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邪人の迷宮 3 / 陽葵の活動

あれからゴブリンを狩り続けダンジョンの内部を探索していた


時には瑠璃が魔法を使い、時にはシャルロットがゴブリンに飛び掛かりその喉笛を噛み千切りと、俺だけが戦闘を行っている訳ではない


特に瑠璃は以前のクリスとの模擬戦から魔法の威力を研究、今ではどれだけ必要な魔力を削減出来るか試行錯誤している


それはゴブリンを倒せるのに必要最低限の魔力を注ぎ魔法で倒している事からも良く分かる


そうしてダンジョンを進んでいく中、俺達は行き止まりと思っていた場所で宝箱を見付けたのだった


女神が造り出したダンジョンに出現する探索者へのご褒美として存在する宝箱は一定の周期でダンジョン内にランダムで出現するらしい


見付けたのは偶然であり、うっかりバイザーの地図を見ずに角を曲がった先にあった行き止まり、その壁のところに鎮座していた


木製のそれはゲーム等でもよく見掛ける外見の物だった


「罠とかは無さそうね。カギも掛かってないみたいだし、開けられると思うわよ」


「じゃあ早速開けてみるか。ダンジョン初の宝箱だな」


瑠璃の持つ《看破の魔眼》によりトラップの有無を確認、ミミックといった擬態しているモンスターでもない事を確認した俺達はそれぞれ箱の左右を持って一緒に開いた


中からは十本程で束ねられた《滋養草》が出てきた


「……確かに使いはするのよね。使いは」


「……まあ、第一層なんてこんなものか」


傷を治す回復ポーションの材料となる《滋養草》は確かに瑠璃がポーションの作成に使う薬草ではある


だが外の森に入ればそれなりによく見つかる素材だけに、ダンジョンで手に入れても得をしたという気持ちは薄かった


もっと深い場所ならより希少な素材も手に入るだろう、中には武具も出る事があるというからそちらに期待だな


とはいえ主に見付かるのは行き止まりになっている場所らしいから今後は行き止まりだったとしてもチェックしなければ


「と、またゴブリンか」


宝箱を開けて元の通路に戻るとゴブリン達が出現していた


今度のはナイフが一匹、槍が二匹、剣が三匹と少し数が多くなっているが問題ない、腰のベルトに簡易的な鞘を造り、そこに備えていたナイフを投擲し槍持ち二匹の喉に突き立てる


悲鳴を上げてゴブリンが塵と消える間にも接近、ゴブリンが落とした短めの槍を一本拾い上げて更に投擲、剣とナイフ持ちをそれぞれ一匹ずつ纏めて串刺しにして倒した後で腰から抜刀、星剣エトワールを二度振るう事で残った剣持ち二匹をその手に持つ剣ごと両断した


全てのゴブリンを倒した後、仕掛ける際に地面に置いておいた聖槍アキレウスを回収、ゴブリンからのドロップ品も同じく回収していく


武器に関しては現状不自由していないがナイフのみ回収していく


槍もナイフより威力や距離が出るだけに投擲用に回収しても良いが《アイテムインベントリ》に余裕がないので断念する、ナイフの方が数を確保出来て閉所でも使えるからそちらが優先だ


一通り回収を終えた後、周囲を警戒していた瑠璃へと声を掛ける


「そろそろ下への道を探すか?」


「そうね、チュートリアルは十分ってところじゃないかしら」


「ならマップを確認するか。今のところはこんな具合だ」


左手の端末を操作、現在埋まっている分のマップを空中に投影する


ずっと歩き続けていただけにそれなりの場所が埋まっているが未だに全てではなく、当然ながら二層への階段と見付かっていない


他の探索者達と出会わない事から俺達が通っているのは階段に通じないのだと思うが、それなら残っている地図の空欄となっている場所を目指せば良いだけだ


「多分だが、この道から先の方にあると思う。また少し歩きだ」


「少し休憩する?今までの戦闘も殆んどアンタが動いてたわよね?」


「いや、殲滅まで一分も掛かってないから必要ない。それに、セーフティエリアでなければ満足に休めないだろうしな」


セーフティエリアとは、ダンジョンに存在する空間の事で各階層の階段部分と、広大な迷宮の中に点在している


その特徴は一言で言えばダンジョン内のモンスターに襲われないという事だ


ダンジョンとは探索者等が力をつける為に戦女神マルヴィナが創ったとされる、無限にモンスターが沸き続けるだけに延々と連戦していられる訳ではないので救済措置といった形で設けられているのだ


その為、此処では休憩するにもモンスターは警戒せずに済むようになる、セーフティエリアには基本的にモンスターは入ってこれず、そもそも近くに出現する事は少ない


中には深めのセーフティエリアまで潜ってポーション等の消耗品を割高で売りに来る行商人もいるらしい、ダンジョンの深い場所では回復手段が生命線となるだけに割高でも売れるらしいからな


「ま、何にせよ下を目指さないとな。行こうか」


「そうね。何処まで続くか分からないけど、行ける場所まで行きましょう」


話している内にまた出現したゴブリン達を瑠璃と共に手早く片付けてから探索を再開、マップを確認してまだ探索していなかったルートを重点的に歩いていった


そして一時間が経った頃、俺達の前には他のゴブリンに比べて明らかに体格の良い個体が巨大な棍棒を持って待ち構えていた


「なに、あれ?」


「ホブゴブリンだな。野生なら百匹くらいに一匹の確率で生まれる変異種らしい。通常個体より体格、筋力なんかで優れてる」


野生で今までに見た事が無かったが、一般人ならともかく駆け出しの探索者でも勝てる相手だ


「数が揃っていればいざ知らず、単独でどうにかなる訳がないわな」


しかもゴブリンの強みである数の暴力もなく、ただ一匹で出現したホブゴブリンは俺に一撃で斬り伏せられ塵になって消えていく


落としたのは他のゴブリンが持っている物より大きめの魔核と棍棒、そしてダンジョン金貨が五枚だった


一応は棍棒を除いてそれらも拾うが、それよりも注目すべきはホブゴブリンが立っていた通路の奥だ


「あっ、これって階段よね!?次の階層に行けるってこと!?」


「だな、行ってみるぞ」


マップを確認しても階段を示すマークになっている為、罠が近くにないか警戒しつつ進む


辿り着くとそこは確かに階段であり、二層へと続く道で間違いはなかった


そこを降りていくと、セーフティエリアとなっている場所には簡単な野営を行える設備が揃っている


流石にまだ浅い場所だからか他に休憩している探索者の姿は無いが、確かに魔物が襲ってくる心配はなさそうだ


四角い部屋の四隅には緑色のクリスタルのような物が埋め込まれており、一説にはこのクリスタルが魔物除けのような作用を起こしているらしい


俺達も一先ずは休憩と、手近に置いてあった椅子に腰掛ける


探索者組合や善意の人間が持ってきた物らしく自由に使って良いらしい


他にも竈が設置されている、薪は置いてないが魔法があるのだ、魔物を倒せば触媒になる魔核も手に入る、それらを利用すれば簡単な物とはいえ燃料が出来るだろう


後は隅の方に設置されている小屋だが、あれはトイレだな


中は簡単な造りの足場と穴だ、穴の底にはスライムが居るらしく排泄物を分解してくれるのだとか


スライムは基本的に何処にでもいるらしく、街中の側溝に居たのを見た事もあるが、街中で見掛けるようなものは特に害はない


スライムは基本的に何でも食べる、というか吸収する


だが積極的に狩りをするかといえばそうではなく、取り敢えず触れた生き物以外の有機物は吸収するといった感じだ


本当に極稀に積極的な個体が居て、それらが食べた物で変化、様々な個体に変化したりすると人間も襲う事がある、といった具合だ


まあ何でも吸収するという性質を利用してゴミや排泄物の処理を任せているのだ、彼等にはそれらは全て同じ食料であるので互いに悪い事ではないのだろう


「取り敢えず休憩ね。何か食べる?」


「う~ん、昼食には少し早いが、先を考えると中途半端な時間になりそうだな。軽食で頼めるか?」


「そうね、ちょっと考えてみるわ」


「おう、必要な物があったら言ってくれ。《簡易ショップ》で揃えるから」


まあ一先ずは此処で休憩、それから更に下層を目指していこう



奏多達がダンジョンを攻略している頃、陽葵はヴィレージュ王国の王城の中庭で考え事をしていた


休暇を与えられた後、街に出てみたり城の中を散策したりと情報を集めようと活動していたのだが、その情報をメモに日本語で書いて纏めていたのだ


場所に関しては単に部屋に閉じ籠るより開放的な場所の方が良いというだけの気分であり、例えメモの中身を見られた所で書かれた言語は日本語、城の人間に解読出来る筈もなく、他の勇者であっても書かれた内容に気付いてしまえばヴィレージュ王国という国に疑問を持つだろう情報が纏められている


そして自分で纏めた情報を見て、改めて彼女は考察を行う


(城の禁書庫にあった本によれば元からあった信仰はウチ等を召喚したリリウム教の女神リリウムを含む十柱の女神ッスね。この国にリリウム教のみの教えが広まったのは約十年前、王国の周辺では南のエクレニウス皇国の除けばそれより早くに広まっていたから、一神教になった信仰は北の方から生まれたと見るべきッスね)


王都に帰還してから与えられた三日間の休暇の内、陽葵もまた初日は他の勇者達のように街に出ていたりした


しかし単に遊んでいるだけでなく隠密系のスキルの効果を確認、また住人の世間話に耳を傾けたりして城の中では得られない一般市民の声を聞いていたりもした


そして今日、普段は入れない城の図書室の禁書庫に忍び込むという手段を取り、走り書きで記録した内容等を改めて清書して纏めていたのだ


「ふーむ、こうして見ると王国の方針が劇的に変化しているのは十年前ッスね。それまでは普通に国を納めていた王が何故突然になって国教を変えて亜人種族に対する弾圧を行う新生リリウム教に傾倒したのか、それが謎ッス。それまで何も亜人種族絡みの大きな事件なんて調べる限りは無かったのに、変な話ッスね」


これがリリウム教の神官が講義の際に言っていた魔族の『魔族至上主義』を掲げて人間に対してテロ活動があった、等のように分かり易い事件はなく、むしろエクレニウス皇国と同じく魔族にも好意的な国だった王国はリリウム教を国教にして教会が亜人種族の迫害を行うようになってからの方がテロ被害に遭う件数は増えている


国王が呪いを掛けられたというのも今から三年程前であり、これでは単に王国が魔族を始めとする亜人種族を迫害した自業自得に思える


更には住人の件だ、城下町では未だに活気があり住人達の雰囲気も明るく、とても魔族により滅亡の危機に瀕している等とは思えなかった


あの宰相が話を盛っていたにしても違い過ぎる、それに街へ出る事を許可しては自らが過剰に危機感を煽るような話をしていた事も勘づかれる恐れがあるにも関わらず外出の許可を出した事とも矛盾する


だがそう考えて陽葵はハッとした


(この国や世界についての教育なんかを担当していたのは宰相、ウチ等への休暇を与えたのは王太子殿下。二人はそれぞれ別の目的がある、少なくとも王国の上層部も一枚岩じゃないって事ッスか?)


本来、あの宰相は勇者達を時が来るまでは極力城の外に出そうとはしていなかったのではないか、だが王太子は単なる善意か何らかの意図があったのかは分からないが外出の許可を与えてしまった


流石に王太子が言った事を宰相が止める事は出来ない、遠征に出て疲労していた勇者達を労う為に城からの外出許可を与えたのだ、それを取り消せるだけの理由はなく、無理に言えば勇者達からの反発が出るのは必至だ


「二つの勢力があるとして余計な何かを画策しているのは宰相で間違いないッスね。宰相の狙い、何を欲しているかで今後の手段も変わる。少なくともウチ等を召喚したって事は間違いなく戦争なんかの武力を用いた手段がある。でも目的は?戦争をしたりして得られる利益、それを調べれば宰相の動きはある程度は予想が―――」


次の瞬間、陽葵は身を伏せた、誰かがこの中庭に入ってくるのに気付いたからである


中庭は西洋庭園であり、花の生け垣も多く隠れる場所には困らない


とはいえ見付かっても日光浴をしていたとでも言えば怪しまれる事はない、だが色々と嗅ぎ回っているという自らの状況から自然とそうなったのだ


その事に陽葵自身も気付いたが陰から窺って中庭に現れたのは陽葵が本腰を入れて探ろうとしていた宰相であった為に隠れ続ける事を選択する


ろくな情報は得られないかもしれないが宰相の事を探るのだ、自分達勇者の前では取り繕っているであろう宰相の本性を暴く、その為に陽葵は多少の危険を侵すだけの価値はある、そう考えたのだった

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