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氷炎護リ人 〜現地主人公×異世界転移〜  作者: 有麻環
六章 カズロット編
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6章 23 夢と現実の切り替わり

 ずっとずっと夢を見ている。

 自分の夢は飽きてしまったから誰かの夢にお邪魔して、適当な言葉を投げかけて。誰かの夢を通してだけ外の世界を知ることができる。

 

 この前見たどこかのお嬢様の夢は随分と殺風景で何も無かったけれど、あの子は今どうしているだろうか。


(天使なんてものに飲み込まれちゃって可哀想……あぁでも、ちょっと羨ましいな)


 あの子には呼んでもらう名前がある。その名前を呼んでくれる友達もいる。

 そして何より、自分で世界を見るための瞳がある。遠くに行くための足があり、誰かを抱きしめるための腕もある。


 意味深に『神の死体で遊ぶ』だなんて言ってみたものの、実際のところはそれ以外何も出来ないだけ。

 手助けしたことを後悔なんてしていないし、妬むわけではないけれど、助けられたことを羨むことくらいは……どうか許してほしい。


 ☆。.:*


「おい八霧! 本当にこっちであってんだよな?!」


「んー……多分?」


「多分ってお前……」


「地竜は何て言ってるんです?」


「えー?…………『もうちょい、もうちょい、あと少し! ファイ!』って」

 

「なぁそれマジ? それともお前を通したから?」


「あは〜」


 砂風と共に、なんとも緩い笑い声が消えていった。

 三頭の地竜の手綱を握り、一心不乱に無人の都市を駆け抜けるシアン、八霧、大地。

 一行はカズロットの王都から少し離れた防砂林へ、ある人物に協力を仰ぎに出向していた。


(こういう時竜の言葉がわかるやつがいると便利だよな……野生児(ソラ)もニュアンスならわかるらしいけど、同じ爬虫類(八霧)の方が感覚近いらしいし)


 もっとも、これを本人に言うと「羽生えただけでイキってる蜥蜴と一緒にするな」とキレるため口が裂けても声に出してはならない。詳しいことは知らないが、元の世界で竜族と何かあったのだろう。獣人という生態系のないエインスカイでは馴染みのない話だ。


「まぁいいや、移動の間に作戦の確認すんぞ!」


 シアンは先陣を切る八霧と、並走する大地に向かって声を張り上げた。ざらざらと砂が口に入るが気にしてはいられない。


「超ざっくり言うと、今カズロットの民がいる裏側の世界を『真実』として固定させる。そのために『真実(ユール)』の神牙使いを探しに行く――ここまではいいな?」


 昨日、シャオリアが述べた秘策。それは、『夢が現実を完全に侵食する前に、例の何者かが作り上げた一時避難用のカズロット空間と入れ替える』というものだった。


 仮初とはいえ、あの空間は本来あるべきカズロットの姿と全く同じ。生き残った殆どの民がそちら側にいる以上、いっそそちらを本物にしてしまえばいいと言う荒業だ。


「んーっと、用は地図の裏と表を逆にするってことだよね?」


「そう。んで、アレフ陣営もそのことはわかってるだろうから、恐らく妨害に来るだろうってのがアウラとライアが出した予想だな。下手すりゃあ争奪戦になるかもだ」


「だから三人か。万が一の戦力分散」


「そういうこと」

 

 前を向いたまま、八霧が彼なりの比喩で理解を示した。その間、視界の端で頷いている大地が見えたのでこちらも今の段階では心配いらないだろう。

 仮にもバルフィレム軍が誇る研究班の副隊長とエース。地頭の良さだけでいえばシアンよりも遥かに高い。


「たださ……人の認識規模ならまだしも、世界そのもの、土地そのものの認識を入れ替えられるなんて…………神牙使いってのはそこまでヤバいやつなのか? 失礼は承知で言うけど、三番(ベルナイース)隊のトラリア隊長見る限りそこまでの力があるとはとても……」


 それでもまだ疑問点はあるらしい。大地がシアンに問いかける。

 作戦内容には理解ができても、彼もまだこの世界(エインスカイ)に来て数年。元の世界の常識だけでは計り知れない部分もあるようだ。


「大地の疑問はもっともだな。私も神牙関連にはそこまで詳しくねぇからはっきりとは言えないけど、神牙にも特性があるんだよ。トラリアのあれは他者の人体に直接に影響与えるタイプじゃねぇし……なにより、あれで本領発揮はほぼしてないから」


「本領発揮しないで隊長に着く実力ってことかよ……隊長ってのはどいつもこいつも頭がおかしい」


「おっと、そもそも誰が鍛えたと思ってる?」


「アンタか……」


 ゲンナリとした顔の大地。遠くで聞いていたらしい八霧が腹を抱えている。

 

 『静寂(ベルナイース)』の神牙——『純心(イノセンス)』は言わば攻撃特化。その気になれば一瞬でバルフィレムを雪に埋めることもできるだろう。代償として使用者の命が擦り切れることは間違いないが。


 対して、『真実(ユール)』の神牙は認識阻害特化。物事の常識をひっくり返すことができるのだそう。


「ヤバな武器にはそれ相応のヤバな代償が伴う。だから『夢幻の悪魔』は動けない……んだっけ?」


「シャオリア曰くな。意思の疎通ができるかは怪しいけど……そこはもう祈るしかねぇ」


 ふと立ち止まった八霧の問いに頷くシアン。

 

 そもそもシアンがこの班に着くことになったのは、妨害を懸念した戦力分散もあるが、いちばんの理由はもうひとつ。『自力での移動が困難な『夢幻の悪魔』をシャオリアの元まで運ぶため』、だ。


 作戦をメインで立案したアウラ曰く――

 

『この中で一番体力があるのは貴女だろう、シアン。『夢幻の悪魔』を連れてくるのにも、この砂漠の暑さの中人一人抱えて走り続けられるのは貴女くらいだよ』


 ――だそう。


(どうせ向こうにいたって戦力にはなれねぇし……こんな状態で適役があるだけマシか)


 前日の会話を思い出しながら、周りに気が付かない程度に息を吐く。運搬役が不服でないかといえば嘘になるが、今の自分に他にできることもなし。

 いつまでも後ろを向いていられる事態ではない、とシアンも昨日のうちに自身を叱咤していた。


「さて〜楽しい地竜ドライブもここまで! おれの見た感じここから先は夢の外側。目的の防砂林だ」


 そういいながら労うように地竜の顎を撫でる八霧。

 シアンと大地もそれに習うように地に足をつけるが、どう見ても目の前に広がるのはコンクリートジャングル一色。目的地に着いたとはとても思えなかった。


「ん、二人ともその顔……疑ってるな? ま〜無理もないよね、アレフリア殿下の認識介入って人間にしか効かないらしいし。精霊のステルスも似た様なものらしいし」


 蛇の獣人だと言う八霧と、ただの人間である大地とは比喩ではなく見ている世界が違うと言いたいのだろう。勿論、不老不死とはいえ元々生まれは歴とした人間であるシアンも後者に当たる。


「……実際、八霧さんや地竜には何が見えてるんですか?」


 肩をすくめる八霧に、ムッとした顔の大地が問いかけた。


「まず、おれがちゃんとした蛇じゃなくて獣人だからか知らないけど、多少術の効果を受けてるのは先に言っとく。その上で今見えてるのはこのビル群と砂漠の両方。多分ソラくんも同じ見え方だと思うよ〜」


 後天的とはいえ神を取り込んだ半神に近いソラも似たようなことを言っていた。『最初はわからなかったけど一度意識するとわかる、カズロットが重なって見える』と。


 幼馴染みの言葉を思い出したシアン。その様子ををチラリと見てから、八霧は街の外側を指差した。


「んーで、今おれの足より向こう側はそのブレがない。つまり夢の世界の外側ってわけ。ついでに見えてるのも砂漠じゃなくて、なんかデカくてヤバな多肉植物の群生地帯ね」


 そう言って一歩進んだ八霧の姿は、シアン達の目からゆらりと消えた。まるで陽炎がそのまま溶けてしまうような、目を擦りたくなる出来事だった。


「八霧さん消えたな……これ安易に外出ていいやつか?」


「大地、聞こえてるしこっちからは見えてるぞ〜! 大丈夫だから出てきなってー。あ、地竜は勝手にシャオリア殿下の方にら帰るから行かせてやってね。彼等かなりビビりながら送り届けてくれたらしーから、帰りは期待しないように!!」


 視界には写っていないのに元気よく八霧の声が鼓膜を叩く。

 言葉が理解できたのか、足代わりの地竜達はぴえぴえ鳴き声を上げながら砂を巻き上げ、駆け出した。人間以上に危機察知能力の高い彼等には、精霊も不確定な都市も恐怖の対象なのだろう。


 取り残されたシアンと大地は互いに顔を見合せる。

 

「だってよ副隊長。じっとしてても仕方ねぇし、行くか」


「だな…………アンタにそう呼ばれると気持ち悪いな」


「こいつ本当に一言余計だなぁ……」


 気を紛らわせる軽口と共に無人の世界へ一歩踏み出す。寝起き直後に無理矢理日差しを浴びせられるような煩わしさがシアンを襲う。

 反射的に思わず目を瞑り、覚醒を促すように頭を振る。


 魔法の効果と共に倦怠感が消えた後、ゆっくりと開かれた視界には全く違う世界が映っていた。


 人工的な石の塊は姿を消し、代わりにあるのは砂と緑。何層にも植えられた巨大な多肉植物の壁であった。


「これがカズロットの防砂林…………これもはや林というか、植物の壁面でできた迷路じゃん……」


 ぽつりと零れた大地の言葉にシアンも内心頷いた。初めて見た時同じ感想を抱いたのが懐かしい。


「その迷路の中に『夢幻の悪魔』がいる村があるそうだ。おれが先導するからシアンちゃん殿(しんがり)よろ。かなり広いから逸れないようにね〜」


 そんな迷宮に一切の躊躇いなく進む八霧。彼は先程から自身の歩みに迷いらしきものが欠けらも無い。

 呆れるシアンの隣で、慌てて大地が引き止めていた。


「待った待った、流石に驚く。ズンズン行くけど八霧さん場所わかるんです?」


「んー、何となく?」


「何となくって……流石にこの中で迷子は僕嫌ですよ。絶対後がめんどくせぇ」


「ま〜そう言いなさんな! 一応おれ魔力の流れ見えるから、多分なんかそれっぽいもの辿ってけば行ける行ける」


 蛇の獣人特有なのか彼固有の能力なのかは定かではないが、彼は人の魔力の流れが線のように見えるのだそう。

 そう豪語する八霧に大地も渋々納得したらしい。ハンドサインで「どうぞお先に」と示している。


(アウラが八霧こっちに寄越したのはこれを狙ってか……人探しにはもってこいってわけだ)


 シアンも改めて後輩の大ベテランの采配に膝を打つ。

 尚、恐らくだが大地がつけられたのは彼の臨機応変さを見込まれてだろう。これが海斗の場合、奴本人が勝手に走り出し制御できない。


『へぇ〜〜迷イ人っていうのはパッと見じゃあわかんないんだね! 知らなかったぁ』


「……あ?」


 先を行く五番(ソーン)隊の二人を追うように駆け足になるシアン。その耳にふと少女の声が届いた。

 

「どうしたシアン。八霧さん見失うぞ」


「いや……すまん、なんでもない。先行こう」


 剣を取り出し警戒するも、辺りには何もいない。

 立ち止まったことに気がついた大地が、またフラッシュバックかと疑いの視線を向けている。


(なんだ……このホラーみたいな嫌な感じは…………)


 シアンは心配するなと大地に手を振りながら、剣を肩に担いで進む。

 ザワザワと日光を遮る葉が擦れて不気味な音を立てていた。

すみません、ストックがそろそろ少なくなってきているので、来週から日曜日の更新を停止します( > <꧞)

水金の20:20は今まで通り更新になります

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