パーティー名
「やっぱり《血の饗宴》とかが良いと思うのよ」
「却下に決まってるだろ、何がやっぱりなんだよ、何が」
依頼達成から一時間後、ひょんな事からパーティー名を決める事になった俺達だが未だに決められずにいた
というのも互いに互いの意見を却下しているからだ、俺の場合は適当という事で軍の飛行隊の名称を適当に挙げていた、有名どころの《ジョリー・ロジャース》とか《レッド・リッパーズ》とか《ダイヤモンド・バックス》とかな
対する瑠璃は中二病全開のネーミングセンスだった、先程の《血の饗宴》の他に《失楽園の鎮魂曲》とか《死へ誘う天使》とかだ、まだルビを考えている途中とか言っていたがこれ以上痛くなる前に止めなければ
「もう、それならアンタは何が良いのよ?」
「《ドラゴンスレイヤーズ》」
「ドラゴン退治専門の探索者に思われるじゃない。却下よ」
「なら次はお前の番だな」
「そうね。《死の支配者》なんてどうかしら?」
「暗殺でも請け負うつもりか?パーティー名っていうのはそのパーティーの象徴って訳だからな。何か俺達を象徴するような物を考えようぜ」
俺達の特徴と言えば二人組、吸血鬼、AF、とかになるからそれらに関する物が妥当なところだろう
吸血鬼はいかにも中二病といった感じがするから除外するとして、AFや二人組といった点で考えてみよう
AF、ネメシス、凶星………………流れ星
「―――流星」
「流星?成る程、アンタの機体のエンブレムね」
「そうだ。俺の機体と、お前の母国語、その二つの組み合わせだ」
「どちらかと言えばアンタの比率が高い気もするけど、悪くないわね。じゃあこれにする?」
「そうだな、これ以上は話し合っても出なさそうだし、これにするぞ」
これならばそこまで痛くはない、何よりも機体を見れば意味を理解出来るくらいにシンプルで分かりやすいからな
何よりも瑠璃が乗り気になった名前だ、他の中二病センスで名付けられる前にさっさと決めてしまうに限る
そんな訳で受付でパーティー名の登録手続きを行って俺達の名は流星になった
それからは少し早めだが一度外に出て昼食を済ませた、それから適当に街の中をぶらついて探索者組合に戻ると講習の時間まで残り十分といった調度良い時間だった
「もう少しだな。二階の方であるみたいだから、早めに行っておこうぜ。ほい、ノートだ」
昨日の内に宿の部屋で《簡易ショップ》を使って購入しておいたノートを瑠璃に渡す
文房具は召喚された時から持っていたカバンに入っていた物をそのまま使えるから購入しなかった、そのカバンも何故か素材でもないのに瑠璃のポーチにそのまま入ったので文房具箱だけ取り出して再びポーチに戻す
講習のある部屋には机と椅子が並んでおり、前の方には教壇らしき物があるが、まだ誰も居なかった
また教壇の後ろには黒板のような物はなく、どうやら口で説明していくだけの形らしい
まあ登録の際に代筆してくれるというシステムがある時点でこの国の識字率がそこまで高くはないという事は分かってはいたがな
「これで講習になるのかね……」
「だから毎日講師を変えて同じ内容の講習をしているんじゃない?」
講習だが二時間あって前半の一時間に探索者として活動する中での注意の説明等が行われる
それらは主に探索者としての一般常識であり、探索者組合の規則に明文化していない暗黙の了解といった内容まで教えてくれるというのはありがたい事だ
探索者組合としては少しずつ明文化しているようだが、それでも抜け道を見付ける奴はいるらしく、それらの注意も含まれている
そして後半の一時間は戦闘に関する講習らしく、引退した探索者からスキルの扱いを学べるらしい
俺達はスキルを扱えても、その全てを理解している訳ではないから必要だと感じている
それで講習を受けるのだが、まずは講義の方だな、人が俺達以外には居ない状態で時間を示す鐘が外から聞こえてきた
「おや、珍しい。講習に出る探索者が居るとは、実に感心な事です」
その鐘が聞こえてきてから然程間をおかずにレンズの小さめな眼鏡を掛けて柔和そうな笑みを浮かべている一人の初老の男性が入ってきた
どうやら今回の講習の講師らしいが、口振りからするとこうして講習を受ける探索者は少ないらしい
「お二人とも、初めまして。私が今回の講習を担当させていただきます、トマスと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「此方こそよろしくお願いします。Fランクパーティー《流星》の奏多です」
「同じく瑠璃です。よろしくお願いします」
「とても礼儀正しい方々のようですね。では早速ですが講義を行っていきましょう。疑問があれば随時質問をして頂いて構いません。なにしろお二人しか居ませんからね」
トマスと名乗った男性講師はとても紳士的な人物であり、少なくとも元探索者には見えなかった
俺達は自然と敬語を使い、その講義を聞いていた
狩場でのマナーや注意すべき点、もしも他の探索者とのトラブルになった際の穏便な対処法など、基本的な事を教えて貰った
薬草の採取にしても根を残すようにすると次に採取する事が出来る事も教えて貰った、今後は根が採取の対象でない限りはそうするようにしよう
話し方もゆっくりと聞き取りやすく、俺達がノートをとっている間は話を一時的に止めてくれたりと配慮までして貰った、そして時間が来て最後に締めるようにトマス先生が口を開いた
「ご清聴ありがとうございました。今後もお二人は様々な冒険をする事になるでしょう。ですが、決して無理はしてはいけません。探索者は冒険するのが仕事ですが、冒険に命を掛け過ぎてもいけないのです。勇気は仲間を助けますが、無謀は仲間を殺します。あなた方は決してそのような事のないよう願っておりますよ。では、またの機会がありましたらお会いしましょう」
そう言い残してトマス先生は廊下へと出ていった
講義が終わったが夢中になってノートをとっていただけに、少し体が固まってしまっている
背伸び等のストレッチをしてほぐしつつ、俺達も廊下に出てスキルの講習がある裏手の訓練場へと向かう
「良い先生だったな。学校でもあんな先生なら授業内容が頭に入って来やすいのに」
「そうね。あれなら講義を希望する人が多くても不思議じゃないのに、どうして誰も居なかったのかしら?」
「勉強が苦手な探索者が多いって事なのかもしれないな。とはいえ次は実技だ。他の探索者も居るだろうし、お手並み拝見と行こうぜ」
同じランクの人間もいるだろうし、Fランクがどれだけの実力なのか自分達と比較する良い機会でもある
ステータスだけは高めだから他より圧倒的に劣っているなんて事はないだろうが、まだ一般レベルを知らないからな
そう話していると直ぐに訓練場に辿り着いたので中に入り、様子を見る
予想通りというか、訓練場には先程の講習とは違って結構な人数が既に集まっていた
剣士風の格好をした男や魔法使い風の格好をした女と性別も年齢も様々だ
俺達も端の方で待機していると、扉が開いて一組の男女が入ってきた
しかしその見た目は先程のトマス先生のように引退した探索者には思えない程に若い
周囲の探索者達もざわめいているし、この状況は普段とは違うという事なのかもしれない
「諸君、今日はよくスキルの講習を受けに来てくれた。オレは今日の講師を請け負ったクラン《金獅子》のヴィゴールという。よろしく頼むぞ」
訓練場に現れた男女の内、先頭の男は《金獅子》の所属だと名乗った
見ればもう一人の装備しているローブにも金獅子の意匠が施されている
そんか現役の探索者、それも大手クランに所属するような人物が講習を行うという事に周囲のざわめきが大きくなった
「驚く気持ちも分からなくはないが、訓練に行くぞ。まずは剣や弓といった物理的な武器を扱う者はオレの近くに来てくれ。魔法を扱う者は彼女、カメーリアの所だ。ほら、駆け足!」
「俺は剣士だから向こうだな。行ってくる」
「私は魔法を習ってみるわ。頑張ってね」
随分と急かすが時間が勿体ないという点は同意する、俺は瑠璃と別れて他の剣や槍を持った探索者達と同じくヴィゴールの元に集まった
訓練場はかなりの広さがあり、二手に別れてこれからスキルの練習で散らばったとしても余裕のあるスペースがある
「それでは剣士や槍使い、その他の物理的な武器を扱う諸君、君達にはこれからスキルの扱いを教えていく。まずスキルについてだが、どういったものか誰か答えられる者は居るかな?」
ヴィゴールの質問に対して答えられる者はいなかった、俺はそこまで理解している訳ではないが、ゲームで例えるなら常時発動のパッシブスキルと任意発動のアクティブスキルがある、ステータスカードに表示される、この位なら知っている
「知らなくても気にする事はないぞ。スキルには幾つもの種類があるが、まず大きく分けて二つある。常時発動型のスキルと、任意発動型のスキルだ。スキルはそれこそ個人によって無数に存在する。その中でオレが教えるのは任意発動型のスキルだ。分類では《武術》と呼ばれる物だな。例を見せよう、《フレイムソード》!」
スキルに関する認識はそこまで大きく離れてはいなかった、そしてヴィゴールは背負っていた両手剣を抜くとスキルを発動させた
炎が刀身に纏い、その刃を赤熱化させていく、どうやら熱で傷口を焼く効果がありそうだ
派手ではないが効果は絶大、成る程こういったスキルもあるのか
「これは炎の力を剣に付与した形になる。魔力を一定量消費するが、一度発動すれば任意で消すまで消えないぞ。そして、この状態で別のスキルを発動させる事も出来るんだ。《インパクトスラッシュ》!」
更にその剣を構え、訓練場に設置してあった標的用の案山子に横一閃の一撃を放った
案山子はボロボロになっているとはいえ金属製の鎧を身に付けていたが、凄まじい速度で振り抜かれた剣により胴体部分を両断されている
その断面が赤くなっている辺り、剣に纏った熱はかなりの温度らしい
それでよく剣が溶けないものだと思ったが、バイザーのスキャン結果によりミスリルを芯にアダマンタイトでコーティングしているらしい
あれならばアダマンタイトのインゴットが一本あれば全体を覆えるのだろう、アダマンタイトは熱にも強く加工するにもかなりの高温の炉が必要になるらしいから、あれで熱に耐えているんだろうな
スキルを二つ併用した見事な一撃、俺だけでなく他の探索者達も感心した様子だ
「これが《武術》の中で一番分かりやすいアタックスキルだ。さっきオレが唱えた《インパクトスラッシュ》に応じてスキルが動きをサポートしてくれるんだ。《武術》のスキルは使う人の想像力や経験によって編み出されるから、今から諸君もやってみると良い。大丈夫だ、どんな動きをするかをよく思い浮かべてスキルの名前を付けてあげれば発動出来る。必要があればアドバイスはするし、一度発動させてみれば他のスキルを編み出すのは簡単だぞ。さあ、やってみよう!」
その説明を聞き、俺の中で何かが動き出したのを感じた
異音を立てていた歯車の位置が合って巨大な機械が動き出したような、そんな流れるような感覚が俺の中に溢れてくる
ああ、そうだ、この世界には存在しないなんて決めつけていたから出来る訳がないんだ
バイザーの隅に新たな情報が表示されるが見なくても分かる、この感覚の正体は―――
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スキル:《剣技》を獲得しました
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