Dランク試験 4
「《戦女神の盾》!」
咄嗟に張られたのは光の障壁、姿の掻き消えたと思われたが、既に瑠璃の目前にまで迫っていたクリストファーとの間に展開されたそれは剣の一撃を弾く
だが一撃を防いだ障壁はそれ以上は耐えられなかったのか砕け散ってしまう
続く第二撃が来る、そう思ったが瑠璃は詠唱を行う
「堅き盾よ、今ここに顕現せよ、《戦女神の盾》!」
再び展開されるのは先程と同じ光の障壁、だか短縮されたとはいえ詠唱が加えられた事により強度は上がっているらしく、今度は砕け散らずに耐えた
「スゴい、本当にスゴいよ!ボクの攻撃に耐えてる魔法なんて、今まで誰も居なかったのに!」
「それは光栄ね。『堅き盾よ、其は鍛冶神が鍛え戦女神へと与えたもうた物なり。御業を今此処に顕現せよ、《戦女神の盾》』!」
再度の詠唱と共に、新たにもう一枚の障壁が現れる
それと同時に前の障壁は消え去るが、新たな障壁は先程までの物とは違いクリストファーの攻撃にもびくともしない
「《パワークラッシュ》!」
それに対してクリストファーもスキルを使用する、魔力の通りが悪いアダマンタイトではスキルを使用するのも高い技量が必要とされるらしいのだが、その太刀筋は淀みなく綺麗なものだった
どうやら自らの筋力を高めた一撃を放つ技らしく、それにより甲高い金属音が鳴り響くも障壁には僅かな罅が入っているだけだ
「ウソッ!?これでも通らないの!?」
「女神様の盾の名前をつけた魔法なんだから甘く見ないで欲しいわね!今度はこっちの番、よ!?」
だが反撃に転じようとした瞬間、瑠璃の体がふらついた
さっきからの戦闘を見ていて気にはなっていたが、どうやら影響が出てきたらしい
「魔力切れか……」
瑠璃が使っていた魔法は初手の《フレイムランス》を除けば全て威力を追求して自分で作った魔法らしい
派手で威力もある、だが魔力を大量に消費するらしく、長時間の戦闘には不向きらしい
そもそもが最初の一撃で大量の敵を掃討するには適しているが、クリストファーのように単騎で突出した技量を持つ相手には適していない魔法だ、使いどころを見誤ったというところだ
それに加えて大量の魔力を使用した事に対する疲労、動けなくなる程ではないが魔法を連続で使用した魔法使いには体に倦怠感が残る事があるらしい
そして、そんな動きの鈍った瑠璃の首もとにクリストファーが剣を置いた
「えっと、そこまで!」
職員による宣言により、瑠璃の敗北が決定した
訓練場から瑠璃が戻ってくるが、やはりあのような結果になったからか肩を落としている
「うぅ、なんか格好つかない……」
「油断というか、慢心というか、単なる間抜けというか……」
「言わないでよ!もう、代わりにアンタが打ち負かして来なさい!」
「へいへい、仰せのままに」
かなり落ち込んだ様子だが、失敗から学べればそれで良いだろう、寧ろ今回のような模擬戦で学べたのは好機と言える、少なくとも実戦で危機に陥って学ぶよりは安全だ
俺は瑠璃の言葉に冗談混じりで返しながら訓練場の方に向かう
「最後がキミだね。さっきのがちょっと不完全燃焼だったから期待してるよ」
「それは過大評価というものだろうな。俺はまだDランク試験の受験者に過ぎない」
「まあ、戦ってみれば分かるよ」
俺とクリストファーが言葉を交わす程に場の緊張感が高まっていくのを感じる
《竜殺し》、この街どころか周辺でも一番の探索者として有名であり、その実力はこれまでの試験で見てきた通り、他の人間よりも遥かに高い
今がどんなステータスになっているのかは知らないが、下手をすると王国に居る勇者の誰よりも強いかもしれないな
「双方共に準備は良いようですね。では、始め!」
合図の銅鑼の音が鳴り響くと同時に腰から抜刀、右手のみで保持し左手は自由にさせる
クリストファーも腰の高さ辺りで剣を横に構えており、互いに動き出す事はない
銃を使う事はないがこの試験に於いては隠していた技を幾つか使う事になるだろうな
そして互いに動かずにらみ合いを続けていた俺達だが、遂に向こうから仕掛けて来た
俺もそれと同時に駆け出しまずは一直線に真正面からぶつかり合う、両手で剣を持ち直し上に振りかぶってからの斜めに振り下ろす
俺の右斜め上からの袈裟斬りに対し、クリストファーは逆袈裟、全く正反対の軌道を描く二本の剣が丁度中間地点でぶつかり合い、金属同士の擦れ会う音が響く
「クッ、流石にアダマンタイトともなると重いな!」
「そっちこそ、上段とはいえ軽めのミスリルの剣で重いアダマンタイトの一撃を受け止めるなんて、どんな腕力してるのさ」
初手は引き分けではあるが、この一度の斬り合いだけでも手が軽く痺れた
何度も本気で打ち合うのはマズイが、それでも俺は一歩を退かずに前に出る
「って、うわっ!?速ッ!?」
「剣速ならこっちが上だ!」
狙いは剣の重さだ、ミスリルの軽さで素早く連続した攻撃を繰り出すと重いアダマンタイトの剣では対処が難しい
相手は竜の素材を使用した鎧に身を包んでいる、ならば多少は攻撃を受けたところでダメージはあるまい
だがある程度の攻撃を加えていくとダメージが少ない事でゴリ押しに出てきた
俺の剣を受け止めず、一撃を与える事を目的とした攻撃に切り替えたのだ
それにより俺は一度後退して剣の間合いから離れ、様子を伺う
威力のある攻撃なら相手も受け止めるようになるだろうが、その手の《剣技》は魔力の消費も激しい、連発は避けたいところだ
「そうなると、これかな」
改めて右手のみで剣を持ち、左手は空ける
だが何もしないという訳ではなく、左手の人差し指を真っ直ぐ伸ばし、ピストルの形を作る
「魔法を使うのは久しぶりだな。《ファイア・バレット》!」
次の瞬間、伸ばされた人差し指の先から小さな炎が飛び出す
威力としては低めの魔法、だがその真価は他にある
「うわわっ!?何なのさこの速さ!?」
銃弾の名の通り、速度が速く目に見えるのは赤い軌跡のみ、そういう魔法なのだ
「魔法剣士だなんて聞いてないよ!ズルい!」
「手の内全てを晒す訳がないだろう。そっちがまだまだ隠してるみたいにな」
魔法については瑠璃に教授して貰った、簡単に言えば魔力をイメージを基に操る技術との事だが、この魔法はゲームである《ソード&マジックⅡ》の物を再現しているだけだ、俺の《剣技》と同じようにな
ゲームとはいえ使った事があるならイメージは十分、だからこうして再現出来てる訳だ
「あれ?でも当たってもそこまで威力が無い?」
「まあ、当てる事が目的の魔法だしな。その代わり消費魔力は少なくて詠唱要らずで連射可能だが」
不意を突いて放った一撃はクリストファーの鎧、その胸元に当たったが速度を追求した魔法なので威力は殆んどない
精々が倒せてゴブリンといった下級の魔物程度でありその辺りの鉄製の鎧でも防げるだろう、だがそれでも俺は魔法を連射する、クリストファーは防ぐ必要のない攻撃と見て魔法の中を突き進んで来る
だがそれこそが狙いだ、《ファイア・バレット》は詠唱も無しに撃てる、故に考え付いたのだ、これに同じく詠唱無しでより強力な魔法を放ったら相手は警戒するのでは、と
左手から連射される魔法、その中に一発だけ別の魔法を仕込む
見た目の上では《ファイア・バレット》と同じく小さな炎であり判別は難しい
そして、その魔法が着弾した直後、強力な爆発によりクリストファーが吹き飛ばされる
「うわあっ!?痛た……な、何が起きたのさ?」
吹き飛ばされたクリストファーは地面を転がりながらも素早く体勢を立て直すと俺の魔法を警戒し出す
俺は再び魔法の連射を行うが、今度の魔法は爆発したりせず着弾すると消え果てる
警戒しつつゆっくりと距離を詰めるようになったクリストファーだが、今度は次々に着弾と同時に爆発が起きる
「もう、どうなってるのさ!?」
「デモンストレーションはこの辺りで良いか?」
「別の魔法を混ぜ込んでるのは分かってるけど、厄介なのはキミの戦い方だよ!」
《ファイア・バレット》の上位スキル、《ファイア・グレネード》だ
爆発のみを引き起こすが、爆発により敵を吹っ飛ばす事が出来るスキルであり、かつてゲーム内でも敵の陣形を崩すのに役立った
欠点としては《ファイア・バレット》と同様に威力が低い点と、爆発も金属鎧なんかで身を包んだりと重量のある相手はあまり吹き飛ばせないところだろうな
ただし魔力の消費が《ファイア・バレット》とあまり変わらない点、見た目があまり変わらないから二つの魔法を混ぜて使えば判別するのは難しい事で相手を警戒させたりと、何物も使い方次第という事だ
クリストファーの鎧は魔法を防ぐとはいえ軽量な竜の素材だ、吹き飛ばしはよく効いている
「自分より上の敵に対峙する時、どうやって戦う?場を自分の有利な形に持っていくだろう」
「まあ、ね!」
魔法を混ぜ合わせ、ミスリルの剣を振るう
クリストファーが反撃に出るような素振りを見せれば魔法で吹き飛ばし、それを繰り返せば撃たずとも勝手に警戒するようになる
後はこのまま相手の動きを封じつつ確実にスキルを叩き込める瞬間を狙うだけだ
「ああ、もう!魔物相手にはボクもやるけど、敵に回すとか面倒だよ!」
「ハァッ!」
「クゥッ!?」
そしてクリストファーが焦れた瞬間、《スラッシュ》を叩き込む
スキルによって引き上げられた一撃はクリストファーの左腕を捉え、その鎧と激しい火花を散らす
衝撃の方は後ろに向かって跳んだ事で軽減したようだが、距離も開いてしまったな
「ふぅ、やっぱり強いね。ボクに一撃を入れるとか、少なくとも一騎討ちならクランの中にもそうそう居ないよ」
「それはどうも。尤も、本気を出していない相手に言われても嬉しくないが」
「そっか、じゃあ本気を出すよ」
距離が開いた後、クリストファーは剣を左手に持ち替えると右手を前に出して構える
それと同時に強烈な圧力のような物がクリストファーを中心に発生し、それだけで後ろへと後退りそうになるが、なんとか堪える
この感じ、クリストファーの手元に魔力が集まっているのか?
「待つのだ、マスター!まさかあの一撃を放つつもりか!?」
「これは、少しマズイな……」
ヴァネッサ・パリヤーロがクリストファーに対して制止する声を上げるが、クリストファーは止まらずに魔力の集束は進む
肌から感じられるだけで威力の程は感じ取れる、ならば俺の持つ技の中で対抗出来る物は自ずと限られてくる
「ボクの中の竜よ!」
魔法の詠唱の一節だろうか、《竜》という一言を耳にした事で複数あった選択肢は一つに纏まった事で俺は剣を両手に握り、頭上に高く掲げ詠唱を開始する
「剣よ、汝は我が牙、我が爪、我と共に駆ける、我が半身よ!」
「目醒め、空駆け、絶対なる強者の威光を知らしめよ!」
互いに詠唱が紡がれるごとに目に見えて変化が起きる
俺の剣には蒼い光が纏い始め、クリストファーの手には紅い光が明滅している
「討ち果たすは邪悪なる竜、無辜の民を救え、これは未来を斬り拓く為の一撃!」
「さあ絶望の一撃を!顎門を開け、眼前の敵を見据えろ、その一切を灰塵に帰せ!」
詠唱完了、そのタイミングは同時に訪れたのか互いに激しい光が剣から、手から溢れ出す
「斬り裂け!秘奥義、《討ち祓え我が聖剣》!」
「焼き尽くす!《殲滅する暴竜の息吹》!」
そして遂に放たれた両者の一撃は蒼と紅の光の奔流となり激突した




