第6章 決戦の地 地下帝国(1)
*
松明の火が揺れている。
暗い洞窟の中がよく見て取れるよう、ドリュウルが魔力で作り出してくれた決して消えることのない火だ。
主人公が、悪を前にして松明の火のように揺れている。ゲームを作っていると大抵こうなってしまう。私が【悪】を大事にし過ぎるせいで、主人公側が【悪】に見えてしまうという愚作を作ってしまうのだ。他の【神】が作っているという勧善懲悪のRPGとは天と地ほどの開きだ。しかし、どうしようもない。これが私の性癖なのだから。
彼の人は、歩きながら揺れる灯りと影を見つめていた。
エラーを吐くことなしに、この物語を閉じることができるだろうか。
心に正義を讃え、堂々と前を歩む仲間たちを見ながら思う。大抵、ラストステージまでは騙し騙し作ることができるのだ。ラスボスを規格外に強くし過ぎることと、ラスボスの勝った世界線しか作れないのが問題なのであって、それ以前の物語はまずまず及第点だ、と上司も唸っていた。
彼らはラストスパートに向けて歩き続ける。
彼の人は彼らの背中を見つめる。
登場キャラクターに憑依したものの、結局、勇者よりも【悪】に肩入れしてしまうのには変わらなかった。いやむしろ、より一層、目の前の哀れな者たちに深く同情するようになってしまった。主人公側の【正義】はいつだって詭弁ばかりだと再認識してしまったのだ。
歩く。暗い洞窟を松明の光を頼りに、真っ直ぐ歩く。
それでも、仲間である彼らに情は移っている。
できれば、この物語をエラーで閉じたくはない。
「着いた」
主人公の彼、キヒュームが言う。
さぁ、泣こうが喚こうが、クライマックスだ。
私は作り上げるしかないのだ。
これが、仕事だから。それが、【神】の役目だから。
*
——多分、これで全部のクルダマオ族幹部を潰せたと思う。
ラクビースはキヒュームたちに目を合わせずそう言うと、【クルダマオ族を倒した勇者様方】を見送る群衆の熱気を素通りし、フルリンケの町を足早に離れる。ケモタリア族の歓喜の叫びも、喜びで掲げられた揺れるハンカチにも目もくれず、一心不乱に砂漠の方へと進んでいく。ただ前だけをひたすらに見つめていた。
ラクビースの背中を見て、彼がユジュルヒたちに深く共感していたことを思い出す。ラクビースが今、何を考えているのか、何を思っているのか、キヒュームには全く見当がつかない。
ラクビースはせっせと砂漠を歩く。どこへ向かうべきかを知っているような迷いのない動きだった。
ラクビースは道すがら、自分たちの任務が各地に点在するクルダマオ族の勢力を削ぐことであったこと、そして、事前に得た情報に、敵の本拠地がブランダミグマ周辺にあると記されていたこと。以上の二点を手短に伝えた。
「これで僕たちのミッションは達成したね。これからの動きの選択肢は二つ。一つは、ブランダミグマ警備隊がクルダマオ族のトップであるシェイコンを倒してくれるまで、安全な場所で身を隠すこと。そして、もう一つは、僕たちの手で直接シェイコンを討つことだ。君たちはどちらを選ぶ?」
こちらを見ることもなく、ラクビースが選択を迫った。キヒュームが即答する。
「戦いの幕を開けたのは俺たちだ。だから、幕を下ろすのは俺たちがやらなければいけないと思う」
キヒュームが言った。それにドリュウルもアイレーンも賛同する。ラクビースもまた首肯した。
ここまで来たんだ。もう他人任せにはできない。
「じゃあ、行こう。ブランダミグマに」
キヒュームたちはひたすらに歩いた。深い谷底、水路のトンネル、人間族がかつて利用していた工場の跡地を通って、ブランダミグマを目指した。道中に強い魔物やクルダマオ族が現れては、皆で協力して倒していく。まるで事務作業をこなすように淡々と、キヒュームたちはただただ歩き続けた。
そこに感情は存在していない。谷が怖いとか、トンネルに心細く感じるとか、かつての工場で行われていたであろう非道な実験に腹を立てるとか、そういった感情が欠落しているのを、キヒュームは感じざるを得なかった。
しかも、欠落していると感じることができるのは、やはり仲間の誰かが言葉を発している時だけだ。歩いている時、戦っている時、つまり、大抵の時間は何も感じていない。体はあるが、自分が【無】そのものになっているようだった。
ブランダミグマまでの道のりは、遠いようで近かった。すごく長い時間をかけたようにも感じるし、短い時間でここまで着いた気もする。やはり何かがおかしい。その何かがなんなのかがわからないのが問題なのだけれど。




