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魔の行軍 2

貫き破れ(ピアーシング)我が魔槍(・ゲイボルグ)》、ゲーム内において海獣クリードと呼ばれるボスの単独討伐による報酬で習得可能な槍の秘奥義である


効果は高威力の槍による攻撃だが攻撃方法により効果が分かれる


槍を手に持ち直接相手に突き刺せば槍に込めたエネルギーを相手の体内で炸裂させる事による大ダメージを与え、投げれば一定範囲内の敵として認識した対象全てに分裂しての攻撃だ


分裂すればするだけ一撃の威力は下がるがゴブリンは最下級の魔物、分裂した一撃でも十分に仕留めるに足る威力となった


倒したゴブリンが全て塵に変わっていくと共に槍も消えていき、中心部に聖槍アキレウスが一本だけ残る


それを回収しようと足を一歩踏み出すが、呼吸が出来なくなりその場に膝を着いてしまう


倒れ込む事だけは気力で防いだが息苦しさは消えない、肺に空気を吸い込もうとして何度も荒い息を続けた


「カナ、どうしたの!?」


「グッ、単に、魔力切れ、だ……悪いが、ポーションを頼む……」


原因は分かっている、短時間に大量の魔力を消耗した事による魔力欠乏症という症状だ


魔力とは生命力の余剰分である、それを一気に失うのは幾ら余剰分とはいえ命を削っているのに等しい


その為、あまりに魔力を使用し過ぎると生命維持にも支障が出る可能性がある、最悪は死だ


今回の場合、感覚的に魔力には多少の余裕があるからそこまで大事には到らないが、少し落ち着けば体調も戻ってきた


後はポーションを飲んで魔力を補給すれば問題ない


瑠璃が慌てつつもしっかりと差し出してくれた魔力回復ポーションを一気に飲み干して数秒じっと待てば先程までの苦しさが嘘のように消えて無くなった、もう平気だ


「ふぅ、取り敢えず一息つけたな」


「もう、心配したのよ?それで、大丈夫なのよね?」


「ああ、悪かったと思ってる。だが、やらねばならない事だった。分かってくれるな?」


「分かってるわよ」


ゴブリンに囲まれていた連中を救う、その為の一撃であり同じような場面であれば俺は次も躊躇いなく槍を放つだろう


それを譲る気はないのだが、その事を瑠璃は何も言わずとも理解してくれたらしく、特にそれ以上の追及はなかった


とはいえ事態はこれで終わりではない、なので聖槍アキレウスを回収した後は助けた連中の元に向かう


突如として空から槍の雨が降ってきて、それがゴブリンを全て殲滅したという光景に衝撃を受けたのか、全員が呆けたような表情をしている


だが俺が近付くと向こうも気付いて視線を向けてくる、そしてその中から見知った連中が出てきた


「カナタ、無事だったのか!」


「ああ、あの後にオークが上がってこようとしていたからな。階段上に陣取って殲滅してきたところだ。そっちはどんな状況だ?」


「オレ達は地上に戻った後、街に帰ろうとしたんだ。でもゴブリンがダンジョンから溢れてきて、今の今まで必死に応戦してた。数の多さに苦戦してたから、正直助かったよ」


他の探索者達の中から出てきたのは先程別れたばかりの《四つ葉》のパオロだ


他の三人も装備が少しくたびれてはいたが目立った傷はない、多少の切り傷はあれど全て軽傷で済んでいる


「気にするな。それと、この集団の指揮官は誰だ?可能な限りの情報共有をしたいんだが」


「私だ」


周囲を見渡していると声を掛けられた為、そちらに向き直る


そこに居たのは要所を護るプレートアーマーを身に付けた女性だ


長い金髪を後ろで一纏めにして整った顔立ちをしているがその眼光は此方を射抜くかのように鋭い


「私はクラン《白百合(ジッリョ・ビアンコ)》に所属しているキアラ・アロイージだ。個人的なランクはAランクになる」


クラン《白百合》、ストラスフォードに於いて二番目に規模が大きく、歴史もあるクランの名だ


ストラスフォードの三大クランである為、俺も調べてはいるのだがその特徴として規模が大きいが構成されている人員が全て女性というところだろう


理由としてはこんな世界だ、荒事も多く治安を保つにも監視カメラのような物が無いので、全ての犯罪を取り締まるには難しい


そして魔物の襲撃等があり武力が無ければ厳しい世界に於いて、単純な腕力に優れて戦える男の方が偉い、などという男尊女卑的な考えを持つ者が多かったりもしている


そうなれば犯罪者とあまり変わらないような荒くれ者もそれなりにいる探索者が多く集まるストラスフォードだ、立場の低い女性を好き勝手しようとかいう馬鹿が一定数は出る事になる


そんな女性を護る為に、また女性探索者が不当な扱いを受けないようにと、女性達が集まって対抗しようとするのは当然の流れだろう


今となってはそんな《白百合》の存在もあり男尊女卑なんて考えを持つ探索者もそれを表に出そうとしないようになったので彼女達を侮るような人間は居ないだろう


それでも口さがない連中は居るのだが、そういった素行の悪い連中は昇級審査で落ちるので問題ないか


他にも家庭内暴力に苦しむ女性の保護等、縁切寺みたいな役目も果たしているのだが、一先ずはこんなところだな


そして先に名乗られたからには名乗り返さねばなるまい


「探索者パーティー《流星(メテオール)》のカナタ・ハイムラだ。Cランク探索者をしている。よろしく頼む」


「ああ、よろしく。それで話があるとの事だが、何用だ?」


「さっきも言った事だが、オークの方は下で俺達が食い止めた。次はオーガが来るのを確認したが、その到着まではまだ猶予がある。その為、今後の計画を話したいと思ってな」


「そうか。って待て、オークを殲滅したのか!?その人数で!?」


「まあ、戦術と武器が噛み合った結果だな。瑠璃、戦利品のオークの王冠出してくれるか?」


「ええ、これね」


普通に考えてCランクの探索者パーティーが二人と一匹でオークの軍勢を退けたなど信じられないだろう


だから論より証拠とばかりにドロップ品である王冠を見せて証拠とした


「た、確かに本物だ。いやすまない、あまりにも突拍子もない事だったもので……」


「良いさ。それより時間は有限だ。今から対策を―――」


「大変です、お姉様!」


と、そこに一人の少女が駆け寄ってきた


明らかにアロイージの事だろう、つまりはこの子もまた《白百合》のメンバーか


「何があった?」


「そ、それが、詰所の方が!」


「分かった、今から向かおう。ハイムラ殿、すまないが」


「いや、俺も行こう。事態を把握しておきたい」


「分かった、ならば行くぞ」


あの少女の焦りよう、何らかの異常事態が発生したことに他ならない


なので俺達も共に詰所の方に向かった、普段はダンジョンから魔物が出てこないか監視し、探索者の出入りをチェックしている施設だが、中に入ると一人の兵士が仰向けに倒れていた


その体には右肩から左腰にかけて袈裟斬りにされた深い傷があり、何者かによって斬り殺された事が分かる


「こ、これは!?」


「詰所の奥に向かおうとして、何者かに斬られた、といった状況だな。それも、犯人は詰所の中に居た事になる。少なくともゴブリン共が行ったという可能性は低いか」


倒れている兵士は前から斬られ、頭は外への出入口の方にあり、足は詰所の奥へと向いている


詰所から出ようとして斬られたなら逆を向いているし、背中から斬られたなら俯せに倒れるのが普通だ


おまけに傷口を見れば中々に鋭い得物による犯行だ、恐らくは一撃で即死ないし瀕死へと追い込んだだろう


そして、この兵士が向かっていた奥の方だが倉庫になっており、他に出入口はない


倉庫には窓もないので他の侵入経路はなく、出入りする為には正面の出入口を通るしかない、更に付け加えればダンジョンから出てきたゴブリンは人間を優先して襲う、野生のものと比べて略奪する為に倉庫へ向かったという可能性は低い


「一体、誰がこのような事を……」


「それもだが犯人の目的だ。何らかの目的が無ければ倉庫に立ち入ろうとはしない」


倉庫の中の何かを狙ったと見るのが普通だが、まず俺達には倉庫から何が消えたのか分からない


なので此処は知っている人物、他の兵士に訊ねるべきだ


「ああ、グラート……誰が、こんな事を……」


「悲しんでいるところ、すまない。彼は何の為に倉庫に向かおうとしたんだ?」


「そこはわたしが話そう」


取り敢えずは手近な位置に居た兵士に聴こうとしたが別の男性、装備が他より立派な事から恐らくは兵士達の指揮官なのだろう、彼が口を開いた


「彼、グラートにはストラスフォードへ異常を知らせる為、狼煙を上げるように指示したのだ。《魔の行軍》が発生した際は塗料を使って赤い狼煙を上げる事になっていて、それを取ってこようとしたのだろう」


それを聞いて俺は倉庫の中にある塗料を調べた


だが思った通り、赤い塗料のみが一切無くなっており、犯人の目的が塗料を奪う事だと気付く


「やられた、これで狼煙で報せる事は不可能か……」


塗料を奪い兵士を殺した犯人の目的はストラスフォードへ素早く報告される事を嫌っての事だろう


そうなると犯人は《魔の行軍》が起こる事を知っていた?


だがどうやって、普段からずっと観察していて今回偶然に《魔の行軍》が起こったから犯行に及んだとは考えにくい


そうなると必然的に残された可能性は―――


「人為的に、《魔の行軍》を引き起こした……?」


少なくともそうとしか考えられない、今回の《魔の行軍》は事前に少数の魔物が外に出てくる等の兆候が見られなかったという、イレギュラーなものだ


そうなると何らかの方法で今日に《魔の行軍》が起きることを知っていた、または引き起こしたとしか考えられない


だが今は犯行探しをする余裕がない、こうして狼煙によって《魔の行軍》を伝え増援を呼ぶという手段が取れない以上は直接伝令を走らせるしかないのだ


「馬は無事か!?早馬で即座に応援の要請と、付近の住民の避難を!」


このまま手を打たずにいれば何も知らない人々が魔物の群れに襲われてしまう


付近にはストラスフォードを支える食料を生産する為の農村が幾つかあった筈だ、ストラスフォード自体は高い防壁があるとはいえそんな物を持たない村ではオーガの襲来を防げない


「それが、馬はゴブリンによって全滅し、乗り合い馬車は最初の襲撃で幾つか走って行きましたが……」


「……正確な情報が伝わるとは考えにくいな」


馬車を運行していた御者は一般人だ、《魔の行軍》が起きた事までは伝わっても現時点で俺達がどのような行動に出るかまでは分かりにくい


最終的には鎮圧するにしても戦術が変わる、もしもストラスフォードの防衛を優先と判断し籠城されれば増援は期待出来ない


更に言えばまともな戦力を判断出来ない一般人の証言だ、魔物の戦力を多く見積もって報告する可能性もある


残り時間は少ない、やはり此処はどのような策を練るにしても全体の意思を統一する必要があるだろう


その為に俺は素早く行動を開始する事にした

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