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氷炎護リ人 〜現地主人公×異世界転移〜  作者: 有麻環
六章 カズロット編
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6章 15 腹が減っては頭も回らぬ

「さて、話は一段落着いたかね」


 シアンがシャオリアの話を大人しく聞く姿勢を見せたタイミングで、アウラが一度席を立った。

 彼女が酒場の女将に手で合図すると、女将は承知したというように店の奥へと姿を消した。

 

「話したいことは山ほどあるが、とりあえず飯にしようじゃないか。アンタ達昼の船で来てからそのまま何も食べてないだろう」


「賛成ッ!!」


「うわうるさ……」


 忙しなく走り回っていたため忘れていたが、最後に食事を取ってから既に六時間以上は経っている。腹が減っては戦ができぬと言うが、話し合いとて同じこと。

 

 いの一番に同意を示したのは案の定ソラだった。思わずというようにライアが耳を塞いでいる。しかし、それに異を唱える者もいた。


「いえ、先程スコルグとか言う木の実を食いました! それより早く次の話を……」


「あのねぇ海斗……逸る気持ちはわかるけど、それだけじゃ腹の足しにはなりゃしないよ。ちゃんとした飯を食いなさいな。もちろん……経費だよ!」


「なら……食べる!!」


「掌返すの早いなー」


 それらしい事をドヤ顔で言っているが、要は税金で飯を食うということである。アウラ達五番(ソーン)隊は公務の一環できているからいいとして、有給利用中の海斗は話が違うだろう。


「私達は自分で払うから結構だ。けど、海斗まで経費で落としていいのかよ」


「海斗の有給は後で二番隊隊長(ヴォダ)と上に取り消し申請しておくから、また今度にとっておきな。ちょっとアンタはそのままアタシ達と一緒に来なさいよ。緊急事態だからね」


「うむ。言われずともそのつもりです。なんと言ってもシャオの危機でもあるので、な!」


「いえあの……今更言うのも、と言うかもう一度確認したいんですけれど……本当にいいんですか。護リ人やバルフィレム軍がここまで介入するなんて。其方の王女陛下がなんと仰るか……」


 トントン拍子で身内のみ話を進めていくバルフィレム軍務の面々だが、肝心のシャオリアは未だ彼らを巻き込むことに踏み切れていない様子。

 やれ他国を巻き込む訳にはいかないだの、無事で済む保証は全く無いだの煮え切らない。


 狼狽えるシャオリアを他所に、店の奥からは香ばしいいい匂いが漂ってきた。

 シアンは運ばれ始めた料理をみながら、王子に軽く訂正を入れる。


「先に言っておくと、護リ人はバルフィレムの傘下じゃない。マリーシャの指示に従う必要は全くないんだ。軍の方は知らん」


「うーん、うちの王女様は何も言いやしないだろうけどねぇ……八霧! 国と連絡は取れたかい?」


「いーえー。依然として無理で〜す。前よりはデバイス君もやる気出してくれっかな〜くらい?」


「はは! なら仕方ない。基本的に緊急時は隊長の判断で好きにしていいと言われているからね。お言葉に甘えて好きにさせてもらうよ」


 と、豪快に笑うアウラ。

 シアンから見てバルフィレム軍務は基本的に放し飼いに近い。統率がないとも言えるが、それぞれがそれぞれの専門分野で好き勝手に進むからこその強さであるとも言える。

 

 何より王女であるマリーシャ本人がそれで良いと判断を下し、万が一謀反に走るようなことがあれば騎士団が止める。形としてはそのような制度ができているのだ。それでも、五年前の事件を止めることはできなかったが。

 

「ちなみに八霧、大地、海斗。もしアンタ達が帰りたいと言うならアタシは止めない。勤務態度にマイナス評価をつけることもしない。これはアタシの独断だからね…………どうする?」


 アウラの視線が若手の三人を撫でた。彼女なりの最後のチャンスなのだろう。命を預かる立場としての意思尊重。

 しかし、その帰還に乗るものは誰一人いなかった。


「舐めないでください隊長。僕は貴女について行くと決めました。それに貴女は僕達が無駄死にするようなことに首は突っ込まない。そうでしょう?」


「右に同じく大地の言うとーりー。それに、この国の崩壊は巡り巡ってバルフィレムの不利益にもなる。それっておれたちが動く充分な理由でしょ?」


「俺はさっきも言った通り、友人の危機なのでな。ここで見捨てる訳にはいかぬのだ」


 三者三様、しかし向いている方向は皆同じ。アウラは満足したように小さく鼻で笑い、シャオリアへ視線を向けた。


「はぁ…………そこまで言っていただけるのであれば、これ以上ボクから言うことはありません。力を貸していただき誠に感謝します」


 心強い言葉たちに、一瞬泣きそうな顔をしたシャオリアだが、すぐに凛々しい顔で謝意を述べた。そして、何故かそのままカッと目を開き、机に置かれた色とりどりの料理達を手で指し示した。


「――ですが! せめて! この料理や皆の宿泊代はこちらで出します! それすらできなければボクは歴代の国王達に顔向けできませんッ!!」


 今まで穏やかな顔しか見たことがなかったシャオリアの思わぬ一面。片目だけ覗く彼の目からは一切譲る気はないと言った強い意志を感じた。


 ☆


 一口大に切られた蒸し野菜、豆やパンをメインとし、香辛料の効いた肉が並べられた。昇る湯気からなんとも食欲を唆る香りが漂っている。

 難しい話を一度端に追いやり、シアン達は穏やかに腹拵えの時間を過ごしていた。


「にしても、シャオリアと海斗が知り合いだとは思わなかったな。大地は知ってたのか?」

 

「僕だって知らねぇよ……さっき初めて知ったんだ」

 

「その割には驚いてねぇみたいだけど?」

 

「だって海斗だぞ? もう誰と知り合いでも驚きはしないさ」

 

「あぁ……言いたいことは分かる」


 シアンの近くには大地、海斗、ソラ、そしてシャオリアが座っていた。

 若干呆れが混ざる大地の言葉に頷きながらパンをかじるシアン。その隣で口いっぱいに物を詰め込んでいたソラが、漸く飲み込んだのか会話に入ってきた。

 

「海斗って『出会った人類みんな友達』、みたいな顔してるもんな」

 

「ソラさん! それは褒めているのか? 貶しているのか?」

 

「どっちだと思う?」

 

「褒められると嬉しいので、褒められている!」

 

「ならそういう事にしとけ」


 これで納得するのだから海斗は扱いやすい。

 一見するとアホにも見えるが、今朝の船での気遣いといい、自分を見失わない芯の通った行動力の高さといい、何も考えていないわけではないのだろう。ただ本当にポジティブで、良い意味で素直なだけ。


 尊敬するソラから仮とはいえ褒めの言葉を貰い、嬉しそうに口角を上げる海斗。正の感情の直射日光にシアンも釣られて微笑んだ。


「んでよぉ、話戻すけど……二人は最初どうやって会ったんだ? まさか海斗が城まで行った訳じゃないだろ?」

 

「うむ。シャオはよくこの辺フラフラしてるからな、たまたま意気投合しただけだ」

 

「フラフラ? 一国の王子が?…………いや、人のこと言えないか、マリーシャもそうだな」

 

「あはは…………ボクはよく城を抜け出して外に遊びに出ていたので。アレフは逆でしたけれど」


 外交的で人当たりの良い兄、シャオリア。内向的で人見知りな弟、まさしく正反対な兄弟だった。

 シアンは、彼等の父ヴァルエイラに逢いに来た際の反応が見事に別れていたのを思い出していた。

 

「ふーん……なんか意外だな。海斗が迷イ人だと知ってたんだろ? カズロットと言えば迷イ人への規制が厳しいって聞いていたから、その国の王家は排他的なのかとばかり……」

 

「国の方針はまあそんな感じですけれど、ボクも……アレフリアも、父上だって、いち個人としては異世界文化に興味はあるんですよ」


 思い出に浸るシアンの隣で、大地が小さく疑問符を浮かべていた。

 彼は友人の友人は友人だ、と早々にシャオリアへの敬語を外していた。勿論、シャオリア本人の許可は得ているようだ。


 大地の疑問に相乗りするように、海斗も串焼きのような料理片手に口を開いた。


「うむ、この際だから聞きたいんだが……別にカズロットって技術的に遅れてるわけでも鎖国してるわけでもないだろう? 何がどうして迷イ人文化を受け入れないという話になっているんだ?」

 

「ああ……そこ誤解してる人結構多いんですよね……」


 キッシュに似たのような料理を切り分けながら、シャオリアが「どう説明したものか」と頭を悩ませている。

 

「我々カズロットは迷イ人の生活支援をしていないだけで、入国審査や滞在資格さえ持てば普通に住めるんですよ。うーん、なんて言えばいいのかな……」

 

「……基本的に移民政策はしてないってことだ」

 

「ああ、なるほど」

 

「それでわかるんですか」

 

「元の世界でも似たような事情はあったのでな!」


 シャオリアによる不慣れな説明に、大地が助け舟を出した。彼はそれなりにこの世界の情勢も調べているのだろう。日本で同じ文化を過ごしてきた海斗に伝わるように例え話を交えて教え始めた。

 

「あとはほら……海斗お前、日本で一番『和』を感じる都道府県はどこだ?」

 

「…………京都?」

 

「そう。京都の条例の話、中学で習っただろ? ビルの高さはこれくらいまで――とか、電線は地中に――とか。カズロットもそんな感じなんだよ」


 バルフィレムは建国当時から異世界技術を現地の技術と融合させて好き勝手に繁栄しているが、カズロットはそうではない。

 元々の民が一つ一つ石を運び、レンガを積み、鉄を組む。そうして地道ながらも自分の手で成り立ってきた国なのだ。


 なるほど、故郷に似た例があるなら分かりやすいだろう。と感心したシアンだったが、肝心の海斗は神妙な顔で大地を睨みつけている。

 

「大地…………」

 

「なんだ」

 

「俺に社会の話をしないでくれ」

 

「はぁ……悪かったな、万年赤点野郎」


 深い溜息を吐いた大地。どうやら海斗にとって現代社会というものは苦手分野だったらしい。


「まあでもだいたいは理解したぞ。カズロットはその規制が厳しいという事だな?」

 

「その通り。でなければ豪華客船の観光なんて受け入れませんって……」


 それでもニュアンスは伝わったのだろう。海斗の言葉にシャオリアも、だいたい合ってると言いたげな顔をしていた。


 弟との間に埋まらない亀裂が走り、父を失い、ましてや国をも失おうとしているシャオリア。海斗や大地といった同年代の友人との会話が少しでも彼の心を和らぐ一助となることを、シアンは願わずにはいられなかった。


 

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