ここをキャンプ地とする
果たしてこの世界に存在していてもいいのか分からない、四次元ポケットならぬ四次元ポーチを腰に着け、カリーナは背伸びをした。
所持しているだけでヒヤヒヤもののアイテムだが、本を沢山入れられると思えば、まぁいいかとも思う。というか、そう思い込むしかない。
立場に反してフランクすぎる暴君な皇帝様アストラと、その外見の美しさからは想像ができないほどに気が強い婚約者のリディアという、アクの強い婚約者コンビと別れたカリーナは次の国へと足を踏み入れた。
ラツェド帝国に滞在した期間は約一ヶ月と少し。おかしい。予定では二週間もいるかどうか、というつもりだったのだが。予定よりも大幅に滞在してしまった。
それもこれも、初日に自由人極まる皇帝陛下と出会ってしまったからである。
滅多に会えないお上の立場の方々と面識を持ち、皇族と皇族の婚約者と交友関係となったのは、その特異さを思えばいっそ運がいいのか。それとも、振り回されるばかりで気疲れしたのは、逆に運が悪かったのか。
どちらとも言えないが、アストラとリディアとの友人関係は非常にカリーナにとっても貴重なものである。端的に言えばとても楽しい交流だったので、出会わなかった方がいいとは思わない。
なお、出立が遅れたのは、そんなノーブルな二人がかなり引き止めてきたからである。
誇張なく、総力を上げて留まらせようとしてくるので、説得するのはなかなかに骨が折れた。
不承不承な婚約者同士の二人は、それならばと国境を越えるところまで見送りに来た。フットワークの軽さでは王侯貴族の中で世界一に違いない。
今回に限っては護衛はそれなりにいたが。そりゃあ、一国の王と婚約者が連れ立って移動するのだから、つかなかったら逆に問題である。
そんな主人兼上司二人に振り回されているだろう護衛の人々も、何かとカリーナに対してかなり親しく接してくれたので、そこまで気負うことなく行動ができた。
カリーナは平民なので、普通に考えると気楽に行動できるのはおかしいのだが、考えると頭がこんがらがってくるので、気にしないことにしていた。
そんな彼らは、カリーナの自国の王への態度を一切スルーしていた。普通であれば、アストラやリディアへの慇懃無礼なカリーナの態度を見れば憤られてもおかしくなかったのだが、全くもってそういったことはなかった。懐の大きいことだ。
最後に、定期的に手紙でやり取りをすることをほぼ強制的に約束させられ、カリーナは手を振り、二人とその護衛の人々と別れた。
* * * * * *
振り返っても見送り集団の姿が見えなくなったころ。森の深部にて、カリーナはひょいひょいと天然の飛び石を飛び移っていた。
「よっ、と、」
小川をひとっ飛びして、ゴロゴロと転がる岩に足をかけて登れば開けた場所に出る。
森の中で少なくなった薬草や木の実を集めていれば、いつの間にか、かなり日は傾いていた。
ラツェド帝国は大きいだけあって、帝都ツェリベルンは非常に流通が良く、色々と珍しい材料や少ない材料を補充できたのだが、やはりカリーナが作る薬は自家製の薬だからなのか、手に入らないものもあった。
また、魔王の影響もあり、そもそもが在庫が切れた上に入ってきていないものなどもあった。
それらを収集するために、森を歩いていたわけだ。植物好きには正しく宝の宝庫である。熱中しすぎたせいで、次の国までの道行きが全く進まなかったのだけれども。
気がつけば相当日が暮れていた、というよりもはや夕日の光すらないくらいだ。
森は薄暗いことと、下を向いていることが比較的多かったことが合わさって暗くなってきていることに気が付かなかった。
「んん...、今日は野宿かな」
国境道に戻ってもいいのだが、この暗さで歩くのはあまりしたくない行為だ。どちらにせよ、次の国には今日中につかないため、カリーナは野宿をすることに決めた。
予定らしい予定もなく、期限すら決めていない気ままな旅路である。唯一絶対として決めているのは、幼馴染みと鉢合わせないことくらい。
ゆったり行動したっていいだろう。急ぐ理由なんてないのだし。
そう考えながら、カリーナは切り出された岩場に簡易組み立てテントを放る。ポンッとワインのコルクを抜いた時のような軽快な音と共に、大きなテントが広がった。
中に入れば、コテージのような風景が広がるこのマジックアイテムに、どれだけ助けられていることか。馴染みの行商のおじさんに感謝である。足を向けて寝られない。
まぁ、どこをどう行商が回っているのか知らないので、どこに足を向けていいのか分からないのだが。
このテントのいい所は、防犯面でも優れているところである。何か危険が迫ったとき、もしくは何かしらの人間が近づいてきたとき、中にいる人間に警告が出るようになっているのだ。
警告と言えども、爆音サイレンが鳴るわけではないので、向こうには気づいたことを悟られない。
そもそもが、この簡易組み立てテントには結界魔法陣が書いてあり、魔力注入口に魔力を込めれば、半自動的に結界が展開される。侵入者は基本的に入って来れないのだ。魔法の力ってスゲー!
簡易キッチンに立ったカリーナが取り出したのは、スキレットだ。
ラツェド帝国のお城では、出されていたものばかり食べていたので、自分で作る機会が微塵もなかった。何故か平民であるのに謎に毎食提供される豪華な食事。今思ってもおかしいところしかない。
過ぎたことなのでそれはさておき、久々に作る晩御飯だ。腕が落ちていなければいいのだが。
さて、用意するのはラーブオイル、アレリック、チレッパー、シュルプ、いくつかの種類を集めたマニルツだ。これらは前世の生まれ故郷で言うと、述べた順にオリーブオイル、にんにく、鷹の爪、海老、そしてきのこである。
この材料だけでも、お察しのいい人はすぐに分かるだろう。
これらをいい感じに切り刻み、火にかけているスキレットに全てぶち込む。グツグツコトコト音が聞こえてくるまで煮込めば、空腹を自覚させるような匂いが鼻腔へと届く。
そうして出来上がったのはアヒージョである。見た目はいい感じに作れているが、肝心の味はどうだろうか。
「いただきます」
(さてさて、お味のほどは〜?)
「あちっ、あちち、ん、はふ」
口の端から零れそうになった汁まで、唇を舐めて飲み込む。美味しいものが胃の中へと流れ落ちていく感覚。温かい、染み入る。数回咀嚼するだけでも、満足感と更なる空腹感を煽られて堪らない。
「んんっま〜〜〜〜〜〜〜!」
高級料理とはまた違った美味しさだ。キャンプ飯というのはどうしてこんなにも魅力的なのだろうか。やはり、人間というのは贅沢な生き物だから、常にはない素朴な食べ物を食したくなるものなのだろうか。
デザートは焼きマシュマロだ。ラツェド帝国を出る前に買っていたバニラアイスを取り出して、焼け目のついた熱いマシュマロに乗せて食べる。
「っ、はぁ〜〜〜〜〜。美味しい.....罪深い.......」
熱いのに冷たくて、ふわふわなのにトロリとして、外側はパリパリカリカリしている。ほんの少し混ざるのは焦げの香ばしい苦味。それすらも美味しい。じゅわりと口の中を満たす甘さは罪の証である。
「今日も麗しいねぇ」
デザートに舌鼓を打ちながら、傍に置いてあった瓦版を引き寄せる。まぁ、お約束というかなんというか。整った顔がばーんと一面を飾っている。毎回毎回瓦版を買うのは、当然のように勇者アドルファスの行き先を探るためである。
普通に、幼馴染みが無事かどうかを確認するためというのもあるのだけれども。
ラツェド帝国を出る前に買っておいた瓦版では、幼馴染みの躍動感のある画像が貼られている。本当にどこを切り取られていても、いつでも顔がよろしい。
この分だと瓦版の売れ行きも相当良かろうな。
その活躍やどこまで魔物討伐が進んでいて、どこまで魔王の影響が消えたか、もしくはあるのか、というのを知りたいなどの理由も有るだろうが、目の保養という意味でも買い求める人が多そうだ。
評判はうなぎ登り、人気も留まることを知らない。
流石は世界が変わっても顔だけで生きていけるであろう男。
人は顔ではないとは言うが、ここまで芸術品と呼べるようなレベルのご尊顔だと、どう足掻いてもまず目がいくのは容姿になる。そもそも、ここまで整っているのなら、ステータスとして数えた方がいいだろう。
何はともあれ。元気そうでなによりである。
「ご馳走様でした、と。...明日の朝はホットサンドにしようかな」
非常に日常生活が忙しく、亀更新です。
読んでくださる皆様、ありがとうございます。ブックマークなどをしてくれる方もいらっしゃり、とても嬉しく思います。
のんびり進めてまいります。よろしくお願い申し上げます。




