邪人の迷宮
「使い心地はどうだ?」
「期待以上だよ。生涯、これ以上の剣が手に入るのか想像がつかないレベルだ」
「そいつは良かった。だが、これ以上の剣は打てるぞ。アダマスの扱いに更に習熟すればな」
成る程、確かに初めて触った金属でこれだからな、もしヨーゼフがアダマスの扱いに完全に慣れてしまったらどれだけの剣を打てるのか、気になる
「それで、お前さんはこれからどうするつもりだ?」
「ああ、瑠璃と二人で相談して暫くダンジョンに挑もうかと思ってるんだ。事前に情報も集めてたから挑戦する場所も決めている」
武器の完成まで待っているのが暇だったからな、情報収集をしていたのだ
前々から気になっていたダンジョン、ゲームやファンタジー作品ではお馴染みとも言える存在に挑戦する、なんとも心踊る状況じゃないか
「成る程なあ。お前さんの腕なら大丈夫だと思うが気を抜くなよ。折角打った聖剣の使い手があっさり死ぬなんてのは御免だ。必ず帰ってきて、実際の武器の使い勝手を聞かせてくれ」
「分かったよ。それじゃ、俺達は行くぞ。報酬は何処に置けば良い?」
「そこに積んでおいてくれ。武器の素材として先に受け取った分が少し残ってるが、それはどうする?」
「貰って良いぞ。これだけの武器を造ってくれた事に対する追加報酬って事で。ああ、後は例の件も頼むぞ。そっちは時間を掛けてくれて大丈夫だから」
ヨーゼフが指定した場所にアダマスのインゴットを十個、最初の約束通りに渡す
伝説の武器であり使い手を選ぶ聖剣を量産したくないというヨーゼフなりの考えから渡したインゴットは完全なるアダマスではなく、普通のアダマスだ
まあ武器としては万人に扱えてこそというのは分かる、渡したインゴットで造るのも自分の趣味で思うままに造るという話だからな
アダマスの供給元である俺達の事も隠してくれる事になった、正直聖剣を量産出来るとか場合によっては厄介な事になるからな
ヨーゼフも造ったアダマスの武器は普段は店頭に並べず、これはと見込んだ相手にのみ販売するらしい
そしてヨーゼフに言った例の件だがこれは俺の防具、鎧についてだ
アダマス製の武具は使用者には軽いというのが分かったからな、それなら防御力と機動性を両立出来る為、俺は自分の防具をアダマスで造る事にした
ただヨーゼフは武器、それも刃物の専門家であり防具は専門外という事でヨーゼフの知り合いの防具職人を紹介して貰う事になったのだ
だが使う物がアダマスである、扱いは慎重にならざるを得ない為、まずはヨーゼフが腕と秘密を守る人間性の両方を兼ね備えた相手を厳選する
既に大体の見当はつけているらしいが、確実に見極めるという事でもう少し時間が掛かるとの事だ
よし、武器も手に入ったし早速ダンジョンに向かうか
見送るヨーゼフ達に手を振り、俺達は街の北門へと向かって歩く
「随分と気に入ったみたいね。どんな能力があるの?」
「これか?単純に聖なる属性を保有していて、所有者の力量に応じて星の魔法を使えるらしいぞ」
そんな中、隣を歩く瑠璃に星剣の事を聞かれた
今日もいつもと同じドレス姿、俺とは反対側の方にシャルロットを連れている
だが今日からは本格的にダンジョンに挑戦するからか心なしか楽しげな微笑を浮かべている
「へえ、星の魔法ってどんな魔法なの?」
「さあ?」
「えっ?」
「今のところ、使えるのが光属性の《シューティング・スター》だけなんだよな。複数の光の球を飛ばす魔法だ。どんな魔法なのかまで教えてくれるんだが、今はまだその一つだけなんだよ」
多分、使い手としてもっと腕を磨けという事だろう
と、目的地の北門まで来たな、此処からは馬車だ
まずは北門で外に出る為に受付を行う、これは中から外に出る分には問題ない、探索者組合で発行されるカードを提示して終わりだ
そして門の外の道から少し外れた辺り、そこに大量の馬車が並んでいる
「《邪人の迷宮》行きはこっちだぞ!まだ空きはあるからどんどん来い!」
「《竜の洞窟》まで一時間、代金は銀貨三枚だ!他の連中より銀貨一枚安いぞ!」
「《さ迷える大樹海》行きは今ので最後だ!また昼の便を待ちな!」
そんな馬車を操る御者達が声を張り上げて叫んでいる、金を払い馬車に乗り込む人間を見れば雑多な装備に身を包んだ様々な種族の個人、または複数人のグループ、一目見ればそれらは全て探索者だと分かる
彼等は乗り合い馬車を運営しているのだ、この迷宮都市ストラスフォードの周囲に存在する複数のダンジョン、そこまで移動する探索者をターゲットにな
探索者も馬車で一時間のところを徒歩で進みたくはないだろう、時間もとられるし何よりも装備を身に付けた状態で歩き続ける疲労も無視は出来ない
その為、余裕があるならこうして乗り合い馬車を利用するのだ、値段は御者や目的地によって様々だが比較的良心的な方だろう
なお利用者は圧倒的にダンジョンから街へ戻る場合の方が多い、疲れているから少しでも休みたいのは当然だ
そして俺達もまた馬車を利用する、今回の目的地は《邪人の迷宮》と呼ばれるダンジョンである
ストラスフォード周辺では比較的簡単なダンジョンであり、昇級試験を突破して初めてダンジョンに潜る探索者にはオススメのダンジョンらしい
ダンジョンの名付けだが基本的には出現する魔物の種類とダンジョンの内装で決まる
今回の《邪人の迷宮》ならば邪人、つまりはゴブリンやオーク、オーガといった人型の魔物が出現する、石造りの通路である迷宮のような構造をしているという訳だ
同じように《竜の洞窟》ならばリザードやワイバーンといった竜系の魔物が出る洞窟型のダンジョンであり、《さ迷える大樹海》はアンデッド系の魔物が出る森のようなダンジョンである
まずは《邪人の迷宮》へ行く馬車の御者に代金を払い馬車に乗り込む
徒歩でおよそ三十分といった場所にあるらしく料金は一人銅貨五十枚、近場である為に休めの料金設定である
俺と瑠璃の二人で銀貨一枚を払い馬車の中で待っていると他にも同じ目的地に向かう先客が居た
武器や荷物はそれぞれ持っている、流石に大きめの馬車とはいえ槍は持てないので邪魔になりにくい場所に置いているが、槍使いは剣士よりは少ないのでそこまで邪魔にはならないな
それぞれ仲間達と雑談をしつつ発車の時間を待つ、やがて他にも乗る人間が見付かったのか三人程が後から加わり馬車の中に十一人、少し手狭になってきた辺りで御者が馬の手綱を握り御者台についた
「それではお客さん方、行きますぜ。《邪人の迷宮》まで大体で二十分くらいですんで、ゆっくりしててくだせえ」
御者はそう言うと手綱を操り二頭の馬を歩き出させた
道は舗装もされていない事に加え、当然ながらサスペンションなんかも無い馬車だけにガタゴトとかなり揺れる
正直に言えばあまり長くは乗っていたくないがこれもファンタジー世界の楽しみの一つだろう、日本じゃまず馬車の揺られて移動するなんてそうそう無いからな
「で、お前は大丈夫なのか?ちょっと既にヤバそうな顔してるが」
「だ、大丈夫よ……きっと、多分……」
そこは断言してくれても良いのだが、馬車が進みだして十分くらいしたところで瑠璃が酔った
他の乗客の中にも少し顔色が悪い人間が居るが、瑠璃が一番酷い
乗り物酔いの薬でも用意するべきだったかな
「むしろ何でアンタは平気なのよ……」
「そりゃ普段から三半規管は鍛えられてるからな。ちょっとやそっとの揺れじゃびくともしない」
AFWやってればバーニア使って高速移動は基本、時にはジャンプして空中を舞い、機体によっては空で敵とドッグファイトになる事もあるのだ、どれだけ揺れに晒されるかと
AF、最近AFに全く乗ってないなあ……確かに《ソード&マジックⅡ》では聖騎士やってたしAFWに移った後も息抜きとしてたまにログインしてたけどよ、本職というかメインは傭兵操者の筈なんだけどなあ……
いやまあ素のステータスを鍛える必要はあるから剣を振り回してたんだけど、そろそろAFに乗りたい、折角の第三世代パーツで組んだ新型を乗り回したい
なお俺のスキルの中に《AF簡易召喚》という物があり、それを使えば普段から使えるだろうが、以前に試した事があるあれをAFに搭乗して操縦しているとは認めたくない、便利というか強力な能力ではあったがな
ダンジョンだと構造によってはAFが使える大きさの物もあるらしい、そうでなければストラスフォードに来た初日に見た《金獅子》のパレードのように《鉄騎兵》を使用したりはしないだろう
ある程度はダンジョンに慣れたらAFを使ってのダンジョン攻略もやってみよう、そうしよう
「カナの目の色が目に見えて変わってるのが分かるわよ……」
「なに、単にダンジョンが楽しみなだけだ。早く着かねえかなあ」
「それに関しては同感ね……早く馬車から降りたいわ……」
瑠璃の場合は酔いから降りたいからだろう
これは到着してからは少し休んだ方が良さそうだな、俺も各種武器を装備する際の調整をするから調度良いだろう
そう予定を立てつつ、残りの時間を馬車で揺られて過ごすのだった
「此処が《邪人の迷宮》か……」
「ちょっと楽になってきたわ……」
「もう少し休んで良いぞ。情報によれば序盤は楽勝とはいえ初のダンジョンだ、万全を期した方が良い」
大体は御者が言っていた通りの時間にダンジョン、《邪人の迷宮》へと到着した俺達は少し外れた位置でダンジョンの入り口を眺めていた
ダンジョンの入り口周辺には簡易的だがキャンプ地がある、探索者が持参したテント等を用いて寝起きする為の場所だ
《邪人の迷宮》はストラスフォードに近いからあまり利用者はいないようだが、移動に時間の掛かる遠くのダンジョン等は移動してから一晩休息をとるというのも珍しくないらしい
だが今は瑠璃が休むには調度良い、キャンプ地に設置された丸太の椅子に座りダンジョンに挑む準備をする
武器を出し、鞘の繋がったベルトを体に巻いていく
左腰には星剣エトワールを、腰の後ろに双聖剣ヘリオス&セレーネを、右の手には聖槍アキレウスを持つ
服装はストラスフォードで買ってあったチュニックだ、早く上に身に付ける鎧が欲しい
それと右足にはホルスターがベルトで付けてある、今回のダンジョンは出現する敵が敵だから必要ないかもしれない保険だが、あっても無駄にはならないだろう
普段から整備しているが直前でもまた銃の様子を確認する、スライドの状態を分解して調べたり、空撃ちして正常に動作しているかをな
今回はHK45Tのみを使用する、M500はゴブリン等には威力過剰だからな
なお普段とは違い銃口のカバーを外し、別に筒状のパーツを取り付けている
それはサプレッサーだ、消音器、サイレンサーとも呼ばれるオプションパーツであり発砲時の銃声を抑える為の装備だ
HK45Tは同じHK45のバリエーションの中でも唯一サプレッサーを装備可能な軍用モデルだからな
今回の探索に当たってサプレッサーを装備した理由は二つ、もし何らかの理由で発砲する必要があった際には銃声を可能な限り抑えて他の探索者が寄ってくる事を防ぐ為、そして今回のダンジョンの迷宮という構造上、銃声そのままだと耳を痛める可能性があるから耳の保護という面でも銃声を抑える為だ
映画なんかだとバカスカ撃ってるシーンがあるが銃声ってのは実はかなり音がデカい、瞬間的な物だからそう感じないだけで比較的音が小さい銃と銃弾を使用しても実はジェット戦闘機のエンジン音よりデカいのだ
その為、警察等が屋内への突入作戦等でも使用する事があるのだ
さて、サプレッサーを装備したHK45Tの点検も済んだ辺りで瑠璃もかなり回復してきたらしい、ホルスターにしっかりと収めて椅子から立ち上がり瑠璃に向き直る
青い顔をしていた瑠璃も大丈夫というように無言で頷いき、足元に居たシャルロットがまるで準備完了だとでも言うように一度だけ吠えた事で俺達はダンジョンの入り口に歩き出したのだった




