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異世界召喚の傭兵操者《マーシナリー・ランナー》  作者: RABE
第二章 流星《メテオール》
34/72

勇者達の今 5

灰村奏多には絶対に勝てない、そう言っているかのような陽葵の言葉に周囲は騒然とした


「遠藤さん、どうしてそこまで言い切れるんだい?」


「ゲームをした事がないから言えると思うッスけど、とあるゲームでの奏多センパイの評価を知ってるッスか?まあ、知らないと思うッスけどね。『最強に最も近い男』、それが奏多センパイの評価ッスよ」


ざわめく面々の中で桐生の質問に答えた陽葵、その表情には苦笑が浮かんでいた


「最強って、どういう意味でなの?陽葵ちゃん」


「文字通りッスよ。完全没入型(フルダイブ)VRゲームはプレイヤー本人のセンスに大きく左右される点があるんッスけど、奏多センパイはそのセンスがずば抜けているんッス。まるでVR空間の中に生きているようで、一時は運営側から用意されたNPCとも噂されたんッスよ。それだけ、奏多センパイの、プレイヤーネーム《ネメシス》の技量は突出していたんッス」


「でも、それはゲームの中の話だろう?ここは現実だ」


「ウチのスキルもゲーム内の再現って言った筈ッスよ?それに教会で見なかったッスか?壁を走るような奏多センパイの動き、ゲーム内で同じような事をやってるの目撃されてるんッスよ?低く見積もってゲーム内の動きは完全再現、普通に考えればそれ以上の動きをしてくる筈ッス。残念ッスね、スマホのバッテリーさえあれば実際にどんな動きしてたか見せられるのに。奏多センパイは場合によっては敵対するつもりみたいな事を言ってたし、そうなった場合このままだと桐生センパイ達は初見殺しで負けるッスよ」


ただ淡々と陽葵は事実を述べていたのだが、それに不機嫌になるのは桐生達の四人だ


「何でアイツの方が強いって、そこまで言えるんだ?」


「同等のステータスならセンパイは五十人くらいなら勝てるッスよ。初心者狙いをしていたプレイヤー達を片っ端から狩っていて、そいつらが徒党を組んでセンパイに挑んだら返り討ちになったッスからね。《百人斬り》《血塗れ》、そういったアダ名を付けられる程度には強いッスよ。ウチも一度だけゲーム内で手合わせして貰った事があるッスけど、手も足も出なかったッス。あれは尋常じゃないッス、本当に底が見えないッスよ」


「で、でもよ、アイツ正義と初めにやり合った時にケガしてたじゃねえか!そこまで警戒する事か!?」


「手加減してたッスね。さっきまでの話は全部ゲームの中の話ッスよ。けどもしも殺しても良いと考えてたら数回斬りあっただけで殺されると思うッスよ。センパイがそこまで容赦なくなるなんて思いたくはないッスけど」


「で、でもでも、皆で囲んで魔法とかならいけないかな!?」


「言ってなかったッスね。ウチのやってたゲーム、《ソード&マジックⅡ》でも魔法はあったッスよ。そして例の百人斬りの時、センパイを狙って悪人プレイヤー達が囲んで魔法を放ったんッス。けど、センパイはそれを回避したり剣で斬ったり、逆に遠距離の敵にナイフを投げて魔法を妨害したりと、隙が無かったッス。しかもゲームから暫く居なくなったと思ったら別のゲームに行ってて、そこでは銃を扱う世界だったから戻ってきた時に弓矢も魔法も銃弾よりは遅いとか言ってたんッスよ?もう勝てる訳がないじゃないッスか」


「では、何か弱点はないのですか?」


「弓矢の扱いが苦手って話は聞いたッスね。でもクロスボウや発動の早い魔法、ナイフで遠距離をカバーしてくるッス。加えて、今は銃を扱うみたいなので、弱点らしい弱点はないッスね。唯一、センパイと同等の上位プレイヤー達が戦った時に一対十でなら勝利してたッスよ。まあ、三人は撃破されたんで圧勝とは呼べなかったッスね。本当、別のゲームに行かなければ殿堂入りレベルのトッププレイヤー扱いだったのに勿体ないッスよ」


聞かされれば聞かされるだけ強さを再認識される奏多、そのあまりの強さに四人の顔色も悪くなっていた


「けどセンパイは基本的に無害ッスよ。ゲーム内でも基本的に目撃されたのは初心者向けのエリアで、そこで初心者の手助けを主にしてたッスからね。ああ見えて結構な世話焼きッスよ、センパイは」


「それは灰村くんらしいかもね。そういえば、そのゲームで灰村くんを見掛けたのっていつくらいの話なの?」


「四年前くらいなので中学生くらいの時じゃないッスか?別のゲームに行った後もちょくちょく戻っては来てたみたいッスけどね。ただ他の上位プレイヤーが軒並み大人や高校生なのに、一人だけ小さな子供だったので目立ってたッスよ。誰とも組まないけど、誰とでも協力してくれる、傭兵プレイってヤツをしてたッス。まあ無償なんで雇われってのは違うかもしれないッスけどね」


「奏多、そこまで多くは話してくれなかったけど、本当に世界ランクだったんだ。それにVRゲームでそこまで技量が身に付くんだね。奏多は他に何か言ってたりしてたっけ?」


「ウチも本当はセンパイが《ネメシス》って知ってて近付いたッスけどね。センパイ曰く『怪我したり死んだりしないから幾らでも無茶が出来る』って言ってたッス。実際、完全没入型(フルダイブ)VR技術は色々な事に利用されてるッスよ。それこそ、軍隊での訓練にも」


「訓練に?」


「そうッスよ。死なない実戦、幾らでも作れる戦場、現実と違っていくら兵器や弾を消耗しようとも全てデータで費用が掛からない、そして完成するのがゲーム感覚で戦える兵士。奏多センパイはそう言ってたッスね。特にリアル志向の強いゲームは銃も本物と同じ使い方にしてるから、ゲームしてるだけの人間でも銃を渡せば直ぐに使えるって事も言ってたッスよ」


「あ、だから灰村くんも銃を使えたんだね!」


逆に司や椎名の声は奏多の話題となって明るかった


「あ、そろそろ煮えてきたッスね。飽きては来たッスけど、やっぱり空腹には勝てないッス。早めに食べましょう」


「あ、私器を配るね。はい、どうぞ」


「ありがとう、椎名さん。そういえば奏多の話は良いとして、瑠璃ちゃんの方はどうなったかな?奏多と一緒に行動してるとは思うんだけど」


三人は完成したスープを木製の器に移して同じく木製のスプーンで食べ始める、いざ奏多が敵対した時の事を考え頭を悩ませていた四人も、話題を切り替えようと自分達の持ってきた鍋のスープを掬い、硬くなったパンを浸して柔らかくしてから食べている


塩気と肉の味、そして豆と僅かな野菜の旨味が溶け込んだスープの味と温かさに一息ついて、また会話に参加した


「瑠璃センパイは魔力関係のステータスが高かったから、魔法を使ってると思うッスよ。それに錬金術師だからポーションとかの回復アイテムも作れるとなれば、生身でも強い奏多センパイとは相性が良いと思うッス」


「でも、何でフォンテーヌさんは吸血鬼になったんだ?人間のままならあんな事にならなかったのに」


「間接的に瑠璃センパイを殺す事になったかもしれない人間の言う言葉とは思えないッスね」


「それは、灰村の奴が―――」


「瑠璃センパイは自分の設定付けで吸血鬼にしてたからそうなったみたいッスよ。あの石で本質を引き出すみたいな事を言ってたから多分それでッスね。瑠璃センパイが吸血鬼に、奏多センパイがゲームでの能力に、ウチがゲームと同じ槍使いになったのも同じような理由だと思うッスよ」


桐生が余計な事を言おうとしたのを遮りつつ陽葵は続けた、折角の食事なのに気分が悪くなる事を避ける為だ


「ただ瑠璃ちゃんの場合、奏多ほど派手に動いてないから情報が少ないね。ドルム村で一緒に居たのは分かってるけど」


「そうッスね。案外、今ごろは二人で同じベッドで眠ってるような仲になってるかもしれないッスよ?男女二人の逃避行、路銀も少なく宿は同じ部屋、そんな中で思春期の男女が何もない筈はなく、って感じ―――」


その時、ボキッという何かが折れるような音がして全員が振り向く


見れば椎名が握っていた木製のスプーンが半ばで握り潰されていた


「あ、私ったら、つい。ごめんね、ちょっと代わりのスプーン貰って来るから」


「ア、アハハ、だ、大丈夫ッスか?」


「うん、直ぐに戻るから皆は先に食べてて良いよ。あ、でも陽葵ちゃん、一つ良いかな?」


「な、なんッスか?」


「ご飯の時だから、あまり下品な事は話さない方が良いよ?ね?」


「は、はい!以後気を付けます!」


「うん、それじゃあ私ちょっと行ってくるから」


顔は笑っているのだが、言い知れぬ威圧感に陽葵はそう答えるしかなかった


他の面々もまた椎名の気迫に呑まれており、代わりのスプーンを取りに行ったその姿が見えなくなったところで、全員が息を吐いた


「お、恐ろしかったッス……ウチ、椎名センパイだけは絶対に怒らせないようにするッスよ……」


「う、うん。スゴい気迫だったね」


「鈴音のあんなに怒ったところ、久し振りに見たよ……」


「や、やっぱり灰村の事でだよな?おっかねえ……」


「椎名さんが灰村さんに好意を抱いているのは分かるのですが、何があったのでしょうか?」


「本当だよね~。そうだ、次は鈴音(すずっち)に聞いてみようよ。灰村君の事とか、話してくれるかも!」


「それ良いかも。奏多とはいつの間にか話すようになってたけど、奏多はあんまり覚えてないって言ってたからね。多分、また集中し過ぎてショートしてた間に何かあったんだと思うけど」


椎名が居なくなった後、何故あそこまで怒るのか分からない面々は話し合い、主に恋愛関係の話が好きな女子の意見でそうまとまった


そして替えのスプーンを持った椎名が戻ってきたが、既に先程の威圧感は霧散しており、いつもの穏やかな雰囲気に戻っている


今がチャンスとばかりにまずは綾瀬が切り込んだ


「そういえば鈴音(すずっち)って灰村君の事が好きなんだよね?」


「えぇっ!?何で分かったの!?」


((((((あれでバレてないと思ってたのか……))))))


全くバレていないと思っていたのか、心底驚いたような反応をする椎名だが、周りの全員は少し頬がひきつっていた


「だ、だって灰村君ってあまり他の人と仲良くしそうな雰囲気がないよね?それなのに話し掛けに行ってるから、何か理由があるのかな~って思ったの!」


「う、うん、実はね、私いつも電車で学校に通ってるんだけど、その帰り道で他の学校の人に絡まれた事があるの」


「鈴音、そんな目に遭ったの!?いつの話!?」


「えっと、正義が部活の合宿で居なかった時で、去年の冬だよ。それで、腕を掴まれて無理矢理連れていかれそうになった時に、灰村くんが助けてくれたの。周りの人が皆見て見ぬふりをしてる中で、一人だけその男の人に立ち向かってくれたんだ」


「おぉ、センパイ滅茶苦茶ヒーローッスね。それで、どうなったんッスか?」


「男の人が怒り出して拳を握って灰くんに殴り掛かったんだけど、灰村くんはそれを簡単避けて逆に男の人を殴って一発で倒したんだよ。あの時の灰村くん、格好良かったなあ」


その時の事を思い出しているのか、両手を頬に当てて笑顔を浮かべる椎名、そして語られる奏多の様子に感心した様子の女性陣


それから椎名は話を更に続けていく


「それで、男の人を倒した後、ちょうど駅に着いたみたいで、灰村くんは降りちゃったんだけど、お礼をしたいからって名前聞いても『別にどうでも良い』って返されちゃったんだ」


「あー、多分ッスけどセンパイその時は普通の状態ッスね。頭がショートしてたら受け答えすらしないッスから」


「うん、私もそう思うよ。それでね、どうしても名乗らないまま電車を降りちゃったから、私も降りて後を追い掛けたの。でも途中から追い掛けてたのに気付いたみたいで、走り出したり後ろを振り返ったりしてたんだ。私は見付からないように隠れながら遂に帰宅する灰村くんの後を追い掛けてお家の場所を見付けたんだよ」


「お巡りさーん、この人ッス!」


後半、既に狂気染みた行動をさも自慢げに語る椎名に対して全員がドン引きしていた


あの桐生でさえ、今だけは奏多への同情の念が強くなっている事から、それがどれだけの事なのか理解出来るだろう


「その後にお礼としてクッキーを焼いて灰村くんのお家に届けたんだ。その時は灰村くんは留守だったけど、また会えるように私も電車の時間をずらして灰村くんと同じ時間に乗れるようにしたり、同じ学校っていうのは分かってたからクラスを調べて名前を調べたり、放課後とか休日にどんな事をしてるのか調べたりしたの。ゲームセンターで遊んでたり、私の時みたいに他の学校の人に絡まれてる人を助けたり、意外と動物好きだったり、どんどん新しい一面を見る事が出来て、いつの間にか好きになってて、その日から一ヶ月後には面と向かって話せるようになれたんだ」


「あの、椎名さん?それは世間一般で言うところのストーカーなのでは?」


「えっ?愛さえあればそれは全て合法ってママが言ってたよ?私のママもパパにそうして結婚したって言ってたから、間違ってないよね?でも、それなのにあの文官の人、灰村くんの居る国に行ったらダメって……」


そのあんまりな価値観に、椎名を除く全員が頭を抱えた


見た目は清楚な美少女でありながら中身はストーカー紛いの事を平然と行える人物であり、幼馴染の知られざる一面を垣間見た桐生が一番のショックを受けている


「さーて、早めに食べて寝るッスよ」


「そうだね、明日からは訓練としてダンジョン探索だもんね。しっかりと休んで明日に備えないと」


「そーそー!あ、オレの分おかわりくれ。いやー、それにしても疲れてると塩味がうまいな!」


「うん、美月も今日のご飯は美味しいって思うよ!やっぱり皆で食べてるからだね!」


「椎名さんも、そろそろ食べないと冷めてしまいますよ。料理は温かい内が一番美味しいんです」


「えっ、まだ話足りなかったんだけど……でも、確かに明日の準備も大切だもんね」


このままだと椎名が暴走するかもしれない、そんな予感がした為に全員が一丸となって強引にでも話題を逸らし始めた


その様子に疑問を浮かべながらも、椎名もまた明日以降のダンジョン探索に備えるという目的の為に料理に移る


またそれとは別に、敵対するかどうかはともかくとして早めに椎名を奏多に会わせないとマズイ、と全員が感じていた


しかしこの日の夜、奏多と瑠璃の二人が恋人となった事をこの時はまだ誰も知らなかったのであった

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