新たな剣 2
「まずはこの辺りからだな」
奥にある炉の近くの工房を借りて机の上に材料を並べる
精錬したアダマンタイトのインゴット、折れた剣から作り直したミスリルのインゴット、そして瑠璃のポーチに入っていたタラスクから採取した竜の血だ
いつの間にかポーション類と同じようにガラスの小瓶みたいな物に入っているのはいつもの事だ
分量が分からないからまずは実験という事で全て小さく分けられており、最初は1:1:1で混ぜる
「それじゃあ、やってみるわね」
そう言って大鍋の中に材料を放り込む瑠璃、後はいつものように大鍋がガタゴトと揺れたり跳ねたりしつつ錬金を行う
元の材料の量が少なかったからか錬金は直ぐに終わり、大鍋の中から一つの塊が出てきた
瑠璃はアイテムであれば魔眼により名前と多少の解説までは分かる、細かな解説は俺の《スキャニング》の方が調べられるから今回の俺の役目は出来た代物の解析だ
◆
不完全なアダマス:アダマンタイトとミスリルによる合金だがミスリルの比率が多すぎる為に不完全な代物。素材である双方の特性が失われた利用価値のない合金。
◆
「どうやら合金の名前はアダマスというらしいぞ」
「アダマス、ね。確かアダマンタイトやダイヤモンドの語源になったギリシャ語だったわ」
「まあそれは地球での話だからな。異世界じゃあ通じないだろう。それと、これはあくまで不完全らしい。ミスリルの比率が多すぎるって出てる」
少なくとも武器にはならない、だが間違いなくアダマスという合金が作られるという事の証明にはなった
瑠璃がヨーゼフ達に聞こえないよう、小声でアダマスという単語の説明をしてくれる、俺もアダマンタイトの語源というのは知らなかったが、もしかすると今は失伝しているだけで昔はアダマスが作られていて、アダマンタイトは後から名付けられたのかもしれないな
「それに失敗しても平気よ。合金ならきっと元の材料に分離出来るわ。こうやって、ね」
そして不完全なアダマスだが、それは瑠璃がまた大鍋に放り込んで元のアダマンタイトとミスリルに戻してみせた
「竜の血は消耗品みたいだな。まあ、タラスク二体分だから大量にあるんだが」
だが一緒に入れた材料である竜の血は戻らない、恐らくだが普通は組み合わせられない二つの金属を結合させる時に消費されてしまい、戻らないのだろう
魔法の産物でも何かしらの理由はある筈だからな
「次はどんな比率でやれば良いの?」
「じゃあ、ミスリルを思いきって一割にしてみよう。それでまた解析して微調整だな」
「分かったわ。一割ね。ちょっと難しいわね、こうかしら?」
まずミスリルを大鍋に入れて十等分に小分けした後、アダマンタイトも同じように十等分に小分けして大鍋に放り込む
アダマンタイトが九つ、ミスリルが一つ、そして竜の血を小瓶一つだ
これで比率は9:1、血はあまり関係ないようなので重要なのはアダマンタイトとミスリルの割合らしい
そうして先程と同じ手順で作成された合金を俺が解析する、今回の結果も直ぐに出てきた
◆
不完全なアダマス:ミスリルの比率が僅かに少なく不完全となったアダマス。完全ではなくともアダマスの性質は有しており、使用出来ない事はない。
◆
「おっ、かなり近いところには来ているらしいぞ」
「本当なの?どんな結果なのよ?」
「まだ完全じゃないが、使えなくはないって事らしい。アダマスとしての特性も有してるってあるから、どんな合金なのか目安になるんじゃないか?」
手に持ってみてまず感じたのが軽さだ、アダマンタイトは少量でもかなりの重さがあるがアダマスは使用したアダマンタイトの量から考えて格段に軽い
魔法の合金だからなのか理由は分からないが重い剣を振るうなんて羽目にならなくて済みそうだ
「ほう、ソイツが夢の金属か。少し借りても良いか?」
「ああ、まだ完全じゃないみたいだから試作品って段階だけどな」
そんな合金を錬金するまで静かに待っていたヨーゼフに渡してみる
普段は無口無愛想な男だが、僅かに浮き足立ったような雰囲気を発している事から夢とまで語られた合金に興奮しているのだろう
まだ試作品であり小さいインゴットではあるが渡してやると興味深そうに検分を行っている
「成る程、アダマンタイトが使われたとは思えない軽さだ。だがミスリルよりは重くしっかりと手に感じられる。それに魔力伝導率は体感で細かな所は分からないがミスリルにも劣らないだろう。強度の方は……少し借りても良いか?色々と試してみたい」
「勿論だ。武器にする為にも鍛冶師が特性を知らないんじゃお話にならないからな。それまでこっちもアダマスを仕上げるようにするさ。行けるな、瑠璃?」
「ええ、ここまで来たら完璧にしてみせるわ。思ったよりも簡単そうだし、どっちが早く終わらせる事が出来るか競争ね」
無口な男が此処まで饒舌に話すとは珍しい、というより早く試したくて仕方ないのだろう、眼の圧が凄い事になっている
瑠璃もまだまだ付き合ってくれるようだし、分担して進めた方が早いだろうという事で、此処からは工房の中でヨーゼフも作業を始めた
石炭らしき燃料を投入し炉の温度を上げていくので一気に部屋の中へと熱気が噴き出す中で、俺達は工房の外に避難し、錬金術を続ける
毛皮で暑いのか、今まで石造りの床で寝転がっていたシャルロットは真っ先に移動した程だ
改めて作業を続けるが今度はミスリルの比率を増やす、ミスリルの比率を一割五分として完成した合金が現れる
◆
アダマス合金:アダマンタイトとミスリルを組み合わせて作られた合金。アダマンタイトの強度、ミスリルの魔力伝導率の二つの特性を併せ持ち、魔法反応により軽量になっている。また適切な比率によって作られたアダマスは天上の神々の武具の素材にも使われる。
◆
「おお、アダマス合金という表記になった!今までの不完全な代物じゃないぞ!」
「やったわね!これで剣の材料として申し分のない素材が揃ったのね」
「ああ、そうだな。そうなんだが……」
「どうしたのよ?まだ何かあるの?」
出来たのは嬉しいし素直に喜べる物なんだが、アーカイブから表示された情報に一つ引っ掛かりを覚える
「実はな―――」
最初は喜んでいたがアーカイブを見て少しだけ声のトーンが落ちたのを瑠璃に見抜かれた事で、アーカイブの内容を伝える
それを聞いた瑠璃は納得といった様子で頷くと言葉を続けた
「つまり、まだ上があるって事ね?」
「そうなんだが、適切な比率というのがな。今度は細かな、それこそ小数点が幾つになるのか分からない、果てしない検証の連続になりそうだぞ」
下手をすれば小数点どころか円周率みたいに正確な答えの出ない数値になるかもしれないのだ、終わりの見えないもの程大変な物はない
「それでもやるだけやってみましょう。アンタだって中途半端で終わりたくなかったんでしょう?」
「それは、まあそうだが……」
「なら良いじゃない。それに、私ももっと興味が出てきたわ。神々の武器、つまりは神器って事でしょう?それってとてつもなく素敵じゃない!」
ああ、そうだった、最近はかなり収まっていて他人と話す時も普通になっていたから忘れかけていたが、瑠璃は中二病だったな
神話とかオカルトとか神器とか聖剣とか魔剣とか大好きだったな、その中でも魔剣とか呪いとかダークな方面が好きだったが
とはいえ俺も気にはなっていた物だ、瑠璃が此処までやる気になっているし、まだまだ付き合ってくれるというのであれば是非はない
「よし、やるか!」
「ええ、絶対に作り出して魔剣とか神器を手に入れるわよ!」
魔剣は使い手に破滅をもたらす武器なので遠慮したいが、やる気に水を指すような真似はしない
こうして俺達は完全なるアダマスを求めて錬金を続けていった、のだが―――
◆一回目◆
「これはどうかしら?」
「アダマスとしか出ないな。普通の物らしい」
「そう、でも安定してるって事ね。次行くわよ」
◆十回目◆
「これは?」
「不完全なアダマスになったな。どうやらこの比率より先はアダマスとしても使えないようだ」
「上手くいかないわね。まあ、神々の武器だものね。そう簡単に行くとは思ってないわ」
◆三十回目◆
「はい、これは?」
「アダマス、だな。ミスリルが12から15パーセントの割合でアダマスになるって事は分かったな。ただ、もっと細かな割合で混ぜていけという事か?」
「そう、これだけでも発見ね。ねえ、これって人類史にとって大発見じゃないかしら?」
「下手に公開するのはヤバそうな気もするけどな。特に王国には死んでも渡して堪るか」
「そうね、なら製法は私達の秘密ね」
◆五十回目◆
「またアダマスだな。なあ、そろそろ切り上げないか?幾ら俺の剣とはいえ、錬金術の行使にも魔力を使うだろう?少しは休もう」
「まだよ、まだ私はやれるわ!はい、次のアダマスよ!」
「アダマス……いかん、ちょっとメモ確認しないと比率がこんがらがってきた」
◆八十四回目◆
「おお、解析が殆んど完全に近いアダマスに変わった!」
「もう少しね!もっとやる気が出てきたわ!ここからラストスパートよ!」
◆百回目◆
「なあ、流石に休むべきだろう。切りの良いところだ。今までの比率は全てメモしてあるし、休んでもバチは当たらないぞ」
「あと一回、一回だけだから!次で出そうな気がするから!」
「なんかソシャゲのガチャにハマった重課金プレイヤーみたいな事を言い出したな!?」
「ムリのない範囲での魔力の行使による錬金術、略してム力キンよ」
「すげえな、一見するとカと力で判定に困るわ」
◆
―――といった様子で時としてアホな事を言い合いながら錬金術と解析を続けてきた
そして通算百八回目、遂にその時が訪れた
◆
完全なるアダマス:アダマンタイトとミスリルの比率が揃った事により互いの性質を高め合っている合金。神々の武具にも用いられ、これにより造られた武器は使い手に影響されるとやがて聖剣や魔剣といった存在へと昇華されていく。武具の素材としてこれ以上の金属は存在しない。
◆
「お、おぉ……」
「出来たの?出来たのね!?どんな説明なのよ、教えなさいよ!」
手にした小さな合金を見て思わず感嘆の声をあげると瑠璃も食いついてきた
遂に完成した完全なるアダマス、そのアーカイブによる説明を告げると瑠璃は目を輝かせていた
「良いわね!聖剣と魔剣、そのどちらにもなるなんて!」
「そうだが、つまりはこれで剣を造ったら俺の辿る未来によって分岐するんだ。直ぐに昇華される事はないだろうな」
それは楽しみでもあるが、魔剣という呪われそうな武器にならない事を祈ろう
と、炉のある方が途端に騒がしくなり、その音が段々と近付いてくる
正体は分かる、今の瑠璃の言葉を聞いて飛んできたのだろう
「完成したか!?」
「おう、見てみろ。これが聖剣や魔剣の材料だとよ」
「お、おおぉ、おおおおぉ!?これが、鍛冶師の夢!伝説の武具の素材!まさか、この眼で見る事が出来るとは……!」
そして俺が渡してやると震える指で小さな合金を掴む
感動に打ち震えているところ悪いが、仕事の方も取り組んで貰わなければならない
「それで、試作品を使ってみて特性は把握出来たのか?」
「あ、ああ、そこは問題ない。基本はミスリルと同じ扱いだ、固いが鍛造前なら魔力を流せば柔らかくなる。特殊な溶液に浸けて鎚を振るう事で徐々に剣の強度になるんだ」
試しに目の前で魔力を流したのか、先程まではしっかりとした強度のあったアダマスが粘土のように簡単に指で形を変えられる程になっていた
ミスリルというと軽くとも強度があるようなイメージだったが、この世界のミスリルは違うらしい
先程までのノートでアダマスの比率は分かった為、後は量産するのみ、溶液とやらはミスリル用の物で使えるみたいだし、残りの素材を渡した後は俺達は出番がなく剣やその他の武器の完成に早く見積もって三日は掛かるとの見立てを聞いて俺達は今日のところは工房を後にするのだった




