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デート 2

「シャルロットを待たせちゃったわね。お利口にしていたかしら?」


「多分だが、あれだろうな。迷惑はかけてないみたいだが、別の意味で騒ぎになってるか」


店の外に出て事前に繋いでおいたシャルロットを探すと、そこには人だかりが出来ていた


主に居るのは女性、どうやら反応から察するに可愛がられているらしい


「ごめんなさい、ここに私の使い魔が居なかった?」


「あ、このワンちゃんの飼い主さん?はい、此処に居るよ」


「ありがとう。お利口さんにしてたみたいね、シャルロット」


「ギャウッ!」


瑠璃が話しかけると小さな女の子がシャルロットを抱き上げて渡してくれた


見た限り、触れてくる人に対して特に噛み付いたりしている様子はないし、言われた事を守っているから頭は良いのは本当みたいだな


人にも慣れただろうし、これなら俺が触れても大丈夫かもしれない


「後でご褒美としてジャーキーを用意してやるよ、シャルロット」


「ギャウッ!ギャウゥッ!!」


「グッ……俺だけ敵視されてるのか?」


それで撫でようと手を伸ばすと噛んできた、相変わらず痛みはあまりないが何故俺だけなんだろう?


「ダメよシャルロット、噛んだりしたら。ジャーキーだってカナが出してくれないと食べられないのよ」


「ギャウッ!?ギャウゥ……」


「そうよ、だからカナとも仲良く、ね?」


「スゲェ嫌々そうなんだが……」


俺、そこまで嫌われるような事をしたかな?少なくとも心当たりがない


まあ、瑠璃の言葉を理解して納得はしてくれたみたいだから、今後に期待しておくか


それからその場を後にした俺達は街の中を適当に歩き回る


初日に少し散策したくらいで普段は宿屋と探索者組合、そして街の外の森にしか行かないから全くといって良い程に街の中を知らない


それで適当に歩いてみようという話になり、俺達は二人と一匹で街の中を進む


今居るは南の区画だが、その中央近くに行くと噴水のある広場が見えてきた


この辺りは真上から見ると円い形の公園になっており、その円の周囲にメインストリートが続いて北側から合流して再び中央に向かう形となっている


東西南北四つの門から中央に伸びる大通り、門から中央までの丁度中間に必ず設置されているらしい


それと各公園間を繋ぐ道路も大通りに負けず劣らずの広さを誇る幅を持っていて、その道路を回っている馬車の存在もあって移動の利便性が高い


別の区画に行きたければ公園で馬車を待って、その馬車で移動するのが一般的という話だ


さて、そんな公園なのだが、そこには様々な種族がいた


旅芸人の一座なのか、動物の特徴を持った男女、身体能力に優れるという獣人と呼ばれる種族が曲芸を披露している


そこから視線を移せば弦楽器を弾きながら英雄譚を歌に乗せて美声を響かせる吟遊詩人らしき人間の人物がいた


更に視線を移せば甘い匂いのする屋台を経営している青白い肌に山羊のような角を持つ種族、吸血鬼になった瑠璃と同じく魔族として分類され魔法に対して高い適正を持ち魔族の中で人口比八割を占める魔人族と呼ばれる女性がいる


普段歩いていたり探索者組合の中でも見掛ける事のある人間以外の種族、それらが争う事もなく共存している


今も目の前を様々な種族の子供達が横切っていった、どの子も笑顔を浮かべて追いかけっこをしていた


こうして見ると王国で召喚されたばかりの頃に魔王の率いる魔王軍に滅ぼされかけていると言っていた事が途端に怪しくなってくる


「カナ、どうしたの?」


「いや、この街の様子を眺めていただけだ。お前はどう見る?」


「そうね、皆楽しそうよね。活気があって、笑顔があって、それでたまにケンカがあるの。とても平和な一時って感じじゃないかしら」


「そうだな、種族も様々だ。それで、俺達がこの世界に呼ばれた理由を思い出していたんだ」


「魔王軍の侵攻ね。カナは本当にあると思うの?」


「いや、ないと思ってる。というよりも魔王が戦争を仕掛けるとして名分が分からない。長く魔人大陸を統治している今の魔王は融和政策をとっている。現状、魔人大陸からは強力な魔物から取れる魔核を、エクレニウス皇国を始めとする北東大陸側からは食料品が交易される。だから無理に侵攻するメリットがない。此処までは前に確認した通りだよな?」


「そうね。食料と燃料、互いに必要な物を融通しているから争うと共倒れになるものね」


付け加えて言うなら王国の方は内陸国家だから魔人大陸との接点は薄い、リリウム教の連中が人間至上主義を掲げて他種族の迫害を行っている事に対する報復以外に理由はないだろう


「少なくとも共存出来てるんだ。なら余計な真似をしている王国とリリウム教の連中に非がある」


その報復があったのかはまだ知らないが、少なくとも挙げられる理由としてはそれくらいだ


大義名分でいうならどちらに正統性があるか考えるまでもない


とはいえ、まだ過去の出来事まで調べてはいないんだ、判断を下すのは早計だな


それに何よりも―――


「すまんな、デートの時にする話でもなかった」


「それもそうね。じゃあ何か罰ゲームがあった方が良いわね」


「お手柔らかに頼むよ」


「ふふ、考えておくから覚悟しておきなさい。それで何を見るの?この辺りは大道芸をしてる人がたくさん居るわよ」


「そうだな。まずは曲芸でも見るか?今から新しい演目みたいだぞ」


「あれは、何かしら?何かを固定する台みたいだけど」


気を取り直し、デートとしてまずは公園の中を見て回る事にした


その中で最初に選んだのは獣人達の大道芸であり、新たなパフォーマンスとして運ばれてきたのは中央に何かを固定する為の金具がついたテーブルだ


そこに猫のような耳をした獣人の女性が剣を持ってくると、適当な果物を投げて切っていく


使う道具として切れ味のある本物の剣という事を証明しているのだろう、その剣の柄を先程の台に固定する


刀身の切っ先は天に向く形となり、ちゃんと固定されたかを先程の女性がしっかりと確認している


「さあさあ、お代は見てからで結構、これより我が一座の最高の技、《鉄の腕》をご披露します。まずはどなたでも構いません、彼と握手してその手に何も仕掛けがない事をお確かめ下さい」


座長なのか、少し年老いた男性が司会を行い、後ろから現れた鍛えられた男性が近くの観客達に手を差し出し握手をしている


その二人も獣人であり、狼などのピンと立った耳をしている


やがて周囲の観客を一巡した後、男はまず固定された剣を両手で掴み、それを支点に逆立ちをする


そこまではただ刃に触れないように挟み込む形で掴んでいるだけであり、剣の切れ味は関係ないだろう


だが片手を離し、その切っ先を確かめるように手で触ると、男は一つ座長の方へと逆さまになったまま頷く


それを合図に後ろに控えていた女性の獣人二名がドラムとシンバルを持ち、ドラムロールを行う


そしてシンバルの音と共に男は剣を掴んでいた手を離し、切っ先に触れていた手だけで逆立ちをする


普通ならその切っ先に体重をかけた途端に右手が串刺しとなるだろう、しかし男の腕は剣に貫かれる事はなくしっかりと剣の切っ先の上に立っている


座長が《鉄の腕》と言っていた理由が分かる芸だ、観客からの拍手も大きい


「これだけではありませんよ。お次はなんと指一本でチャレンジします」


そんな座長の言葉に続いて男は一度剣を掴み、先程と同じ要領で剣の様子を確かめている


だがそれは先程のように掌ではなく人差し指のみであり、本気で指一本で今の芸を披露するつもりなのだ


観客達も緊張の中で誰も声を発することのない中、再び鳴り響くドラムロールに続くシンバルの音で剣を掴む手を離す


すると、本当に指一本で剣の切っ先に立っていた


観客達からは先程よりも大きな喝采が鳴り響く中、しかし男がフラッと体勢を崩したように見え、剣の切っ先から指が離れると落下していく


誰かのあっという声が聞こえるが男はよりにもよって頭、それも顔面から剣に向かって落ちていく


あわや串刺しとなるかに思われた次の瞬間、なんと男は剣を飲み込んで固定されている台に手を付き、逆立ちしている


最初に剣を固定していた女性が剣を外すと、男が逆立ちのままで口から剣をどんどんと吐き出していく


地球でも剣を飲み込むパフォーマンスというのは知っていたが、此処までアクロバティックに行えるのは獣人の身体能力があればこそだろうか


大惨事になると思って目を瞑っていた人々も悲鳴が聞こえない事を疑問に思ったのか、その目を開き剣を吐き出している男の姿を見ると、今度は逆に目を見開いていた


そうして刀身を全て吐き出した男は一礼し舞台裏へと帰っていく


一見として危機に陥ったかに見えて実は演出の一環という趣向に、観客達からは今までで一番の喝采が上がる


「お楽しみ頂けましたでしょうか?名残惜しいですが、本日の演目はこれで終幕となります。また明日、同じ時間に行いますので、またのご来場をお待ちしております。今後とも旅芸人一座、《犬猫屋》をよろしくお願いいたします」


そして、観客が興奮している中で座長がそう述べた


残念がる声もあったが、観客から次々と銅貨や銀貨、時には銀貨十枚分の価値がある大銀貨が投げられる


今までの演目に対するおひねりという事だろう、確かに見事な芸だっただけに俺も少し、ポケットに入れてある銀貨を数枚投げておいた


瑠璃も同じで此方は大銀貨を一枚、他の観客達が投げる分も含めてかなりの額が舞台へと投げられる


それから帰っていく人々、周囲が少し疎らになってきた辺りで俺達も移動を始める


「さっきの技、スゴかったわね!」


「そうだな。多分だが腕の強度じゃなくて姿勢とか重心とか、その辺りを使ってると思う。俺には直ぐには無理だ。数年は鍛える必要がある」


あの獣人の男はどれだけの練習を積んできたのか、それだけ素晴らしい技だった


「直ぐには無理ってだけで出来ないとは言わないのがカナらしいわね」


「大抵の技術ってのは必死に打ち込めば習得出来るものだ。出来ないと決め付けたり、途中で投げ出すから何も出来ないままなんだよ」


現実でもゲームでも、方法さえ間違えず時間を掛けていけば少しずつでも上達するだろう


俺は弓の扱いが苦手だがそれだって最初からすればかなり狙えるようになっている、継続は力なり、だ


「私ももっと魔法を上達しないとダメね」


「そうか?かなり使いこなしてようだが?」


「でもアンタは剣士としてもっと上を行ってるじゃない。私は恋人だけど、守られるだけの存在じゃない、むしろ恋人だからこそ互いに支え合える存在になりたいの」


「瑠璃……」


「それによ。最強の剣士と最強の魔法使い、最高の組み合わせだと思わない?」


「ああ、そうだな。なら互いにこれからも支え合って、一緒に上に行こう」


「ええ、よろしくね、カナ」


「ギャウッ!ギャギャウッ」


「ふふ、貴方も一緒に強くなるの、シャルロット?」


「ギャウッ!」


前衛として俺が後衛の瑠璃を守るのは変わらないが、瑠璃も強くなればそれだけ安心になる


それにシャルロットも強くなるのであれば瑠璃の護衛を任せるのも良いかもしれない


魔物は進化する事で上位の魔物になるらしい、その中には神話の狼の名を冠する存在もいる


まだ子犬だが、いつかその高みに昇る可能性がシャルロットにもあるのだ


「よし、決意も新たにしたところでデートの続きだ」


「そうね、まだ夕方には早いから沢山回るわよ」


その後、公園では吟遊詩人の歌を聴いた、ドラゴンを倒しに行った恋人を待ち続ける女性の話であり、この世界では有名な悲恋の歌らしい


デートで聴くような歌ではないが、物珍しさから最後まで聴いていた


その後は適当に歩いていたところ本屋を見付けて立ち寄ってみた


瑠璃はこの世界の英雄譚を集めた本を、俺はこの世界の歴史書と兵法書を購入した、勉強は大事だからな


そしていつの間にか公園に戻ってきていたから、小腹を満たす為に魔人族の女性がしていた出店で焼き菓子を二人分購入した


楕円形の形をしたそれはまさにワッフルであり、中にはイチゴのジャムが挟まれている


少し甘さも控えめであり、他人よりは甘い物が少し苦手な俺でも抵抗なく食べられる一品だ


物欲しそうな目をしていたからシャルロットにも少し分けてやったが、その時だけは大人しく受け取っていたから現金な奴だ


そして一日のデートを楽しんだ俺達だったが、やがて空が赤くなり始めた事でそろそろ終わりの時間だと感じていた


今は景色が良いという事で近くにあった裁定神クラリッサを奉る教会の尖塔の上に来ていた


一般人にも景色を楽しめるよう、一部が公開されている此処は街を一望するには少し低いかもしれないが、夕日に照らされた街並みを眺めるには十分だった


「綺麗ね。何処の世界も夕焼けの景色は同じだわ」


「故郷を感じさせる数少ない要素だな。普段、此処まで注目して見ていた事は無かったが思い返してみればこんな景色があった気がする」


様々な色をしていた家々の屋根や白い壁や防壁が一様に夕焼けで赤く染められている


そんなロマンチックな景色を前に、今は人も少なくなった尖塔の上で自然と肩を寄せ合うように並んでいた


「今日はこれでデートが終わりなのが名残惜しいわ」


「また今度、デートをすれば良い。今度は別の地区を回って、新しい発見をしてな」


「そうね。ところで、何か一つ忘れてないかしら?」


「罰ゲームの件か。触れなければスルー出来ると思ったんだがな」


「ふふ、折角の権利なのだもの、逃す手はないでしょう?」


苦笑しつつ、俺は覚悟を決める


そんな酷い内容ではないと思うが念のためだ、内容が軽い物なら拍子抜けで済ませられる


そして、瑠璃の口から罰ゲームの内容が語られた


「カナ、貴方の方から私にキスをしてくれないかしら」


「は?」


「良いじゃない、前は私からしたんだから!」


「いや、そうだが……心の準備ってやつがだな……」


瑠璃からされた時も慌てふためいたのに、自分からとなるとハードルがかなり高い


「ダメなの?」


「ぐっ……わ、分かった」


落ち着け俺、俺だって瑠璃とキスはしたいんだ、なら恥ずかしがってる場合じゃないだろう


「瑠璃……」


「カナ……」


瑠璃の肩に手を置いて顔を合わせる


その顔が赤いのは夕日のせいだけではないだろう、徐々に互いの顔の距離を近づけ、触れ合いそうになった時に瑠璃が目を閉じた


このまま躊躇えば瑠璃を傷付ける事になるだろう、そんな事はしたくないし此処までくるまでに瑠璃に対して愛しい気持ちがわき上がって来ている


そうなると自然に俺の方も躊躇いの気持ちがなくなってきて、自然に唇を重ねる事が出来た


「んっ……」


それからどれだけ経っただろうか、互いにどちらからともなく離れると二人の間に唾液で透明な糸が繋がっていた


「ん、やっぱり好きな人にしてもらうと良いわね……」


「お、おう……」


改めて言われると照れくさくなってしまう、嬉しそうにはにかんでいる瑠璃が可愛すぎて直視できそうにない


「もうちょっとだけ、このままでも良いかしら?」


「ああ、俺も離れたくない」


そのまま俺達は互いを抱きしめあい、しばらくそのままの状態でいた

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