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六話 付き合う理由が最低っ

スマホを見ると18時に迎えに行くからと翔君からメールが入っていた。


 瞼が重くて鏡を見ると腫れぼったくて泣いてたことが分かってしまう。赤みを消すのにファンデーションを濃く塗った。


 もうあと一時間で彼が来てしまう。別れるのは、付き合うことよりも難しいのかもしれない。まだ肝心の別れる理由が全く思い浮かばない。


――他に好きな人が出来たの……。


 こんな嘘っぽい言い訳が、通用するわけないし。かといって、病気のことは彼に迷惑をかけることになるから言いたくはない。


 ――ピンポーン


 アパートのインタホーンが静かに鳴る。時計を見ると18時前。少し早い。こんなに早く来てくれるなんて付き合い始めの頃ぐらい。いつもは少し遅れてくるのに。


 恐る恐るドアを開けると、見慣れないスーツ姿の男性が立っていた。マッチョ体型で、年は40代ぐらい。肌はドス黒くお酒に強そうな感じで目がギラついていた。


「こんにちわー。WiFiなんですけど、今どちらを使ってますか? オタクのアパートに光回線がきてるので、是非ともうちに変えてください」


「えっ?」


 このセールスマンは何を言ってるの? マシンガントークをされ、何を言っているのか理解できなかった。


「WiFiはこないだ変えたばかりなので、難しいです」


「そうでしたか。ちなみにどこのスマホ会社です?」


 なんでそんなことをあなたに言わないといけないの?


 手に持つパンフレットを見るとA社の物だった。反発したい気持ちがふつふつと湧き上がる。


「B社です」


 営業マンはニッコリと気持ちの悪い笑みを浮かべる。


「今なら契約手数料もかかりませんし、ぜひ変えてください」


 この営業マンは、人の話を全く聞いてない。

勘弁してよ。

 

 まるで契約するのが当たり前のように話す。この人を追い返さないと。


「申込用紙もありますので、お手元に通帳とかハンコなどありますか?」


「……」


 この男、契約しないと帰ってくれないのかもしれない。


「あの、ですね!」


 キレ気味に私が声を上げると。


「何なんですか? そこ、うちなんですけど」


 その男の後ろから聞きなれた声がした。


「旦那さんです? そういうことなら、失礼しました。また機会がございましたら……」


 無神経な態度をコロッと変えたセールスマンは、ずうずうしくも私にパンフレットを手渡して帰っていく。


 タイミングはいいけど、ここから地獄っ…。


「一人暮らしだと騙しの勧誘もあるから、覗き穴から見て知らない人だったら開けるなよ」


「ありがと……」


 あの営業マンのせいで出鼻をくじかれてしまった。


「目が赤いし、どうした? アイツのせいか? 何もされてないよな?」


 両手でチカラ任せに肩を掴んで、私の目を凝視してくる。


「あ……ううん。大丈夫だから」


 ますます言い出しにくい。部屋で話すことだろうけど、二人きりになるのが怖くなってきた。


「それじゃあ、乗って」


 彼の後を追い、アパートの駐車場に向かうと綺麗に洗車された黒い車が停められていた。


「う、うん……」


「せっかくのデートなんだし、明るく行けないのか? 今日はお寿司か、焼肉どっちがいい?」


 この人もさっきの人に似てる? 


「何でもいいよ……」


「なんでもいいって? 俺は仕事終わってすぐここに駆けつけてるの分かってる?」


 彼の口調がキツく感じる。いつもなら心に余裕があるせいか、笑って誤魔化してきたのに。そうだ……私がいつも「えへへっ」って笑っていたから喧嘩にならないだけで、これまで何度も喧嘩になる機会はあったのかもしれない。


 一年間、喧嘩が無いのは、――ただ私が毎回彼に合わせていただけだったんだ……。


 今更、風が吹けば飛ぶような二人の関係に気づくなんて私はなんて愚かだったの。


「もういい。今日はいきたくない」


 翔君にワガママなこと一言も言ったこと無かったから、手が震えてくる。


「は? せっかく来たのにそれは無いだろ?」


「翔君疲れているんじゃない?」


「だから疲れてても来てるんだけど。ごめん、当分俺たち会うのやめにしない?」


「え?」


「正直、顔色も良くないし、俺といても面白くないんじゃないか?」


「そんなことないけど……」


「分かるんだよ。この際だから話すけど。友達に言われて罰ゲームで付き合ったけどさ、もういいかなって。女が妊娠してさ。」


 はいっ? 私とのこの1年なんだったの? 遊ばれてたってこと?


「どういうことなのよ。罰ゲーム? あと妊娠させたって、まさか二股してたの?」


「琴音のこと、本気じゃないから。暇つぶしみたいなもんかもな。ちなみに身体の関係もないし、うすうす気づいていると思ってたんだけど。もういいよな?」


 ――どうやって別れようか悩んでたのに、なんで振られてるの……。


 身体の奥の方から暗闇とともに物悲しさが襲ってくる。酷すぎる。そんなのってないよ。


 ニュースで殺人を犯してしまった人が、頭に血が登ったとかいうけど、私も彼らの気持ちが少しだけわかる気がした。もし、ここに刃物があったら私もやってしまったかもしれない。

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