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四話「友達以下の恋人関係」

逃げるようにして、次の屋根付きのベンチまで辿り着くと身体を投げ出し背もたれにぐったりと持たれかかる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 服は泥だらけで惨めだ。いっその事、池に飛び込んでやろうかしら。心臓がズキズキする。濡れたせいか、脚も小刻みに震えてくる。


 ――あーっ。もー。


 喉が無性に乾くのでジュースを飲みながら、雨粒が落ち波紋が無数出来る大きな池を見ながら、しばらくぼーっとしていた。


 秋の肌寒い風が、身体に無数の針のように突き刺さる。ガタガタと震えながら、脚を擦る。


 別れた方がいい。なるたけ早く、今日のデートで別れを切り出そう。AEONで先週買った綺麗な水色のマーメードスカートは泥だらけで着て行けない。


 ハァ。とため息をつく。家族にも話した方がいいだろうし。でもなんて言えば良いの? 


 高野翔君とは一年ほど付き合っている。


「ガンって言われたんだけど。余命五年の可哀想な奴なんだ……残り少ないけど最後まで大切にしてね」


 こんなのふざけすぎている。翔君とは仕事帰りに待ち合わせしてご飯を食べに行くだけの付き合い。二人の関係は一般の恋人とは少し違っているのかもしれない。だって、デートらしきものをしたことがないのだから。


 同僚のナースの話によれば、彼氏に水族館や海水浴、遊園地などに連れてって貰ってるみたいだけど、私は一度もそんなデートをしたことがないのだ。




 ――彼との最初の出会いは職場の病院で、うちの患者さんだった。翔君が、花粉症で通院した時に、私に一目惚れしたと声をかけてきた。ナンパで知り合った男が彼氏なんて親にも言えない。


「あ、あのっ」


 目の前の椅子に座っていた長髪でスタイルの良い男が、突然、立ち上がり声をかけてきた。


「どうかされましたか? 体調が悪くなってきました?」


「いえ、いきなりこんな場所であれなんですけど、俺、あなたに一目惚れしたみたいです。付き合って貰えませんか?」


「はいっ?」


「間違えました。お友達からでも、いいので」


「え?」


 あまりにも直球すぎる話しぶりに、最初はチャラ男過ぎると思った。服は韓流ドラマに出てくるオシャレなキレイめの服をしてて、公共の場で大胆に女性に声をかけれるなんて、女性に慣れてるし、初めてじゃない。


 ナンパ師の彼はとても爽やかすぎて、見た目はタイプでは無いけど、友達や家族に紹介しても恥ずかしくないようなそんな男性に見えた。


「突然そんなこと言われても困ります。ここ、病院ですし」


 その時、待合室にいた患者さんは十人はいたと思う。物珍しい状況に笑っている人や目を背けている人などいて、あまりの恥ずかしさに顔から火が出そうになる。


 彼は床に視線を落とすと、残念そうに続けた。


「そうですよね。こんなに可愛いのなら、彼氏の一人や二人ぐらいいてもおかしくはありませんよね。それなら俺も諦めもつくというものです」


「えっ……、今は勤務中ですし、病院内でそんなこと言われても、他の患者さんもみえますし……」


「だったらどこでなら告白してもいいんです?」


 と、院内に響く声を放つ。本気? 困ってしまう。これがブサメンなら、「すいません」と一言謝れば済むのに、彼はお世辞なしで、世間ではモテる部類に入る。髪は艶があり、長髪で綺麗でライムのような柑橘系の良い香りもしていた。


 私より少し年上で、身長高い。私が150しかないので20位は大きく見える。細マッチョのようながっしりした感じ。


 彼氏はいなかった。周りのナースたちが目配せで頑張れと言っているような気がした。私はその時、その場の雰囲気に流されていたんだと思う。


 断る体を見せつつ向こうの出方を見ようとしたけど、ここで失敗して彼氏がいると思われてもいけない。


 もし本当に私のことが好きなら、友達からでもいいなんて他の患者さんもいるのに浮ついてしまった。

 ナースの仕事は出会いがなくて、家と職場の往なのも原因なのかもしれない。


 なので、突然すぎる告白に戸惑いながらも少し嬉しくなってしまい、彼に悟られないように、何年もしまい込んだ恋愛本の引き出しを必死に捲っていた。


「だったらLINEのアドレス教えますから、良かったら連絡して頂けませんか。もし嫌なら返事はなしで、俺諦めるの早いタイプなんで大丈夫です」

  

 そう言うと、彼はポケットからメモ帳とボールペンを取り出して、綺麗な文字で名前とLINEアドレスを書いて私に渡してきた。


「ありがとございます。少し考えてみますね」


 そう言って彼が差し出したメモを受け取り、ポケットにしまい込む。受付の松田さんが笑っていた。やばっ。あとからみんなにこの話題で私おもちゃにされるんだろうな。でもなんかシンデレラになったようで、私の心は踊っていた。


 受付にいる先輩看護師である、松田さんが、


「高野さん。高野翔さん」


 と、甲高い通る声で呼ぶ。彼は診察を終え会計をして帰って行った。



 それから三日後。友達の京子が結婚すると電話があり、そこで告白されたって話をしたら、ノリがいいのか、面白半分に、とりあえず付き合ってみたらどうなの? と背中を押されたのが決定打となった。それで私から翔君にLINEを入れて一年ぐらい食事だけのお付き合いが続いている。


 友達以上恋人未満のような付き合いで、食事くらいでイベントが無いのだ。彼が忙しくてなかなか時間が取れず、休みがあるのかさえ怪しい。だから、お泊まりなんかもまだ経験がない。


 それは私の仕事が連休がないせいでもある。次の日に夜勤があると体が疲れてもたないので、前の日はゆっくりしないといけなかった。


 今思えば、その頃から体調が悪かったんだと思う。私には時間が無い。翔君は体目当てなとこもないし、爽やかで優しい。優しすぎるのだ。これまで喧嘩なんてした事もない。


 しばらく思い出そうと試みるが、大きな喧嘩はやっぱり思い出せない。


 雨足がさらに強くなってきた。身体も冷えて、我慢できない。私の心臓の音もドクンッドクンッと嫌な音を立てる。


 目の前がピカッと光り、次の瞬間、ガシャンと稲妻が池の突き出た杭に音を立てて落ちた。




 ――別れよう。



 私にはもうあまり時間が残されていない。この付き合いには前から違和感を感じていた。私達って友達みたい……ある意味、友達より良くないのかもしれない。ただ一緒にいるだけで未来が見えないのだから。


 何も考えず、スマホを鞄から取り出すとメールを打ち、翔君に向けて送信した。目頭が熱くなり頬を伝うものがあったけど構わない。

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