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デート

男物の衣類と女物の衣類は売り場が別れており、売り場を移動してみるとその品揃えに驚いた


「道で聞き込みしてオススメだとは聞いていたが、女物の品揃えが凄いな」


正直に言うと広すぎて最初から女性向けの店なのかと思う、男性向けの物もそれなりにあったが倍近くは売り場が広い


「まあ男でお洒落に気を使う奴は少ないのかもな」


「確かに、女の人は着飾ってた人が多かったけど、男の人はどちらかというと実用性重視って感じに見えたわね」


街中を歩いていたりして道行く人を観察していた感想だが、瑠璃も同じように感じていたのか


そもそも生活に余裕がなければお洒落なんて後回しになるだろう


ただ見かけていた主な住民である主婦層はそれなりに着飾っていたが、たまに見掛けたその旦那と思わしき男性は特に装飾などは見当たらない服を着ていたのは、つまりそういう事なのだろう


この世界でも妻の尻に敷かれる男性というのは多いらしい


「色々あるわね。ヨーロッパで見た事がありような衣装もあるわ。あ、これなんかドイツの方の衣装にそっくりよ」


マネキンがこの世界にもあり、それにはメインとなる衣装が色々と飾られた物が複数並んでいた


その中で瑠璃が見ているのは襟の深い白のブラウスとコルセット、スカートとエプロンのセットを着たマネキンだった


確かにこんな衣装を地球に居た頃に何処かで見た事があるような気がする、瑠璃の言う通りにドイツ辺りの物だったか


ただ、これは何と言うか―――


「民族衣装としては露出が多くないか?」


「そうかしら?最近だと胸元を強調したり、スカートが短めになってたりする物もあるわよ」


「マジか」


「日本だって着物を魔改造したような物があるじゃない。世界的にも若い人を対象に変更を加えるくらい普通よ、普通」


言われてみれば二次元や三次元を問わず、そういった服があった気がする、和風メイド服なんて物もあるし、珍しくはないのか?


萌え文化に対しては頭のネジが弛むどころか幾らか抜け落ちてる日本だけだと思ったが、世界的にも伝統的な衣装は生き残りに必死なのかもしれない


「それより、こっちはアルザスの民族衣装に近い物ね。昔、着てみた事があるわ」


そういって次に見たマネキンの衣装だが、特徴的なのは赤いスカートに刺繍の施された黒いエプロン、そして何よりもリボンを象ったらしい大きな帽子だ


これもまた何処かで見た事があるような衣装だが、瑠璃にとっても馴染み深い服という事か


瑠璃にも似合いそうだし、買うならこれにした方が良いかもしれないな


「次は…………これって服って言えるのかしら?防具扱いじゃないの?」


「ん?あー、そもそも防具って程に頼れそうか?明らかに普通の服の方が防御力としては高そうなんだが、二重の意味で」


そのマネキンが身に付けていたのは一見すると水着に見えるが布地ではなく金属製だった


漫画やゲームでは良く見る俗に言うビキニアーマーという装備がそこにあった


「こんなの買うヤツが居るのか?」


「置いてあるって事は、居るのかもしれないわね」


居るのだとすれば恐るべし異世界、といったところだ


というより、こんな装備にどんな需要があるんだ?


確かに軽いし動きやすいだろう、速度で言えばこれだけ軽量な装備はあるまい


だがそれなら普通に服を着ていればいい、森の中とかだと枝によって傷付くから極力肌の露出を避ける方が良い


こんな装備で森に行こうものならたちまち全身傷だらけになるだろうな


それ以外の場所でも防御力なんて無いに等しい、奇襲でも受ければゴブリンとかの下級の魔物にも殺される危険がある


考えれば考えるだけこの装備が存在する理由が全く分からなくなってきた


「その服に興味があるのかい?」


「あ、店員の人?」


不思議そうに装備を見ていた俺達に声を掛けてきたのは一人の女性だった


結構歳上に見えるが赤毛をポニーテールにし、ややつり目気味なところから勝ち気な印象を受けるその女性はエプロンを身に付けており、そこに店と同じロゴが見える事から店員なのだろう


「興味がある、というか作られた経緯が知りたいって感じだな」


「そうだろうね、その服を見た人間は大抵同じような事を言うよ。これはね、結婚に悩む女探索者に向けてアタシが考えたんだ」


「考案者アンタかよ!?」


「ああ、そうさ。そしてこの服を作るには、それはそれは切実な理由があるんだ」


何だかダメな気配を感じたから正直に言うとどうでも良いと言いたかったんだが口を挟むと怒り出しそうなので止めておいた


そしてその女性は語りだした


「時に、探索者の結婚ってどんな状態か知ってるかい?」


「いや、特には」


「男女の混ざったパーティーとかだとパーティー内でカップルが成立しそうよね」


「そう、時としてパーティー内で結婚まで行く事がある。ただ、結婚によって安全策を取るようになったり、それで稼ぎが減って仲間内で不和が生じたりするんだが、アタシの話にはあまり関係ない」


「関係ないのか」


だったら何で話始めたと言いたいが黙っておく、口を開こうとしたら睨まれたからな


「問題はパーティー内でどんなカップルが生まれやすいかにある」


「そうね、前衛の剣士と後衛の魔術師とかカップルが多そうね」


「現に俺達がその状態だからな」


「そう、その中でも特に前衛は男、後衛は女の場合が多かった。けどね、想像してみなよ。鎧着込んだガタイの良い女と後衛のひ弱そうな魔術師、どっちが男の気を引けると思う?」


大体だが、この店員の言いたい事が分かってきた気がする


瑠璃も察したらしく口をつぐんでいた


「予想はついたみたいだね?そうさ、野郎共は剣や槍を振るう屈強な女は敬遠してなよっとした媚びてる女の方に靡くのさ!全く、今思い出してもムカつく!アンタもそうなんじゃないのかい!?」


「俺達の場合は最初から二人でやってるから関係ない」


どうやら過去に何かあったらしく俺達に向かっても怒りを向けてきた


俺達には全く関係のない事なので完全なる八つ当たりである


「ハンッ、どうだかね!男なんて皆単純だから何を言われても気付かないのさ!それで、この服だが女探索者の中で戦士系は女らしさに欠けてると気付いたのさ。けどこれなら同じパーティーの鈍感男共に女だって事を無理矢理にでも分からせる事が出来るだろ?」


「まあ、そうだな……」


確かにこれを着ていれば女だという認識にはなるだろう



だが正直に言えば仲間がこんな装備を着てたらかなり引く、その辺りは考慮していないのだろう


「でも着るにはそれなりのプロポーションが必要ね。でないと似合わないと思うわ」


そう言うが瑠璃ならプロポーションは大丈夫だろう、逆に陽葵とかが着たらストーンッという擬音が似合いそうだ



「クシュッ!?」


「陽葵ちゃん、大丈夫?風邪?」


「あー、平気ッスよ。多分、ダンジョンが洞窟風ッスから少し冷えたッスかね。それより、前からゴブリン三体来てるッスよ」


「分かったよ。魔法で援護するね」


「任せたッス!」



「幼児体型が着たらあまり映えないわね」


「けど、相手に意識はさせられるだろう?」


「いや、俺なら仲間がこんな格好してきたら正気を疑うぞ。そもそも売れた事があるのか?」


「去年から販売して、三着程は……」


「買うヤツが居るのか……」


それだけ必死なヤツが居たんだとは思うが、その結果がどうなったのやら


「それで、男性の意見としてカナの感想はどうなの?」


「え?俺に聞くのか?」


「そいつは良い、是非とも忌憚のない意見を聞かせて貰おうじゃないか」


正直に言って良いのかと一瞬迷ったが、俺一人の意見くらいならまあ良いだろうと思い、正直に話す事にした


「まず、仲間がいきなりこんな格好で来たら引くな」


「うぐっ!?」


「それに探索者向けにしても防御力が無さすぎる。平原とかなら良いが森の中ならたちまち擦り傷だらけだな」


「ぐぅっ!?」


「あと、狙いがあからさま過ぎるな。女として意識させたいなら休日に女性らしい服を着て一緒に街を回れば十分だろう。普段が鎧姿なら休日に女らしいところがあるんだと相手に自ら気付かせた方が良いと思うぞ、自分からアピールしていくよりはよっぽど」


「ぐはぁっ!?」


自分で聞かせてくれと言っておきながらいざ正直に話すと店員は両手を床について崩れ落ちた


言い過ぎたかもしれないが、間違ったマーケティングをするよりはましだと思いたい、それにまだ俺一人の意見だから全ての男の意見という訳ではないし、他の意見をサンプルとして集めないと参考にはならないだろう


「アタシのやってきた事って一体……」


「まあ、完全に空回りじゃないと思うぞ?ただ方向性を少し間違えただけだ」


念のためフォローするが、それでも店員は立ち直れずにいる


流石にここまで落ち込まれると罪悪感があるのだが、どうするべきか


「あの、すみません。この人はいつもこんな感じなので、お気になさらずに結構ですよ?」


「あ、はい。なんかすいません」


「いえいえ、いつもの事ですから。ほら、行きますよ、店長」


「分かった……」


だが別の店員、小柄でひ弱そうな男性が女性店員を連れていってくれた


というよりも―――


「店長だったのか……」


「あの人に素敵な出会いがある事を期待しましょう……」


あまりの出来事に俺達は二人でデートを楽しむのが遠慮される微妙な気分へとなってしまった


取り敢えず、瑠璃は途中で見ていたアルザスの民族衣装に似ているという服を二着、色違いで購入する事にして、片方はこの店で着替えてくるとの事だった


「待たせたわね」


それで待っていると更衣室から出てきた瑠璃に声を掛けられた


他にも女性客が居て女性向けの売り場に男一人で居るのが辛かったが、瑠璃の姿を見て全て吹き飛んだ


マネキンと同じく特徴である刺繍入りの黒いエプロンに赤いスカート、大きなリボン型の帽子を身に付けた姿ではあるが、瑠璃の透き通ったような肌や銀の髪によく似合っていて、お伽噺の中から現れたお姫様のような印象を受ける


「どうかしら?おかしな点はないわよね?」


「あ、ああ……綺麗だ……」


元から瑠璃は美人だと知っていたが、服装が組み合わされるとその印象がガラリと変わる


普段のドレスは気品を感じさせるものがあったが、今は町娘といった格好からか親しみやすさのような物も感じられる


どちらも好きだが、それでも強いて言うのであれば俺はこの姿の方が好きかもしれない


「ふふ、ありがとう」


俺の言葉に照れたのか、少し頬を赤くして言う


それから俺と腕を組んで店の外に出た

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