決闘 2
ルールは簡単に決まった、相手の殺害の禁止、武器は互いに剣だから鞘に入れて抜くのは禁止、打撃武器としてのみ使用する
スキルの使用はあり、魔法は中級まで、上級の魔法の使用は禁止、二対二の戦闘で降参か審判が戦闘不能と判断した時点で終了とする
決闘の要求だが、俺達は後で決めるとして保留にした
そしてカメーリアが完全に回復するまで待ってから訓練場で決闘が開始された
「では双方共に準備は良いですか?」
「問題ない、行けるな瑠璃?」
「ええ、大丈夫よ」
「当然だ、早く初めてくれ」
「あの小娘……絶対に打ち負かしてやるわ」
審判の言葉にそれぞれ頷き、訓練場の端と端に待機する
それから審判が口上を述べてから開始となる
「それでは裁定神の名の下に、この決闘に対する公平な判断を下す事を宣言します。始め!」
その合図と共に、俺とヴィゴールは同時に走り出した
剣士としては接近しなければ意味がないから当然の動きであり、互いに中央に差し掛かった辺りで剣が交差する
鞘に収まっているとはいえ激しい音と共に剣と剣がぶつかり合い、そのまま鍔迫り合いの形となる
「なかなかやるな。だが所詮はFランク、オレ達Bランクの敵ではないわ!」
「チッ」
俺の武器はバスタードソードであり、相手の武器は両手剣、少なくとも重量で負けており通常では一撃の威力は向こうに分がある
その為、最初の一撃はSTRで対抗しようとしたが、直ぐに諦めて正面からのぶつかり合いは避ける事にした
レベルが上がっているからステータスも当然上がっているのだが、どうやら向こうもレベルはそれなりに高いらしい
一度離れた後で剣を構え直すと、そこに炎の球が飛んでくる
咄嗟に剣で斬り伏せたが、次々に飛来する炎を全て迎撃するのは効率的ではないから回避に移る
俺のステータスの中ではAGIが一番高く、装備も今は剣を一本と頭部のバイザーだけと軽装である事から走れば狙いが定まらないのか近くに当たる事さえなくなった
そのまま先に魔法使いであるカメーリアから仕留めようかと思ったがヴィゴールが周囲を固めている、どうやら魔法で俺を仕留める事を優先したらしい
「カナ、一度戻ってきて。魔法を撃つわ」
「了解、お手並み拝見だな」
向こうが魔法ならこっちも魔法だ
そういう訳で後方で魔法を準備しているらしい瑠璃の近くまで下がる
それに対して炎による追撃が行われたが、瑠璃の近くまで来ると半透明な障壁によって防がれた
どうやら魔法を二つ使っているらしい、防御と今溜めている攻撃用の魔法を
「クッ、あんな小娘ごときが何故魔法の同時使用を!?」
「落ち着けカメーリア!お前なら圧倒出来るだろう!」
「フフッ、まずは一人よ。『この手から逃れる術は無し。憐れな獣よ、狩人の慈悲を知れ。《魔弾の射手》』!」
右手を銃のような形にして狙いを定めている瑠璃は、そう詠唱を唱えると前方に三つのリングを出現させた
それと同時に右手の人差し指の先から白い球体が現れ、ゆっくりと進んでいく
それに対して向こうも訝しげな表情を浮かべているが、あまりにもゆっくり過ぎて遂には大声で笑いだした
「ギャハハハハッ!何だよその魔法!あれだけ格好つけておいて、その程度かあ!?」
「ウフフ、どうやら魔法の同時発動なんて見栄を張っただけみたいね。てんで威力もなさそうじゃない」
「あら、Bランクともなれば簡単って事かしら?じゃあ本気で行っても構わないのよね?」
「えぇ、やってみなさいよ。どうせ大した事も出来ないでしょうけどね。所詮は小むす―――」
爆笑している二人に対して、瑠璃がちょっと指を振ると球体は加速してリングへと突っ込んだ
加速した後はそれなりのスピードだったが、リングを通った球体は更に加速している
そのリングは残り二つ、全てのリングを通った球体は口を開いて嘲笑していたカメーリアの顔の直ぐ横を通過していく
速い、銃弾程ではないにしても俺が目で捉えるのがやっとの速度となれば連中の目に見えていたかは怪しい
「い、今のは何をしたんだ、カメーリア!?」
「し、知らないわよ!?いきなり、顔の横を何かが!?」
「余所見してて良いのかしら?私は言ったわよ、『この手から逃れる術は無し』って」
瞬間、連中の後ろで回転しながら待機していた球体が背後から襲い掛かる
それにぎょっとした二人は地面へと倒れ、球体は頭上を通り抜ける
「瑠璃、殺すなよ」
「分かってるわよ。あれ、威力はあまりないの。本当ならもっと強力な魔法を撃つのに、単なる魔力の塊を使ったんだから」
どうやら配慮はしていたらしい、瑠璃が指を振って指示を出す度に球体が縦横無尽に空中を飛び回り連中を翻弄していた
そして俺も一つ思い出した事がある、瑠璃が唱えた魔法の名前についてだ
「確か、オペラだったか?」
「そうよ。スランプに悩んでいた時に友人からの誘いに乗って、意のままに命中する銃弾を悪魔に作って貰った狩人の話ね。でも七発の内、一発は悪魔の意図した標的に命中するようになっている。まあ、私の魔弾はそんな事はないんだけどね!」
「まあ悪魔が作ってないからな。それと、そろそろ向こうはバテてきたようだぞ」
「そうね、だからまずは一人仕留めるわ。後は平気よね?」
「ああ、元からそのつもりだ。ちゃんと一人が一人ずつ仕留める予定だったからな」
「じゃあ終わるわね」
そう言うと球体の動きが更に鋭くなり、勢いをつけてからカメーリアの腹部へとめり込む
そのままカメーリアの体が浮き上がり、少し飛んだところで球体が爆発、更に後方へと吹き飛ばした
「はい、終わりね」
「あれって中級以下なんだよな?」
「それどころか全部初級だと思うわよ。そもそも魔法の基準ってそれ単体の破壊力で決まってるのよ。魔力球は普通はあんな威力ないし、加速魔法を使ってあれだけの威力を出してるだけだから。初級魔法の組み合わせで上級以上の威力になったとしても、ルール違反はしてないわ」
「確かに中級までとは言っていたが、やっぱりこうした抜け道はある訳か」
そもそもこういった組み合わせが出来る時点で使い手はかなり限られるだろうが、つまりはそれも実力って事だしな
さてと、カメーリアの方は戦闘不能のようだし、後は俺がヴィゴールを倒せれば終わりか
「貴様等、よくもッ!!」
「此処からは俺もスキルを使っていくか。瑠璃、手出しは無用だぞ」
「当然よ。でも、手出ししたくなるような情けない戦い方したりしないでしょうね?」
「任せろ。少なくとも剣による戦いなら経験で負けていない筈だ」
ゲームとはいえ、オンラインゲームであった以上生身の人間相手の戦いを繰り広げてきたのは間違いないのだから
「さて、始めようか」
「おのれ、《クイックムーブ》!」
対峙した瞬間、向こうはスキルによる高速移動なのか一瞬で間合いを詰めてきた
その距離はおよそ10メートル、だがこの程度の移動方法なら俺の《雷光一閃》と同じであり、ゲームでもよくあった
むしろ移動しかなく攻撃は普通に繰り出さなければならないので、それよりも簡単に対処出来る
間合いから外れる為に一本退き、横への一閃を回避、腕を左に振り抜いた事でがら空きとなっている胴体へと《スラッシュ》の一撃を叩き込む
「ぐはぁっ!?」
「遅いな。移動した後にスキルを使えばもっと速くなるだろうに、手加減したか?」
一撃を放った硬直で防ぐ事も出来ず、ヴィゴールは鎧があるとはいえ衝撃を全て受け止める事は出来ない事で数歩後ろへと後退した
今の一撃は軽く放ったのだが、結構なダメージとなったらしい
「な、なめるなあぁぁぁぁぁッ!《フレイムソード》!」
だがヴィゴールは立ち上がると得意のスキルを使い、剣に炎を纏わせる
その効果は刃を赤熱化させる事で対象を溶かし斬ることであり、今の鞘に収まっている状態ではそこまで効果はない筈だ
その動きに何か引っ掛かりを覚え、俺はスキル《集中》を使用してから剣を構えて油断なくヴィゴールの挙動に注意する
「ククク、死ねぇッ!《インパクトスラッシュ》!!」
ヴィゴールが放ったのはいつもの得意とするスキルの組み合わせだった
しかし、炎によって鞘が燃えていた事で剣を振っている途中で鞘が外れ、赤熱化した刀身が露出する
その瞬間に理解した、この男が何故剣を鞘に収めた状態で《フレイムソード》を使ったのかを、こうして鞘を破壊して事故に見せ掛けて俺を殺すつもりだったのだろう
スキル《集中》を使用してから周囲がゆっくりに見える中、俺はその事を理解し、同時に怒りを覚えた
決闘とは神聖な物だ、それがゲームの時の価値観であったとしても一対一でぶつかり合う以上は正々堂々とが常識だろう
にも関わらずこの男はそれを汚した、ならば俺も容赦をしてやる理由がない
「《天翔斬》!」
即座に発動した《剣技》により、俺へと迫るヴィゴールの剣を下から掬い上げる
それによりヴィゴールの剣は軌道を逸らされ、攻撃を外すどころか跳ね上げられた剣を握っていた両手を上げた無防備な状態へとなっていた
まさか自分の一番の技を破られるとは思っていなかったのか、信じられないといった様子で目を見開くヴィゴールに対し、俺は次の《剣技》を発動させる
「《蒼焔斬》!」
名前の通り蒼い炎を纏った剣が無防備に開けられた胴体へと再び叩き込まれる
そして、俺の攻撃はまだ終わってはいない
「《蒼焔連斬》!」
先程の技と同じく蒼い炎を纏った剣技、しかし違うのはそれが連続で繰り出される攻撃だという事だ
一度振り抜いたらタイミングを合わせて剣を返す、それにより連続した攻撃が繰り出せるスキルであり、今は取り敢えず十連続での剣を叩き込むに留める
そして止めの一撃とばかりに、次のスキルを叩き込んだ
「《雪月花》!」
今までの炎は攻撃から一転、最後の一撃を叩きんだ途端に周囲が氷で多い尽くされた
《雪月花》、斬った対象を氷結させる技であり、相手の足ごと凍らせる事で移動阻害効果を持ち合わせるが、どうやら俺の感情に反応してか氷が出来る範囲がかなり広がっていた
スキルとしての《剣技》が完全にゲームの時とは違うという証拠だろう、この決闘に於ける唯一の収穫と言ってもいい
「あ……ぐが……」
「まあ生きてるだろうな。《手加減》を使ったんだから当然だが」
どういった風に作用するかは分からなかったが、絶対に相手を殺さないスキルである《手加減》も使用していた
これもゲームの技だが上手く発動したようだ、本来なら他のスキルももっと威力があったと思ったのに、かなり低めに感じたからな
炎と氷の連続技で水蒸気爆発が起きるかとも思ったが、抑えられたのはスキルが関係するのか、まあ検証は今度にしておこう
コイツはもう戦闘不能扱いだろう、瑠璃のところまで戻るとするか
「正直に言うと、少し期待外れだったな。この程度の剣士がBランクだとは」
魔物と人間相手では違うとは分かっていても、そう思わずにはいられなかった
まあ結果として見ればブランクを取り戻す良い機会にはなった、スキルの発動も問題なく行えるから今後の活動でも積極的に使っていける
「審判、判定は?」
「あ、はい。カメーリア、ヴィゴール両名を戦闘不能とし、カナタ、ルリの両名の勝利とします!」
戻る途中、呆けた顔で突っ立っていたままの審判に判定を促し、俺達の勝利が確定した途端に歓声が沸いた
周囲で見学していた探索者達であり、俺達がスキルを教えていた連中だ
「お疲れ様、っていう程には疲れてなさそうね」
「呆れの方が強いからな。とはいえどうする?スキルを教えるにしても、この状況だとな」
「そうね。私も教えて欲しいって言われてたから、どうしようかしら?」
決闘には勝利したから連中の要求は全て突っぱねる事が出来る
だが後始末が残ってそうだし、そもそも俺達の要求を決めていないから、それも決めなければならない
「俺としては、このボロボロになった鞘をどうにかしたいんだが」
「あれだけ全力で振るっていればそうなるわよね」
「あれでも一応はセーブしてたんだぞ」
「私もかなり強くなったとは思うんだけど、やっぱりアンタっておかしいわよね」
「うるせえよ。それで、要求はこの鞘の件と今後俺達に手出ししてこない、この二つで良いか?」
「それが無難だと思うわよ。後者に関しては守られるか微妙だと思うけど」
そこは仕方ないだろう、懲りずに報復を考えるかもしれないが、その時はまた返り討ちにするだけだ
それにより《金獅子》と本格的に敵対する事になるかもしれないが、その時はまたこの場所を離れて別の場所に行けば良い、迷宮都市と呼ばれているのはこの街だけではないのだから
だが取り敢えずは今の後始末からだ、話し合って方針も決まったし、審判に話して俺達の要求を伝えて貰おう




