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氷炎護リ人 〜現地主人公×異世界転移〜  作者: 有麻環
六章 カズロット編
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6章 7 第二王子、アレフリア

 数年ぶりのビル群。エインスカイに来てからは目にすることのなかった建築技術に、どこか浮き足立っているのを感じる。

 

 強いて違和感を言うのなら、車が浮いていることや、屋外なのに床が学校の廊下みたいな材質であることくらい。もちろん、ここがカズロットの首都でないことは見ないフリをした前提の話だが。


「記憶の通りならだいたいこの辺に…………あれ〜? これは参った、いつもの飯屋が見つからない…………」


 シアン達と別行動を取った海斗は、街の外れにある――否、あったはずの郷土料理屋を探していた。

 

 しかし、右も左もモノトーンな高層ビル。景観が大きく変われど、流石に元あった店が全て無くなったわけではないと踏んでいたが甘かったらしい。目当ての料理屋も、近くにあるはずの土産屋も、呉服屋も、何一つとして影も形も名残もなかった。


「シャオにも連絡がつかないし……って、電波切れてる。あれ、もしかして俺が行くこと伝わってない……?」


 頼みの綱の携帯端末もアンテナゼロ本。これでは友人はおろか先程別れたシアン達とも連絡がつかない。孤立無援、お先真っ暗、迷子確定である。


「まあいいか! 誰かに聞けば!」


 が、それで悩む男ではなかった。

 そもそも、友人の返事も待たず船に乗り込んだ海斗に、計画性など欠けらも無い。もとより弾丸ツアーのような旅路である。今更想定外のひとつやふたつ。この程度の障害、彼の歩みを妨げる程のことではない。

 

 海斗は持ち前のコミュニケーション能力をフルに利用し、道行く人に満面の笑みで声をかけた。


「そこの人! 初めまして! 人を探しているのだが……」


「なっ……なんだいいきなり。この国の人間じゃないな?」


 元気と(くく)るにはあまりにうるさい。海斗の声は建物に反響し、より一層目立つ要因になっていた。

 挙動不審に辺りを見回す男。突然、見知らぬ声のデカい青年に声をかけられ、大袈裟に肩を跳ねさせる。

 

 男の服はすっかり変わってしまった外観とは異なり、海斗の元いた世界で砂漠地帯によく見られる薄い生地のトーブ。その上から日本の着物と似たような羽織を掛けたもの。カズロットでよく見られる民族衣装だった。


 警察に追われるコソ泥のように当たりをチラチラと気にする男。その様子を知らぬフリをして、海斗は彼の問にはっきりと答えた。


「嗚呼。バルフィレムから来た! 友人に会いに来たんだがこの変わりようでな? 全く道が分からない。おまけに連絡も取れないときた……なぁ、シャオというやつを知らないか? テュール砂漠の砂海みたいな黄金色の髪のやつ! 多分眼帯つけてるはずなんだが…………むぐっ」


 自身の素性を超がつくほどざっくり答え、そのまま聞きたいことを問い詰める海斗。彼の言葉を聞くうちに、オドオドした様子の男の顔が徐々に青く染まっていった。

 

 遂に耐えられなくなったのか、男はクルクルとよく回る青年の口を思い切り手で抑えた。

 

「ばっ……声がでかい!! その特徴を無闇に口に出すんじゃない」


「何故」

 

「それは……その…………くそっ、ちょっとこっち来い!!」

 

「だから何故……うわっ力強いな?!」


 慌てた様子で逃げるように走り出した男。無理やり手を掴まれているが故に、強制的に連行される。

 海斗は全く何も分からないまま、同じような形で並ぶビルのひとつに押し込まれていった。


(よく分からんがまぁ、立ち止まってる訳では無いからいいか!)


 自己PRは「前向きなところ」。全ての事柄を好転的に考える男、速舞(はやま)海斗はこの状況でも前を向き続けられる人間だった。


 

 ☆。.:*


 

 晴天を表すような滑らかな水色の髪。背筋をピッと伸ばし、細かな所作も礼儀正しい。かと言ってその表情は実に柔和で親しみやすい。


 電波塔らしき観光地の周辺で、シアン達を迎えに来たといった女。彼女に連れられた先は、案の定(くだん)の塔の上だった。


 展望デッキまで直通のエレベーターとやらに乗せられ、重力に逆らって登っていく。存在自体、迷イ人達から話は聞いていたが、まさか実際に乗る日が来るとはシアンも思っていなかった。


「――というコンセプトで、現在この首都の改革を進めております。さて、まもなく当機は最上階へ到着いたします。どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」


(やべぇ、なんも聞いてなかった……)


 長いような短いような縦移動の間、案内役の女が何やら国の説明をしていたが、シアンの耳にはあまり残らず抜けていく。何しろ上に行くほど無性に苛立ちが募っていくのだ。態度に出さないだけ、これでも十分我慢しているほうなのだ。


 チラリと周囲を見渡すと、外をじっと見ているソラに半分酔いかけているライア。恐らくまともに聞いていたのは大地だけだろう。否、内容にもよるが、彼もまた仕事に関わることでなければ聞いていない可能性が高い。


 懸命に語ってくれた案内役に若干の申し訳なさを抱きつつ、シアンの視線は開かれる扉へ移された。


「アレフリア様、護リ人様御一行をお連れいたしました」


 扉の先に広がっていたのは酷くアンバランスな部屋だった。

 全面ガラス張りの展望台。いくつかの窓はグラフやコードが映し出され、洪水のように数字の羅列が流れていく。もはや窓と言うよりは絶え間なく稼働するコンピュータのよう。

 

 しかし、その中心に置かれている家具、床や天井を彩る装飾は、紛れもなくカズロットの伝統工芸品。

 計算によって生み出された技術とは異なり、経験と勘によって継承された匠の傑作たち。


 何ひとつとして噛み合っていない二つの技術。小さな子供が、親の助言とセンスを無視して自分の好きな服を着ているかのようなチグハグさ。

 

 熱を出した時に見る夢のような光景に、シアン達は思わず目を擦った。


「ありがとう、エイリエス。下がっていいよ」


「かしこまりました」

 

 仰々しく頭を下げるエイリエスと呼ばれた案内役。その視線の先には男が二人。

 

 一人は艶やかな黄金色の髪を結った小柄な男。煌びやかな玉座に収まる彼はシアンも見たことがある。今回護リ人を呼び寄せた張本人、第二王子アレフリア=カズロットだ。

 以前見た時よりも暗い顔。しかし後戻りのできない重大な決断をした者の顔でもあった。


 もう一人は、アレフリアの後ろに立つ見慣れない若者。スーツを緩く着こなし、眼鏡を服のポケットに引っ掛けている。あまりエインスカイでは目にしない、恐らくサラリーマンとやらの格好に近いのだろう。

 彼は弧を描いた目をシアン達に向け、品定めするように楽しげな顔をしている。


「ご無沙汰しております、護リ人の御三方。そして……そちらの方はバルフィレム軍……? ――とにかく、遠方からわざわざご足労いただき誠にありがとうございます。どうぞ足を休ませてください」


 アレフリアはシアン達を椅子へ促した。大地を見て首を傾げていたがすぐに切り替え、自らも近くの椅子に移動してきた。


 どこまでも沈み込むようなソファ。座った瞬間――これは人をダメにするかもしれない――などと明後日な考えが浮かぶほどに倦怠感が襲ってきた。船旅と街並みへの驚愕は思ったよりも精神を疲労させたらしい。


 意識が飛かけるシアンを他所に、代表して挨拶をしたのはソラだった。


「こちらこそお招きいただき感謝する…………でかくなったな、アレフ」


「何を言いますか、ソラさん。たかが数年でしょう? おれ身長は変わってないですよ」


「いいや、変わったよ。前のお前はオレ達ともまともに目を合わせて会話できなかっただろ」


「うっ…………痛いところを」


「んっふ……」


(うつつ)くん……笑ってる暇があるならお茶菓子だして」


「へいへーい」


 現と呼ばれたスーツの男が姿を消したのを確認し、アレフリアが気まずそうに息を吐いた。

 ソラの言う通り以前の彼は人見知りが酷く、兄や父の背に隠れて会釈が出来れば良い方。下手をすれば遠くから観察されるだけという不審者ムーブをかましていた。

 

 それがしばらく見ないうちに本当に自然体になっている。使用人――らしき人物に軽口を叩けるくらいには。


「久しぶりなのは結構だけど! 小僧、お前の家族はどこ行ったんだよ。今はお前が王なわけ? そんなニュース聞いてないけどな〜?」


 茶菓子が運ばれ僅かに緩んだ空気をライアが容赦なく断ち切った。

 その間、シアンは何とか会話について行こうと微睡みに落ちようとしている思考を必死に手繰り寄せていた。正直言って、睡魔と謎の苛立ちが闇鍋のように混ざり合い、話が何も入ってこない。


 そんな様子を気にもせず、ライアは挑発するかの如くわざと馬鹿にした声で問い詰めている。


「そもそも、王都全体的に随分と愉快なことになってんじゃーん? 大層なモノまで呼び覚ましちまってさ?」


「…………そうですね。貴方たちを呼んだのは手紙でもある通り、迷イ人の保護制度についてですが……本題に入る前に、まずそこをお話しないといけませんよね」


 アレフリアは一切たじろぐこと無く、その焦点をライアの瞳孔にピタリと合わせた。まるで、今から言うことに嘘などないぞと宣言するように。


 外のざわめきと機械の稼働音がかき消される程の緊迫感。一瞬の錯覚による無音の中、誰かが唾を飲む音が聞こえた。

 

「――先代の王、ヴァルエイラ=カズロットは元第一王子シャオリア……おれの兄によって殺されました」


 静かに落とされた王子の言葉は、シアンの意識を引き上げるのに十分なものだった。

 

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