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氷炎護リ人 〜現地主人公×異世界転移〜  作者: 有麻環
六章 カズロット編
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6章 18 受け入れ難い現実

 思わぬところで発覚した新たな脅威に苦い顔をするシアン。アウラからの気遣うような困った視線が注がれるが、それはある大声量によってそちらの主に逸れて行った。


「現ってやつを俺は知らんが、彼も迷イ人だんだろう? 結局奴は何がしたいんだ?」


「海斗声がでけぇ」


「あ、すまん大地……」


 耳元で爆音に襲われたらしい大地が、ドスの効いた声を出している。いつも通りすぎる光景に、シアンの中の不安は一旦姿を消していた。

 

 苦笑いを浮かべながら、今度こそとシャオリアが口を開く。

 

「現……あの人、つい一週間前くらいに来た迷イ人なんです。その時はまだ父上も存命で……とりあえずは保護したんですよ」

 

「待った。一週間前だ? こっちに連絡入ってねぇぞ」


「うーん……それに関しては申し訳ないんですけれど、それどころじゃなくなったんです……そのすぐ後に父上が殺害されて、この有様なんですから……」


「つまり、現の出現とヴァルエイラの死んだ時が重なるわけだ。おっと〜、流れが見えてきたぜ〜」


 いち早く点在した情報を繋げたらしいライアがニヤリと笑う。


「シャオは言ったな? ヴァルエイラはアレフが殺したって。そりゃーこの流れで行けばほぼ間違いなく、唆したのは現だろうよ」


「それって……いやでもアレフは嘘ついてないんだろう?」


「ばーかソラくん思い出せよ。アレフの魔法は人の認識を歪めるんだぜ? 自分で自分の認識を書き換えることくらいできるだろ」


「そうじゃねえ、なんでそんなことする必要があるって聞いてんだ」


 徐々に苛立ちを見せるソラに一切怯むことなくライアは推理を続ける。


「何らかの理由でアレフは無意識にヴァルエイラを殺したとしよう。実際シャオもその現場は見てたわけだろ?」


「えっ……えぇ…………ボクが最後に見た景色は、ボクの名を怒鳴り散らして座り込むアレフと、その横で笑みを浮かべる現……そして、剣の刺さった父上でした」


 鮮明に思い出してしまったのだろう。急にライアに声をかけられたシャオリアは、震えた声で自らの経験を語るが、その顔は暗く、青白くなっている。

 それでも、決して逃げてはならないという強さも感じる顔だった。


「なら、正気に戻ったアレフも倒れたヴァルエイラと自分の手にある剣を見てすぐに察するだろうよ? 『自分が父親を殺してしまった』ってな」


 重々しく舌打ちを打つソラ。ここまで言えば、シアンも彼と同じ結論に辿り着いていた。どうにも、自身の過去を思い出してしまうシチュエーションに、奥歯を強く噛み締める。


「あの小心者のアレフリアが、そんなショックに耐えられるとは思えねえ…………現実を直視できずに自分に魔法を使って認識を歪めたってこと、か」


「何度も言うけど予想だぜ? 催眠をかけたのはアレフリア本人かもしれないし、また別のやつかもしれないけどな」


 暖かな酒場に冷たい空気が流れ込む。

 重苦しく、ドロドロとした嫌な気配。

 ライアの推理には『何らかの理由』という空白があれども、おおよその流れは納得できた。できてしまった。


 言わば自身の魔法による証拠隠滅。どこまでが現の掌の上なのかは分からないが、こうしてシャオリアが城から追いやられている以上、計画は成功していると言えるだろう。


 葬式のように静まり返った酒場。静寂を切り開く声ことに躊躇いを感じるほど。

 しかし、そんな空気に左右されない者もいる。


「それで? その現ってのは何が目的なんだ? 人を殺したいだけなら自分でやればいいだろう。なぜそんな回りくどいことをする必要がある」


 勿論。我らがムードメーカー(あえて空気を読まない)海斗だ。


「多分だけど、現の狙いはアレフを利用した国の乗っ取りだ。アレフほど異世界文化に興味津々のやつってそうそういないし? 駒にするにはちょうどいいだろ。逆にヴァルエイラやシャオリアは自由に動くためには邪魔な存在」


 ライアはだんだん飽きてきたのか、面倒臭そうに頬杖を着き、髪をいじりながら話している。


「つまりぃ〜、一刻も早く城から追い出したいわけだ。ただ? アレフは王位継承権第二位。(ヴァルエイラ)が生きていれば何も変わらないし、継承権第一位(シャオリア)がまともな立場なら意味が無い」


「だから罪をシャオに着せることにした……と?」


「そうそう! ちなみに、ここで重要なのはシャオを生かしておくことだ。シャオまで死んだら怪しいのはアレフだからな」


「そうか! シャオと親父さんには悪いが、俺はシャオが生きていてくれたのならば……うん。それでいい」


 そこまで聞いた海斗は一回だけ息を吐き、パァっといつも通りに明るい顔を見せた。

 

「過ぎ去った悲劇を引き摺っていても仕方ない。今できることは今しかできないのだから。これから犠牲者が増えないようにする――それが俺たちのやるべき事だろう?」


 誰かが息を飲み、別の誰かがフッと笑みを零した。

 何かが大きく変わったわけではない。ただ、海斗の言葉はこの場にいた面々の意識を未来に向けた。

 

 それはシアンも例外ではない。

 辛くも悲しくもあるが、弔いも泣き叫ぶことも、後でいくらでもできるのだ。

 

 彼女は一旦沈みそうになる友人の喪失に蓋をして目を背けたかった現実の蓋を開ける。今現在地上で行われている惨劇について。そして、『精霊』というもう一つの脅威について。


 ☆


「っとぉ〜ここで一つおれから報告」


 一同が、さて残る謎はなんだったかと思考した一瞬、八霧が思い出したように手を挙げた。彼の首には先程見た青と白の蛇とは別の、深緑の蛇が巻きついている。


「さっきまでコイツに外、あ〜いや……表面? 都会側のカズロットに偵察行ってもらってたんだけど。今この時点では精霊が大人しくなってるらし〜よ」


「大人しく……ね……」


 何やら気になることがあるらしいライアがなんとも言えない顔をしたが、シアン以外には気が付かなかったらしい。

 八霧は偵察に出ていたという蛇を労うように撫でながら続けた。


「基本的にはガチスプラッタのヤバ現場だけど、何人かはまだ生きてるみたい」


「本当か――!!」


 思わずシアンは椅子を倒しながら立ち上がった。鼓動が早まる。

 既に助けられなかった無力に強く苛まれた後だ。ほんの僅かでも助けられる者がいるのなら、彼女にはそれが紛れもない希望の光に見えた。


「うおっ……活きがいいね〜シアンちゃん……ほんとほんと、おれこんなことで嘘つかない〜…………でも、全くの無傷って訳じゃないし、精霊も完全に姿を消した訳じゃない。それどころかちょっと悪化してるから。回収するなら早い方がいいとおもーよ」


 彼はシアンに気圧されるように体を反らせた。もっとも、それもすぐに軽薄な態度にかき消され、そのまま上司であるアウラに「どうします?」と判断を委ねていた。


「……そうだね。ずっと話してて疲れただろう。情報も複雑なことだし……八霧、海斗を連れてもう一度都会側――夢の世界の方に行ってきなさい。まだ息のあるものをこっちに避難させるんだ」


「オレも行く。精霊見える奴がもう一人いた方がいいだろ」


 流石はベテラン。アウラは八霧の報告を受け取り、すぐさま部下の面々に次の指示を出し始めた。

 言われるがままに席を立つ海斗と八霧には、ソラが同行を買って出るようだ。


「頼んだよ。大地はアタシと一緒にこっちで救護所を作るのを手伝っておくれ」


「わかりました」

 

「ボクもそちらを手伝います。元々城にいた者たちも集めます」

 

「シャオリア殿下…………えぇ。それは助かります」


 一方残された大地はシャオリアとどこが広いか等を話し始めている。なんとも行動が素早い優秀な者達だ。


「うーん、私はどうすっかな……」


 唸りながら腕を組むのはライア。

 アウラとて護リ人に指示する権力は持たない。現状他にやることもないだけなのかは不明だが、残ったライアとシアンには何も言わず「こちらは任せろ」と言わんばかりの視線を向けていた。


「ライア、お前にはちょっと聞きたいことがあるから外に出ろ」

 

「おや〜お姉ちゃんってば熱烈ぅ〜。いいぜ、付き合ってやんよ」


 自由だと言うのであれば遠慮なく。

 海斗達と外に助けに行きたい気持ちは勿論あるが、どうせ再び過去のフラッシュバックで使い物にならなくなるのがオチだろう。ならば今、自信がやるべき事は別にある。

 

 シアンは未だ椅子に腰掛けるライアを見下ろし、険しい顔で外へと促した。

 塔で二手に別れた時から、否その前から、ライアには聞きたいことがずっとあった。激情を無理やり抑え込むように、声が僅かに震えていたのをライアが聞き逃すことはないだろう。


 彼女はニヤリと笑い、揶揄いながらも自らシアンの前を行き、自発的に酒場を出ていった。

 きっと、あの顔は何を聞かれるかも全てわかった上であえて何も知らないふりをしているのだろう。と、シアンは目の前を進む片割れの背を恨みがましく睨みつけた。

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