勇者は滅びの呪文を唱えた!
紙面の一面をデカデカと飾るその記事を見て、カリーナは目が飛び出るかと思った。
(え、魔王討伐成功?!)
一瞬、見間違いでもしたのかと何度も瓦版を見直すが、記事の文字は間違いなく「魔王討伐達成!」というゲームのテロップさながらの文字を象っている。カリーナは口をあんぐりと開けた。
確かに、噂ではかなり魔王城の攻略が早く進んでいるとは、聞いていたけども。
(いやいやいや早くね???? あれ、ついこの間魔王城に着いたばっかりだよね? 旅に出てから討伐までトータル半年って、え? ゲームの周回プレイかな。RTAでもしてたの? ってくらい早いんですけど)
いや、本当につい一週間前だとか、そのレベルである。魔王城に到達したという瓦版を買って読んだのは。記憶が新しすぎる。
早いだろうとは思っていたが、ここまでだとは全く思っていなかった。いや、薄らそんな予感もしていたかもしれない。
それにしたって普通、もっと時間がかかるものではないのか。ここまでで、トータルで約半年ほどしか経っていないのだが。
才能マンすぎるだろう。レベチすぎて笑うしかない。
流石は主人公様アドルファス。自慢の幼馴染みである。
続く記事には初代勇者に次ぐ早さだのなんだのと、文字からすら浮き足立っているのが伝わる賞賛がズラズラと書かれている。
へぁ〜すっげ〜〜〜〜と月並みな感想でその文章を追いながら、心の中でアドルファスの能力の高さを反芻する。
恐らくだが、盛りに盛られたハイステータスをそのままに力技でボコボコにしたのだろう。彼は元からの素養の高さに加えて、努力を惜しまない人間である。魔王討伐の旅で、元々突出していた能力はさらに上積みされたに違いない。憐れ魔王よ。
なにせアドルファスは生まれっからしてハイスペックである。世界の大いなる意思によって定められし勇者様なのだ。そりゃ敵うはずがない。
心の中で顔も知らぬ魔王に合掌する。成仏しろよ……。
ゲームや物語の主人公のようだと常々思ってきたが、いよいよもって真実味が増してきた。カリーナが知らないだけで、本当に乙女ゲームとかRPGの主人公キャラクターなのかもしれない。
そうだとしても、今三次元の世界としてここで生きている以上、キャラクターも何もあったものではないのだが。
何はともあれ、今代の戦いはもう終わった。
はるか昔から繰り返されているこの魔王と勇者を巡る英雄譚が、また一つ増えていくのだ。決した今後は、勇者アドルファスの名と共に、世界各地に刻まれていくのだろう。
今までの勇者たちの後に続いて列挙され、そうしてまた次代へと受け継がれていく。
英雄譚ができたなら、是非読みたいものである。恐らくいくつかの出版社からそれぞれ出るのだろうから、全部一冊ずつ買って読み比べるのもいいかもしれない。
手元の瓦版を見下ろす。開いたままの記事には、討伐後の幼馴染みの姿が載せられている。多少の傷はあれど、大きな怪我はなさそうだ。記事の続きにも、概ね軽傷で済んだと書かれている。
ようやく本当の意味で安心ができそうだった。
アドルファスならば大丈夫だと軽く捉えているようで、知らず知らずの内に緊張していたのだろう。魔王と対峙するということは、当然死ぬという可能性もあるわけで。
一安心だと思って息を吐いた瞬間、どっと力が抜けて座り込みそうになった。
(良かった。……良かった。アデルが無事に魔王を討てて)
五体満足で良かった。ひどい怪我をしなくて良かった。魔王城から帰ってきてくれて良かった。生きていて、良かった。
そも、聖魔法のエキスパートである聖女だと教会からも認められている王女様がいるのだから、そんな滅多なことにはならないのは当然と言えば当然かもしれないけど。
聖魔力持ちの外向者であれば、怪我なんかを治すのなんて朝飯前なのだし。
カリーナとて聖魔法の元である聖魔力に適性がある、というかその属性の魔力が主だが、そんな凄いことはできない。内向的だし、何より聖女な王女様とは能力が全然違う。
(内向者と外向者じゃ、ほんと全然違うもんなぁ……)
もしも、カリーナが外向者だったのなら。
もしかしたら、アドルファスの旅路についていけたのかも、なんて。
馬鹿な妄想だ。でも、アドルファスが勇者に選ばれて、村を出て魔王討伐の旅を歩むとなったときから、実はひっそりと考えてしまっていた。
そんな考えが過ぎってしまうのは、多分カリーナが強欲だからだ。
仮にカリーナが外向者であったとして。もしそうだとしても、聖女と名高い王女様が勇者パーティーの一員になるだろうし、平民も平民なカリーナが組み込まれることはない。立場と後ろ盾、もっと言えば求心性が違うのだから。
やっぱりカリーナは、アドルファスには相応しくはないんだろう。浅ましい恋情は未だに無くす目処は立っていない。
(だめだめ、考えるのやめよ)
自分のことは一旦いいのだ。今のところは脇に置いておいても問題ない。考えるだけ深みに嵌まっていくし、どうせ解決なんてしないことなので考えるだけ無駄なのだ。
はてさて、魔王討伐という目的はもう達した。勇者として旅をするのももう終わりだ。アドルファスはこれからどうするのだろう。
なんとなく、アールトス村に帰っては来ないのだろうな、と思いながらぼんやりと考える。
アドルファスは、自身は情動が薄くとも礼儀や恩はきっちり覚えている。誰かを雑に扱うことも基本的になく、大抵の物事に執着が薄い彼もアールトス村にはそれなりの情が芽生えていて、育った故郷だときちんと認識している。
そんな彼のことなので、いつかは顔を見せに帰ってくるのだろうが、すぐには帰ってこないだろう。
なにせ、聖女である王女様ないし、貴族のお嬢様ないし、そういう人たちと結婚をしたならば、村を拠点にする必要はないからだ。
まぁ、結婚しなくとも本拠地にする必要性は微塵もない。
どころか、本拠地にせずに王都などの流通の便が良くて人の流れが多いところの方が、拠点にするのならば絶対に良いだろう。
それに、勇者が魔王を倒した後というのは、大体が凱旋だとかパーティーだとか、そういうお祝いが各地で行われるものではなかろうか。
思いつくだけでも、まず凱旋パレードに国王主催の晩餐会は定石だろう。後は叙勲式だとか褒美の授与あたりだろうか。他にも救い出してきた世界各地からや貴族などからお呼ばれすることも有り得るだろう。
目白押しだ。全部参加するとなったら、相当の過密スケジュールである。
そうなれば、それらが終わるまでは恐らく、というか絶対に身体はあかないだろう。
カリーナとアドルファスの故郷、イヴァルタール王国では、多分かなり盛大に凱旋パレードをするはずだ。何せ勇者の育った国であり、勇者パーティーを編成して送り出した国なので。
そこで色々と人脈を更に作って強化されれば、まず直ぐに故郷の村(しかも超絶辺鄙な田舎の村)へ帰ってくることは無いと見ていい。
まぁ、今後どうするのかは、本人しか知らないことだから、どうなるかは本当のところは分からないのだが。
(やっぱり、王女様と結婚するのかな……)
その可能性が一番高い。
まぁ、そうなったら結婚式は非常に盛大かつ豪華になるだろうし、パレードだって開催されるだろう。結婚式場には入れずとも、パレードを一目見るくらいは平民にもできるはずだ。きっと大勢の人が押し掛けるだろうし、カリーナがいても分かりやしない。
好きな人であり、幼年からの幼馴染みのお祝い事だ。もちろん自分の感情がどうであっても、祝いには行こうと思っている。祝いの場に駆けつけるくらいやっても良いだろう。
もはや天上人もかくやな立場である彼と直接は会えずとも、気分的にそのくらいはしたい。その後は、旅にでも出るかもしれないけれども。
何はともあれ、アドルファスが望むように動けたら良い。それがカリーナの恋の終わりを連れてくることになろうとも、大切なのは彼の気持ちであり幸せだ。
アドルファスの今後が良いものになることを祈りながら、カリーナはゆらゆらと気ままにヴェルタリヤ王国の屋台を物色した戦利品を無限ポーチへと仕舞う。
食べ物も綺麗に保存されるこのポーチ、本当にオーパーツすぎて笑うしかない。買った本と一緒に収納しても、それぞれが無事なまま出てくるのだ。
恐らくポーチの中は次空間魔法で組み込まれているので、その時そのままの状態が保存されるような形状記憶機能、もっと言えばその物の時間をポーチの中で限定指定して停止させる、というようなことが起こっているのだろう。
本当にどういう技術なんだ。
常々実存していいのか分からないチートアイテムだが、もうこれ無しで生きていける気がしない。嫌な楽の仕方を体が覚えてしまった。こちとら平民なのに。あの皇帝様どもめ、これが狙いだったに違いない。
次の国へ向かう為の街道を歩きながら、行儀悪く食べ歩きをし始める。一人旅なので行儀も何も気にしなくていいのだ。いいことにしている。
アドルファスが果たしてこの先どうするのか。予想をいくつか立てながら、カリーナは次の国を目指す。
「……この串焼きうまっ!」




