邪人の迷宮 2
ダンジョンの入り口というのは幾つもの種類がある
洞窟型、遺跡型といった目に見えて入り口と分かるような物もあれば、森の中に存在する道の途中からダンジョンへと変化していた、といった一見すると分からないような物まで様々だ
俺達が今いる《邪人の迷宮》はまだ分かりやすい、石材を組み合わせて入り口が作られ、そこから地下に降りていく形になっている
そして門の前だが、そこには統一された装備に身を包んだ兵士が立っている
彼等は街の衛兵と同じでストラスフォード周辺を治める領主の配下だ
役割はダンジョンを出入りする人間の管理、台帳をつけて戻らない人間がいれば探索者組合へと報告が行ったりする
尤も、事前に予定を伝えてその日数の三倍を過ぎた辺りで報告となるから余程運が良くない限りは死亡しているのだが
そしてもう一つの役割としてはダンジョンそのものの監視だ
攻略者が居なければ内部の増え続けた魔物を一気に放出するスタンピードという現象は場合によっては大規模災害並みの被害をもたらす事がある
しかしそれには兆候があり、ダンジョンの中から魔物が一匹二匹出て来はじめたらスタンピードの前触れだ、攻略者が多ければそもそも魔物は外に出てくる事はない
スタンピードが起きるとまずダンジョン内部の魔物がダンジョン入り口の周囲に集まり始める
そこから集まった全ての魔物が一定の範囲(出現する魔物に応じて変化する)に存在する中で一番の人口密集地域に向けて真っ直ぐに侵攻する
単体ならそこまで強くなくとも数百、場合によっては数千数万の数で押し寄せるのだからもし大都市の城壁等が破られたら何が起きるのかは想像に難くないだろう
とはいえダンジョンがある事のメリットは大きい為、こうして領主が兵士を配置してコントロールさえ出来れば大きな利益を得られるのだ
此処にも兵士達が滞在する為の宿舎が設けられており、万が一の時にはストラスフォードへと連絡を飛ばす為の狼煙台がある、俺達の前には数組の探索者パーティーが居るからスタンピードの心配はなさそうだけどな
「次!」
おっと、俺達の番が来たか
ダンジョン入り口前に造られた小屋の中には椅子に座り台帳を広げている兵士の姿があった
その受付をしている兵士に対し俺達は探索者組合が登録時に発行している探索者カードを提示する
「よし、名前は確認した。探索期間の予定は?」
「取り敢えず三日、十層まで予定している」
「ふむ。聞いた事のないパーティー名だが、此処は初めてか?」
「昇級試験を飛び級したばかりだから初めてだな」
「そうか。飛び級という事は優秀だと思うが念のための気を付けろ。試験と実戦は別だ」
「ああ、ありがとう」
通って良いぞ、と言われて俺達はダンジョンへと入っていく
いよいよ初のダンジョンだ、どんな冒険が待ち構えているのかと思うと期待に胸が満ちてくる
地下に続く階段を下りてまずは第一層に立つ
石造りの通路、名前の通り迷宮となっている訳だが通路は明るい
ダンジョンによっては光源を必要とするタイプもあるが《邪人の迷宮》はご丁寧に一定間隔で光源が設置されている
丸いランプのような物が壁の高い位置に設置されているのだ、迷宮という人工的な物をモチーフにしてあるからか、置いてあるらしい
これが洞窟型とかなら松明なり魔法なりで照らさなければならないのだが、多少薄暗く感じる程度で問題はないな
「さて、取り敢えずは適当に進んでみるか」
「そうね。初心者に優しいダンジョンって話だし、そうそう即死するような事はないと思うわ」
初心者に優しいダンジョン、と言われるとまるでゲームのように感じられるが、実際に此処は簡単に攻略出来るダンジョンとして有名だ
光源があって不意打ちの危険性は少ない、石造りと舗装されている為に足場も悪くない、天井は高く通路も広めで屋内にしては立ち回り易い、比較的浅い場所なら悪辣な罠などは存在しない、出現する魔物は十層までなら全てゴブリンである
これらの点で例えダンジョンに挑み始めたばかりの探索者であっても死亡するなんて事は滅多にないらしいのだ
俺達が最初に此処を目指したのもそれが理由なんだが、取り敢えずは進めるだけ進んでみよう
因みに地図だが俺のバイザーに表示されている、ダンジョンだと何故か進んだ事のある場所しか表記されないようだがこれで迷うなんて事はないだろう
迷宮というだけあって入って暫く続いた真っ直ぐの通路から一気に十字路になったが正解は分からないんだ、適当に進むとしよう
「どっちに行くのが良いと思う?」
「ルートが分からないから適当よね?棒倒しでもすれば良いかしら?」
運任せというのは悪くない、ヒントが無い以上は手探りだからな
なお、此処は探索され尽くしたダンジョンであり、十層までの地図なんて二束三文で売られていたりするのだが、俺達は冒険しているという感覚を味わいたいが為だけに地図を購入していない
これが普通の探索者なら地図の購入は必須なんだが、今回は探索じゃなくて腕試しが目的だからな、まだ先へ先へと進むつもりはない
そして行き先だが、此処は嗅覚に任せるか
「シャルロット、獲物が居そうな場所は分かるか?」
嗅覚に優れたシャルロットなら魔物の匂いを探り当ててくれるんじゃないかと思い訊ねるが、思いっきりそっぽを向かれた
「シャルロット、お願い出来るかしら?」
「ワンッ!」
「俺との態度の差が……」
「まあ、仕方ないわよ。シャルロットって基本的に私の言う事しか聞いてくれないんだから」
まあ瑠璃の言う事を聞いてくれるならいいか、ふわふわした尻尾とかに触れてみたいが、何処を触ろうとしても威嚇してくるからな、コイツ
シャルロットは暫く周囲の匂いを嗅ぎ分けているようだったが、やがて左の通路の方を向いて吠える
「そっちに何かいるみたいね。少し遠いから数までは分からないらしいわ」
「成る程、なら行ってみれば分かるか」
そうして俺達は歩き始めた、罠らしき物も見当たらない中、遠目に動く物が見えた
緑色の肌をした小さな子供と同じ大きさの人型、ゴブリンだ
「ゴブリン三、装備全て短剣」
「ダンジョン初の敵ね」
森の中などでも見掛ける事がある最弱の魔物、ゴブリン
遊んでいるらしく、まだ此方に気付いてはいないようだから仕掛けるなら今か
「まず俺が行く、手出しは必要ない」
「そう、じゃあ頑張って」
「ああ!」
聖槍アキレウスを構え一気に駆け出す
今回は外のゴブリンとダンジョンのゴブリンとの比較もあるからわざと足音を大きめにして速度も軽くで接近する
当然、ゴブリン達も俺の方を向いて接近されている事に気付くがその動きは鈍い
先制の一撃としてまずは中央に居るゴブリンに突きを繰り出すと、そのゴブリンは槍の穂先を受けた上半身を破裂させて絶命した
「ムッ、威力が予想よりも高かったか」
体感では感じられずともアダマス製の武器は全てアダマンタイトと同じ重量らしい
魔法の金属だから俺には大した重量には思えないが、そんな重量に圧倒的な速度、更には全身の筋肉を連動させて放った突きという一撃がゴブリンを刺し貫くのではなく破裂させるだけの威力を叩き出すには十分だった訳か
「ゴブッ!?」
「二つ、三つ!」
だが動きは止めない、槍を回転させてそれぞれ穂先と石突き辺りの柄で左右に残った二匹のゴブリンの頭部を打つ
それにより首が千切れ飛んだゴブリンの体は力を失い、地面に倒れると同時に黒い靄となって消えた
その後にはそれぞれ金貨が一枚ずつと魔核、そしてゴブリン達が持っていた短剣が落ちていた
「圧勝だったわね」
「そうだな、特に外の個体との差異は感じられないか。食事なんかを必要としないかわり外の個体より総じて好戦的って話だったんだがな」
まあ検証するより早く倒してしまったというのはあるがゴブリンだしな、大きな差は無いだろう
「それに、これがダンジョンの魔物のドロップなんだな」
「お金や装備、まんまゲームみたいな場所よね」
ダンジョンの魔物を倒せば魔物に応じて倒した後にアイテムが残るようになっている
まず魔物であれば備えている魔核、そしてダンジョンに応じた絵柄ではあるが本物ではないので貨幣としての価値は殆んどないダンジョン金貨、そして魔物に応じた素材等だ
《邪人の迷宮》のダンジョン金貨は角の映えた頭蓋骨だった、見た目は金貨だが表面のみの金メッキであり中身は別だ、金としての価値もない
記念品や収集家が欲しがる程度だし、俺も一枚記念に持っておくだけで良いか
そう思ったがバイザーがダンジョン金貨をスキャン、情報を提示してきた
◆
ダンジョン金貨:各ダンジョンより入手可能なアイテム。金は表面に使用されているメッキ部分のみで貨幣としての価値は無いに等しい。主成分はタングステンの為、鍛治に利用する事も難しい。記念品、収集品としての価値はある。
◆
成る程、それで本物の金貨に近い比重ではあるのか、金とタングステンは比重が似てるからな
だがそれよりもだ、ダンジョン金貨の主成分はタングステン、これは良い情報だな
「瑠璃、これ集めるぞ。素材と思えばポーチに幾らでも入るよな?」
「良いけど、全く価値がない物じゃなかったの?」
「これはタングステンだ。ならAFの装甲や砲弾といった利用方法がある」
小さいが塵も積もればだ、素材があればAFの生産コストを下げる事も出来る
特にタングステンは現実でも戦車の装甲として利用されていたりする、当然ながらAFにも使える素材としてゲーム内で存在していたからな
「ふーん、確かにそう言われれば素材ね。でも何で金属なのに誰も利用しようと思わないのかしら?」
「融点の問題じゃないか?鉄なら1500度くらいだが、タングステンは確か3400度くらい必要だった気がするぞ」
そんな高温を出すには燃料もかなりの物になる筈だ、確かに硬度はあるが普及するには至らないだろうな
そして、何よりも鉄は大量に手に入りそうだ、ゴブリンがドロップした短剣を見れば分かる
◆
鉄のナイフ:何の変哲もない鉄製のナイフ。鋳造により大量生産可能な代物であり、何処にでもありふれた刃物である。
◆
そう、鉄製なのだこの短剣
グリップと刃が同じくらいの長さのナイフであり、鍔もない両刃のナイフ、グリップに滑り止めの布が巻かれてはいるが型に溶かした鉄を流し込んだだけの代物だな、柄から何から何まで全て鉄で出来ている
これを鋳潰してしまえば鉄が確保出来る、何よりストラスフォードという大都市に近い場所の第一層、それも最弱の魔物であるゴブリンから入手可能なのだ、鉄が安いというのも納得出来る
「ふむ、とはいえこのナイフ、形がこれなら丁度良いか」
バランスも悪くはないし、多少調整すれば問題ないだろう、幾らか確保しておくとしよう
「それも素材になるけど、どうするつもりなの?」
「ん、つまりはこうする」
少し離れた場所に黒い靄が集まったと思えばそこからゴブリンが現れた
ゲームなら再出現といった具合だがタイミングとしてはバッチリか
俺は手に持って眺めていたナイフをゴブリンに向けて投げた
手首を使ってスナップを効かせたナイフは回転しながら飛び、出現したばかりのゴブリンの喉に違わず突き立った
ゴブリンは何が起きたのか理解する暇さえ無かったであろう、倒れ黒い靄となり、ドロップ品を残して消えた
勘で調整したところはあるがドンピシャだったな、これなら普段使いとしても十分に通用しそうだ
「凄いわね、あの距離で倒すなんて……」
「ナイフ投げはどのゲームでも問わずに使ってたからな。音が少ないから不意討ちには便利だぞ」
基本、どのゲームにもナイフというアイテムは存在する、遠距離攻撃の手段として習得してしまえば後はどのゲームでも利用可能な便利な技能だ
最終的には相手の兜のスリットを通って眼球に刺すなんて真似も出来るようになったからな、ナイフさえあればリアルでも高い精度で投げる事が出来たぞ
「量産品で規格も同じだから定期的にナイフを確保しに来そうなくらいだな」
「アンタの事だからあまり驚かないわね。ところで一つ聞いて良い?」
「ん?何だ?」
「何で投げる時に刃の方を持って投げてたの?」
「そっちの方が格好良いだろう?」
おい、微妙そうな顔をするな、ちゃんとブレードグリップっていう名前のある投擲方法だからな、そして何よりも、ロマンは大事だ




