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異変

途中で《四つ葉》の喧嘩というトラブルはあったものの、本来の予定通りに俺達はボスの居た部屋から奥へと進んだ


そこはボス部屋に入る前のセーフティエリアに似た部屋で更に下層へと続く階段がある


だがこの部屋で一番に目を引くのはやはり左手の方で煌々と光を放つ人の頭程の大きさを持つ水晶だろう


明らかに人工的な台座に載せられたその水晶は此処に来るまでに見つけたアイテムである《転移石》とよく似ている


それこそが《四つ葉》が目指していた物であり、俺達もこれから帰るのに使う事となる《転移台》である


女神の作ったダンジョンの特徴として、十層ごとに、各階層主を倒した奥にはこのように巨大な《転移石》を設置した台座が置かれている


この《転移台》は能力は《転移石》と同じで使用者をダンジョンの入り口まで転移させる能力がある、またその上で使用回数に制限はない


更にはダンジョンの入り口付近にある《転移台》とも連動しており、同じダンジョンの一度でも使用した事のある《転移台》なら飛べるのだ


分かりやすく言えばゲームにおけるチェックポイントという訳である、俺達が此処で地上に戻っても次回来た時には地上にある《転移台》から此処まで一気に進める


パオロ達が一緒にボスを越える事を提案したのもこれがあったからだ


そして、パオロ達とも此処でお別れになる


「なんとか無事に辿り着けたな」


「ああ、本当にカナタ達には感謝している。この借りは必ず。何か協力出来るような事があれば力を貸すよ」


「そうだな、その時はよろしく頼む」


「任せてくれ。それで、オレ達は地上に戻るが、カナタ達はもう少し潜るんだよな?」


「そうだ。オークがどれだけの強さか、少し様子見をしてから戻るつもりだ」


「そうか。直ぐに追い付ける気がしないが、オレ達もいつか追い付いてみせる。改めて、その時は強くなったオレ達を頼ってくれ。じゃあな!」


最後に、パオロとまた共闘する事を目指して別れの言葉を交わし―――


「またいつか会おうぜ!その時は一杯奢るからよ!」


フラヴィオからは再会を願って呑む約束をし―――


「まあ、剣士でも強いって事は認めてあげるわ。それと、瑠璃!今度はワタシの方が魔法の腕は上だって認めさせてあげるから、覚悟しときなさい!」


「ええ、その時までに私も腕を磨いておくわね」


「言ったわね、ワタシだって絶対に負けないわよ!」


瑠璃とアリアの魔法を扱う者同士でライバルとして宣言し―――


「……お世話になった。ありがとう」


最後まで口数の少なかったハンナが締めて《四つ葉》の四人は地上へと転移していった


四人の姿が光になって消えていくのを見届けた後、俺達は更に下層へと続く階段を見た


「よし、俺達もオークの様子見に行くか!」


「そうね。それにしても、ようやく気軽に話せるわ」


「人見知り、直らないよなあ。普段の中二病発言はなくなったのに」


「むっ、私だって直そうとは思ってたのよ?でもあれだけキャラ付けして、いきなり素の口調にするだなんて、恥ずかしいじゃない」


今の今まで発言の少なかった瑠璃だが、単に人見知りである


俺達と同じ中学から今の高校に進学した人間というのは十人に満たない為、やろうと思えば高校で中二病キャラを卒業するチャンスではあったのだが、まだ羞恥心の方が勝ったらしい


その結果、痛々しいまでの中二病発言という、むしろより恥ずかしい事になっているのだが、話さないだけで中二病発言が無くなっただけ成長したとも言える


これがゲームならロールプレイの一環として通じるのだが現実だからな、本人も努力しているようだし応援はしよう


さて、雑談もこのくらいにして取り敢えずはオークと軽く戦ってみるか、そう考えて下層に続く階段に近付いた時、足跡が聞こえてくるのに気付いた


複数の足跡が重なりあっている事から複数人、鎧か武器か分からないが金属が擦れ合う音も聞こえる、十中八九下層にいた探索者達のパーティーだろう


敵から逃げているのか、かなり焦った様子が感じられる、俺は瑠璃の手を取り、階段の前から離れて部屋の隅に移動する


それから数秒が経つと階段から人影が飛び出してきて、勢い余って転倒した


後続の数人も最初の人影に躓き転倒していく、全員軽装で良かったな、後から倒れたのが鎧を着込んだ人間だったなら潰れていたかもしれない


と思っていたら最後に階段から全身を鎧で身を包んだ大男が現れる、息も切れ切れといった様子だ、鎧にも幾らかの凹みが見られ、両手で持っている楯に至っては元の面影も見えない程にひしゃげてしまっている


あの様子だと思うにパーティーの殿を務めてきたのだろう、危険な殿から生還した事も含めればかなりの実力がありそうだ


「た、助かった……」


「なんとか逃げ切れたな……ゴドガー、お前は平気か?」


「問題ない、と言いたいが楯が潰れた。腕も折れているかもしれん」


そして全員が揃ったからか明らかに緊張が解れた様子が伝わってくる


仲間の状況把握に努めているようだが、あの大男の名はゴドガーというのか


そのパーティーは装備や年齢、後は状況に対する比較的冷静な対応から探索者のランクとしては少なくともC以上はありそうだ、少なくともゴブリン・ロードを倒して此処にいるのだ、《四つ葉》よりも経験の積んだベテランである事には違いない


俺達は隅でひっそりとしていたからか、向こうが周囲に気が回らない程に疲弊しているからか分からないが、俺達の存在に気付いた様子はない


なので取り敢えずは話し掛けてみようかと思ったその時、大男ゴドガーの後ろに巨体が現れる


それはゴブリンと同じく人型であり緑色の肌を持ち、だがホブゴブリンよりも遥かに巨大で屈強な肉体を持っていた


大きさはおよそ二メートル、肉体には目に見えて分かる程に鍛えられた筋肉が見え、その頭には頭髪は一切ないが下顎から生える鋭く巨大な犬歯があり、醜悪な顔には愉悦の表情を浮かべていた


ダンジョンに潜る前に事前に調べてきたから分かる、あれは《邪人の迷宮》の十一階層から現れる魔物であるオークだ


ゴブリンなどとは比べ物にならない程に強靭な肉体と圧倒的なまでの筋力により普通の兵士を凌駕する程の能力を持つ人型の魔物、少なくとも一般人では相手にならず、兵士が三人程集まらなければ危険な存在、それがオークである


だがそんな事よりも俺にとって衝撃なのは魔物が階段周辺のセーフティエリアに侵入してきている事である、普通ダンジョンに於いて魔物は階段周辺のセーフティエリアには入ってこない、それは部屋の四隅にある《結界石》と呼ばれる水晶により魔物の侵入を阻んでいる為だ


だが現にオークは此処まで侵入してきた、そして俺を含めてセーフティエリアに魔物は入れないという固定観念を持っていた全員の反応が遅れた


その隙にオークはゴドガーの背後に近付くと左腕でその首根っこを掴み、地面へと引き摺り倒そうとする


そしてその時になって初めてオークの接近に気付いたゴドガー、そしてその仲間達ではあるが、既にオークは右手に握った棍棒をゴドガーに振り下ろそうとしていた


だがオークが棍棒を振り下ろすより早く、俺は槍を構えてスキルにより突進していた


「《雷光一閃》!」


槍でも使える突進技である《雷光一閃》の加速力によりオークの横から突き入れられた《聖槍アキレウス》は正確にオークの心臓の貫き、一撃でその命を奪った


絶命したオークはそのまま今までの魔物と同じように塵へと変わり、棍棒と魔核を残して消滅した


俺はそれを確認してから槍を戻し、今しがた助けたゴドガーに声を掛ける


「おい、無事か?」


「あ、ああ……助かった」


「そうか。なら早く立ち上がった方が良い。後続が来るぞ!」


再び階段から現れたオークの喉を一突きし仕留め、更に後ろから来た二体の内、片方の目にナイフを投げつけ怯んだ隙にもう一体のオークの脳天に槍の柄を叩き付けて頭蓋骨を陥没させた


それにより倒れたオークが消えていくのを確認するより早く、目にナイフが刺さり半狂乱となっているオークの心臓を穿ち仕留める


取り敢えず侵入してきたオークは殲滅した、俺の予想が正しければあまり悠長に話している時間はないだろうが、兎に角あの探索者達に事情を聞く猶予が出来た


「それで、何があった?」


特に誰かを指定した訳ではない、誰がリーダーか分からないから聞いたが、その中で一人のそれなりに歳のいった男性が出てくる


その格好は探索者というには似つかわしくない祭服を来ており、宗教関係者だという事が分かった


「ハァ、ハァ、わ、私から話しましょう。私達はクラン《戦士の楽園》の者です。私達は十一階層を探索していたのですが、突如として出現するオークの数が増えてきて、捌ききれなくなった為に撤退を選びました。そして、この結界の中まで来れば助かるだろうと思っていたのですが……」


「今のように、結界を無視して侵入してきた、か」


「はい、その通りでございます……」


普通の魔物であればダンジョンの結界石が存在する空間には入ってこない、それが常識だ


だが一つだけ例外とされる事態がある、多くの恩恵をもたらすダンジョンに於いて、唯一恐れられる現象、《魔の行軍(スタンピード)》だ


誰も攻略しない、あるいは攻略する人間の少ないダンジョンから内部の魔物が溢れかえる現象、ダンジョンの外に出た魔物は周囲の生物を無差別に襲い、ある程度の範囲で一番生物が集まっている場所を目指し進む


時として数万を超える魔物の群れが襲い掛かるのだ、ろくな防備のない村は勿論、時には国さえも滅ぼす災厄、それが《魔の行軍》である


この時にダンジョンから出てくる魔物は狂騒状態であり、またダンジョンも活性化しているのか魔物の出現速度が上がり、通常よりも強い個体が出現する可能性も高くなる


一応、《魔の行軍》の際には始めに少数の魔物がダンジョンから出てくるようになり、一月程放置すれば一気に魔物が外に出るので、魔物が外に出たのが確認されれば探索者組合に緊急依頼として探索者によるダンジョンの間引きが行われて《魔の行軍》を防ぐのだ


ああ、そうだとも、此処までの情報が集まれば誰だって分かる、強く珍しい個体であるゴブリン・パラディンが何度も見つかったり、ボス部屋の魔物が強力な物になっていたりするのも、《魔の行軍》の予兆だとすれば辻褄が合う、合ってしまう


だが何故だ、このダンジョンは街に近いことからも入り口に兵が配置されて監視が行われている、それなら《魔の行軍》の予兆を見逃すなんて事は普通はあり得ない筈なんだ


理由は分からない、だが管理を行っている兵士達にも家族が居れば、それは間違いなくストラスフォードに住んでいる筈だ、わざわざ自分の家族が住む街を危険に晒すなんて意味がない、だから予兆を見逃すなんて事はなかった筈だ


『GUGAAAAAAAAAAAッ!!』


「お、おい、今の咆哮って……」


だが幾ら考えても現実は変わらない、下層から聞こえてきた無数の魔物達の咆哮が、その狂乱を示していた


「ああ、来るぞ、《魔の行軍》が!」


俺達の初めてのダンジョン攻略、それは予想だにしない方向へと進んでいった

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