなった葉。怒涛の疑問ラッシュだ。

 普通失明したら治ることは無いはず。ましてや爆ぜたなどと、原型がとどめていなさそうな状況なら尚更。しかしシアンの右目には確かに、いつも通りの青眼が埋まっている。

 葉から見て、エインスカイは異世界だ。それなりに高い技術があって、目を再生させることが出来ても不思議では無い…………かもしれない。と、葉は無理やり納得させようとした――――が、


「常識なわけあるか、こいつらが非常識生命体なだけだ」


 リュウガによってあっさりと否定された。彼曰く、怪我の危険度合いは元の世界と同じと考えていいらしい。一度死ねば二度と生き返らないし、切れた腕は生えてこない。失明したら現状の技術ではそれまでだ、と。


(前々から思ってたけどシアンは……というか、ライアとソラ含めた三人は何か……何かがズレている気がする)


 葉は考えるのを諦めた。それよりも聞きたいことは沢山あるし、何よりもお腹がすいた。乙女の天敵――腹の虫が吠える前に、何かを口にしたい。そう、空っぽの胃をさすった。


 ☆。.:*

 

 油の切れた機械のようにぎこちない動きの葉。正直誰かがおぶった方が早いが、遠慮し、頑として譲らなかった。

 やっとの思いで大部屋に着くと、既にソラが何人分か分からないほどの昼食を食べていた。


「もぐ!んむぐ!!」

 

「食ってから話せ」

 

「つーかソラくんよ〜、何先に食ってんだお前」

 

「んぐっ…………。すまん、腹減ったから」

 

「本能で生きてやがる」


 双子が冷ややかな目を向けるが何処吹く風のソラ。「お前らの分はあっち、そんでさっさと座れ」と厨房を指さしまた食べ始めた。どうやらこの料理は彼が作ったらしい。

 慣れたように座る面々。葉も痛みに顔を顰めながら椅子に座った。そして気まずそうに問いかけた。


「あの、すっごい今更なんだけど……ここどこ?」

 

「私達の家」

 

「家?!」


 シアンが厨房からいくつか皿を持って来て並べながら答えた。それにうんうんと頷くソラ。

 ライアは思い出したようにスザク達を指さした。

 

「つーか狭いんだけど。何他人の家に集合してんだよ。スザっくんまで来るとかなんなの、本当に」

 

「別に大丈夫だろう。ここは元々大人数入ることを想定した宿屋なのだから」

 

「はーー、よくご存知で」

 

「有名な話だろう」


 淡々と答えるスザク。彼曰く、宿屋のオーナーが亡くなり、その遺言に、当時ちょうどバルフィレムで暮らすことにした双子かソラに譲りたいと綴ったのだそう。尚、オーナーに子孫はいるが、宿に興味はないとの事。


(あれ?これ何年前の話?)


 再び沸きあがる違和感は、運ばれてきた昼食によってかき消された。


「葉姉もとりあえずなんか食え。魔力使い切って腹減ってんだろ?」


 と、葉の前に肉や野菜を置くシアン。ありがたく頂いていると、横に座ったスザクとリュウガの会話が聞こえた。

 

「…………あのな、カケル。今回の事件、そもそもオレは一緒に来いって意味で声をかけろと言ったんだ。三馬鹿に全部任せろとは言ってない」

 

「それはすまん」

 

「オレだけじゃあ爺さんが入れ替わってるっつー確信ができなかったから、嘘を見抜くライアか、匂いでわかるソラを呼べってちゃんと言ったろ」

 

「そうだった……か?まあ、でも結果的には良かっただろう。ソラだけじゃ鼻が聞かなくて分からなかったと聞いた」

 

  今回の事件。彼らの話をまとめると、フォレイグン辺境伯がスザク率いる四番(カノ)隊に応援要請をした後、辺境伯の異変に気づいたリュウガが三馬鹿――護リ人の誰かを連れてくるようにスザクへ個人的な連絡をしたそうだ。それを何故かスザクは全部丸投げして今に至ると言う。

 頭を抱えたリュウガを他所に、スザクは「それに……」と、未だ頬張るソラを見た。

 

「ん?ああ、ガルのことか。気にしなくていいぞ。長く生きてりゃあそういう事象だってあるだろ」

 

「とか言って〜ソラくん普段の倍は食ってるあたり結構動揺してるだろ」

 

「まって、これで倍なんスか、3倍4倍ではなく?」


 聞けばソラと戦ったのはガルと言う彼にそっくりの人間だったらしい。何人前か分からないレベルの料理は動揺の表れのよう。倍だとしても元が多すぎるが。

 その後、雑談と昼食を進めていると、黙々と食べていたシアンが何かを思いついたように指を鳴らした。

 

「そうだスザっくん、明日マリーシャに一連の報告するから話通しといて」

 

「急だな」

 

「どうせ暇と言い張るでしょあの王女」


 王女マリーシャ。名前は何度も耳にしていたが、葉はまだ見えたことがなかった。いったいどんな方なのかと想像していると、ライアと目が合った。金髪の彼女はにっこりと笑いこう言った。


「葉姉も行くんだよ?」

 

「なんて?」

 

初めまして!有麻と申します。

2章まで見てくださった方ありがとうございます(ㅅ´꒳` )

今後も続いていきますので、どうぞよろしくお願いします!

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