決闘
俺は残った四人の弓使いに向き直る、年齢はバラバラだが揃って緊張した顔をしていた
「それじゃあ弓の方だが、正直に言うと俺も幾つかスキルを知ってるだけで使った事はないんだ。だから一緒に手探りになるが、構わないか?」
「こうして付き合って貰えるだけでもありがたいんだ、文句なんて言える訳がないさ」
「そうか。なら試しにやってみるが、誰か弓と矢を貸してくれるか?見た事のある技を取り敢えずやってみようと思うんだ」
「ならオレのを使ってくれ。それなりに強いから、気を付けてな」
俺は一人の男から借りた弓を軽く引いてみる
普通なら手を保護する為に籠手を着けた方が良いんだが、今は無いから素手で軽くだ
スキルを発動させるだけなら全力で引かなくても良い技があるし、少しやってみるか
「確か、こうだったな。《ウインド・ショット》!」
風を操り矢に干渉して射程や精度を上げる技だ
強く引いていなかったからそこまで飛距離はないが、矢は途中で軌道を変えてカーブしながら弓矢の訓練用の丸い的に命中した
俺の場合、素で命中させられないからこそゲームで弓を使わなかったんだが、上手く再現出来たようだな
「な、なあ、今のどうやったんだ?」
「風を操作して矢の軌道を曲げたんだ。まあ、曲げるのはともかく、まずはこれで威力を上げる方が先かな」
試しにもう一度放ってみる、今度は軌道修正は無しに威力だけを重視しての一撃だ
イメージは強風を背中に受けている感じ、その風に逆らわずに勢いを強める感じだ
そうして放った一撃は的にこそ命中しなかったが、その奥の盛られた土に勢いよく着弾し土を巻き上げた
「やっぱり当たらないな。俺が使うならやっぱりクロスボウ辺りになるか」
「す、すげぇ……なあ、今のも風なのか?」
「ああ、さっきとは違って矢を後押しする為だけの風だけどな。強風の日に背中で受けたら前に強く押し出されるだろう?あれみたいに、矢を強く風で後押ししたと思ってくれ」
「成る程、試しにやってみるよ」
そうして弓使い達もそれぞれに練習を始める、一人だけ想像力が豊かなのか早い段階でスキルになっている少女が居たが、やはり若い方が頭が柔らかいのだろうか
後はスキルが発動出来た人に聞いて貰ったりして、俺は一度目を離していた近接武器組の方に戻る
弓矢という武器の特性上、どうしても場所が離れるのが難点だな、とはいえ分けないと誤射が怖いし仕方ないんだが
それで戻っている途中、何やら騒がしくなっているように聞こえた
ただスキルを発動してるだけって感じがしない、人だかりになって見えないが向こうで何かが起きているようだ
「おい、何かあったのか?」
「ああ、アンタか。それが、おれ達がスキルを使えるようになったら、ヴィゴールのヤツが来てな……」
「おお、カナタ!良かったぜ、お前が来てくれたなら心強い。お前からも何か言ってくれよ」
「いや、状況が全く見えないんだが……」
声を掛けると探索者達は道を開けてくれて、その向こうにはヴィゴールと口論になっているらしいフェデリコの姿があった
俺からもとは言うが、そもそも何が原因でこの状況になっているのか分からないから何も言えない
「キミが指導したっていう探索者だね?一体どんな手を使ったんだい?オレが指導してもスキルが発動する予兆さえなかったのに、今では簡単な物とはいえ全員が使えてるじゃないか」
「どんな手も何も、それこそ簡単で基本的な技を教えたからだろ。アンタのスキルだと《フレイムソード》は見ただけでは少し分かりにくい。《インパクトスラッシュ》は剣が当たる瞬間に重量を乗せるのか、威力が重くなってたな。二つとも応用以上の物だ。少なくともスキルを使った事もないような初心者に見ただけで理解しろっていうのは酷な話だろう」
「へぇ、キミは少しはスキルに対して知識があるみたいだね……」
「さてね。少なくとも、我流なら幾らか使えるが、他は見た事がないからな」
「それは凄い。どうかな、少しその力を見せてくれるっていうのは」
「何でそんな事をする必要が?俺にメリットがあるとは思えないが」
全てのスキルを使えというのなら、少なくともこの剣だけでは無理だな
俺はゲームの武器を弓以外なら一通り扱えた
その中には短剣や槍、珍しいものだと大鎌などの武器もあり、どうやっても発動が不可能な技があるのだ
それらを奥の手として隠しておく事は出来るが、一番得意とするバスタードソードでのスキルを全ては、な
まあスキルを全て見せても、それを応用した技を見せなければ良いんだが、この男に言われて使うのは何となく癪に障る
しかしその時、突如として轟音が響き渡った
俺は咄嗟に伏せたが、反応出来なかった面々は続いて襲った爆風によりその場で転倒してしまう人間が多い
それらに潰されないように気を付けつつ、轟音の発生源を見れば魔法組の方からだった
何かが爆発したのか煙が立ち込めているが、誰か魔法を暴発でもしたのか?
「けほっ、けほっ。ちょっとやり過ぎたわ」
「って、お前かよ」
煙の中から咳き込みながら出てきたのは瑠璃だった
特に怪我どころか服にも汚れすら見当たらないが、今の言葉からすればさっきの爆発の原因はコイツだ
「何やらかしたんだ、お前?」
「ちょっと面倒な事になって吹き飛ばしたんだけど、威力が過剰だったわ。あの人、死んでないわよね?」
「いや、煙で全く見えないんだが……」
「それもそうね。適当に風で散らすわ」
そう言って手を横に払う瑠璃の動作に合わせて風が巻き起こり、煙を外へと散らした
何気にコイツも魔法をマスターしたらしい、それもかなり器用に使いこなしているようだ
煙を晴らした事により爆心地の様子も見えてきたのだが、そこに倒れているのは魔法組の指導を行っていた筈のカメーリアとかいう女だ
それなりボロボロになってはいるが、一応は生きてるな、周囲の被害の割には傷が少ない
「瑠璃、回復ポーション使ってやれ。中級で十分だ」
「まあ、私のやった事だしね。えっと、これね。それっ」
瑠璃がポーチから取り出した中級回復ポーションはカメーリアに当たると容器が割れて中身を四散させる
容器はそのまま溶けるように消えてしまうが、中身のポーションがカメーリアの傷を即座に回復させた
錬金術師である瑠璃が作ったポーションだから即効性があるのだが、此処まで早いみたいだな
「うぅ……ワタシは……」
「カメーリア、無事か!?何があった!?」
「そういえば本当に何があったんだ?」
「私が魔法を早い段階で使いこなせるようになったから他の皆にも教えてたら、急にやってきて絡まれたのよ。魔法を使われそうになったから反射的に反撃したらあんな威力になったわ」
「お前もか……」
俺より一足先に始まったらしいが、先に魔法を使おうとして負けるって事は魔法にも発動速度があるのか
魔法についてもう少し説明が欲しいところだが、それよりも憤怒の表情でこっちを睨んでいるヴィゴールへの対処が先かな
「貴様、自分が何をしたか分かってるのか!?」
「あら、魔法を撃たれそうになって反撃するのは間違った事なのかしら?」
「何を証拠に言っている!?そんな態度で無事で済むと思っているのか!?後悔するぞ!?」
「治療費でも請求するの?それなら中級回復ポーションを使って治してあげたけど」
「貴様……!」
段々とコイツの目的が分かってきた気がするんだよな、コイツ等は《金獅子》の所属だ、噂の通りなら優秀な人材の引き抜きを行おうとしていたのかもしれない
それで見込みのない奴は切り捨てる方法をとったのに俺達は独自に教えていたらスキルの使えなかった面々もスキルを使えるようになったという成果を上げてしまった
それでは指導した側に問題があったという事になる、それも格下のFランク探索者である俺達よりも劣っているという評価付きでだ
コイツ等からすれば面白くないだろう、だから八つ当たり的に突っ掛かっているという線が濃厚かな
「オレ達を誰だと思ってるんだ!?《金獅子》のBランク探索者だぞ!それに対してたかが低級探索者風情が!」
「そのFクラスに負けてるんだからBランクっていうのも怪しいわよね」
「止めろ、余計に煽るな。魔物相手と対人戦だと勝手が違うだろう。俺達の方が対人戦に強いだけで、魔物相手なら分からないぞ。スキルを見たが、そこそこの強さはあるんだからな」
あの《フレイムソード》と《インパクトスラッシュ》の組み合わせはゲームなら中級といったレベルのスキルだった、Bランク探索者という事を考えてあの一撃が本気でないと仮定すればまだ上のスキルがあるだろう
それなら警戒するに越したことはない、というよりも今はまだ余計な問題を引き起こしたくはない
「貴様も、オレの最強の技を愚弄するか!?」
「えっ、あれで全力だったのか?マジで?」
てっきり奥義とかの知られていない切り札を隠してるのかと思ったのだが、つまりコイツの全力があのスキルだったのだ
それは……何というか、Bランクの実力って本当はどのくらいあるんだろうな
「アンタだって煽ってるじゃない」
「いや、割りと本気で驚いてる。なあ、フェデリコ。あれって中級くらいのスキルじゃないのか?ほら、あの炎を纏った剣の一撃」
「えっ?あれって訓練して一握りの人間がやっと到達出来るレベルだぜ?スキルの同時発動なんて、それだけ難しいもんだ。ハッ!?もしかして、カナタはもっと凄い技を知ってるのか!?三つのスキルを同時使用とか!」
「マジかあ……」
どうやら《ソード&マジックⅡ》で使える《剣技》はこの世界では結構上のスキルと同等らしい
少なくとも、あの組み合わせ技ならばわざわざ組み合わせるまでもなく一個の技としてゲームにはあった
そうか、俺は自分の基準で判断したばかりに無意識の内に煽っているような真似をしていたのか……
「済まない、悪気はなかったんだ」
「ふ・ざ・け・る・なあぁぁぁぁぁッ!!」
信じて貰える可能性はかなり低いだろうが謝ってみると余計に怒らせたらしい
鼻息荒く、真っ赤になった顔で俺を睨み付けているヴィゴールは背中の剣を抜くと、俺に真っ直ぐに突きつけてきた
「これだけの侮辱、決して許せるものか!決闘だ!二対二の決闘で白オレ達を舐めた事を後悔させてやる!」
「決闘?また面倒な事を……」
確か、探索者組合を調べていた時にあったが、探索者同士のトラブルとなり互いに一歩も退かない状態になった時に行う物だったな
ルールはその都度設定、ただし人材が失われる事を避けて殺しは御法度という原則はあるものの、負ければ相手の要求を受け入れる事になるだけに、まずは相手側の要求が気になるところだ
「オレ達が勝った場合は貴様等の全ての財産を戴く。そして一年の間、《金獅子》にて無償での活動を行う事を要求する」
「また一方的な……とはいえ、退けば不戦敗となって強制的に押し付けてくるか。瑠璃、お前はどれだけ戦えるようになった?」
「安心しなさい、魔法に関してはあの女の遥か高みに居るわ」
「さっきから慢心し過ぎだ。魔法を使えてテンション上がっているのは分かるが、過信するな。そこで成長が止まるぞ」
スキルが使えるようになってどんな相手にも勝てると思い上がった初心者プレイヤーとか居たからな、スキルを使えて、それをどう捉えるかで今後の成長率が変わる
まだまだ足りないと思うが、現状で満足するか、その二つだ
「わ、分かってるわよ……」
「本当に分かったなら良いんだけどな」
少なくとも慢心していただけに、一度挫折なりを味わった方が理解出来るとは思うんだが、今は負ける訳にはいかないからな
「決闘を受けよう。ルールの確認を行っていくぞ」
「ククッ、もう撤回は出来ないからな。その生意気にも伸びた鼻を叩き潰してやる」
こうして俺達は決闘を行う事になり、訓練場では探索者組合から来た職員が審判を務める事で認可されたのだった




