次回、魔王死す!
最新だと叫ばれながら配られていた瓦版を買って読むや否や、ど一発目から目に飛び込んできたのは勇者パーティー御一行、魔王城到達! の速報。
思わずえっ!? と大きな声を往来で出してしまい、慌てて口を塞ぐ。塞いだところで、もう出てしまった後なので意味はないのだけれど、抑えてしまうのが人間というものである。
(えぇっ、もう着いたんだ。早くないか? はぁー、魔王城かぁ、攻略大変そうだなぁ)
瓦版に映る幼馴染みの横顔は凛々しく、見る限りは壮健そうだ。勇者パーティーの人達とも、それなりに信頼関係を築けているようで、カリーナはいよいよだと沸く周囲の中でひっそりと安心した。
アドルファスは人付き合いが上手だ。ハイスペックを地で行くので、人付き合いだって問題なく上手くやる。けれど、それとは別に、彼は少々人への興味が薄い傾向があった。
そういう部分を知っているから、烏滸がましいかもしれないが、カリーナは少し心配だったのだ。
まぁ、要らぬ心配ではあったのだけども。
話はカリーナとアドルファスがお隣さん同士になってすぐの、出会いの頃に遡る。
出会った時、アドルファスは"冷たい子ども"だった。
どう冷たいのか、と言われるとはっきりとした説明は難しいが、いつもつまらなさそう、と言うか。
いつも目の奥が冷めていて、周りの物事全てをスルーして、興味が無さそうだった。落ち着いていて、何事にも動じないと言えば聞こえはいいけれど、その実温度が感じられなくて、歳を思えばちょっと異様にすら映るくらい。
取り繕い方はその時既に上手かったから、気づいていた人は少ないと思うけれど。大人すらも欺くその卒のなさに、生来からもうほぼ"出来上がっている"のだと何となく理解した。
「いち人間に対して、そんな簡単に興味が湧くわけないと思うけど」
なんて、そんな風に切り捨てて。
まだ変声期前の綺麗なボーイソプラノは、幼さよりも素っ気なさが強い声色をしていて、薄らとした拒絶を漂わせていた。
だから、気がついていたのなら関わってこなくていいよ、と言外に滲ませた幼少期の彼は、カリーナを大層驚かせたのだ。
同年代と関わったことがほとんどないカリーナですら年齢に見合わないと分かる早熟さと、諦めたという感じでもないのに周囲への無関心が垣間見える態度。そしてそれを取り繕える表情のコントロール力と対人スキルの高さ。
端的に言ってしまえば、何もかもがどうでもいいらしかった幼年期のアドルファスは、常に薄らとした微笑みを浮かべていた。
無関心という名の、高く分厚い壁を感じさせる、拒絶の笑顔。
それに対して、離れるどころかむしろ無性に気になってしまったカリーナは、事ある毎にアドルファスと顔を合わせに行った。
放っておくには、なんだか危うい気がしたのだ。
そんな風に捉えるカリーナも大概大人びた子どもだった。
思い出していなかったにしろ、前世の大人であった精神の影響は当時既に出てきていたのだろう。だから、大人や老人ばかりの村の環境を苦に思ったことはなかった。
それはアドルファスの醸し出す冷えた態度も同様で、決して優しいとは言えないような態度を取られても苦には思わなかった。
それに、気にかかる部分は多量にあった。
アドルファスはこれまた当時の年齢に見合わず、大抵のことを一人でこなしていた。どう考えてもその年齢でそこまではできないのでは? というレベルまで、もうほぼ完璧にできてしまうタイプの人間で、それは幼少期の時点で現れていたわけで。
それなのに、やはり非常に物事への関心が薄いからか、すぐに機械的な、人とは思えない温度の生活をし始めるのである。
カリーナが見ている限り、彼は基本的に執着心が薄く、情動もほぼ見られなかった。感情に引っ張られやすい子どもであるのにも関わらず、だ。
そうなると、当然衣食住にも頓着しない。
最低限に生きるだけの備えがあればそれでいい、とでも言うように、驚くほど温かみに欠けた生活を営み始めるのである。放っておけるはずがない。
そう思って、何かにつけて様子を見に行き、見かければ話しかけに行き、姿が見えない時間が長くなれば探しに行き……と、兎に角カリーナは半ば無理矢理に関わりにいった。
一応線引きというか、どこまで強引さを装って関わって行けるか、様子は見ながらやっていたので、そこまでやばい人間にはなっていないはずだ。
カリーナはアドルファスではないので、真偽は確かめられないし、わざわざその時の印象を聞いてもいないので分からないが。
今思い返すと、なかなかガッツのある行動だったと思う。
はてさて、そんな幼馴染みは今や世界を救う勇者である。勇者アドルファスという名前を聞くだけで、人々の顔が明るくなるのだからすごいものだ。
時折、有名税なのか嫉妬ややっかみもあるようだが、それを気にするような人間ではないから、諸々上手くやっているのだろう。
基本的に、何があろうと彼は揺らがないタイプなので。
それはそれとして、心配は勝手にさせていただくけども。
カリーナは薄れやすいアドルファスの人間らしさが好きなので、それが損なわれそうなことがあればどうにかしたいと思うし、なんなら完璧でなくても彼が好きである。
だから、勝手に心配して勝手に安心して、勝手に応援しておくことにしている。
なにせ、カラスが鳴くのもカラスの勝手なわけで、カリーナがどうしようともカリーナの勝手なわけである。暴論だという異論は認める。聞き入れはしないけども。
ようは犯罪を犯さなければいいのだ。
みんなの期待と責務を背負ったアドルファスは、遂に最終ボスのいる魔王城へと辿り着いたらしい。ハードな旅路を越え、勇者パーティーは本拠地へと乗り込んだわけで、ここからはより熾烈を極めた戦いになっていくのだろう。
魔物、ひいては魔王と、人間やその他の世界に住む生き物たちとの戦いがまた一つクライマックスを迎えていくことになる。
とうの昔に、他の代々の勇者たちの伝承や記録を一通り調べ終わっているカリーナは、小さく笑う。
他と比べても、今回はなかなか急速展開だと思われる。初代勇者に次ぐ、と人々が口を揃えて言うのは誇張でもなんでもなく、単なる事実なのである。
実際どうなるかは分からないものの、きっと魔王を討伐するのも早いのだろう。一年の内にはその偉業を達成してしまうのかもしれない。なにせ、世界の大いなる意志によって約束されし、ハイスペック勇者様であるので。
幼少期から特に訓練もしていないのに、魔物をさくさく討伐していた男である。
アドルファスにかかれば、瞬殺される可能性すら有り得るので、魔王は覚悟しておいた方がいい。
(となると、なるほど。次回、魔王死す! ってわけか)
なお、デュエルはスタンバっていない模様。




