表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷炎護リ人 〜現地主人公×異世界転移〜  作者: 有麻環
六章 カズロット編
112/116

6章 16 折り鶴

 シアンがシャオリアや海斗達と談笑している頃、反対のテーブルでは反比例するように静かな食事が行われていた。


「で? 大地に聞いたぜー? お前ら二人はアレフリアに呼ばれて先に入国してたんだってな。なのになんでこんなよくわかんない場所にいるわけ?」


 ちまちまと豆をつまみながら問いかけるライア。その正面では、八霧が肩に乗った蛇達に小さな肉を分け与えていた。


「ん〜と……簡単に言うと、交渉決裂? アレフリア殿下には……まぁシャオ様が先代を殺したとかその辺の話されて〜、今のこの国の技術を見てください! 的な感じになって……」


「わけわからん。え、何? それでなんで決裂したわけ?」


「八霧……説明を端折りすぎだよ」


 本人の中では完結しているようだが、如何せん言葉が足りない。戸惑うライアを見て、アウラが呆れ顔で珈琲を一気飲みしていた。


「あっは、さ〜せん! つまりね、おれもたいちょーも、そんなにすぐにアレフリア殿下の言うことを信じられなかったんだよね。仮に王が死んだとして、最新技術とやらとの関連性ないし?」


「ま、それはそうよな」


「っしょ? だから、たいちょーとおれで色々問い詰めた……っつーか誘導尋問したっつーか」


「うわ……お前らの尋問えぐいのに……可哀想なアレフリア」


「なんだい人聞きの悪い。技術交流と言うからにはその利点と理由をはっきりさせておきたかっただけだよ。そしたらまぁ、奴らの目的が見えてきてねえ」


 アウラと話した者は「なんか気が付いたら白状してた」、「何も痛いことはされてないのに洗いざらい吐いていた」、「おばあちゃんに嘘はつけない」などなど。とにかく失敗することはほぼないと言う。


 一方八霧。蛇のような執拗さで相手を腹立たせるのが第一段階。一度ペースを崩されればもう彼の土俵。崩され揺らされ時に煽てる。完璧な飴と鞭。

 本人曰く「プライド高い奴ほどよく泣く……じゃなくてよく語るー!」とのことだ。


 そんな二人から同時に詰められただろうアレフリア。彼が全ての元凶であったとしても、流石に同情を禁じ得なかった。


 若干頬を引き攣らせるライアに不服そうな顔をするアウラだが、外では止まることなく食卓に並ぶ肉に伸びている。


「王政が不安定な国と連携するのはリスクがあるから、まずはシャオリア殿下を探しに行くって言ってやったのさ。そっちの問題解決しない限りは話が進まないってね。そして――――そのまま出てきた」


「大地のことを外交に不向きとか言うけど、お前も大概だよ」


 仮にもバルフィレムの要人であるアウラが、王子の話を遮って脱走。バルフィレムで書類に追われているだろう宰相が耳にすれば、顔を真っ青にするのは間違いない。


「でもあれはやっぱり正解だったよ。実際、アタシの勘だけどシャオリア殿下の方が発言に正当性があるし、何よりあの現という男が気に入らないからねぇ」


「おれ達が出る時ちょっと必死になってたのはマジで笑う〜。あれは多分なんでも自分の思い通りになると思ってるタイプだぜ」


「あはは! だろうなー」


 口がよく回る三人の結論は「現は黒確定」。

 ライアはアレフリアの背後で不気味な笑いを貼り付ける現の顔を思い出した。その目がどこか別の場所を見ているような、現実味を感じていないものだったのは印象深い。


 ☆

 

「ねぇねぇおばあちゃん! 見て見て!」


 遅めの昼食ももう終わりに近づき、真面目な話が近づいてきた頃。10歳いかないくらいだろうか、一人の少年がトテトテとアウラに駆け寄ってきた。

 

「あぁっ、ごめんなさいお客様……コラ、今大事な話してるんだから割って入っちゃダメでしょ。普段の呑んだくれ親父達じゃないんだから」

 

「酷い言いよう」

 

「この酒場の普段が見えたわ」

 

「む〜……だって見て欲しかったんだもん」


 母親だろう女将が慌てて声を荒らげると、少年は不服そうに頬を膨らませた。幼く柔らそうなそれはまるで饅頭のよう。


 アウラがそんな少年の頭に手を置き、目線を合わせるように腰を曲げている。10年以上前、彼女にアミナ――孫が生まれた時と似た、溶けてしまいそうな柔らかい声だ。


「なんだい? おばあちゃんに見せておくれ」

 

「あのね、この前来たお客さんがこんなのくれたの! みんなに自慢してるんだぁ」


 キラキラと輝く目で両手を掲げる少年。ご丁寧に「じゃじゃーん」と効果音まで口にしている。


「こ、れは…………」


 時がほんの一瞬止まったようにアウラが言葉を詰まらせた。ピリッと走った殺意に近い気配に、八霧の蛇が慌てて袖に頭を隠している。

 

 一見、ただの微笑ましい光景。少年の手に乗っているものが他の何かであったのなら、ライア達も暖かい目で見守るだけに留まったことだろう。


「折り紙……?」


 傷一つ無い小さな手に乗せられているのは、金箔が混じる煌びやかな紙で作られた、鳥の模型。

 大地や海斗ならばよく知っているはず。それは、日本の伝統工芸の一つ――()()()だった。

 

「ボク、それをおばあちゃんに貸してくれないかい? ちょっと羨ましくなっちゃった。後で必ず返すから、ね?」

 

「えぇ〜……」


 アウラはすぐに元の優しいおばあちゃんの顔に戻り、ポシェットから取り出した正方形の紙を器用に折り畳む。

 

「変わりにこれをやるから、一旦交換。ダメかい?」


 瞬く間に出来上がったのは、同じ折り鶴に見えるがどう見ても別のもの。

 少年が持っていたものは、水面に浮かび、羽ばたく直前のような静けさを漂わせる。鏡合わせのように左右対称な芸術品。一言で言えば趣深い。


 対して、アウラの手によって作られたのは頼りない二本の脚をバランスよく曲げ伸ばし、翼を平行に広げ、見る者をバカにするように左右に揺れている。

 同じ紙で作られたものとは思えないシュールさだった。


「待ってなんだあれ、鶴……鶴?」

 

「ガニ股の二足歩行は鶴って言っていいんだろうか……」

 

「鶴は元々二足歩行だろ」


「あれ昔学校で流行ったな!」


 離れた机で見ていたたらしいシアン達からも戸惑いの声が上がるクリーチャーじみた物体。

 一時的に借りるだけとはいえ、こんなもので少年が交渉に応じてくれるとは考え難い。


 ライアは思わず正気を疑う視線をアウラに向けたが、彼女の目は至って真剣。そして――

 

「わぁ、変なの! これならいいよー!! 後で絶対返してね! 見てお母さん変なの〜」


「こら! 人様に貰ったものを変なものとか言わないの!」


 ――交渉成立。

 少年はさっさと元々持っていた折り鶴を置いて、折り鶴もどきを母親に見せに飛び出して言った。


「見な。子供ってのはね、なんか笑いのツボにハマるものが好きなのさ」


「あはは! アウラのその『わかってましたよ』、みたいな面腹立つなー」

 

 策略なのか本当にあれしか折れないだけなのか分からない老婆に、ライアも思わず苦笑いを禁じえなかった。


「で? その鶴どうすんの? それ、あいつの……()()のやつだろ?」


「……恐らくはね」


 少年が立ち去り、海斗達若者組が再び料理の最後の一口に手を出し始めたのを確認して、ライアはアウラにそっと尋ねた。


 折香――五年前バルフィレムで起きた軍務を半壊させた事件の犯人の一人。トラリアの兄、ドラグアと結託して、当時の上層にいた面々を数多く殺した大罪人。

 

 彼女が扱う魔法もしくは異能は、このような精巧な折り紙を本物の動物のように操る技であった。わざわざこの世界で希少な千代紙を使う者は、コストよりも芸術を優先する彼女くらいだろう。


「とりあえず、これはアタシが預かるよ。妙な細工されてないかだけ解析してあの子に返してやるさ」


 「約束したからね」と汚れないようにハンカチで折り鶴を包むアウラ。さながら事故現場の証拠を扱う警官や検察のよう。

 

 その顔に影が差していること気が付かないライアではない。

 許されざる罪を犯したかつての部下を、自らの手で捉えることもできずにはや五年。こんな所でその存在を感じ取るなどとは、流石のアウラも予想だにしなかったのだろう。


「たいちょー……大地達に共有はしないんです?」


「多分さっきのやり取りでシアンとソラは気がついているだろう。大地達若い面々は……そもそも折香のことを知らないだろうから……」


 事件の記憶がある八霧は、普段の掴みづらい態度を不安で塗り替え、アウラに指示を仰いだ。それに対して、アウラは敢えて淡々と告げていた。本人が一番、今すぐにでも探しに行きたいだろうに。


「一旦保留だね。聞かれても適当にはぐらかしなさい。余計な心配をかける必要はないよ」


「へー? 折香が黒幕、とは考えねーんだ」

 

 この時、ライアの中でわざと本音を引き出してやろうと意地の悪さが働いた。彼女は大袈裟なほど煽るような声を出し、アウラや八霧の反応を待つ。

 

「なにいってんだい、ライア。貴女だってそんなこと思っちゃいないだろう? あの子がわざわざ形に残るものを残していったんだ。偽装する気なんかサラサラない、別の意図があるんだろうよ」


「ま〜確かに、おれ達の知ってる姐さんなら痕跡残すようなヘマしないよね〜。それはおれ達が一番よく知ってる」


 しかし、一度切り替えた二人がそう簡単に揺れることはなかった。元上司、あるいは元部下として、対象のやり口は理解しているとの事。

 

 紡いできた時間が例え裏切りという形で終わろうとも、その時感じた信頼は嘘では無いのだ。

 ライアには、二人がそう宣言しているように聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ