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異変 2

咆哮が聞こえた後、直ぐに下層から上がってくるオークの群れ


まだ弱い個体のみである為に身につけているのは腰布と棍棒くらいではあるのだが、その力から放たれる一撃は直撃すれば簡単に命を落としかねない凶器である


幸い、動きはそこまで素早くはないので相手の攻撃の届かない位置から槍などで攻撃し仕留める事が出来る


とはいえ階段はそれなりに広く、オークが三体は並べそうな幅をしている、知能が低いから連携なんかはしてこないが、倒しても倒しても後から湧いてくるのには気が滅入る


それに死体が残らないとはいえドロップ品は残ってしまう、隙を見て回収してはいるが、その内足の踏み場がなくなるだろう、オークがそれに躓いてくれるのは助かるが、俺の足場も不安定になるのは好ましくない


因みに棍棒だが見た目は角材だ、しかも楢の木(オーク)材とかダジャレのつもりか


確かに加工しやすく堅く様々な用途に使われるだけに需要のある物だが、これはない


もっと下層の方なら鉄などの装備を身につけた個体が出るだろうが、まあ銃を解禁している今なら特に問題はないだろう


オークは此処で足止めしているが、ゴブリンが地上に溢れようとしている筈だ、《四つ葉》が先に行っているから安否も気になる


いくらゴブリンが雑魚の代名詞とされる魔物であっても数の力は無視出来ない、最悪の事態も想定して然るべきだ


「それで、お前達はどうするつもりだ!?」


「わ、我々は、その……」


「早く決めろ。此処に残り、オークが地上に向かう足止めをするか、地上に向かいゴブリンを排除するかだ」


「……分かりました。我々は地上に合流します」


「なら早く行け。状況によっては街に応援を要請する必要もある。周囲へ避難を呼び掛けたり、やるべき事は山積みだ。少しでも被害を抑えるんだ」


「は、はい!」


逃げてきたパーティーだがかなり消耗している為、この場に残り続けて戦うのは厳しかっただろう、その為迷わずに撤退を選び、《転移台》に集まっていく


それにもしもゴブリンの奇襲によって地上の兵士達が全滅なんて事になっていたらこの事態を報せるのが遅くなってしまう


ストラスフォードの周辺にも畑があり、そこで農作業をしている人間が多いし、門では入場待ちで審査を待っている商人や旅人が長蛇の列を作っている、そんな彼等が何も知らずに《魔の行軍》に巻き込まれでもすれば凄惨な地獄絵図が出来上がるのは想像に難くない


その為にも敵の足止めとは別に地上を見に行く必要があった、だがそれは彼等に任せよう


もし地上で戦闘が起こっていればゴブリンを長時間相手にする事になり、疲弊してしまう


ゴブリンを凌いでも次にオーク、そしてオーガとより強力な魔物との戦闘になるのだ、ならば体力のある今の内に少しでもオークを倒し、連戦に対して猶予を稼ぎたい


あの探索者パーティーが転移していったのを見届けた後、俺は改めてオーク達に向き直る


そして槍を地面に突き立てて固定した後、一番手前に居た個体に対して右足のホルスターからM500を抜いて発砲、その頭を吹き飛ばした


頭を失った個体はそのまま倒れて塵になり消えていく、どうやらオークに対してはマグナムで対処可能らしい


楯を外して空にした左手でもHK45Tを抜いて同じようにオークの頭を狙う、これも吹き飛ばすまではいかないも脳を破壊し絶命させるには十分な威力により倒す事に成功する、これなら後の戦いも楽に進められるな


「久しぶりに銃の登場ね」


「人目があると、余程の時でないと使えないからな。とはいえ、これなら楽だ」


「そうね、手伝うわ。シャルロットもやるでしょう?」


「グルッ!」


「さて、またどんどん来たな」


階段の上に陣取り下を見れば次のオークが階段を上って来ようとしていたところだった


階段はそこそこの長さがあり、両手に持った二丁の拳銃でも対応出来なくはないが、より確実にという事で《アイテムインベントリ》からSCAR-H、MK17を取り出して構える


今回は左右のレールに普段と同じレーザーサイト、フラッシュライトを取り付けて銃身下部のレールには安定させる為のフォアグリップを装着した


上部のレールにはホログラフィックサイトを装着、近距離で確実な射撃を行う為であり、望遠機能などはない


多少の距離があるとはいえ拳銃でさえ有効射程になる程度の距離だ、近距離での戦闘に適した装備で固めている


後は銃口にサプレッサーも装備可能なのだが今回は外している、今から何百発も撃つのだ、直ぐに駄目になるなら初めから付けない方が良い


その分、屋内で銃声が響き耳へのダメージがある為、通信用のインカム付きヘッドホンを用意した、これで会話は可能だ


周囲の音も多少は聞こえにくくなるが敵は一方からしか来ない、周囲への警戒は少なくて済む


予備の弾倉も《アイテムインベントリ》に百は入っているし、いつでも来いだ


まずは手近な個体に発砲、階段に足をかけたところで頭に銃弾を食らい倒れていく


その後の連中も一体倒された事に激昂して階段を駆け上がってこようとするが十段と進まない内に頭部を撃ち抜く


セミオートで放たれた銃声はその全てが違わずオークの頭部に命中、その体を塵へと変えていく


「あまり撃ってなかったけど、かなり当たるものなのね」


「そもそも百メートルもない距離だからな。落ち着いてやれば簡単に対処出来るさ」


敵に照準を合わせるエイミングには自信はある、ゲーム内では超長距離狙撃してくる奴もいたが、二キロ以上先の標的の頭を吹き飛ばせるような変態は比較対象ではない、あくまで室内等の比較的近距離での戦闘の話だ


「とはいえ一気に十体くらい密集して来たら流石に対処は難しくなるからな、その時はサポート頼む」


「成る程、その時までは魔力を温存って訳ね。それで、それ以外の時は?」


「薬莢とか空の弾倉回収しといてくれ。流石に敵の出現頻度が多くなれば弾倉とかそこら辺に放り捨てるだろうし」


回収する理由は証拠隠滅の為である、銃という世界に大きな変化を与えてしまう兵器の存在は可能な限り消す、森とかであれば回収は困難だし、薬莢数発なら誰かに見付けられる可能性も低いが、此処は迷宮の通り道であり今から大量の弾をばら蒔くので目立ってしまう、なので回収は必須だ


ついでに言えば弾倉は弾を込めればまた使えるし、薬莢も再利用可能だ、ついでに素材は真鍮なので銅と亜鉛にもなる、何かの原料として使えるだろう


幸い、素材なら瑠璃のポーチに幾らでも入る、ならば手持ちぶさたになる間、回収を任せよう


「ついでにカナが倒した分の素材も回収させるわね」


「えっ?あ、おい!?」


かと思えば瑠璃がいつもの錬金術に使う大鍋を階段の下の方へと転がした


大鍋は多少跳ねながらも壊れる事もなく下に着くとオークの残した素材を吸い込んでいく


当然、そんな大鍋をオークが無視する訳もなく棍棒を振り下ろそうとしていたのだが、大鍋はサイズを小さくすると跳ね回って素材を回収しつつオークの攻撃を避けていく


そして素材を回収し終えるとまた跳ねながら階段を上ってきて瑠璃の手元に戻ってきた


「……もうそれ一個の生物か何かになってないか?」


「便利である事には変わりないから良いじゃない」


確かにそうではあるのだが、瑠璃が操作していた様子もないところを見るに自動で判断して攻撃も回避していたのだろう


普通の錬金術師が使う道具は勿論そのような真似は出来ないので、瑠璃の持つ大鍋だけが特殊なのだ


………………まあ、瑠璃の言う通り便利なのだから深く考えないでおこう、この世界に来た時に与えられた物だし瑠璃に危害を加える事もないだろうし


「それにしても、なんだか討伐というよりは作業でもしてる感じね」


「言うなよ、俺もゲームの時の訓練モードを思い出してきたんだから」


会話しつつも銃を撃つ事は止めない、次から次に止まる事なくやってくるオークに銃弾を浴びせつつ、時折瑠璃の大鍋が素材を回収していく


俺が銃撃を止めるのは弾が切れた時だけだが、それも一秒も掛からずに弾倉を交換する事で殆んど隙にならない


結果、作業ゲーのように代わり映えしない時間が延々と続いていく事となったのだ


「とはいえ、上の様子が分からないのも気になるな」


「ゴブリンだから数が居ればそう易々と全滅はしない筈よね?《四つ葉》とか、あのパーティーも上に行ったし、兵士も何人か居たから大丈夫だと思うけど、どうかしら?」


「狼煙台もあったからこの状況をストラスフォードまで伝えてある筈だ。その増援到着まで遅滞戦闘に徹すれば良いから、無茶はしてないと思うが……」


探索者というのは基本的に平民、それも食い詰めた人間がなったりする


なので読み書きすら出来ない人間も多く、用兵等を学んだ人間は基本的には居ないだろう


可能性としては凋落した貴族やら騎士の家の人間だが、それも都合良く居合わせたりしないだろうし、期待は出来ない


それに探索者は基本的にパーティー単位での行動だ、パーティーを束ねる事が出来ても複数のパーティーを統率、指揮するなんて真似は経験はない人間が殆んどだ


仮に統率しようとしても反発する者が出かねない、連携が必要な中で不和をもたらすなんて最悪だ


ゲーム内でもよく居たな、やけに上から目線で命令してきて、上手くいかなければ他人に責任転嫁する奴とか、おまけに大した能力もなかったりするから最悪なんだよな


「カナ、鉄装備が来たわ!?」


「見えてるよ、問題ない」


その時、オークの装備が原始的な物から鉄を利用した物に変化し始めた


防御力が上がり厄介になるところではあるが、MK17から放たれる7.62×51mm NATO弾は防がれる事なく貫通していく


以前に対人戦を行ってから使用している弾は軍用で広く使われている被覆鋼(フルメタルジャケット)弾、つまり弾頭を真鍮で覆い変形を防ぐ事で貫通力を高めた銃弾だ


そうでなくとも現代の銃に比べれば射程威力共に劣るマスケット銃が登場しただけで鎧が廃れたんだ、より威力のあるMK17で抜けない道理は無い


その為、全身に板金鎧(プレートアーマー)を装備したオーク・ナイトと呼ばれる個体であっても難なく倒せた、寧ろ重量で動きが鈍っている分、倒し易いまであった


そうしてこのままオークを殲滅可能かと思ったその時、ソイツは現れた


「あ、ヤベェ、ジャムっ(弾詰まりし)た……」


ガキンッ!という音と共に薬莢が上手く排出されず、スライド部分に引っ掛かってしまったのだ


流石に五百発以上も連続して撃ち続ければ銃身の加熱等により無理が生じてくる、寧ろ良く此処まで耐えたというべきだ


とはいえアクシデントを向こうは待ってくれない、攻撃が止んだと判断したオーク共は今までの怨みを晴らさんと一気に突撃してくる


即座にMK17を《アイテムインベントリ》に仕舞い込み、床に置いておいたM500とHK45Tの二丁拳銃による射撃に切り替えて数を減らすが、状況は良くない


「瑠璃、少し頼めるか?」


「ようやく出番ね。それで、何処までやれば良いの?」


「二十秒程度耐えてくれれば新しい銃を買えるから、それまで頼む」


「良いわ、それくらいなら楽勝よ。まずはそうね、《フレイムテンペスト》!」


だがこういう時の為に瑠璃には魔力を温存して貰ったのだ、俺との立ち位置を交代し、今まで退屈していた瑠璃は存分にその力を振るう


『GYAAAAAAAAAA!?』


瑠璃が抜いた杖代わりのレイピアの先端に炎が灯ったかと思えば、次の瞬間には渦を巻いてオークの群れに襲い掛かる


その板金鎧の表面が僅かだが溶けている事からも炎の熱量の高さが伺えた


程なくして素材を残し全滅したオークの群れ、俺はその時間を使い左手の端末を開き、ショップ画面から同じカスタムを行ったMK17を購入し、構えた際に違和感がない事を確認した後で再び階段を見下ろせる位置に着いた


「あら、もう良いの?」


「ああ、そっちも魔力は大丈夫か?」


「まだまだ平気よ。今のなら連続でもあと十回以上は撃てるかしら」


「頼もしいね、全く。けどまだ残りは多そうだからな、また魔力を温存しといてくれ」


「ええ、分かったわ。また危なくなったら教えて頂戴」


本当に頼もしい事に、先ほどの魔法を放っても瑠璃の魔力にはまだまだ余裕があるらしい


それでも余計に疲れさせる訳にはいかない、立ち位置に着いた俺は再びオークの頭部を狙い射撃を始める


そうしてまともな反撃さえ許さない蹂躙が再び行われる事となったのであった

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