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勇者達の今 6

奏多達が剣の発注をしていた翌日、昼を過ぎ日が傾いて原野を赤く染めようかという頃、ヴィレージュ王国の首都ヴィレージュ、その王城にはダンジョンに出るゴブリンを相手に訓練を積んでいた勇者であるクラスメイト達の姿があった


城内にある騎士団の詰所、そこに馬車を停め荷降ろし等は共に遠征に参加していた騎士達に任せ、出迎えに来た宰相ブレンダン・アーキソンの案内の下、彼等は謁見の間に向かっていた


当然、ヴィレージュ王国に呼ばれた勇者達は皆、この世界に召喚された日に一度王国を統べる王族に謁見した事がある


しかし、廊下等で王族とすれ違う事はあれど正式に謁見するとなるのはこれで二回目であり、一国の君主に会う等という日本でも殆んど有り得ない状況には彼等も緊張している


だが会わないという選択肢は存在しない、彼等は全員がこの国に世話になっており、衣食住の全てに於いて保護して貰っている身なのである


今回もこうしてダンジョンへの遠征に護衛として騎士をつけ安全にレベル上げやダンジョンの魔物、それも魔物の中で最下級とはいえゴブリン相手に実戦を経験させて貰ったのだ、そのような相手に帰還して挨拶も無しというのは無礼な話だと理解していた


尤も理解し納得したところでそんな恩もあってより緊張するのだが


そして遂に謁見の間、細やかな装飾の施された巨大な両開きの扉の前に着いてしまう


扉の脇に控えていたのは騎士ではあるが通常の騎士よりも装飾の多い鎧に加え装備は全てミスリルとなっている近衛騎士、その実力は国中の騎士団の中でも技量と人格を精査して選び抜かれた精鋭中の精鋭であり、筋力等のステータスでは劣ろうともスキル等の技量のみであれば現在の勇者達にも匹敵する


彼等は宰相が引き連れた勇者達の姿を一直線に伸びた廊下の向こうから確認しておりスムーズに扉を開けていく


そのまま扉を通る勇者達の前に見える謁見の間は広く、奥には高くなった位置へ玉座が二つ並んでいる


玉座までは扉から幅の広い赤いカーペットが続いており、そのカーペットの脇には王城に務めている貴族や文官、武官が身分の高い順に玉座に近い方から並んでいた


そして玉座に座っているのはこの部屋の、ひいてはこの国の頂点たる王族であるのだが、しかしその姿は一国の君主というにはあまりにも幼い、まだ勇者達とそう歳は離れていない男女の姿があった


宰相は部屋に入る際に一礼し、そのまま部屋の中央を進み玉座の前で止まる、そして王国の形式に則って跪くと恭しく報告を述べる


「皇太子殿下、王女殿下、勇者様方をお連れ致しました」


そう、玉座に座っているのは国王ではなくその子息息女である皇太子と王女の二人であった


向かって右手側、本来であれば国王が座る場所に座る皇太子は報告を行った宰相に告げる


「ご苦労であった、アーキソン宰相。列に戻るが良い」


「ハッ、畏まりました」


まずは勇者達の出迎えを命じていた宰相を労うと皇太子は席を立ち階段を降りて勇者達の前へと自らの足で歩いて来る


その少し後には皇太子の妹である王女も続いていた


そんな皇太子達の様子に緊張の度合いを高めつつも王国での礼儀作法を知らない勇者達は無礼にはならないようにと背筋を伸ばして立っている


「まずは勇者である皆が無事に戻ってきてくれた事、嬉しく思う。そして、初めて会ったあの日にも言ったが、そこまで緊張しないで欲しい。私は床に伏せる父に代わり王として振る舞っているとはいえ皇太子の身、何よりも皆は我等の都合のみで勝手に異界より呼び寄せたのだ。例え私の事を罵倒したとて誰がそれを咎められようか」


皇太子、名をリカルド、リカルド・ヴィレージュという彼はそう勇者達に語り掛ける


「それに慣れぬ長旅に疲れたであろう。まだ年端も行かぬ身で国の命運という重荷を背負わせている事も心苦しく思う。それを労うという意味でも今宵はささやかながら宴を開くとしよう。副団長、可能な限り手短に報告を」


そして勇者達を早めに解放する為にも報告を求めると、呼ばれたのは今回の遠征に於いて護衛の騎士を束ねる存在であった男、ヴィレージュ王国騎士団の副団長であるアンドレア・アクアフレスカであった


ヴィレージュ王国に於ける騎士団は主に貴族の次男や三男といった家の跡取りになれなかった者が多く在籍する、要は貴族の為の軍である


そこで副団長を務めるアンドレアもまたアクアフレスカ侯爵家の三男として生まれた為に騎士団に所属している


歳は四十手前、しかし現在の地位に居るのは侯爵家の立場を利用した故であり、実力の程はそこまで高くはない、一応は貴族なので政治能力はそこそこあるが


「ハッ、では僭越ながら。勇者様方の実力は素晴らしいものでした。初めこそ実戦に慣れていないという事で動きに固さが見られましたが、それも慣れるにつれて改善され、最後にはダンジョンの魔物では全く相手にならない状態でした。レベルは平均して10まで上がっており、ステータスでは全員が既に我々を上回っていますので、後は経験のみかと」


皇太子リカルドの問いに対してアンドレアはそう説明をした


この世界の兵士のステータスは筋力や防御力等、主要となるものが軍の兵士が100前後、隊長格で200となる


仮にも貴族であり幼い頃から教育を受けてきた貴族達が多く存在する騎士団はピンからキリまでではあるが平均して250程であり、王族の警護を担当し精鋭を集めた近衛騎士団は400前後となっている


召喚されたばかりの頃ならともかく、現時点に於いては勇者達はステータスでは殆んど全員が騎士団の平均的な数値を超えていた


「その中でも特にキリュー殿の成長振りは素晴らしいの一言に尽きます。レベルは15ながら既に全てのステータスは全て800になり、習得したスキルも多い。まさに王国の希望となってくれるでしょう」


その中でも成長著しいのが桐生であったが、その事にアンドレアが称賛を交えつつ報告すると周囲から感嘆の声が上がる


ステータスでは既に王国最強と言っても良いレベルだ、それまで王国最強であった近衛騎士団団長で筋力や防御力等の物理的なステータスが500に届く程度だったのだ、勇者という存在はそれだけ普通の人間と隔絶しているのである


ただしこの場で本当に最強なのは遠藤陽葵である、ステータスでは敏捷が上回っているだけではあるが戦闘に於いては純粋に戦い方が洗練されており技量のみでステータスの差を覆していた、ステータスの差が戦力の決定的な差ではないのである


「それは心強い。勇者キリュー殿、その力、どうか王国を護る為に振るって欲しい」


「あっ、はい。僕なんかの力で役に立てるのなら、是非」


「そうか、ありがたい。他の皆も改めて頼む。我が父、ヴィレージュ王国国王、エドモンド・ヴィレージュにかけられた呪いを解く為に、魔族の侵攻より民を護る為に、その力を貸して貰いたい」


(わたくし)からも改めてどうかお願い致します。私達の事はどう思われても構いません。ですが私達にはもう皆様しか頼る事が出来ないのです」


王族である皇太子と王女が自ら頭を下げて頼み込む、地位の高い二人の行動に戸惑う勇者達だが、桐生が全員に向き直った


「皆、確かに僕達は元の世界に、日本に帰る為に魔王討伐を引き受けた。でも、今回の遠征の途中で見てきたこの国の人達は誰もが善良な良い人達だったじゃないか。難しい事かもしれないけど、あの人達の為にも、何よりも呪いをかけられた王様、その王様を心配する王子様と王女様の為に頑張ろう!」


「正義の言う通り!魔王なんてクズな真似するヤツ等はオレ達でブッ飛ばしてやろうぜ!」


「この国にはお世話になってますし、微力ながらお手伝いさせて頂きます」


「美月も、難しい事はよくわかんないけど、お母さん達のところに帰る為にも頑張るよ!」


今回の遠征では奏多に関する事のみではなくヴィレージュ王国という国を見て回りもした


そしてそこで出会った国民は誰もが平穏に生きており、その生活を魔王が壊そうとしていると教えられていたのだ


その事について桐生が他の勇者達を鼓舞し、それに取り巻きとも言うべき新嶋翔琉、佐倉朱莉、綾瀬美月等も同調し、それが伝播して勇者達全員に広がっていく


そんな彼等を唯一、陽葵だけは冷めた目でその様子を眺めていた




謁見の間での報告等も終わり、勇者達は各自に割り当てられた部屋へと戻り荷物等を置いてゆっくりと過ごしていた


陽葵もまた久しぶりにベッドで横になれるとあって長旅の疲れを癒しているところだった


だが時間帯としては夕食前、宴席を用意するという皇太子により伝えられていた事もあり眠ろうとは思えずにいた


その為、今まで得た情報を一人頭の中で整理することにしたのだ


「まずは討伐しろとか言われてる魔王ッスね。人類の敵、この国の王に呪いをかけた存在。でもそれってそう教えられただけで、他に情報はないんッスよねえ」


召喚されたその日に国王が呪いをかけられているというのは聞かされていた、だがそれも国王の姿を直接見た事はなく話のみ、しかも呪いだと言っていたのは王城に仕える賢者だという老人だ


その賢者の力量も含めて判断が難しい事ではあるが、城の図書室にある本にも魔王についての記述は『魔族を統べる者であり、五年に一度、魔王の座を狙って魔族の代表者達が様々な形で競い合い選び出される』とあった


それも長い間同じ者が勝ち抜き、選ばれているという事もあり統治の面では安定していた、にも関わらず他国の王に呪いをかける等という余計な外交問題を起こすのか疑問に思えた


「そこはまあ、外に出てるセンパイ次第ッスね。次に教会の方ッスけど、こっちは見ただけでも結構分かるッスね」


だが情報が他に無い以上は考察するしかない、逆に奏多達が得る事が難しい情報、例えば王国の細かな内政等の部分に移った


その中で一番の奏多達の敵とも言える教会、リリウム教についての事だった


「一神教であり魔族や獣人といった他種族の排斥を謳う人類至上主義の側面あり。厄介な存在ッスね。それに、一番キナ臭いのもこの教会なんッスよね」


講義に於いて洗脳するかのような教育をしている点や宗教組織でありながら《(フェーロ・)騎兵(カヴァリエーレ)》といった過剰とも言える戦力の保有などからそういった違和感を感じていた


「そういえば他の宗教関連の物も何も見当たらないッスね。あったとしても焚書とかにしたんッスかね?ハァ、本格的にセンパイ達について行ってた方が良かったッスね」


そうため息を吐き、陽葵は自分の部屋にある机の上に置かれた小さな袋を見る


慰労の為にと皇太子から用意された物だ、中には王国金貨が十枚入っており、毎月支給されるので自由に使えと言われたのだ


明日から三日与えられた休日には街へと出る許可も降りている、他の勇者達も何に使おうかと楽しそうに話していたのを見ていた


「貨幣価値は講義の中にあったから大体分かってるッスよ。一般家庭の平均的な一月分の生活費、これで何処まで行けるッスかね」


旅、それも長距離ともなれば準備が必要となるのは今回の遠征の経験からも分かっている


水、食料、野営の為の様々な道具、何よりも旅の足だ


仮にこの金を持って合流する為の資金にしたとして、陽葵と司、そして恐らくは椎名も話をすれば同調するだろう


それで金貨三十枚、路銀としては十分かもしれないが、しかし徒歩で移動すれば城を抜け出した自分達を追って馬で駆けて来るだろう、それでは簡単に追い付かれてしまう


故に馬などの足が必要となる、また地図等を入手して計画を立てていくとなればまだ事前準備を続ける必要がある、そして中には王国に気取られぬよう確保しなければならない物品もあるだろう


「よし、まずは城や街の構造、抜け道探しからッスね。ふふん、皆ウチの事を単なる槍使いとしか思ってないッスからね。その実はそこそこ名の知れた人殺し(プレイヤーキラー)ッスよ。使えるのは戦闘だけじゃない、隠密系のスキルだってあるッスからね。早速、明日から動き回るとするッスよ」


少なくとも今日は疲れを癒そう、そして自由時間として何をしてても不自然に思われない休日に色々と動く、そう決めた陽葵は夕食の時間に呼ばれるまで計画を練り続けたのだった

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