戦いを終えて
明けましておめでとうございます。今年初めての投稿になります。
今後とも『異世界召喚の傭兵奏者』をよろしくお願い致します。
「では、今回の我々の勝利を祝って、乾杯!」
『乾杯!!』
ダンジョンでの戦いも終わり、疲労が溜まってはいるものの参戦した探索者の面々は探索者組合の向かいにあった大衆酒場で酒が並々と注がれたジョッキを打ち合わせる
そんな中で乾杯の音頭を取ったのは俺だ、一番の功労者だとあの場に居た探索者達から推されてやらせて貰った
そして探索者達は音頭と同時にジョッキに口をつける、それぞれ自分の好みの酒を満たした器はあっという間に空になった
あの後、シャルロットが辿り着けなかった都市への伝令は周囲に避難勧告を頼んでいた探索者達が伝えてくれたらしく、増援として現れた衛兵達にダンジョンの管理を引き継ぎ、探索者は全員がストラスフォードへと帰還出来た
それから都市で今回の《魔の行軍》に対する聴取と報告を終えた、通常であれば戯言と取られてもおかしくないが、あの場に居た衛兵と大量のドロップ品が証拠となったのだ
それにより都市から報奨金として一人当たり金貨五十枚が支払われた、かなりの大金ではあるがそれだけの働きに値すると評価されたという事だ
そして探索者達で集まり、こうして酒場にて打ち上げとして騒いでいる
報奨金のお陰で懐の心配をする必要もない、俺と瑠璃はアルコールを飲まないから果汁水を飲んでいるが、それぞれ楽しそうだ
が、俺の方もそこまで暇というわけではない、座っているのは中央付近のテーブルであり、そして先程の戦いから当然ながら人が集まってくる
「なあなあ、アンタは本当にあの聖杯の騎士なのか!?」
「あの聖剣、確かに本物だったよな!?」
「女神様に呼ばれたってのは本当なのか!?」
このように、あの時の戦いで俺が聖騎士王を名乗って見せた事でこの世界の御伽話の英雄と同一視されたからだ
その事はハッタリになる事を期待しての事でもあったから仕方のない事ではあったのだが、やはり誤解を解くというのは大変だ
とはいえ全員まだ半信半疑といった様子であり、これならば上手く誤魔化す事が出来れば乗り切れるだろう
「そんな訳がないだろう。あれは敵を萎縮させる為の方便だよ。武器も全てレプリカだ。あの場ならともかく、今更本物を名乗るなんておこがましい真似はできねえよ」
「そうだよなあ。そんな上手い話がある訳ないよな」
「けど、アンタが俺達の英雄である事に違いはねえよ。よし、全員奢れ奢れ!英雄殿に感謝してこの場の支払いくらい請け負ってやろうぜ!」
『おおっ!』
俺の言葉にそりゃそうだと反応を返す探索者達、だが共にあの場を戦い抜いた事の祝いと礼として奢ってくれるという話になった
それを断るのも悪いから取り敢えず適当な料理を注文しようとした時だ、酒場の入口の方から大きな声が聞こえてきた
「頼もう!我輩は戦女神マルヴィナ様を奉る神殿より参った者!此処に彼の聖杯の騎士を名乗る者が居ると聞いて馳せ参じた次第である!」
そう言って入ってきたのは名乗りからして神官であると思われる男であった
しかしその様相は一般的に思い浮かべる神官の姿とは大きく違っていた
まず普通は法衣で身を包むところをこの男は上半身が裸であり、そこには鍛え上げられた屈強な肉体が見て取れる
だが何よりも異様なのが今の男の状態だ、拭ってはいるようだが明らかに先程まで血を流していたような跡が体中に見られる
そんな神官?の姿に呆気に取られていたが、その神官は酒場の中を見渡し、俺に目を合わせると唐突に目を見開き号泣し始めた、ナニコレ恐い
「おおっ!おおっ!!一見して大きな力を持たぬように見えながらも隠されている大神殿の物に勝るとも劣らぬ程の女神の加護!間違いない、貴方様が聖杯の騎士であるな!?」
「うぉっ!?」
その神官はそのまま俺の方に近付いて来る、あまりの速さに思わず身を退いてしまう
「ハッ!?失礼つかまつった!拙僧がこの場に来たのは戦女神マルヴィナ様よりの神託をお伝えする為。これより、その神託を読み上げまする」
だが俺の反応に正気に戻ったのか、自身で反省した後は持って来ていたらしい小箱に収められた羊皮紙を取り出す
それはかなり上質な物らしく、更には丁寧に装丁されている
「コホン、『十女神が一柱、戦女神マルヴィナの名に於いて灰村奏多を聖杯の騎士の転生体として証明する。また、この神託を身分証として与える事を此処に記す』。これは他の神殿にも同時に同様の神託がなされ、戦女神マルヴィナ様の神殿が代表しての事です。なので、疑う余地もなく貴方様を聖杯の騎士である事を認めまする」
そう言って再び小箱に羊皮紙を収め、小箱ごと俺へと恭しい態度で捧げてくる神官、俺もまた同じように丁寧に見える仕草で受け取った
何が何やら理解が追いつかないのだが、それより先に周囲が動いた
「やっぱり本物なんじゃねえか!?」
「あ、握手を!伝説の騎士と、是非握手を!」
「あの冒険譚の詳細を、霧の谷の怪物との戦いの詳細を聞かせてくれ!」
「あ、新しい詩を作らなければ……誰か、誰か今日の戦いを事細かに教えてくれ!一切の漏れ無く、全てを!」
探索者だけでなく、同じ酒場で呑んでいた一般人に加えて酒場の店員、そして酒場で歌っていた吟遊詩人までもが騒ぎ出す
戦女神マルヴィナの言葉から薄々は感じていた、だがこのような状況になるなんて事は全く予想外だ
先程よりも多くの人間が詰め掛けてくるのに辟易としながら、俺は心の中で余計な事をしてくれた戦女神マルヴィナを呪いながら、この場をどうやって切り抜けようか考えるのだった




