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とんでもランクアップ

 無自覚人間的には、嬉しくない。

 奇跡の一日を喜んだ翌日。

 やや興奮が残りつつも復旧作業などが始まる街で、カリーナは治療師たちに囲まれていた。


「ありがとう、君のお陰で助かったよ」

「たくさんの命を助けられたのはあなたのお陰だ」

「全員助けられるなんて、君がいなかったら無理だったよ」


 口々にお礼を言われる。入れ代わり立ち代わり、お辞儀をされたり握手などを求められる。一人一人に答えていくが、カリーナ的には逆に治療師たちにお礼をしたいくらいである。


 そして、その場にはお礼を言い合う集団ができ上がる。


「君は謙虚なんだな」

「逆に、嬢ちゃんにお礼を言われるとはな」

「皆さんが中心でしたから。それに、私は手伝いくらいしかしてません。皆さんが頑張って治療されたからですよ」


 なんのてらいもなくそう言い放ったカリーナに、治療師たちは唖然とする。


(いや、一番凄かったのは君だから)


 心の声は恐らく同じだったことだろう。最も、自覚のないカリーナを除けば、の話だが。


「ところで嬢ちゃん、これはどこの魔法薬なんだ?」


 気を取り直した治療師の一人がそう投げかける。それはその場にいる治療師たちが全員知りたいことだった。心做しか人口密度が上がり、一歩詰めた面々によって更に密集する。


 対するカリーナは呑気に口を開いた。


「あ、私が作ったやつです。その、由緒正しい店の薬とかじゃなくてすみません……。ちゃんと効果はあると思うんですが」


 申し訳なさそうにしながら落とされたのは、爆弾であった。


「作ったぁ?!?!?!」

「なんだとぉ?!」

「つ、つく、作った??????」


 一斉に勢い良く詰め寄られ、カリーナは半ば仰け反るような体制になりながらも頷いた。


「は、はい。あと、本当に申し訳ないんですけど、実は魔法薬じゃないんです、それ。魔力通して作っていないので……」

「魔法薬じゃない?!?!?! この効果で?!?!」

「はぁ?! いやいやいや、ありえん、……いや、今ありえてしまったな?…………魔法薬とは???」


 治療師たちは一気に混乱の渦に呑まれつつあった。深淵を覗き始めた面々に、カリーナは慌てて両手を振る。


「あ、えっと、おかしな薬とかじゃないですよ! 治療薬として作ったものなので悪いものではないです……!」


 やや斜め上の弁明に、治療師たちは顔を見合わせる。


「いや、それは分かるさ。疑っていないから安心してくれ」

「ある意味おかしな薬だけどな……」

「効能が高すぎるっつーな……」

「つかこれ魔法薬じゃないの? ほんとに?」


 なにやら騒ぎになってしまった模様。

 窮地を救ったのは、ありえないほどの圧倒的な効力を発揮した薬。などという風に思われているらしい。その空き瓶をためすがめつ眺めては、カリーナと薬瓶を見比べられる。カリーナは少々気まずかった。


「しかし、あの回復速度は見たことがない」

「同感です」

「魔法薬ですら、もう少し時間がかかっただろうな」


 口々にざわざわ話している治療師たちと、その面々に囲まれるカリーナ。研究熱心なところが尊敬できるなぁ、とカリーナがそれをほのぼのと見守っていた。まるで他人事である。


 そして、その場には一時沈黙が降りる。


「もう一度聞くが、魔法薬じゃないんだよ、な?」

「ないですね」


 魔法薬が一般的なこの世界で、まさかの魔力なしで作られた薬。効能は期待できないと考えるのが普通だ。先入観は褒められたことではないが、どうしてもそう思ってしまう。


 だが、カリーナが作り、そして提供した薬品は、それまでの彼らの認識を覆すものだった。


 今までの常識が崩れるほどの代物である。治療師たちがこぞってカリーナの元へ聞きに来るのも、仕方のないことだ。


「魔力注がないで、この規模のが作れるもんなのか?」


 薬瓶を眺めながら首を傾げる男性治療師が、怖々とした声で呟いた。その言葉に、即座に周囲の治療師たちが首を横に振る。


「俺は無理だな」

「私も無理」

「俺もできないです」

「だよなぁ。俺も無理だわ」


 魔力を入れずにここまでの効力を発揮できる薬を作るのは、絶対、無理。

 全会一致の答えであった。


 そもそも、魔法薬じゃないのに魔法薬よりも効く薬なんて聞いたことがない。


「僕だってできませんよ、魔力もなしに、こんな効果高いのなんて。……本当に魔力通してないんですよね?」

「通してないです」

「そう、ですか。……すみません、しつこくて」

「いえ、気にしないでください。流通しているのって、魔法薬がほとんどですもんね。そりゃ、魔法薬じゃないもの出したら気になりますよね」


 苦笑を返したカリーナに、若年の男性治療師が物言いたげな顔をする。


「いや、気になっているのは、その部分だけではないんですが……」


 一人の治療師によって小声で落とされた言葉に、他の面々は大きく頷いた。が、カリーナは魔法薬の方が効き目あるって分かってるもんなぁ、などと思考をどこかへと飛ばしていたので、気が付かない。


「君は一体何者なんだ……」


 真剣な顔をした治療師が思わず問うも、カリーナは何を聞かれているのか分からないという顔をして首を傾げる。


「え? 趣味でただ薬を作ってる人間です……?」


 困惑する年若い治療師の肩に大きな手がポンと乗る。見れば、年嵩の男性治療師が小さく首を横に振っていた。

 多分、何を言っても伝わらん、諦めよう。

 そんなことってありえるんですか……。

 微妙な気持ちと畏怖にも似た憧憬の気持ちを抱きながらアイコンタクトで会話した治療師たちは、カクリと肩を落とした。




* * * * * *




「こんにちは、救世主様!」

「こんにち……きゅ、救世主様ぁ?!」


 普通の挨拶に付随して、自然に向けられた言葉のとんでもなさに、声がひっくり返る。


(なんだ、その、私に縁の無さそうなとんでもない呼び方は?!)


 唐突に予期せぬ呼称をされたカリーナは目を白黒させた。なんかちょっと、信じたくない単語が聞こえた気がする。


「あ、救世主様だー!」

「救世主様!」

「ありがとうございます! 救世主様ー!!」


 遠くからも身に馴染みのない呼び方がこれでもかと飛んでくる。もしかしなくても、ここにいる人たちは全員この呼び方をしてくるのだろうか。まさかな。

 まさかの、「救世主様」呼びとか。あまり歓迎したくない呼ばれ方である。


「いや、あの。救世主様っていうのは」


 人違いではないかという一縷の望みをかけて問いかける。いや、しっかりばっちりカリーナの方を見て発されたものだったので、苦しい質問なのは分かっているのだが、精神衛生上、聞かないわけにもいかないのだ。


「え?」

「そりゃもちろん──────」


 不思議そうに顔を見合せた男性と子どもが、次には溌剌とした笑顔で言い放つ。


「お嬢さんのことさ!」

「お姉ちゃんのことだよ!!」

「ワ、ワァー」


 確定してしまった。救世主様というのはどうやら、カリーナのことらしい。冗談や勘違いであって欲しかった。


 そもそも、そんな呼ばれ方をして慕われるほどのことをした覚えがてんで無いのだが。一体何がどうなって、どう湾曲したらこうなるのか。


 やめて。救世主とか、本当になんでそんなことになっているんだ。知らぬ間になにか大事になっている。

 心当たりがないカリーナは遠い目をした。鳥が一羽飛んでいくのを遠目に見ながら、自分も飛んで逃げられたら良かったな……と思う。


「救世主様がいなかったらどうなっていたか」

「救世主様のおかげです!」

「救世主様、どうかお礼をさせてください!」

「是非に! みんなお礼がしたいのです!」


 いや、お礼とかは特に求めていない。あと、なんかお礼の規模がやばくなりそうな気配がする。いつかの再来のような気配が……。


 カリーナは嫌な予感に震えた。半ば崇められていそうな空気感に恐れ戦く。待って欲しい。本当に特別なことはしていないのに、なんでこんなことに。


「そんな大したことしてませんよ」

「いやいや、私たちを助けてくれたのはあなただもの! 本当にありがとう!」


 横合いから飛んできた女性の声にそちらを向くと、ぎゅっと両手を取られ、握られる。

 その俊敏な動きと詰め寄ってきた顔にぱちぱちと瞬きをしたカリーナは、ふと気がつく。


「あれ、もしかして。腕を怪我されていた……?」

「! そうよ、覚えてくれていたのね」


 冒険者らしい装いの彼女は、運び込まれたとき腕を怪我していた。かろうじて切断はされていなかったが、千切れてしまってもおかしくないほどの怪我だったことを覚えている。

 手伝いと薬を配りに駆け回る最中、一瞬立ち寄った。


 カリーナが作った薬品によって治っていくのは、次の負傷者の元へ行く時に視界の隅で見かけたが、きちんと傷は塞がったようである。


「かなりの怪我でしたから。腕の調子はどうですか?」

「とってもいいわ! 腕が無くなることも覚悟していたの。冒険者業は厳しくなるかもしれないけど、死ぬよりかはって」

「あの怪我だと、そうなりかねませんよね」

「ええ。でも、あなたの薬のお陰で全部吹っ飛んだのよ! とっても感謝しているの!」

「いえいえ、お姉さんが頑張ったからですよ。薬が効いて良かったです」


 いくら薬があれど、本人が頑張らなければ治るものも治らないものだ。薬はプラスアルファ。なので、本当に頑張ったのは冒険者の女性自身である。


「だからね、救世主様って呼び方、とてもいいと思うわ! だって正しく、救世主だったもの!」

「そうそう!」

「…………戻ってきちゃったかぁ……」


 救世主様呼び、聞こえるたびに頭が痛い。


 背景、両親よ。娘は遠い異国の地で、何故か負けヒロインから救世主様になりました。


 これはランクアップになるのだろうか?

 まぁ、聞こえの印象的には負けヒロインよりも救世主様の方がプラスに思えるが、それにしてもカリーナには非常にそぐわない呼称である。

 そこはかとなく、過大評価をひしひしと感じるので、嬉しくない。


 あと救世主様って、なんか怪しいというか。一種の危うさと怖いものを感じるので、できれば違う呼び方がいい。というか、そもそも特別扱いとかしなくていい。何もしてない。


 どうしたら、救世主様呼びをなくせるのか。


 カリーナはストレスによる頭痛を抑えながらも、考えを巡らせることになるのだった。


 今回も長めになってしまいました。どうやって短くしていたのか、もう分からないくらいです。感覚が戻ってこないのか、ずっと長めに……。

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― 新着の感想 ―
この子実はとんでもない治癒持ちだったり???? ????違うって書いてあったような???????? どういうことだってばよ… ところでそのお薬代どこいったの????
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