七話 付き合う理由がしょうもない
こんな男と別れるために悩んでいた自分に腹が立つ。
「もういいわよ! 二度とここには来ないで。私もあんたのことなんて大っ嫌い!」
「琴音……俺たち性格が合わない。これじゃあ、時間がもったいないし……。俺のことは忘れて良いから」
大人しい私がキレたので彼はびっくりして細い切れ目をパッと大きく見開いた。そして、逃げるように、車に乗り込み、走らせた。力が抜けぺたんと地面に座りこむ、そして彼の車が見えなくなるまで呆然としていた。
バカみたい……。一年無駄にした……。悔しくて唇を噛み締める。
三十分もすると、ピロンとスマホが鳴った。予想はしてたけど、彼からLINEの友達登録をブロックされてしまった。なんでもないと思ってたのに、スマホの画面に涙がこぼれ落ちる。
こんな終わり方ってない……。別れたかったのに……、鎌のような鋭利なもので横から心を抉りとられたような気持ちだ。
こうして私の最低な一日が終焉を迎えた。
彼を振るつもりだったのに、振ってやるはずだったのにまさか振られるなんて夢にも思ってなかった。
バカだ……。私はなんて大バカなんだ!
家に戻り、スマホを布団に投げ、カーペットにダイブする。何もかもが嫌っ。
――涙はもう出ない。このカーペットは翔君が買ってくれた。冬は足元が寒いからって……。あの時、私は風邪で寝込んでて、彼はお粥を作ってくれた。そんな時もあった。
なんでこうなった? 違う。彼は私の事どうも思ってなかった。本命の彼女ができるまでの繋ぎぐらいにしか考えてなかったのかもしれない。もしくはペット?
友達との罰ゲーム? 普段会えなかったのは私の知らないところで、他の女性とデートしていたから? 今となっては全てが本当にわからなくなってくる。
私の容姿は普通で、外を歩いている時に、男性から振り向かれたりした経験はない。胸も普通。元々、身長も低いので目立つこともなかった。
中学生の頃、男子からあまり使われない家庭科室に突然呼び出された。心躍らせて、告白されると期待して待っていたら、彼は、私の友達の麻衣ちゃんに告白したいんだけど、俺の事どう思うか聞いて欲しいとか……。
そんなことばかり。役回りが酷すぎる。イケメンの翔君の隣にいれば、さも自分もイケてる部類に入っていると勘違いしていたところもあった。
――そんなわけないのにね……。
もう寝よう。起きていても嫌な事しか思い出さない。部屋の戸締りをすると、布団に潜り込む。何もしたくない。
そろそろ、アパートを引き払って実家に帰ろうかな。病院には戻れそうもないだろうし……。
こんなことなら、もっとがん患者の話を聞けばよかった。でも聞いたからといって気休めにしかならないような気もする。
初めて受け持った患者さんが癌で余命三ヶ月ぐらいだった。親身になりすぎて、亡くなられてから食欲を無くした時もある。
先輩の看護師に、「そんなことしてたら身体壊すよ。いい? 長く務めたいならほどほどに。間違っても家族同様に患者さんに寄り添ってはダメよ」
そんな先輩の言葉が、ふと頭を過ぎる。私の中の正義がありえないってなったけど、今ならそれも何となくわかるような気もする。
布団に潜り、自分に言い聞かせる。私が翔君を振ったんだ。何度も復唱する。頭の中で何度も何度も。顔を枕に埋めると、胃がキリキリしてきたので胃薬を飲んで寝た。
次の日。目を覚ますと、時計の針はもうお昼近くを指していた。シフト表を見ると今日は出勤日だけど、院長に甘えさせてもらい今日も休むことにした。
院長のパソコンのメールアドレスに送信する。
「まだ精神的に辛くて、仕事にいけそうもありません。申し訳ありませんが、おやすみさせてください。ご迷惑をおかけしてすみません」
それから1時間後の14時くらいに院長から返信のメールがきた。
こないだも話したと思いますが、琴音さんの気持ちの整理がついてからでいいですからね。こちらは何も心配しなくて大丈夫です。家にいると、不安な気持ちになるかもしれませんので。気分転換に外出して、普段やらないことをすると気が紛れてくるのかもしれません。
また私が力になれそうなことがありましたら、なんでも相談してくださいね
と、書いてあった。
身体が重いし、そうだ昨日は食事が喉を通らなかった。しょうがないので、家でご飯を作るのもめんどくさくて、私は外食することにした。
あれだけ健康志向で自炊してたのになんの意味もない。今は食べたいものを好きなだけ食べてやろうそんな気持ちでいっぱいになっている。気になるレストランは沢山ある。電車で名古屋へと向かった。
この駅の構内にはエレベーターがあり最上階にはデパートのレストランが入っている。どれもこれも美味しいレストランで金額も最上階には有名な老舗の日本食の店もある。
確かランチで五千円はする。ドキドキしながら店の暖簾をくぐった




