シャドウ・ドッグ 2
近くに残っていたシャルロットの親であろうシャドウ・ウルフの亡骸を埋葬した後は、本来の目的であった薬草の採取は終わっている事もあり、シャルロットの件があった事で昼過ぎではあるものの探索を打ち切って一度街に戻る事にした
使役した魔物は探索者組合に登録する必要がある、その為にもストラスフォードに帰還してきたのだ
「外に居たのはいつもの探索だな。それで、その魔物と契約した、と」
「そうだ。街の中に入れて良いものかと思ってな。どうするのが正解なんだ?」
「それなら檻か何かに入れて運ぶと良い。探索者組合でなら登録後に使役されている使い魔である事を示すタグを渡されるから、それを付けている限りは街中でも自由に歩き回らせて大丈夫だ。ただし、使い魔が起こした問題は全て契約者の責任になる。くれぐれも注意することだ」
街に戻ってまずは門で衛兵に契約した魔物、使い魔というらしいがその扱いを訊ねた
衛兵もこういった出来事はままあるのか淀みなく答えてくれる
「檻がないからバスケットに入れるか?」
「そうね、ちょっと狭いかもしれないけど、我慢してね?そう、良い子ね」
ある程度の意思の疎通が出来る事から昼食のサンドイッチが入っていたバスケットにシャルロットが入る
上蓋を片方だけ開け、そこからシャルロットが顔を出している
「はあ、かわいいわ」
「そうだな。俺には未だに噛みついてくるが」
そこまで警戒心が強いのか、これでよく瑠璃は手懐ける事が出来たものだと感心する
そしてこの状態であれば問題はないらしく、このまま街に入って探索者組合を目指す
その間、シャルロットは街の様子を物珍しそうに見回していたが、吠えたりはしなかった
躾をする前にこれなら今後も大丈夫だろうとは思うが、甘やかし過ぎる事だけはしないように気をつけよう
そして探索者組合に到着し、受付で依頼達成の報告とシャルロットの登録をする
「はい、納品の品は確認致しました。それと使い魔ですが、タグの発行を行います。首輪など、必ず外から見える位置で着けるようにして下さいね。それと、使い魔の問題は契約者の責任になりますのでお気をつけ下さい」
探索者組合の職員はそう衛兵と同じ事を言ってきた
そして発行されたタグを瑠璃に渡し、それを首輪代わりの紐に通してシャルロットの首に掛けた
首輪はこれから買いに行く予定だから仮でだな
「それとカナタさんは今度またスキル講習での指導をお願いします。探索者組合からの依頼扱いとしまして報酬も出ます。本来は下位の探索者への依頼ではないのですが、要望が多い為に特例です。噂を聞いた中位探索者にも受講希望者が居ますので是非ともお願いします」
「分かった、近いうちに顔を出すようにする」
そこまで好評だとは思わなかった、前回は初めて講習を受けに行った時だったから全く行ってないのだが、あの時に教えた面々は今もスキルを磨いているだろうか、それを確かめる意味でも引き受けた方が良いかもしれないな
「はい、告知を行いますので可能なら一週間は前にお願いします。それと、今回の依頼達成でDランク昇級試験への資格を得ました。次の試験は週末、三日後になりますが受験しますか?」
「頼む。大丈夫だよな?」
「ええ、私は構わないわよ」
「わかりました、ではお二人とも受験として処理します。試験は朝の十時ですので、遅れないようにお願いします」
ついでに昇級試験への申し込みも行い、俺達は探索者組合を後にした
さて探索者には休日という物がない、正確には自分の判断で休むようにしているから生活が成り立つなら月に一回仕事するだけでも済む
まあ、そんな生活は高額報酬を受けられる高位の探索者に限られるしそもそもそんなの依頼は難易度も高い、それに鍛えなければ勘も鈍るし体力も落ちる、怠けた高位の探索者なんて存在しない
そして俺達だが、今は仕事がなく三日後には試験という事もあってなるべくゆっくりと休み、筆記の対策として復習を行うつもりだ
だがその前にまずは―――
「コイツの首輪だな」
「そうね。確か革製品を扱っているお店にあったような気がするんだけど、合ってる?」
「合ってるな。正確には普通の犬用だったが、同じ犬科なんだし問題ないだろう」
タグには首輪に付ける事が前提となっているかのように金具が付いているし、首輪で問題ない
それで近くの革製品を扱っている店で適当な首輪を購入した、真っ赤に染色されているから真っ黒な毛並みでも映えて周囲にも人に飼われている魔物と一目で分かるだろう
「それで、この後はどうする?」
「確かに何も決めてないわね。カナは寄りたい場所はないの?武具とか」
「剣は間に合ってるし、鎧はスピードが落ちるからあまりな。せめて竜の鱗を使ったスケイルメイルとかなら軽くて丈夫なんだが」
ゲーム内に於いても俺は軽量な鎧を使用していた、AGIに特化しているんだ、わざわざその利点を殺す真似はしたくない
「タラスクのは殆んど金属だったわね。この世界でも竜の鎧って軽いのかしら?」
「軽いらしいぞ。その分、倒すのが大変で個体数も少ないから滅多に市場に出回らないってだけだ。高位の探索者ともなれば居なくはない」
空を飛ぶ飛竜に対して人間が挑むにはかなりのリスクがいる、速い上に炎を始めとする各種ブレス攻撃に空からの強襲、どれも一撃で命を落とすような威力があるだけに迂闊に挑む事も出来ないらしい
俺はレベルを上げて新たな機体の開発を行えば大丈夫だが、現状では相手にしたくないな
「ああ、それと革鎧以上、金属鎧以下ってところで蜥蜴型の魔物の鎧はあるぞ」
「ならそれを見に行くのはどう?流石に剣士を名乗ってるのに鎧の一つも持ってないなんて格好がつかないでしょう?」
「そうだな。けど、まだにしておく。せめてランクを上げてからだな。それと俺の場合はガントレットとグリーブも身に付ける」
「何で手と脚の防具を着けるの?」
「剣士ではあるが拳や蹴りが使えないとは言ってない」
「本当に何でも出来るのね……」
欲を言えば槍や刀身の短めの剣を二本、投擲用に大量のナイフなんかが欲しいところだが、まだ金銭的に余裕があまりないから後回しにしよう
鎧にしたって下見って感じになるだろう、竜の素材ではないにしてもそう易々と買えるものではないからな
そんな訳で鎧を見ていたのだが、やはり蜥蜴型の魔物であっても全身一式の値段はかなりの物だった、具体的には腰に吊るしているミスリル剣の倍の値段であり、俺の場合は手足の分はより強度が必要になるから調整を加えれば単価は更に高くなるだろう
「駄目だな、手が出ない」
「そうね……これはちょっと……」
やはりランクを上げて金を稼ぐのが良さそうだ、いざとなればタラスクの素材を売るが、それだって全てを換金するには時間が掛かるだろう
「諦めてダンジョンに潜る方が早そうだな。素材が手に入ればその分安くなるだろうし」
「今度からはダンジョンの情報も集めないといけないわね」
迷宮都市と呼ばれるだけありストラスフォードの周辺にはダンジョンが多い、ダンジョンの魔物は野生のものより好戦的ではあるが必ず出現して倒せば塵になって幾らかの素材を落とすという
ならばダンジョンに潜って魔物を狩り、その素材を持っていけば鎧を作って貰うにしても加工費のみで済む、金銭的にはその方が良いだろう
さて、夕方までには時間があるが
「服でも見に行くか?」
「服?その服だと気に入ってないの?」
今の俺の服装だが黒の半袖Tシャツに軍用戦闘服のズボン、底に鉄板が仕込まれた安全靴という格好だ
今の所は森に行く時にこれに戦闘服の上着と状況に応じてタクティカルベストが追加される形だ
これらは《簡易ショップ》で購入可能であり、予備に数着を持っていて普段着として使用しているが、今話しているのはそういうことじゃない
「俺のじゃなくてお前のだ。可愛い服がなくて不満に思ってただろう?」
「確かに言った事があるけど、本当に良いの?」
「ああ、高過ぎる物でなければ一着や二着、なんて事はないだろう?まあ、なんだ。付き合い始めてあまりこういった事はしてなかったからな、その、デートの意味も込めてだな……」
「カナ……!?」
俺達が正式に恋人となって一週間、その関係性はあまり変わっていない感じがするが、内心では少し不安に思っていた
俺の事を愛していると言ってくれたし、俺も瑠璃の事を愛している、それでもこの一週間、特に何の進展もないのはどうなのか、と
「ありがとう、カナ。一緒に買い物しましょう」
「ああ、行こうか」
対して瑠璃は満面の笑みを浮かべると俺の提案を受け入れて、手を引いて歩き出した
瑠璃は左手でシャルロットを抱いているが、右手で俺の手を引いて街の中を進んでいく
それだけ楽しみという事なんだろう、喜んで貰えて俺も嬉しくなった
そうして適当な店を選んで入店する、シャルロットは外でお留守番になるが勘弁して貰おう
「クゥン……」
「良い子で待っていてね、シャルロット。お利口さんにしていたら後でおやつをあげるわ」
「ギャウッ!」
「そう、良い子ね」
だがシャルロットは瑠璃の言うことはよく聞いてくれる、今回は大人しく待ってくれるだろう
「それで、服を見るのに私だけじゃなくてカナの分も見た方が良いわよね?」
「俺のか?俺は今の格好でも十分に気に入っているんだが」
「でも見慣れない格好だから周りから目立つじゃない。普段着とか、街中で着ても目立たない服を選ばないと」
確かに、そういった視線は受けた気がするが此処は迷宮都市だ、探索者となる為に様々な土地の人間が流れてきていて服装などを始め様々な文化の人間が存在する
俺もそういった遠くから来た人間の一人といった風に見られているだけだと思うが、瑠璃は気になっている訳か
「まあお前のドレスもかなりの物だと思うがな」
「あれは、私の初期装備だし……」
探索者組合に居る時に他の探索者が話しているのが聞こえた事があったが、あのドレスが原因で俺達の事を他国の貴族の令嬢と駆け落ちした騎士といった予想が立てられていたりするのだ
他人の詮索はしないのがマナーだが、人間とは興味があれば知りたくなる生き物だから無理はない
「責めるつもりはないさ。むしろ俺達の素性を隠すカムフラージュになる。それに、俺はお前の騎士である事に違いはないからな」
「王子様じゃないのね?」
「柄じゃないからな」
少なくとも王子様なんてとてもじゃないが務まりはしないだろう、騎士の方が気分的には合ってる
だから無理に着飾る必要はない、適当な物を選んで瑠璃の分をより時間を掛けて選んでやりたい
「これなんか良いかもな」
そこで俺が手に取ったのは上着と革のズボンだ
丈が長く、膝の辺りまで来そうな程であり色は深緑色といったところである
よく中世の騎士とかが鎧の下に着込んだり普段着として使用していた物と同じデザインだったと思うが、俺はこの服の正確な名前を知らない
「あら、チュニックじゃない。確かにそれなら良さそうね」
「俺が着て似合うと思うか?」
「非番の衛兵とかには見えるわね」
それは似合っているのかどうなのか分からないが、違和感はないという意味で受け取っておこう
取り敢えず違和感がないのであれば予備も含めて三着ほどを購入しておく
そもそもが兵士が鎧の下に着込んだり平時に着ているような服だから今後、鎧を購入した時に下に着る事になるだろうし着なれておいた方が良いだろう
こうして俺の分は買い物が終わった、次は瑠璃の分の買い物に移るとしよう




