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異世界召喚の傭兵操者《マーシナリー・ランナー》  作者: RABE
第二章 流星《メテオール》
26/72

勇者達の今 3

奏多達が探索者組合に登録した頃から数時間前、ヴィレージュ王国南部のドルム村へと大量の馬車が近付いていた


総数にして二十台、更にはその周囲を多数の騎兵が護衛として囲み、ヴィレージュ王国の国旗である白地に青でグリフォンの描かれた旗を掲げて街道を進んでいた


その様子は村からも確認出来、新たに作られた物見櫓から村人達へと伝えられる


数日が経ち、破壊された建物の撤去や簡易的な建物の建築、荒れた畑の手入れや踏み壊された用水路の修復など、村人達は忙しく復興作業をしていた中での国の来訪に、村人達は浮き足だっていた


「今度は何だってんだ……」


臨時で村の纏め役をしているダンもまた呼ばれて作業から戻ってきたところであり、その頃には馬車が既に村の端へと辿り着いていた


その中から騎兵が一騎前に出て来て馬上から口上を述べる


「我々は王国軍より派遣された調査団である。先日、この村が強大な魔物の襲撃を受けたとして被害状況の確認を目的として訪れた。村の代表者は居るか?」


「オレが臨時の代表のダミアンだ。王国の調査団って事は、教会とは違うんだな?」


「先日の件は此方も聞き及んでいる。今回はその事も含めての調査となっている」


そこに馬車から人が降りてくる、その身なりは周囲を守る兵士とは違い整えられており、体つきも鍛えられたそれとは異なっていた


彼は調査団の代表として送られた文官の一人であり、主に聞き取りを行う為の人物だ


「えー、私が主に聞き取りを行いますので、辛いことを思い出させるかもしれませんが、質問に答えて下さい。まず、この村を襲った巨大な魔物ですが、タラスクで間違いないですね?」


「そうだ。二頭の番が此処を襲った」


「結構。その際に村長以下複数名の犠牲者が出るも、大多数は生き延びる事が出来た。また後程、詳細な犠牲者数は調べますが、間違いないですね?」


「ああ、川の近くにいた奴は助からなかった。お陰で、村長も……」


「ありがとうございます。その後、この村を偶然通り掛かった者達、カナタ・ハイムラとルリ・フォンテーヌの両名によりタラスクは討伐されました。なお、この際に教会からの報告ではこの両名がタラスクを誘導し村を囮とした、等と言っていましたが、そちらの印象ではどうでしたか?」


「いや、それは無いと思う。これは以前にも教会の騎士団に話した事だが、彼等の持つ《鉄騎兵》は遥かに強大な力を持っていた。正面から勝てる程の力を持っているのに、わざわざ小細工を弄する必要はないだろう。そもそも彼等が来たのは村が襲われた翌日だ。囮にしても、そんなに時間が空いたら意味がないだろう」


「確かにそれならば納得ですね。では教会の報告は嘘の可能性が高くなります。それと、次の質問になりますがこれが最後です。教会騎士が来た際に、カナタ・ハイムラが村人を囮としたとありますが、それは事実ですか?」


「それは……」


奏多が別れ際に自分達の事を悪役にするように言ったのは教会とのやり取りの事であり、タラスクの件は関係ない


だからダンは悩んでいた、教会騎士に対しての一件は自分の失言が発端であり、それに対して奏多が自分の罪にするように言った事に素直に従って良いのかと


「どうしましたか?何か問題が?」


「いや、そういう訳ではないんだが……」


文官に問われ、どのような答えを出すか窮していたところに、また別の人物が割って入った


「大丈夫です、例えアイツに脅されていたとしても僕達が守りますから。なので、正直に話して下さい」


「アンタは?」


「勇者様、今回の皆様の目的は遠征の筈です。調査に関しては此方の管轄ですので、どうか馬車にお戻り下さい」


その人物は桐生であった、彼は最初から奏多が悪役として思い込んでおり、ダンが答えを出せないのを脅されての事だと決めつけていた


「文官さん、それでもどうしても黙っていられなかったんです。僕は前々からあの灰村っていう奴はそういう奴だって思ってたんです。親が反社会的な人間なら、その子供であるアイツも悪事に手を染めて何とも思わない奴に違いありません」


学校に居た頃は確たる証拠はなかった、だがこの世界に来て最初の頃に教会騎士を斬り殺したと思っている桐生にとって灰村奏多という人物は悪人となっているのだ


そして、そんな悪人なら更に悪事を重ねてもおかしくはない、そう自分の中で結論付けていた


だがそんな持論を展開した桐生の声に反応し、馬車からは更に人が降りてきて遂には生徒達が全員降りてくる状態になっていた


「正義、何を勝手に決めつけてるの!?灰村くんはそんな人じゃないでしょう!?」


その中で椎名は桐生に対して大声で反論していた、既に文官も収拾がつかなくなっており、どうしたものかと頭を抱えている


「なら何でこの人は話そうとしないんだ!?そんなの、アイツが脅していたからに決まってるじゃないか!日本では証拠を掴むのも簡単だから表立って動かなかっただけで、この世界ならそうじゃないだろ!」


「だから何で灰村くんを悪者にするの!?そんなのおかしいよ!」


「鈴音はアイツに騙されてるんだよ!知らないかもしれないけど、アイツは他の学校の生徒を殴ったりしていたんだぞ!」


「それは他の子が絡まれてたから助けたって話したじゃない!」


「例え理由があっても人を殴るのは悪い事じゃないか!」


桐生と椎名、その二人が大声で怒鳴り合う状態になり、いよいよ収拾がつかなくなるというその時に止める声があった、陽葵だ


「はいはい、そこまでッスよ。椎名センパイも桐生センパイも少し落ち着くッス。二人で喧嘩しても真実は見えてこないじゃないッスか」


「それは……」


「……うん、そうだね。ありがとう、陽葵ちゃん」


「良いってことッスよ。それで、本題ッスけど、大丈夫ッスか?」


「あ、ああ……」


「でも大人だと何か隠してる感じがするッスから、そこのショタっ子、キミに決めたッス!」


喧嘩を収め、改めて事情を聞こうとした陽葵だがそこで話を聞く相手を物陰から様子を伺っていたマルスに変えた


マルスはまさか自分の位置が気付かれているとは思っていなかったようだが、陽葵に言われると大人しく出てきた


「それじゃあまずは名前を教えて貰っても良いッスか?」


「マルス……」


「成る程、マルス君ッスね。奏多センパイは結構誤解を生むような人間なのでお姉さんに正直に話して良いッスよ。多分ッスけど、この村の人を庇う為に悪役にしろとか言ったんじゃないッスかね?」


「うん……兄ちゃんは絶対に悪者なんかじゃない!兄ちゃんの《鉄騎兵》、物凄くカッコ良かったんだ!それなのにおれ達を助ける為にボロボロになって……」


「マルス、少し黙ってなさい」


「ダンのおっちゃんも何で黙ったままなんだよ!いくら兄ちゃんが自分を悪者にしろって言ったからって、本当にそうする必要はないだろ!」


「お前は……ああ、もう……」


マルスの言葉に奏多の心遣いが無駄になる事を危惧したダンだったが、既にマルスは全てを語っていた


だがダンの口元には少しだけ笑みが浮かんでいた、彼もまた奏多を悪者にする事には割り切れずにいたので、この機会に全てを打ち明けてしまおうと考えたのだ


「言ってしまっては仕方あるまい。マルスの言った通り、カナタは無実だ。教会騎士が来た時にオレが誤魔化し切れず、失言によって斬られそうになった時に遠距離から不思議な武器で騎士の腕を貫いたのだ。それから戦闘になり、カナタが教会騎士を撃退した。カナタはオレ達に教会からの圧力が掛からないよう自らが脅したとして教会に報告するように頼んだ。それが事の顛末だ」


「その言葉、決して偽りはありませんか?」


「ああ、我が祖先や村の人間全ての名に誓って我等が恩人たるカナタの無実を証言する」


キッパリと言い切ったダンの顔には満足そうな笑みが浮かんでおり、それは誰の目から見ても嘘偽りを述べているようには見えなかった


「ではその様に報告しておきましょう。聴取は以上になります。ありがとうございました」


「良かったあ、やっぱり灰村くんは悪い事なんてしてないんだよ」


「まあセンパイらしいと言えばセンパイらしいッスね」


それにより文官や椎名、陽葵といった面々は笑みを浮かべて安堵していた


それとは別に桐生は苦虫を噛み潰したような顔をしている


「灰村はそれだけだったんですか?その後で復興を手伝おうとはしなかったんですか?」


「あのまま残ってしまえば嘘がバレてしまうから早々に立ち去ってしまった。その代わり、大量の食料を譲ってくれたよ」


「食料……そんな大量に、一体何処から?」


「彼等は見慣れない乗り物に乗っていたが?確か、トレーラーとか言っていたか?それに《鉄騎兵》を始めとした荷物を載せて旅をしているようだった」


そして納得のいかない様子の桐生がダンへと更に問い掛けると、その場の誰もが予想しなかった答えを口にした事でそれまで傍観していた生徒達までざわめきだす


その反応にダンは己の失態を悟ったが、既に遅かった


「トレーラーだって!?何でアイツがそんな物を持ってるんだ!?それに、大量の食料も何処から!?」


「そ、それに関してはオレも知らない。ただ、見たことの無い袋や金属製の入れ物に入っていて、彼は故郷の物だと言っていた」


「取り敢えず、その袋とかって見せて貰っても良いですか?」


「まあ、構わんが。こっちだ、皆で分ける為に無事だった集会場の中に置いてある」


思わず口を滑らせた事で更なる情報を渡す事になったが、見せるだけならば問題ないと集会場の方に向けて歩き出すダン、その後ろを他の生徒達もついてきていた


「此処だ。少し待っていてくれ。幾つか持ってこよう」


しかし流石に村人全員の食料が置いてある中に入れる訳にはいかない事から、その中でダンだけが中に入り幾つかの食料を持ってきてみせた


それは小麦粉や野菜、ジャーキーといった保存食ばかりだったがその包装はビニールや缶詰となっていた


「文字は読めないがこれが小麦粉らしい。これはカンヅメと呼んでいたが、中身は絵柄に対応している。これは干し肉だな、見たこともない袋に入っているがこれなら虫に食われる心配もない」


「本当に、地球の加工食品ばかりなんだ……」


ダンが次々と並べていく食料を見て生徒達のざわめきは更に大きくなった


パッケージの表記は英語だが、それらは全て地球で売られている物と全く同じだったのだ


「アイツの荷物、確かにカバンだけだったよな?」


「だとしてもこんなに入るかよ。どうなってんだ一体?」


「それとトレーラーだろう?オレたちが尻を痛くして馬車に乗ってたのに、何でそんな物があるんだよ」


そんな思い思いの感想を口にしている中でマルスが集会場の中から一つの小さな袋を持って出てきた


「チョコバーもまた箱で大量にくれたんだぜ!皆で仲良く分けあって食べてるんだ!」


「お菓子……確かに私達、お菓子とか食べてないね……」


「うん、チョコレートとか食べたいよね」


「灰村君、何処でそんなに手に入れたんだろう?羨ましいなあ」


それには主に甘いもの好きの女子生徒達が反応した、この世界にもお菓子はあるにはあるのだが地球の物ほどには洗練されていない、使用されている砂糖などの量も少なくチョコレートのようなお菓子は全く食べていないのだ


そんな彼女達の気持ちは全く知らずにマルスは袋を開けて笑顔でチョコバーを食べている、それを羨ましそうな目で女子生徒達は見ていた


「あの、ダミアンさん。灰村くんはその後、何処かに向かうか言ってませんでしたか?」


「ああ、エクレニウス皇国に行くと言っていた。此方からも聞きたいのだが、お前達はカナタと同郷の者なのか?先程、勇者という言葉が聞こえたんだが?」


「はい、私達は此処とは別の世界から召喚された勇者なんです。灰村くんは私達のクラスメイトで、一緒に召喚されたんですけど瑠璃ちゃん、吸血鬼になった女の子が教会に追われているのを助けて、自分もそれを助ける為に離れ離れになってしまって……」


「そうだったのか。だからあのトレーラーや不思議な《鉄騎兵》の出自も隠そうとしたのだな」


それを傍目に、椎名はダンへと奏多の行方を訊ねていた


その傍らには陽葵や司も一緒であり、揃って奏多の事が気になっているのだ


「それじゃあ、エクレニウス皇国って所に行けば灰村くんに会えるんですね?」


「恐らくは。だが何処の街に行くかは言っていなかったから分からないぞ」


「大丈夫です、トレーラーに乗ってるならきっと目立つ筈なので聞き込みをしながら探します!」


ダンの話を聞いた椎名は奏多を探し出す気でいた、例え奏多が戻ってくるのは難しくとも無事な姿を一目で良いから確認したかったのだ


「残念ですが、勇者様達がエクレニウス皇国に向かう事は許可出来ません」


しかし、文官がその話を聞き付けて即座に否定した


「エクレニウス皇国は現在、王国の仮想敵国となっています。勇者様達が魔人大陸に進出する為の障害となっているのです。現在、必死に交渉中ですが結果次第では実力行使もやむ無しとされています。そのような国に我が国の勇者様を行かせる訳には参りません」


「でも、灰村くんはそこに居るんでしょう?なら、連れ戻さないと!」


「あの国は魔族の受け入れも行っています。ハイムラ様もそれを聞いて向かわれたのでしょう。少なくとも、ルリ様の為に教会と敵対する事を厭わないような方がリリウム教の存在する現在の我が国に戻る事はないでしょう。そして今回勇者様方の同行された目的は遠征です。ドルム村の被害状況の把握が出来た以上、私は迅速に報告し、適切な援助を行う必要があるのです。今後の予定もありますので、暫しの休憩の後に出発致します。宜しいですね?」


「はい、分かりました……」


文官にそう諭され、力なく返事をする椎名、その背を慰めるように陽葵が叩いた


「そんなに落ち込まなくてもまた会える可能性はあるッスよ。センパイは無駄に戦闘能力高そうだし、何かウチ等の知らない能力を持ってるみたいッスから、心配いらないッス。逆にまた会った時にお菓子をねだるくらいの気持ちでいるッス!」


「陽葵ちゃんの言う通りだよ。奏多はゲームの力を持ってるみたいだから、その得意なゲームで負ける筈がないよ」


「うん、そうだね。ありがとう、二人とも」


「良いってことッスよ!それじゃあまた馬車で揺られるまでにゆっくり休むとするッス!」


その後、勇者達一行は休息をとった後、再び移動を開始する


遠征として向かうのは王国内にある小規模のダンジョン、この場で報告の為に戻った文官とは別れ、彼等は実戦を経験する為に旅を続けた

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