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《四つ葉》の夢

結論から言うと簡単に餌付けする事は出来た、理由としてはあまり物欲しそうな顔をされると食べづらいからと言ったら申し訳なさそうな顔をしながらも食事に参加してきた


Dランクは探索者としてようやく一人前になったという辺りであり、多少の余裕こそあるもののそこまで贅沢な暮らしは出来ないというレベルである


大手や上位の探索者なら食事にもそれなりに金を掛けられるが、こうして美味い食事にありつけるというのであれば是非ともというのが実際のところだろう


「なんか、本当に悪いな。ポーションの他に飯まで奢って貰って」


「借りが増えたと思うならより働けるだろう?こっちも打算だ。《ウォーム》」


あれから増やした缶詰を瑠璃が作った、物を温めるだけの火属性魔法である《ウォーム》で加熱していく


人肌より少し熱いくらいにするだけの魔法だがこうして食事、特に缶詰飯の時は重宝する


他にも部屋の中の塵を集める風魔法の《クリーン》だとか、地面を固めたり逆に耕したりする《ファーミング》だとか何気に生活に密着した魔法を創っていたりする


最後の一人分を温めて渡してやり、改めて食事を再開するが、その味に《四つ葉》の面々は驚いた様子だった


「うめぇ!?」


「何だこれ、種類も味も、本当に携帯食糧なのか……?」


「これは普段の食事にしてもいいレベル……」


「これ、何処で売ってるのよ!?これなら少し高くついても誰でも飛び付くわよ!」


「すまないがコレはコイツの故郷の品でな。此処までは流通してないんだ」


《四つ葉》の魔法使い、アリアの質問には瑠璃の故郷の品、という事で誤魔化した


別に嘘は言っていない、缶詰の起源はナポレオンが遠征の食糧補給に対して解決策に懸賞をかけて生まれた物だ、発明したのイギリス人だけど


食糧の長期保存、携行、運搬に優れたので民間にも軍用にも広く広まったに過ぎない、とはいえもしもこの世界で缶詰の大量生産を行えるようになれば一種の革命になるな、探索者という職業に人間は元より軍も即座に導入するだろう


今のところ技術革新を起こす気はないが何かの手札として使えるかもな、機械化なんて出来ないから手作業になるとはいえ、蓋ははんだ付けするのが基本だったのだからこの世界でも作れるだろう


後は殺菌処理の方法だが、ウォームの魔法をより高出力化して熱で処分すれば良いか


鉄はこのダンジョンのような鉄製の武器を持つ魔物の居るダンジョンから楽に手に入る、後はブリキとして表面にメッキ処理する為の錫の入手もだな


ナポレオンの時代には缶切りが無かった為に開封に苦労したようだが、俺達の知識なら缶切りも付けてやれば開封の手間も少ない


缶切りの機能をつけたナイフ、いやいっそのこと十徳ナイフを作るか?


フォーク、スプーンも組み込めばセットにして荷物も少ない、持ち込める荷物に限りのある探索者御用達として売れるな


探索者の数が多いストラスフォードを中心にして、保存性の高さから外にも広がっていくだろう


となればコレを売り込むツテがあれば貴族なんかのコネを得る事も出来るか、何しろその価値は計り知れないのだから


ふむ、やはりこの缶詰は有効な手札になるな、もしも互いに協力出来そうな貴族や商会が出来たなら交渉の材料にするか


「カナ、カナ、何か悪い顔をしてるわよ?」


「えっ、そんな顔してたか?」


「してたわよ。何を考えたのか知らないけど、どちらかというと悪巧みって感じの顔だったわね」


「失礼な、ちょっと政治的な事を考えていただけだ」


端的に言えば今後の活動に於いて有益なコネクションを得る為の手段の構築であり、悪巧みと称されるような物ではない


なに、少しばかり王国、ひいてはリリウム教の連中に対して軍事的に、主に補給線の構築に於いて皇国が有利になる事に繋がりそうだとはいえ、探索者全体の益になる事だ、疚しい事は何もないぞ


「二人は随分と仲が良いみたいだが、探索者になって長いのか?いや、言いにくい事なら構わないんだが」


「探索者としてはまだ短いが、知り合って長くはある。それに、今は恋人だ」


「―――ッ!?」


不意討ちみたいな形で恋人と口にしたからか瑠璃が少しむせたようだが事実だからな


《四つ葉》の面々も驚いたような、感心したような表情をしている


「カァー、こんな美人な恋人がいるとか、羨ましいねぇ、全く!」


「それで二人はどういった出会いだったのよ?」


「最初はあまり関心がなかったんだが、一人静かに本を読んでいる姿を見掛けて俺の方から声を掛けたんだ。今思えば一目惚れだな、あれは。だが互いに好意に気付いて付き合うようになったのは最近だ。それまで共に三年過ごした」


お調子者の感じがするフラヴィオが口笛を吹き、アリアやハンナが何度も頷き、パオロはそんな仲間達の様子に苦笑い気味だ


さてと、俺達の事はまあある程度話したし、今度はこっちから訊くか


「そういう四人はどういった経緯でパーティーを組んでるんだ?」


「オレ達は幼馴染なんだ。全員ストラスフォードで生まれ育って、そのまま探索者にな」


「周りの探索者達に憧れた口か?」


「まあな。けど、一番はやっぱり絵本の中の英雄達だな。有名だし、知ってるとは思うが《聖杯(グラール・)騎士団(リッターオルデン)》の物語だ」


知ってるとは思うが、と言われてもこの世界の絵本なんて物を俺は全く読んだりはしていない為、全く分からん


だが《聖杯騎士団》という名前、それを聞いた時に俺は少し懐かしい気持ちになった、別物とは分かっているが《ソード&マジックⅡ》で俺が所属していたクランの名前と同じだからだ


騎士団の名の通り騎士系統の職業についたメンバーが多めで、総勢十二名の小さめのクランだった


クランの目的も名前の通り、ゲーム内に存在していた伝説の回復アイテムである聖杯の探索だ


目的の聖杯はちゃんと見付ける事が出来たのだが、その後で俺は《アサルト・フレーム・ウォー》の方をメインに活動し始めた、クランは残っていたが他の面々も割りと好きに動き始めたから看板だけ残ってた形だ


まあゲーム内では最強の戦闘系クランとして有名だったからな、イベントの時とかはちゃんと集まってたし、メンバーの仲も悪くなく、聖杯の探索という目的を遂げて攻略組からエンジョイ勢に変わったといったところか


なお聖杯は使用回数無限の蘇生・状態異常全回復のアイテムだった、再使用時間という制限があったとはいえ、なんとプレイヤーのみならず死亡すると復活する事のないNPCも対象という性能だったのでかなり重宝した記憶がある


とまあそういったクランが俺の知る《聖杯騎士団》という存在だ、この世界の《聖杯騎士団》に関しては何も知らない


なので常識知らずという事になるのは分かっているが素直に訊ねる事にした、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥とも言うしな


「すまない、俺はあまりそういった事に詳しくなくてな。その《聖杯騎士団》っていうのを説明して貰ってもいいか?」


「おいおい、あんな有名な話を知らないなんて、何処から来たんだ?」


「小さい頃は剣ばかり振っていたからな……」


「それは……なんか悪い事を聞いちまったな」


嘘ではない、小さい頃から親父に剣道やら柔道やら仕込まれたからな、お陰でゲーム内でも動きを応用してみたり出来たから感謝している


だがフラヴィオは子供らしい幼少期を過ごせていなかったと思ったのか謝罪してきた


此方としてもその場しのぎの嘘であるので多少心苦しいが悟られないように続ける


「いや、別に良いさ。そのお陰で戦士としての今の俺があるからな。それで、《聖杯騎士団》の話は?」


「ああ、昔確かに実在した探索者のクランらしくてな。騎士団とは名乗ってるが、実際に何処かの国に仕えていたって話はなく、その在り方が騎士って事で周りから呼ばれたとか、自ら名乗ってたとか、その辺りは本でもまちまちなんだ。ただ、戦女神マルヴィナ様が直に伝えたって話もあって、実態は分かってない事も多いんだ」


ふーむ、それはまた何とも不思議な集団だな、俺達はゲームだったし騎士系統の職業だったから名乗ってたが、国仕えでもないのに騎士団か


それだけ騎士らしい存在だったのかはまだ分からないが、女神の一柱が絡んでるとはな


「とはいえ何処から来たのか、騎士の名前も分かってないんだ。だからそれぞれの騎士は《神剣の聖騎士》とか《絶剣の天騎士》って呼ばれてる。分かっている事といえば聖杯と呼ばれる物を探していたって事だけなんだ。でも聖杯って代物も何かあまり分かってない。死者を生き返らせる霊薬を生み出すとか、どのような怪我や病気も癒やすとか、飲めば不老不死になるとか、色々言われてるが聖杯という代物が見つかった事はない。何度も偽物はあったようだが、本物とされるだけの力を持った物は存在していない」


そもそも聖杯とはイエス・キリストの使った杯だとか、処刑の際にその血を受けた杯だとか、諸説ある


中世辺りにそれらを探す騎士の物語が流行ったらしく、有名な所でいけばアーサー王伝説の騎士ガラハッドだろう


俺達もそれらの物語にあやかった所はあったが、この世界の《聖杯騎士団》も同じらしい


「成る程、似たような話は聞いた事があるが、それが《聖杯騎士団》だったのかもな」


「まあ子供でも知ってる話だからな」


「それで、《聖杯騎士団》は聖杯は見付けたのか?」


「ああ、それも色々だ。見付けたとも、見付けられず旅を続けてるとも、な。見付けた場合、それを戦女神マルヴィナに渡したって話もある。取り敢えずは《聖杯騎士団》に関する話はこんな感じだ。それで、絵本だとそれぞれドラゴン退治や悪魔退治って感じに一冊ごとに別れてるんだ。『聖杯騎士団と霧の谷の怪物』とか『聖杯騎士団と鉄の山の竜』とかな」


「成る程なあ。勉強になった。礼を言う」


「なに、美味い飯の礼だからな。そうそう、ヴィレージュ王国の王都の西にある丘には《聖杯騎士団》の団長とされる《神剣の聖騎士》が使ってた剣が台座に刺さってるらしいぞ。王国の建国王が昔から刺さってた剣を抜いて王国を築いたって話だ。建国王の死した後、また丘に戻したらしい。何度か抜かれては持ち主の死後、台座に戻されていて、今はまだ誰も抜いてないから、興味があるなら行ってみたらどうだ?」


「王国か……まあ、何かの機会があったら行ってみるさ」


パオロ達は知らないだろうが、その王国と敵対気味なんだよな、俺達


正確にはリリウム教の連中なんだが、国の上層部と繋がってるらしいし、あまり行きたくはない


まあもしも探索者組合の依頼とかで行かなければならないなんて事があれば行くだけ行ってみるか、抜ける人間が限られてるって事は聖剣の類いだろうしな


にしても、ヴィレージュ王国の建国王の話はアーサー王みたいだな、あれも王を選ぶ剣を抜いたところから始まった筈だし


「恋人が吸血鬼だから亜人種を差別してる王国には行き辛いよな。オレ達はその内行ってみるつもりだ。やっぱり一度は憧れの剣を見てみたいからな」


「そうか。それならまずは此処から生きて戻らないとな。そろそろ準備は良いか?」


既に《四つ葉》の面々は食事を少し前に終えていた、食後の休憩という意味も含めて《聖杯騎士団》について訊いていたんだが、話も丁度終わったしそろそろボスに挑むのも良いだろう


俺が訊ねると四人は武器を抱えながら頷き、俺達も武器を構えた


恐らくは扉を開けた所で遠距離攻撃が飛んでくるだろうからスキルを使う準備をする


扉の蝶番に手を置き、突入前に一度後ろの全員に声をかける


「行くぞ!」


『応!』


それに威勢の良い返事が返ってくる、それぞれの武器を構え、両開きの扉を開け、俺を先頭にして全員がボスの待つ部屋へと踏み込んだ

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