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陽葵の活動 2

陽葵はまず身を隠した状態でスキルを発動する


「さて、穏行(おんぎょう)発動っと。《前》」


そう唱えると陽葵は左手を握り右の手を寄り添わせた後、握っている左手の中へと更に小さく唱える


「オン・アニチヤ・マリシエイ・ソワカ」


次の瞬間、陽葵の姿が陽炎のように揺らぐと一瞬の後にその姿が周囲からはかき消えた


陽葵が唱えたのは陽炎が神格化された存在である摩利支天の真言である


陽炎は実体がない、その為に触れられず捉えられる事はない、陽葵が使用したスキルはその特性を己に反映させる術であった


(《ソード&マジックⅡ》に於いて槍をメイン武器にしているPK(プレイヤーキラー)、ウチのアバターである《暗殺姫ゾンネ・ブルーメ》が保有しているスキル、異世界に来ても全く同じ、もしくはそれ以上の能力を持って使えるのは僥倖ッスね)


実際のところ、陽葵の使っているスキルは殆んどがゲーム時の物よりも性能や燃費が格段に上昇していた


先程の隠密系のスキルである《太陽ノ幻影》もゲームでは隠れられる時間は最大でも五分、再使用に二十分と掛かるスキルではあるが魔力量に応じて発動時間が変化し、更には陽葵の魔力でも一時間は保っていられるという魔力消費、そして途中でスキルを解除したとしても直ぐに再使用可能である等の変化があったのである


ただし走ったり跳ねたりと急な動きを取れば術は解けてしまう為、陽葵は歩いて宰相の元に近付く


また姿は消えていても音は消せない為、併用して音を殆んど消す《忍び足》というスキルも使用していた


余程派手な音を立てなければ気付かれる事はなく、またゲーム内では《太陽ノ幻影》との併用は不可能なスキルだったのが現在は可能となっている


試しに宰相の前を歩いたり、おちょくるような動作をしてみてり、果ては中指を立ててみたりと、様々な方法で確認してみるが宰相は気付く様子はなかった


その為、陽葵は自身の穏行が上手く発動しているのを確認し、宰相の後を尾行する


やがて宰相は中庭の中央に設置されたベンチに腰掛ける、そこには大きな木が生えており陽の光を広がった枝葉が遮り、風が揺らす草木の音が心地良い中庭でも一番の場所だった


これは単に休憩しに来ただけだろうか、と陽葵が考えた時、何処からか一人の男が現れる


全身を黒装束に包んだその男は無言で宰相に近付くと懐から一枚の折り畳まれた紙を取り出すとそれを手渡す


渡された紙に一通り目を通した後、宰相は口を開いた


「あの男の足取りは分かった。皇国で探索者(シーカー)となったか」


「ハッ、現在のランクはCとなり、ダンジョンに潜っているとの事です」


(探索者……確か、ゲームなんかに於ける冒険者的な職業ッスね。まあセンパイの腕なら妥当な選択ってところッスか)


街に出ていた時に何か金策がないかと探したりしていたので陽葵も探索者組合という存在については知っていた


とはいえ登録しても最初に請けられる仕事は薬草の採取等の報酬も安い仕事ばかりであり、ランクを上げるて高額の報酬を手に入れられるようになるまでが長く、城の人間に気付かれる可能性が高い事から諦めている


遠征等に出た際に魔核等をちょろまかしていたりもするのだが、それでもゴブリン等から得られるサイズでは小銭にしかならない


その為、未だに動き出す事が出来ないのだが、取り敢えず奏多の現状が知れたのは陽葵にとって良い情報であった


「そうか。勇者と共に召喚されたにも関わらず、勇者の称号を持たぬ男。だが問題はそこではない。勇者ではない男が勇者よりも遥かに強い、それが問題なのだ」


「召喚されて間もない、実戦を経験した事がない筈にも関わらず教会騎士を圧倒、神官達の魔法にも即座に対応し、更には高い身体能力による常人離れした動き。何よりも全てのステータスで上回っていた勇者キリュウの撃破と、その後に現れた謎の《(フェーロ・)騎兵(カヴァリエーレ)》。実際に見ていなければ到底信じられない内容ですな」


(そりゃあ、センパイは剣と魔法のファンタジーなゲームで対人、対モンスターと問わずにトップの実力ッスから、身体能力が加われば当然ッスよ。それにしてもあの男、あの時は見掛けなかったのに、見ていたって事は何処かで潜んでいたって事ッスかね?)


スキルで姿や音を消し、更には木の裏に隠れる形で話を盗み聞きしている陽葵は隠れるまでに見た黒装束の男の話を気に掛ける


今はレベルが上がったから分からないが、レベルが低い状態であれば気付かなかったのかもしれないと仮定するが、今のところ検証が出来ないので脇に置いた


「何にせよ、可能ならば取り込みたいところだ」


「現状、教会の連中が邪魔かと。あの男は共に居る真祖の女と恋仲のようで、魔族排斥を謳う教会とは決して相容れません」


「いざとなれば教会は切り捨てる方が良いな。女では奴は釣れまい。ならば財、名声、何よりも恋仲というその女の利益となるような条件を揃えた方が効果的だろう」


「承知致しました。では、今の内から教会の弱味を探りましょう。それと、対抗派閥の貴族達に対しては如何されますか?」


「王族派に関しては今まで通り捨て置け。王という柱がない今、大した纏まりはない。軍派閥に関しても同じだ。可能なら勢力を削げるよう動け。教会はある程度は自由に動かせておけ。奴等の目的は最終的には国の中枢に入り込む事であろうが、帝国の惨状を見れば手は打てる。今は好きにさせておけ」


「ハッ、承知致しました」


「分かったのであれば行け。私の執務室より盗聴の危険はないとはいえ、長く部屋を空ければ怪しまれるからな」


報告と指示が終わったのか退席するように告げる宰相の声に黒装束の男が立ち去ろうとする


だが宰相から様々な情報を直接得る事が出来てほくそ笑んでいた陽葵が隠れている木、そこに唐突にナイフが突き立った


ナイフの持ち主は当然、黒装束の男である


「まさか今の今まで気付かなかったとは。出てくるが良い、そこに居る事は分かっている」


「何!?まさか、他の間者か!?」


僅かな気の弛みを感じ取ったのか、それとも時間経過で穏行が甘くなっていたのか、理由は定かではないが陽葵は自身の隠蔽が見破られた事を悟った


しかし陽葵はナイフが木に刺さった一瞬だけ身を硬直させると武器の召喚の準備をし、タイミングを見計らい、バレたとして、この場で素早く二人を暗殺して離脱する事を考える


(本職の裏の人間の腕を舐めてたッスね。このままやり合って倒せるなら問題ないッスけど、顔がバレて逃げられたりしたら厄介ッスよ。少なくとも宰相の方はあまりウチ等に知られたくない王国の内情を聞かれたッスからね)


実力の未知数な黒装束の男という不確定要素はあるが木の陰から飛び出すと同時に武器を召喚、隠し玉にしている初見殺しの手札を切る事も視野に心を落ち着かせようとしたその時、頭上で音が聞こえ陽葵は身構えた


だがそれは美しい虹色の羽を持つ一羽の鳥であり、空へと羽ばたいていく


「……虹色鳥か。驚かせおって」


「確かに警戒心が高く、気配を消す事が上手い鳥ですな」


「だが吉兆の印でもある。これは我が野望が成就するという天の思し召しかもしれぬな」


「閣下の悲願成就の為、私も全力を尽くさせて頂きます」


「うむ、では行け。そして成果にてその忠誠を証明してみせよ」


「ハッ、仰せのままに」


その鳥は虹色鳥と呼ばれ、この世界では希少な鳥であり滅多に人前に姿を現さない鳥であった


虹色をした美しき羽は勿論、その姿を目にしただけで幸運が訪れるとされている


熟練の狩人が森を探しても気配を消す事に優れた能力を持つ虹色鳥を見つける事は叶わない


そんな虹色鳥の特性から宰相と黒装束の男は陽葵の気配を虹色鳥のものだと誤認し、二人は去っていった


「………………ぷはぁ、心臓に悪すぎるッスよぉ」


そして二人が去ってから数分、可能な限り気配を消す事だけに集中していた陽葵は息を吐き出すとその場に座り込んだ


ゲームでの技能を扱えるとはいえ、しくじれば死の危険もある行為に今さらながら気付き、緊張の糸が切れた結果である


「あの鳥には感謝ッスね。なんか幸運を呼ぶみたいな事を言ってたッスけど、本当に運が良かったッス。とはいえ、あの男はかなり厄介そうッスねえ……計画を修正しないと―――」


だが座り込み自らの計画に穴があった事を痛感した陽葵は次の瞬間、頭上から降りてきた何かに対して素早く反応し、木の幹から離れた


前方へと地面を転がりながらも武器である槍を召喚、体勢を建て直しつつ先程まで居た場所を見据えて構えるが、降りてきた物を見て武器を収める


「縄梯子、上に登ってこいってことッスね」


誰が降ろしたのか、それは分からないが宰相達がいなくなったのを見計らって降ろしたのであれば目的は自分である事は明白、だが全く気付かれていなかった筈の自らの存在を示したという事は少なくとも自分に危害を加える目的ではないと判断した陽葵は一度周囲を確認してから縄梯子を登っていく


そして大きな木の幹をそれなりの高さまで登ったところで終わりが見えてきた


一応は警戒しつつ縄梯子を登り終えた陽葵だが、そこはそれなりに広い部屋のような作りになっていた


しかし床も壁も天井も、それは全て生きた木であり、それらが不自然に組み合わせって作られているのが奇妙であった


そして、その部屋の中央で陽葵を待っていたのは意外な人物だった


「こうして他の人がいない状況でお会いするのは初めてですね、勇者エンドウ様」


「まさか、お姫様が居るとは思わなかったッスね。いや、です」


「楽な話し方で結構ですよ。(わたくし)も本来此処には居ない筈の人間ですので」


そう、そこに居たのはヴィレージュ王国の第一王女、アウロラ・ヴィレージュだったのだ


「ふーん、そうッスか。こんな秘密基地みたいな場所があるなんて、想像してたお姫様とは違うみたいッスね」


「ええ、私って普段は大人しく見せていて本当は結構なお転婆娘ですよ。此処にも、こっそりと持ち出した様々な魔法道具を隠してますしね」


そう言ったアウロラの指し示す方には幾つかの道具が見えた


大きな姿見、儀礼用に見える装飾過多なレイピア、フレームに細かな彫刻が施された眼鏡など、一見すると何に使うか分からないが、まだ魔力関連の能力に疎い陽葵であっても魔力を感じ取れる程の力を秘めている事は分かった


「この木もまた魔法道具とも言えますね。かつてダンジョンより発見された《世界樹の種》。未だ成長途中の百年程しか経っていない木ですが、やがて魔力を多分に含んだ素材を採取可能になるでしょう」


「この部屋も、そうやって作ったッスか?」


「いいえ、それは私が木にお願いしたのです。隠れられる場所を作って欲しいと。この部屋は木がそれに応えてくれたから出来たのです」


その時、大きな羽音が聞こえた為に陽葵は横目で確認する


部屋の片面にのみ設けられた窓のような小さな穴、そこから先程も見た虹色鳥が姿を現した


「この鳥、さっきの」


「ご苦労様です、ルチア。お礼のイチゴですよ」


そしてその鳥は部屋の中に入ると定位置とばかりに設置されていた止まり木に降り立つ


そんな虹色鳥にアウロラは用意していたバスケットに入っていた小振りなイチゴを与えていく


手渡しで与えられたそれを一粒ずつ飲み込んでいくルチアと呼ばれた虹色鳥、その姿は少なくとも先程の宰相達が言っていた警戒心の強い鳥という話とはかけ離れて見えていた


「その鳥、さっきタイミング良く現れたッスけど、お姫様の差し金って事で合ってるッスか?」


「はい、合っていますよ。尤も、命令したとかではなく、ルチアにお願いしただけですけどね」


一通りイチゴを与え終えたのか、バスケットを部屋の中のテーブルに置いたアウロラに対し、陽葵は気になっていた事を訊ねる


陽葵も初めから予想はついていたが、先程の宰相達を欺くよう絶妙なタイミングで現れたのはやはりアウロラが仕組んだ事らしい


となればアウロラは陽葵の穏行にも、少なくとも能力の高そうな黒装束の男よりも先に気付いていた事になる


「そしてエンドウ様をお呼びした理由をお話させて頂きます。お付き合い頂けますよね?」


その声は謁見の間などで聞いた声と全く同じなのだが妙に迫力があった為に、断ったとして、何をされるのか分からない恐さがある


にっこりと可愛らしく微笑んだアウロラだが、陽葵には悪魔が微笑んでいるように見えていた

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