四次元ポケットやんけ
「無限に物が入るっていうと、収納魔法ですよね?」
「そうだ。まぁ、無限と銘打ってはいるが、それは家ひとつ分しか入らんがな」
「十分ですよ」
何やら不満そうである。家一つ入るのって、結構無限に等しいと思うのだが、何をそんなにグレードを上げたがるのか。
どうせその家一件というのも、カリーナが想像しているものとは比べ物にならないくらいに大きいのだろうし。
果たして、このノーブルカップルが思い浮かべる家一件とは、どのくらいの規模なのだろうか。知りたいような知りたくないような。
「やはり俺たちと同じ規格のものにしないか?」
「十分だっつってんでしょうが」
本気の本気でやめて欲しい。
余程気に入らないのか、ずっと同じようなことを言われてカリーナは呆れた。いい加減諦めろ。
収納魔法は次空間魔法のカテゴリである。空間、しかも次空間を操るので、端的に言って魔法の難易度はかなり高い。それ故に、この魔法を使った物は高価なのである。
そんな高価な、反則的機能を持つアイテムが今手元にある。しかも皇族とほぼ同じレベルの物。
これで混乱するなと言うほうが無理だ。震え上がる方が余っ程やりやすい。
庶民にはまず手が出せない代物を軽々しく渡してくる辺り、本当に彼らは頂点に立つ人種だったのだと感じさせる。育ちが違うと常識も少々異なるらしい。
ありえないほどフランクに話してくれるので薄れかけていたが、この二人は大きな国の、皇帝とその婚約者様である。文字通り、住む世界が元から違うのだ。
さて、問題は依然としてこのポーチである。
無限に近い収納能力を持つらしいこのポーチ、その性能に既視感がありまくりである。
(これは、四次元ポケットなのでは?)
そう、前世の有名な国民的アニメ。便利道具が無限に入っている、便利すぎるポケット。猫型ロボットの体に付いているそれが取り外し式なのだとは途中まで知らなかった、あのポケットの性能にそっくりである。
聞けば、このポーチもそれに違うことなく、手を突っ込めばものを出せるのだとか。
途端に頭の中で流れるのは、あの独特な声。
(四次元ポケットやんけ)
もうここまで来ると、カリーナの頭の中では四次元ポケットとしか思えなかった。何を聞いても四次元ポケットに変換されてしまう。
あれは科学の力でこちらは魔法の力で出来上がっているが、進んだ科学は時には魔法にすら見えるだとか言われていたので、これもあれも変わりはないだろう。
まぁ、科学の力で成立していた前世の世界では四次元ポケットは現実のものでは無かったので、それに近しいものがあるこちらの世界は、なかなかにぶっ飛んだ世界である。前世の常識は、こういう時は捨てた方が馴染めるのである。
合言葉は、魔法ってすご〜い、だ。考えるな、感じろ。
どうやら受け取ることは決定事項のようなので、そこは諦めて、試しにバッグの中身を移し入れてみる。
両親からのお下がりであるカリーナのバッグも一応魔法で拡張されているため、意外と物が入っているのだが、流石はそれよりもランクの高い空間魔法が使われたポーチ。みるみるうちに全ての物が収納された。
バッグの中は限界ギリギリまで、みっちりと詰まっていたのだが、無限に近いと称されただけあって、こちらのポーチはまだまだ余裕がある。
(うーん規格外。なるほど四次元ポケット)
物が飲み込まれていくように収まる光景に、カリーナは半笑いだった。
多分、かなり凄いことなのだろうが、感覚が麻痺してきている気がしてならない。不味いのではなかろうか。
「全部入ったようだな。それには入れたものが見れる機能があってな。底を二回叩いてみろ、所持品一覧が出るはずだ」
言われるがままにマチのあるポーチの底を二回叩いてみる。すると、視界に半透明のスクロールが出現した。羅列されているのは、確かに持ち物の名称であり、個数まで表示されている。
手を突き出してみるが、特になにか触れる感覚はない。恐らく脳に干渉するような機能なのだろう。見えているがそこにはない、というような。前世のゲームでよくある、ステータスを見た時のような感じだ。
「出たか?」
「出ましたね」
「それは良かったですわ。きちんと確認させましたから、機能に問題はないはずなのですけれど、万が一がありますもの」
「リディの言う通りだな。ああ、その所持品一覧は持ち主本人にしか見えないからな。俺たちも出ているのか分からんのだ」
(まじか?!)
四次元ポケットよりも優秀だった。これぞファンタジー御用達、インベントリである。
便利性だけを見れば、かなり、それはもう喉から手が出るくらいに欲しい。が、これをそのまま貰ってもいいものか、迷いどころだ。
なにせ、これは平民が持つには過分な代物である。これ一つで争いが起きてもおかしくはない。
ううん、と唸っていると、アストラが非常に楽しそうな顔をしていることに気がついた。短い旅の日数だったが、共に行動をした身からすれば、嫌な予感をさせる笑みである。
これ以上なにかあると言わないだろうな。そう問いただしたい気持ちと、聞いたら後悔しそうな予感にカリーナは渋い顔をした。
見事な対比の間で、リディアは嫋やかに微笑んでいる。そちらもかなり嫌な予感がする。
主に、平民の手に負えないレベルの情報が来そうな、そんな嫌な予感である。
「ちなみに、ここまで言っていなかったが、」
「不穏な前振り」
「それは特注品だ。まだ製品化する手前の、正真正銘世の中に出していないアイテムだな」
「わけがわからない」
聞き間違いかな、と思った。聞かなかったことにしたかった。なんなら、そもそも今何を言われたのか理解したくない。
更に追加でぶっ込まれた衝撃の新事実。
まさかの最新鋭の技術。しかもまだ世に出す前の完成品? なんなら王族などしか使えないようなアイテムになる可能性が大きい?
なんだそれは。一歩間違えたら国宝ではないか。話が違う。
カリーナはわなわなと震えていた。
(なんてもん持たせてんだよ!!!!)
いい加減にしろこのノーブルども。手加減を学べ。
胃がキリキリしてきた気がして、カリーナは鳩尾をさすった。これは早急に胃薬を作らねば。
そんなカリーナの様子を他所に続いた言葉によれば、持ち主登録によって、持ち主以外の手に渡ると自動的に戻ってくるとのこと。任意だとまた少し違ってくるそうだが、盗難にあってもあまり問題はなく、中身も見たり取り出したりは出来ないようになっているらしい。
どうやら防犯面でも優れている模様。一安心だが、それはそれとして、希少価値が更に増えた気がするので、プラマイゼロ。ゼロどころかマイナスである。
周囲の人からの好意が庶民には重すぎる。主に貴族とか貴族とか、皇族とかである。戦犯は皇族で間違いない。アストラとかいう皇帝様が元凶だ。
結局、ほとんど強制的に受け取ることになったカリーナは、部屋に戻るなり胃薬を飲んだ。カリーナの為に誂えたのだと言われてしまったら、受け取らないわけにもいかなかったのだ。
時には諦めも肝心。処世術である。
こんなところで使いたくはなかったし、もう少し手加減が欲しい。切実に。
ところで、もうそろそろラツェド帝国を出て旅を再開するつもりなのだが、この感じだとズルズル出発が伸びそうである。
カリーナはしばらく胃薬を手放せそうになかった。




