Dランク探索者パーティー《四つ葉》
近付いてくる男剣士に対して瑠璃の前に立つ形で相対する
滅多にない話ではあるのだがダンジョン内では少ない物資の為に他の探索者を殺して奪う、なんて事例もあったらしいので同じ探索者だからといって無条件に信頼して良い訳ではない
その為、後衛であり、それと関係なしに俺が護るべき対象である瑠璃を庇うような立ち位置になるのは基本である、後ろの方は犬科動物の嗅覚で索敵にも優れたシャルロットに任せた
「なあアンタたち、今上から来たよな?やたらと強くて装備の整ったゴブリンが居なかったか?」
「この楯の持ち主か?この通り、討伐したが」
そのゴブリンとやらは先程戦い、かなりの戦利品を得る事が出来たゴブリン・パラディンのことだろう
どうやら先に戦っていたようだが討伐した証拠に左手に着けている楯を持ち上げてみせると納得したのか、その表情が一気に喜びに変わった
「本当か!?いやあ、助かった!実は四人でも苦戦して、なんとか魔物が入ってこれない此処まで逃げ込んで来たんだ。お陰で帰り道が安全になった」
見れば男の左腕にはレイピアによる負傷なのか、包帯が巻かれておりうっすらと血が滲んでいた
他の三人に視線を移せばこれも同様であり、男剣士程ではないが男斥候の方は肌の露出している部分に多少の切り傷が見られる
後衛の女性陣二人は前衛が守り通したのか無傷だが、体力を消耗していたらしい、表情に疲れが見えた
「倒したばかりだから今なら素通り出来る筈だ。戻るなら早くした方が良い」
ダンジョンに於ける魔物の再出現には多少の時間がある、またゴブリン・パラディンが出るとは言わないが、それに準ずる能力を持った魔物は出てくるだろう
その事を伝えると、男剣士の方は一度首を横に振った後に返す
「それなんだが、一つ提案があるんだ。この後、一緒に階層主を攻略しないか?」
ダンジョンの攻略を大人数で行うのは別に不思議な事ではない、寧ろその方が役割分担を行えて単純な戦力も増える、深い階層だと大手のクランが百人規模で探索を行う事だってある
だがこれが現地で即席のパーティーを結成するとなると話が異なる、まず相手の力量を正しく知らないので連携などの問題が出る
基本的な動きが出来るのであれば腕が良ければ即席でも合わせる事が出来るが、それも出来ないようでは味方の足を引っ張ってしまう事だってあるのだ
ゲームでも野良でパーティーを組んだ時に苦労した覚えがある、ヘイトを取らないタンク、ヘイト管理を無視するアタッカー、回復を上手く回せないヒーラーといった具合に
だから俺は《ソード&マジックⅡ》では防御寄りではあるが攻撃、回復も行える《聖騎士》を選択したのだ、ソロでも進められるだけの腕はあったしな
その後、《聖騎士》に関する特殊条件を満たして更なる上位職に進化したのだが今は置いておこう、まだ《聖騎士》としてのスキルも満足に再現出来ていないのだから考えるだけ無駄だ
暇を見てはスキルの訓練をしているが《剣技》と同じく何かが足りないのか一部スキルが発現しない、自らの想像を発現させるのがスキルというイメージなのだが、どちらかというと資格か何かが足りない気がする
それが何かは検証中ではあるが、まずはパーティーの話に戻ろう
「強敵に対抗する為に数を揃える、それは分かるが別の問題も分かってるよな?」
「ああ、それも含めて相談してるんだが、どうだ?悪い話じゃないだろう?ここの第十層の階層主は数が多ければそれだけ楽になるんだから」
男剣士の話は間違いではない、このダンジョンの第十層に出現するボスはゴブリン・ロードという指揮統率に長けたゴブリンである
通常、ボス部屋には階層主と呼ばれる魔物が単体で出る事が多い、だがゴブリン・ロード等の統率系の魔物の場合は配下を従えた状態になる傾向が強い
とはいえまだ配下は多少は装備が良いゴブリン・ナイトや簡単な魔法を使うゴブリン・メイジといった存在であり、ゴブリンである為に此方も一定の数が居れば大した脅威ではないのも確かだ
とはいえ数は最大で二十は超える為、狙いが分散すればそれだけ個人の負担が減る
正直、ボス部屋に入って即二手に別れそれぞれのパーティーで対応するというだけでも負担は半分程になる、統率系の魔物限定の話だが同盟を結ぶメリットの方が強い
なので問題なのだが、これは戦利品の話だ
当然、パーティーの人数や能力は違う為に貢献度も違ってくるだろう
正直に言えば強いのは俺達だ、冗談抜きにボス部屋に入っても瑠璃の広範囲魔法で殲滅という手が取れてしまう
歩合制なら問題ない、瑠璃が派手に決めるだけで報酬総取りでも問題がないのだから
だが人数で均等に分けるなんて言うなら俺達は本気で戦うのも馬鹿らしい話となる、例え俺達だけで殲滅しても報酬を寄越せとなるからな
彼等も生活が掛かっているのは分かる、食料や飲み水を準備するだけでも金が要る、装備が破損すれば修理に金が要る、怪我をしているから治療の為の薬も必要となるだろう
それでボスの報酬は無し、なんて事になれば彼等は大損だ、俺達みたいにゴブリンのドロップを回収するのもかさ張る武具の類いは捨てているだろうからな
小さくて単価はそれなりな魔核は回収しているだろうが、それだけで賄えるかは少し厳しい
彼等の懐事情は分からないが今の状態を見ても損失はそれなりにある、可能な限り補填したいだろう
まあ、それも今から始める交渉次第というところだが
「仮に協同で事に当たるとして、作戦はどうする?」
「アンタ、戦士だろう?その楯もあるし、前衛を頼む。オレとフラヴィオ、あそこの軽装な男な、ソイツも一緒に前衛をする。女性陣は後方から魔法なんかの遠距離攻撃だ」
「俺のところの狼、シャルロットも前に出れるから追加しといてくれ。女性陣の護りとするならそうするが」
「それじゃあ護衛を頼めるか?」
「分かった。取り分はどうする?」
「人数で、と言いたいが互いに実力が分からないからな。歩合制でどうだ?」
てっきり人数で分けるかと思ったが歩合制ときたか、此方としては丁度いい
作戦は俺達男性陣で前衛、瑠璃達女性陣が後衛、シャルロットがその護衛となり、散開せず一塊となって行動となる
「それでいい。俺は奏多だ。見ての通り剣や槍を扱う戦士だ。こっちの瑠璃、シャルロットとCランク探索者パーティー《流星》を組んでいる」
「瑠璃よ。錬金術師兼魔法使い。よろしく」
「オレはパオロだ。一応はDランク探索者パーティー《四つ葉》のリーダーをやってる。この通り、剣士だ」
パオロと名乗ったこの男は自らの装備を見せる事で剣士という事を主張する
確かに革鎧に片手剣、丸楯を装備していれば剣士としか見えないだろう
「他のメンバーも紹介する。まずはフラヴィオだ」
「やあ、おれはフラヴィオっていうんだ。役割としては盗賊だ。得物はナイフ、普段は宝箱の解錠とか罠の発見、解除をしてる。攻撃力は低いからな、前衛としてはあまり期待し過ぎないでくれよ?」
男斥候、フラヴィオは鎧すらも身につけていない軽装である
その代わり、体に何本かベルトを巻いており、そこにピッキングに使う道具や何らかの中身が詰まっているであろう玉やらを幾つも装備している
恐らくは煙玉のような代物なのだろう、ナイフも装備しているが戦闘では基本的にそういった道具を使っての支援とみた
「次はアリアだ」
「アリア、魔法使いよ。ワタシ達よりランクは上みたいだけど、精々足を引っ張らないようにしてよね」
女魔法使い、アリアはローブに頭頂部がとんがった三角帽子という、明らかに魔女といった服装をしていた
手には大きな杖を持ち、防具の類いは身につけていない事から完全なる後衛である事が分かる
かなり高慢な事を言っているが魔法というのは威力も高く剣や槍では倒すのに苦労する敵でも簡単に倒せるような物もある、魔法を扱えるという点でこのパーティーでは彼女が一番火力があるのだろう、そういった火力自慢で偉ぶるというのは魔法使いではよくある話だと聞く
「アリアがすまない。貴重な魔法使いだから、少しプライドが高いんだ」
「いや、良い。魔法使いならよくある話なんだろう」
ランクが上とはいえ俺の装備が純然たる戦士としての物である事から俺の事を侮っているのだろう、面倒どから俺も魔法を扱えて火力も高い事は言わずにおく、ボス戦での働きで見返してみせればいいからな
「それじゃあ気を取り直して、最後の一人、ハンナだ」
「よろしく……」
最後の一人、女弓兵の方だがその一言だけだった
ハンナという名前だけはパオロの話で分かったが無口なのか、表情を変えることもなく告げるに終わる
この四人、どういった経緯で知り合ったのかは知らないがまともに連携出来ているのだろうか、少なくともDランクに上がれるだけの実力はあるのだと思うが多少の不安を感じてしまう
それでも今回限りとはいえ共闘する仲間である、多少は信頼しなければならない
「それで、いつからボスに挑むんだ?可能なら少しばかり休息をさせて欲しいんだが」
「こっちももう少し休みたかったんだ。良いと思った辺りでもう一回話し合うとしよう」
此処までずっとダンジョンの中を探索してきたのだが、流石に疲労を感じてしまう
直ぐにボスとの戦闘に突入しても勝てるとは思うがやはり安全策はとりたい
幸いにして向こうも多少の休息が必要との事なので軽く食事休憩をさせて貰うとしよう
その前に腰のベルトに吊るしたポーチからポーション瓶を二本取り出しパオロに渡す
「錬金術製の下級ポーションだ。使え」
「良いのか?確かに助かるが、階層主との戦闘前に……」
「それを言うなら戦闘前だからこそ十全に準備を整えるべきだ。なに、その分働いて返してくれればいい。それに、下級ポーションなら材料もそこまで掛からんからな」
先程、瑠璃が錬金術師でもある事は自己紹介で伝えてある、此処に来るまでの道中、宝箱の中に幾らか薬草が入っていたから下級ポーション二本程度なら全く困らん
それなら怪我を完全に回復させて前衛をより堅牢にした方が良い、後衛が危険に晒される可能性が低くなればより勝率は高まる
瑠璃のお陰でポーションの調達は容易だと理解したのだろう、パオロは一度頭を下げるとフラヴィオと共にポーションを飲んだ
やがて傷が癒えたのか腕を回したりして調子を確かめているのを余所に、俺達も食事を済ませるとしよう
左手首の端末を起動、《簡易ショップ》の能力で食料品の項目の中から幾つかの缶詰を選択、後はそれを瑠璃の腰のポーチから取り出したかのように見せ掛けて床に敷いたシートの上に並べる
シートはそもそも瑠璃のポーチの中に入っていた、布素材として認識されているらしい
そして同じく鉄素材という認識なのか、鉄製のフォークとスプーンをポーチから二組取り出して片方が俺に渡される
今回の缶詰はバスクチキンをメインとしてビスケットやアスパラガスのポタージュ等がつくフランス軍レーションの一つだ
フランス・スペイン国境地帯のバスクに伝わる料理であり、鶏肉と野菜のトマトスープ煮である
ビスケットは塩味や甘いものの二種類あるが、俺は塩味で瑠璃が甘い方を選択する
他には溶けたチーズの缶詰やコーヒーがあるがどれも美味い、レーションの味に関してはフランス軍が一番である
AFWに於いて食料品は様々だが、特徴としてオリジナル以外にも各国軍監修のレーションセットがある
カロリー重視で一食最大7500キロカロリーという耳を疑うようなノルウェーを始めとした北欧のレーション、食事というよりティータイム特化のイギリス、米・漬物・副食といった組み合わせで選べる日本など、様々だ
シャルロットにはジャーキーを何本か与えて、俺達も食べるとしよう
と、視線を感じたので顔を向ければパオロ達がじっと此方を見ていた
普通の探索者ならダンジョンに潜る際の食料は固い黒パンや塩味しかしない上に固い干し肉などになるだろうが、俺達の食料事情は主に俺の能力で恵まれている
ダンジョンの中で味や栄養のある食事というのは、それこそ全ての探索者の夢と言っても過言ではない、それを体現した俺達の食事はパオロ達にとって文字通り垂涎ものであろう
人というのは余程の偏屈でない限り、他の誰かといて黙ったまま食事をするという事はない
それに美味いものを食べれば自然と口も弛む、後はこの食事を四人にも勧めて共に食事をしつつ、色々と情報をやり取りする事も出来るだろう
餌付けとも言うが、さっきのポーションといいこれで相手の心象はかなり良くなるだろうな




