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平民は救世主を辞退する

 

 唐突に始まった救世主様呼びは、なぜか収束する気配を全く見せない。


 そんな中、復興の手伝いはもうそろそろ終わりが見えてきた。崩れようがなんだろうが、人が生きていれば建物は立て直されていくし、ボロボロで通れなくなった道も瓦礫などが撤去されて均されていく。

 こういう非常事態での人間という生き物の団結力は凄いもので、街は直ぐに復活を遂げていた。


 そして爆速で浸透していく救世主様呼び。もはや治療師の方々にまでそう呼ばれている。誰も助けてくれないし、誰も止めようとする気配がない。なんでなんだ。


 こうなったらもう率直に言うしかない。察してもらえないので、直接しかもう手段がない。

 なんと言うか、通じなさそうな予感がひしひしとするが。


「非常に言いにくいんですけど、その呼び方やめて欲しくて……」


 カリーナを救世主様と呼んで、笑顔で話しかけてきた人たちにそう告げてみる。やたらと話しかけられるので、訂正の機会は沢山あるのである。全く訂正されていないが。


 よく声をかけられるのは、救世主様呼びから察するに、何となく崇められているような感じすらするので、そのせいだと思われる。


「救世主は大袈裟と言いますか……、荷が重いので」

「そんなことないと思うけど……」

「相応しいと思うぜ、なぁ?」

「うん!」

「そうねぇ」

「おう。違和感ねぇよ?」

「かっこいいよ! きゅうせーしゅさま!」


 小さな子からすらも舌っ足らずな発音で楽しそうに呼ばれる。かっこいい、のかもしれないが。


 頼むから違和感を感じて欲しい。そんな溌剌と肯定しないで欲しいものである。


 だって、カリーナは本当にたまたま薬を持っていたから提供しただけで。あとは多少処置を手伝った程度。やったことはそれくらいだし、しかも提供したのは手作りの薬品だ。どこかの有名なメーカーとかでもない。


 こんな大層な呼ばれ方をするなんて予想外もいいところ。


「薬が役に立ったのは嬉しいですし、皆さんの感謝の気持ちももう充分、これ以上なく伝わりました。なので、どうか救世主様呼びは遠慮したく……」


(まじで後生ですお願いします。救世主様って呼ばれるたび落ち着かないんだよ〜〜〜〜!!!!)


 カリーナ的には普通のことというか、当然のことをしたまでなのだ。なので、そんな仰々しい呼び方をされると座りが悪くてたまらないのだ。まー気まずいこと気まずいこと。


「あっ、きゅうせーしゅさまだ!!!」


 そう言い募っている間にも、幼い子どもからの救世主様呼びが飛んでくる。

 魔物の襲撃時、あんなにも怯えていた幼子が声を張り上げられるほど元気なのは大変よろしい。大変よろしいことだが、それとこれとは別である。


 駆け寄ってきた幼い女の子のきらきらした純粋な目線が突き刺さる。あまりの複雑な心境に、カリーナは天を仰いだ。誰か助けて。

 

 知っているか。角が立たぬよう、そして善意を踏みにじってしまわぬよう、やんわりと断るのには高等テクニックが必要なのだ。つまり、何を言うにもめちゃくちゃ考えるわけで。


 もう既に徒労が凄まじい。カリーナは非常に疲れていた。

 割と地獄な気がしてきたのだが、これをどうしたら逃れられるだろうか。


 そこから格闘すること小一時間。割と粘った方だと思う。どうなったかと言えば。結局、いくら言葉を尽くしたところで、誰一人としてやめてくれそうな気配はなかった。


 どこの人間も押しが強い。ラツェド帝国の人間だけがそうかと思っていたが、まさかこの世界全体がそうなんだろうか?


 これ以上はパンドラの箱な気がする。カリーナは頭痛がしてきた気がして、微笑んだ。もう考えるのはやめにしよう。


 ひたすら救世主様呼びを阻止するために言葉を重ね、リトライしてみたものの。

 努力は実らず、むしろ、お願いすればするほど「謙虚な救世主様」として認識されていっているような気さえする。


(あぁ、うん……駄目だ。これはもう、何を言っても無駄だ)


 これ以上食い下がれば、せっかくの善意を無下にしてしまいかねない。もう既にしていそうな気がするが、なんとも思われていなさそうなので、それはまぁ、いい。


 カリーナは小さく息を吐いて、とうとう肩を落とした。


「……分かりました。もう、好きに呼んでください」

「やったー! 救世主様だ!」

「うおお! 許可が出たぞー!!」

「許可……、やったー、じゃないんだけどなぁ……」


 嬉しそうに跳ねる子どもを眺めながら、カリーナは遠い目をした。


 こうして、救世主様呼びを阻止したいカリーナとどうしても救世主様と呼びたい人々の戦いは、カリーナの敗北によって幕を閉じたのである。


 一先ず、在庫が少なくなってしまった薬を作ろう。


 匙を盛大にぶん投げ、取っている宿の自分の部屋に戻ってきたカリーナはそう決めた。


 カリーナの薬の手持ちはもうほぼ無いに等しい。それだけ魔獣の襲撃の怪我人も多く、また物資が足りなかったのである。


 これまた救世主様呼びに関連してグレードアップされた宿の部屋にて、無限ポーチから錬金釜を取り出す。


 カリーナの持っている調合釜はその昔、カリーナ自身が小さい頃に魔法薬作りにトライし、結果吹っ飛ばした釜である。


 そこに至るまでも一度調合チャレンジはやっているのだが、その時は爆発四散させてしまい、調合釜自体が臨終した。

 今持っている調合釜はもちろん吹っ飛んだ際に家が若干破壊されてしまったのだが、実は釜自体は壊れなかったものだ。


 これは縁起がいいのではないか、ということで、魔力を通さなければ爆発しないと分かった時に、取っておいたこれを使うといいよ、なんて言う父から譲り受けたのである。何故か縁起がいいと判断し、処分していないあたり、父ものんびりしている。


 そんな頑丈さは一級品なこの調合釜、実はカリーナが吹っ飛ばしたその時にカリーナの持つ大量の聖魔力に晒された代物である。


 聖魔力、ひいては聖魔法は、治癒魔法とニアリーイコールである。聖魔法を使える外向者は対人での治癒魔法を得意とするものが多い。もちろん外に放出することができるので、もれなく攻撃魔法もできるが。基本的に聖魔法とは、光や癒し、浄化などの聖なるものに関する魔法である。

 ちなみに出力系統が異なるが、外向者かつ魔力に水の適性がある者も治癒魔法が使える。


 内向者であるカリーナは、外に向けた魔法は使えない。身の内に持っている魔力を外に顕在化することができないのである。


 内向者は持てる魔力を目に見える形にはできないのだが、一部例外がある。実は道具に込めることはできるのだ。いわゆる付与(エンチャント)と呼ばれる技法だ。


 内向者で活躍しているのは、この付与(エンチャント)を生業とする付与術師が多い。


 さて、話はカリーナの持っている無自覚付与(エンチャント)をされた調合釜に戻る。


 聖魔力に満ち満ちた調合釜で作っただけでも、確かに効力は上がる。上がるのだが、それだけでは魔法薬を超えられはしない。常識外れの効力を発揮したのは、一重にカリーナ自身が調合する時に無意識に聖魔力を漏れ出していること。そして、薬草などの組み合わせ方が天才的であることがその異常性を成している。


 なお、調合釜が聖魔力に満ち満ちているとしても、その中で作られた薬は魔法薬にはならない。ならないのである。


 何故ならば、カリーナ自身は魔力を通していないからである。通した瞬間、釜が吹っ飛び、周囲も破壊する可能性があるので迂闊に通せないのだ。故に、できあがる薬品は全て通常で言うところの魔法薬にはなり得ない。


 そもそもがカリーナの調合が割合ややり方が天才的なのが起因している。作るものが全て正しく黄金比率の調合であることこそが、魔法薬より効く魔法薬じゃない薬、というとんでもない代物を生成する理由なのだ。


 もう一つ言えば、聖木を蘇らせた挙句に強化までしたのは、世界探せど今のところカリーナだけである。


 魔力を通すと調合釜を吹っ飛ばしたり、薬の効果が行き過ぎて反転したりするのは、純粋にカリーナの魔力が多すぎるからだ。大量の魔力を意識せずに一気に流し込むが故の大惨事が起きるのだが、自分のきちんとした魔力量も知らないカリーナには自覚がない。


 自覚がいつまで経っても芽生えないので、毎回うっかりすると吹っ飛ばすわ性質を変えるわ、という大惨事を引き起こす。

 解決の目処はおそらく今後も立たない。


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おう…俺何かやっちゃいました?系主人公だったか…
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