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Dランク試験 5

「オォォォォォォォォォォッ!」


「ハアァァァァァァァァァァッ!」


激突した双方の攻撃は見てみれば共にビームのような物だった


破壊をもたらすエネルギーの激突、その余波は訓練場に張られた結果にも当たり、少しずつだがその耐久力を削っていく


だがそんな事にそこまで気を割いてやれる余裕はない、クリストファーの一撃はもし何も手を打たずに受けていれば容易に命を落とすような攻撃なのだ、こうして相殺しているだけでも急激に魔力を消費している


そもそもこれはあくまで昇級の為の試験なのであって本気で戦闘をする必要などない、明らかにクリストファーのやり過ぎだ


対する俺の放つ秘奥義だが、ゲーム内に於いてとあるボスを単独撃破する事で入手可能な《剣技(ソード・アーツ)》であり魔法のように詠唱を必要とする分、他のスキルとは比較にならない破壊力を持つ


更には複数ある秘奥義はそれぞれに得意な属性を持っており、《討ち祓え(エクソォールサイズ)我が聖剣(・ネァイリング)》の場合、竜の属性を持つ相手に対してより威力を発揮する、一種の呪いのような攻撃である


そして、この攻撃というのは竜の攻撃に対しても作用する、クリストファーが身に付けている鎧も竜の素材を使用しているから尚更だ


だが押し切れない、それは単純に一撃に籠めた魔力量の違いなのか、そもそもの素質の違いなのか、それは分からないが互いに威力は拮抗している


いや、自分の中で魔力が減っているからか少し重く感じる体の事を思えば遠からず押し負けるのは明白か


クリストファーが何処まで魔力を保有しているかは分からないが、少なくとも楽観視していい状況ではない


とはいえ他に打てる手もなく、本当に祈るしかないか


「カナ、しっかりしなさい!」


だが他の探索者達と同じく訓練場に張られている結界の外で待っている瑠璃から声が掛けられた


「私の騎士なんだから、負けたりしないでよ!アンタは私の中で最強の存在なんだから!信じてるわ!」


簡単に言ってくれる、だが愛する女に激励されていながら早々に勝負を諦めるような男がいるだろうか


答えは否だ、せめて格好つける為にも引き分け以上には持っていきたくなるよな


それに打つ手は一応なのだが存在しているし、それにはまだ多少の余力がある今の内に実行しなければならない


とはいえその手段には代償が必要なんだが、此処で躊躇って最悪クリストファーの攻撃による事故で死ぬよりはマシか


決めれば速攻、剣を握り直し鍵となる言葉を紡ぐ


聖剣(ネァイリング)完全開放(・オーバーエッジ)!」


次の瞬間、爆発的に威力を増した《討ち祓え(エクソォールサイズ)我が聖剣(・ネァイリング)》がクリストファーの攻撃を押し返し始める


「オォォォォォォォォォォッ!」


「まだ威力が上がる!?うわあぁぁぁッ!?」


そして遂にはクリストファーの元まで辿り着き、結界にぶつかる


それと同時に魔力を注ぎ込むのを止め、蒼い光が消えた頃にはひび割れ今にも壊れてしまいそうな結界と、破壊の余波を受けて荒れ果てた訓練場があった


そして、剣を振り抜いた体勢になっている俺の手元で、ミスリルの剣が甲高い音と共に根本から折れる


「分かってはいたが、やっぱり無理をさせ過ぎたか……」


聖剣(ネァイリング)完全開放(・オーバーエッジ)》、《討ち祓え(エクソォールサイズ)我が聖剣(・ネァイリング)》を使用している時限定で使えるスキルだ


効果は単純に威力の倍加、だがゲーム内で見たフレーバーテキスト、スキルに込められた説明文を読んだが、それによると二つのスキルは使い手の持つ力を聖剣として剣に付与する物らしい


スキルを入手した時に倒したドラゴンやデーモンといったボスモンスターを倒した実績がそれに当たる、とはいえこの世界で再現出来た事を見るにそこまで条件が縛られてはいないようだが


そしてデメリット、俺の剣は丁寧に打たれたとはいえ無銘であり聖剣どころか名剣にも遠い、そんな剣に聖剣としての力を付与して耐えられるかと言われれば折れた理由も分かるだろう


折れてしまった刀身を拾い柄と一緒に《アイテムインベントリ》へと収納、それから拳を握って身構える


スキルにより荒れ果てた訓練場、その中から五体満足の状態でクリストファーが現れた


殺すつもりはなかったとはいえスキルの余波を見て少し不安だったのだが心配はいらなかったらしい


いや、よく見れば兜がひび割れている


そして俺との距離が詰まってきたところで限界を迎えたのか兜が割れ、その下の素顔が晒された


「女?」


歳はそう変わらないだろうとは思っていたが、その下の素顔は美少女と呼んで差し支えないものだ


髪は一切の汚れのない純白であり、肌も陶器のように滑らか、大きめの瞳は金色だがそこには好奇心というかやけに輝いており、整った顔には抑えているようだがそれでも抑えきれない笑みが浮かんでいる


恨まれているとかの様子は全く見えないのだが、何を考えているんだろうな


「ムッ、ボクは男だよ」


不機嫌そうな表情になり、俺の言葉を訂正してくるクリストファー


正直、女にしか見えないのだがよく考えれば身近に司という事例が居るのだ、女にしか見えない男が他に居ない訳がないか


「そうか?なら済まないな」


「良いよ、よく言われるからね。けどそんな事よりキミ、本当にスゴいよ!」


「それは良いんだが……試験は良いのか?」


「え?ボクの最大火力に真っ向から対抗して打ち勝ったのに、そんなの無駄な心配だと思うよ。それに、拳を構えているって事は剣に頼らないと何も出来ないって訳じゃないよね?」


「まあな。格闘家(モンク)としてのスキルを幾つか使える、が見せなくても良いのか?」


「良いんじゃないかな?剣士が基本なのは変わらないからね。お兄さん、もう試験は大丈夫だよね?」


「は!?あ、ええ、大丈夫です。寧ろこれ以上は少しその、周囲への影響が……」


お兄さんと呼ばれた職員がそう言うが、確かにさっきの攻防で結界は限界寸前、俺が早めにスキルを解除しなければ突き破り天井あたりを破壊していたかもしれない


こんな状態で続きをするというのは不可能だろう、結界を構築していたヴァネッサ・パリヤーロも息絶え絶えといった様子だからな


「そういう訳でキミの試験は終了だね。ねえねえ、それよりもキミ、ボク達のクランに入らない?キミなら即戦力間違いなしだよ!」


「勧誘、という訳か……」


少し思案してみる、大手の、それもこの街でトップというクランに所属すれば様々な事で恩恵を受けられるだろう


知名度だけ見ても所属すれば箔がつく、クランには他にも様々な人材が揃っている事からダンジョンの探索や依頼の対処にも幅が出る


「勿論、キミの相方も一緒で良いよ。あれだけの魔法の腕だもん、仮に誰か反対しても黙らせるだけの力はあるよ」


「そうか」


更に少し考えて、それから答えを出す


「すまないが、断らせて貰う」


「えっ、何で!?」


「そんなやり方だと既存のメンバーに余計な不和を招くからな。変な軋轢を生まない生まない為にもコネで入るのは望まない」


まず人間関係で何かしらの問題が生じる可能性がある事、そして何よりも俺はまだこの世界の事を見極めていない、自由に動ける今の状態を捨てるにはまだ早いのだ


「ボクに匹敵してるだけで十分な理由になるんだけど」


「かもな。けど、それを言って信じる人間が何人居る?俺はまだ受験者だ。そんな段階で引き込もうとしても仕方ないだろう」


「なら、また戦ってみせれば良いのかな?」


「勘弁してくれ。剣も新調しないとならないんだ。それに、あんな真似はそうそうしたくない」


今回は何とかなったが、一歩間違えれば消し炭になるところだったのだ、絶対に退けない状況ならともかく、ただの模擬戦でこんな真似は二度と御免だ


「そっか……残念だけど、諦めるよ……」


そして、俺が断った事で明らかに気落ちしているクリストファーの姿に、多少の罪悪感はある


確かにクランに入る義理はないので断っても問題ないが、クリストファー本人は純粋だから、それを個人的な理由で断る事には申し訳なく思う


「マスター、人には人の理由があるのだ。無理に誘っても仕方あるまい」


「うん、そうだね、ヴァネッサ……」


「君も唐突な勧誘をしてしまい、すまないな。だが、マスターのこれは単に友人が欲しかっただけなのだ。許して欲しい」


「友人?どういった意味だ?」


そのクリストファーを励ます為に息を整えたヴァネッサ・パリヤーロが来たのだが、その発言の意図が分からない


友人と言っても、クリストファーの明るい性格なら何人でも出来そうだが


「マスターは先程見て貰ったように、この歳にして絶大な力を持っている。何よりも先代の唯一の子として、クランを纏め上げる責任もあった。幼い頃も、いずれはクランを継ぎ長となる、その自覚を持つ為に教養を身に付け、剣を始めとして鍛練を続けた。その結果、共に遊ぶ相手も居なかったのだ」


「成る程、そういう事か」


「そうだ。そして、そこに初めて同年代で『対等』な力を持つ君が現れた。その気持ちを察して欲しい」


生まれや能力により、クリストファーは孤独だったのだろう


周囲の人間はクリストファーを個人として見る事は少なかった筈だ、『大手クランの次期クランマスター』、『幼くして圧倒的な実力を見せる天才』、そのような評価があり、完全に対等である友人となる子供などどれだけいるのだろうか


そして、歳のあまり変わらない俺がクリストファーの力に対抗して一部勝ってみせた、装備の差があったがクリストファーからしてみれば初めて『対等』な相手になった訳だな


「ヴァネッサ、何もそこまで言わなくても良いじゃないか!まるでボクが遊び相手を欲しがってるお子様みたいじゃん!」


抗議の声を上げるクリストファーに対し、何処吹く風とばかりにスルーするヴァネッサ・パリヤーロ、だが小さく笑みを浮かべているその姿はまるで保護者のようだ


「そういう事なら別に構わない。クランには入れずとも友人になるのに何の問題もないだろう?」


「えっ、友人?ボクが、キミと?」


「ああ、嫌じゃなければな。自慢じゃないが、俺も友人と呼べる存在は少ない。普通の、世間一般でいう友人のような関係は無理かもしれないが、気安く話し掛けて貰っても構わないぞ」


「ううん、本当に嬉しいよ!改めて、ボクはクリストファー・デュラン、よろしくね!」


「カナタ・ハイムラ、カナタでいい。よろしくな、クリス」


「ふわぁ、名前で呼び会うのってスゴく友達っぽい!カナタ、うん、カナタだね!よろしく、カナタ!」


先程までの沈んだ様子はなく、笑顔を見せるクリストファー改めクリスと俺は握手を交わす


互いに探索者であり、既にこの国の法律では大人だ、小さな子供のような関係とはいかないだろうが、気軽に話せる相手が居るというのはそれだけで価値のある事だろう


もしも、この世界で生きていく事にして安定した状態を望む事になれば改めてその門を叩かせて貰おう、その時は友人として多少は支えてやれるだろう


この世界で出来たまだ数少ない友人だ、クリスの事は短い間だが印象としては嫌いではない、仲良くなれる筈だ


「あの、そろそろ試験結果の発表に移りたいんですが…………よろしいでしょうか?」


ただ、俺達が居るのは探索者組合の訓練場、更に今は試験の途中なのだ


俺達の方が悪いのだが、クリスの様子にあまり強く出られなかったのか職員が小さく主張したのに謝りつつ、俺達はそれぞれの立場に別れて整列し、結果発表を待つ事になった

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