迷宮都市ストラスフォード 3
大通りに行ってみると、そこは大勢の人間で溢れかえっていた
人々は歩道に集まり、皆が一様に車道の方を向いている
何が起きるのかと思っていたら、やがて北門の方から車道を通る集団が見えてきた
統一された装備に身に包み整然とした姿で隊列を組み行進してくる集団、赤地に金の獅子が描かれた旗を掲げている
「あれってエクレニウス皇国の軍隊なの?」
「いや、エクレニウス皇国の国旗は青地に白の剣と楯だ。部隊章だとしても国旗を掲げないのはおかしい」
それならば他国の軍隊かとも思ったが、近辺にはそんな国旗を掲げる国はいない、獅子を使う国は居ても意匠が異なるのだ
「なあ、すまないがあれは何の集団なんだ?」
「何だ兄ちゃん、この街は初めてか?」
仕方ないので見物人の一人である適当なオッサンに訊ねる事にした
オッサンは俺の事を物珍しげに見たが、それだけこの街では有名な集団という事なのだろうか
「ああ、探索者になりに今日着いたばかりなんで、右も左も分からなくてな」
「そういう事か。探索者志望なら兄ちゃんも覚えておいた方が良い。この街では探索者が集まってるが、その中でも三大勢力と呼ばれるトップクランがある。あれはその内の一つ、《金獅子》だよ。今回は北にあった50階層のダンジョンを攻略したんだってよ」
事前に調べていた情報によれば探索者同士が集まって作った集団をクランと呼ぶらしい
元は氏族が語源らしいが、同じ目的を持った仲間が集まった結果巨大になり組織化した事で自然とそう呼ばれるようになったらしい
探索者組合でもクランを制度化しており、人数の多さから達成可能な依頼も幅広くなり、難易度の高い依頼の斡旋を行ったりするのだとか
人数は同じクランと言ってもピンキリで数百の人数が集まってる所もあれば十名足らずでクランを名乗ってる場所もある、要はゲーム内に於けるチームとか軍団とか、そういった仕組みという事だろう
この街には他にも二つ大規模なクランがあるらしいが、俺達は所属するつもりはないから名前を覚えておくだけで良いか
「けど此処だけの話、《金獅子》は悪い噂も多くてな。他の《円卓》や《白百合》より歴史が浅くて、張り合う為に優秀な人材を半ば無理矢理にでもクランに所属させるって話なんだ」
「それはまた……」
「兄ちゃんも気を付けろよ。腕利きになった途端に連れてかれるかもしれないぜ」
オッサンは冗談めかして言うが、俺の場合はAFがあるから割りと洒落にならないんだよな
それ程までに強引な連中だとしたらAFの性能に目をつけて来るかもしれないし、機体を寄越せと言ってくるかもしれない
この間の戦闘で《鉄騎兵》を手に入れて解析しているが、操縦方法が全く違うから渡しても使えないとはいえ、面倒な事になるのは間違いないな
この行進も自分達の力を誇示する為のものだろう、見に来ている人達は物珍しさからだろうしな
「おっ、《鉄騎兵》のお出ましだ。《金獅子》は他のクランよりも大量の《鉄騎兵》を所持してるんだぜ。その分、狭いダンジョンだとあまり役立たないみたいだけどな」
「《鉄騎兵》か。国に配備されてる他にも、探索者が持ってるっていう話は本当だったんだな」
とはいえ歩いてきた《鉄騎兵》は国に配備されている物とはかなり違っていた、少なくとも基本的でバランスの取れた様子だった今まで見ていた《鉄騎兵》とは形が違う、三機が歩いてきたが一機は見慣れた基本的な形の機体であるのに対し、一機は重装甲で大型の分厚い楯を持っており、残る一機も《鉄騎兵》のサイズまで大型化したクロスボウを持っており、装甲を削って代わりに予備の弾倉らしき物を複数所持している事から連射可能な物らしい
恐らくはパイロットの好みか連携の為に特化させているのだろう、今までの相手は飛び道具を装備しているなんて事が無かったから新鮮な気持ちだ
「見ろ、兄ちゃん。あれが《金獅子》のトップだ。《雷鳴剣》の二つ名を持つ男、バルトロ・ペルシアーニだよ」
「さっきから詳しいな、オッサン」
やけに詳しいオッサンに促されて見ると、白銀に輝く甲冑を纏った一人の男が馬に乗っていた
兜は外し脇に抱えており顔が見える、金髪で顔立ちは整っている方だが、あくまで整っている方ってだけだな、少なくとも桐生のように一目見てイケメンだと分かるレベルじゃない
今もダンジョンを攻略したからかドヤァといった文字が横に浮かびそうな表情をしているしな
「俺達もいつかダンジョンの攻略を目指すか」
「おう、兄ちゃんも頑張りな。中央のダンジョンは百を超える階層があるって話で、まだ誰も攻略した事がねえんだ。周辺のダンジョンは攻略されてるとはいえ、ダンジョン攻略っていう名誉や攻略で神様からの褒美はある。未だに多くの探索者が潜り続ける訳だな」
つまり同じダンジョンでも何度もチャレンジ出来る、と
その褒美とやらも気になるし、ますますダンジョンへと向かいたくなってきたな
「ありがとう、オッサン。早速探索者組合に行ってみるよ」
「おう、有名になれればいいな、兄ちゃん」
色々と教えてくれたオッサンに礼を言い、俺は瑠璃と共に街の南へと歩き出した
大通りは混むから少し離れた道を進むこと三時間、ようやく街の南側へと入る事が出来た
「かなり遠いわね……」
「まあ、これだけの街を徒歩で横断してる訳だからな」
途中で休憩がてら適当な出店で食べ物を購入しつつ歩き、ようやくだ
街中を巡る市バスのように一定のルートを巡回している馬車が存在する理由が分かったよ、気付いた時には既に南側だったけど
「とはいえ此処からはまた聞き込みしつつだな。それに、時間もだ。今日は登録だけ済ませて適当な宿で休むとするか」
「そうね。流石にトレーラーを展開するスペースは無さそうだし、そうしましょう。でも依頼とかを軽く確認するくらいは大丈夫よね?」
「そうだな。俺達もこの街を拠点にするなら何処か土地を借りるなりした方が良いかもな。家はトレーラーを出せば良いし、土地だけでだが」
「暫くはトレーラーを出したければ街の外に居るしかないわね」
「トレーラー暮らしの方が快適なのは否定しないが、やっぱり一度くらいは宿に泊まった方が旅をしてるっぽくて良いもんな」
俺の場合はトレーラーでも運転席で寝てるからそろそろベッドで眠りたいというのもあるが、一度はこの世界の普通の生活を体験しておかないと今後の会話でも齟齬が出るかもしれない
アーカイブで調べているとはいえ、文字だけでは分からない事も多いからな
「取り敢えずは聞き込みをしながらだな。すみません、南の探索者組合ってこの辺りですか?」
「ん?探索者志望かい?それなら大通り沿いに行けばあるよ。大きな看板が掛かってるから行けば分かる筈だ」
「ありがとうございます。それと串焼き二本下さい、塩で」
「毎度あり。またご贔屓に」
聞き込みついでに串焼きを購入して瑠璃と一本ずつ食べながら歩く
出店で聞き込みするんだから礼儀として買うのが当然だろう
結構な距離を歩いて足が少し疲れたが、もう少しとなれば気力も沸いてくる
そして俺達は遂に一件の大きな建物に辿り着いたのだった
「此処だな。大きな看板に探索者組合って書いてある」
「これで探索者になれるわね。外は他とあまり変わらないけど、中はどうなってるのかしら?やっぱり酒場が入ってたりするの?」
「そんでもって中に入ったら酔っぱらいとかに絡まれるのが定番だよな」
「見てるだけなら良いんだけど、いざ自分達になると面倒極まりないわね」
そんなファンタジー小説あるあるを話ながら探索者組合へ入る
イメージしていた通りというか、広いスペースの中にテーブルが幾つも並んでおり、入り口から左手は全てカウンターになっている
奥には依頼が貼り出されているのか掲示板に大量の羊皮紙がついていた
ただ、予想していたように酒場があって酔っぱらいで溢れかえっているなんて事は無かった、テーブルの方も仲間同士で使って打ち合わせや雑談に使用している
少なくとも此処には酔っぱらいなんか存在しない
まあそれならそれで良いことだ、手早く探索者としての登録を済ませてしまうとしよう
「ようこそ、探索者組合へ。本日はご依頼でしょうか?」
「いや、探索者として登録したい。手続きは此処で大丈夫なのか?」
「登録ですか?それは、そちらの方もでしょうか?」
一番近かった受付の上の方に総合受付と書かれたプレートがあったので行ってみると、その受付嬢がそちら、というので見てみると瑠璃の事だった
今回は森とかの動きが制限される状況ではないので黒いドレス姿になっているのだが、確かにこれでは探索者志望と思わないだろうな
「コイツも一緒でお願いします」
「分かりました。では此方に氏名や年齢などを用紙の欄に従って記入して下さい。代筆は必要ですか?」
「いや、大丈夫だ。自分で書ける」
渡された羊皮紙に二枚、受付に置いてあるペンにインクを付けて記入していく
普段がボールペンとかだから慣れないが、なんとか書く事が出来た
内容としては氏名、年齢の他にステータスの職業や得意な技能などを書き込むようになっていたので、俺は職業には傭兵操者と書き込み、技能には近接戦闘と《鉄騎兵》の操縦と書いておいた
瑠璃も同じく錬金術師、技能に錬金術や鑑定と書いていた、魔眼もまた鑑定が出来るから嘘ではない
俺が職業を伏せなかったのはステータスカードを確認されると直ぐにバレるからだ、それで面倒な事になりたくはないし、職員なら守秘義務はあるだろうからな
最後に死んでも自己責任という、ごもっともな同意の確認にチェックして用紙を返す、瑠璃も殆んど同じタイミングで完了した
受付嬢が用紙を確認して、俺の職業のところ辺りで首を傾げていたが、そのまま登録するのか羊皮紙を近くにあった機械らしき物に投入する
すると機械が光だし、少しすると一枚のプレートを出した
最初の一枚を俺に、もう一枚の羊皮紙も同じ手順で投入し、出てきた二枚目を瑠璃に渡してきた
「お二人は初めて登録されるという事でFランクになります。依頼を達成していけばやがて昇級となり、受けられる依頼や立ち入れるダンジョン、危険地帯が増えます。また、パーティー編成でのみ本来のランクより一つ上位の依頼が受注可能です。また、採取依頼にはランク制限が存在しません。手持ちの中に納品依頼の出ている物があった際は申請して納品して下さい」
見れば渡されたプレートには記入した内容の他にFランクと書かれている
街に入る時に探索者が見せていたプレートと同じだから、これが身分証になるのだろう
「昇級するのに大体の目安とか、試験ってあるのか?」
「昇級はこれからの活動によって独自にポイントを定め、それを基に判断されます。例えば依頼を連続して達成していればポイントは普段より多く加算され、逆に何らかのトラブルを起こした際には減点されていきます。ランクの上がらない探索者の中にはお酒のトラブルで減点されている、なんて方もいらっしゃいますのでどうかお気をつけ下さい。試験はDランク昇級の際とBランク昇級の際にあります。筆記と実技になりますが、筆記は基本的な内容になり、実技は教官との模擬戦で見あった実力があるかを測ります」
酒のトラブルといった辺りで背後に目を向ければ探索者達の中にギクリといった音が聞こえそうな反応をした奴が何人かいたが、そういう事なのだろう
とはいえこれは素行に問題のある人間は上に上がれないといった事で、品行方正に過ごしていれば減点はないという事だろう
試験に関しては基本的な、という筆記に不安があるがそれは今後勉強していけば良いだろう
「登録は以上になります。また、初めて登録された方は登録から一週間以内であれば無料で講習を受ける事が出来ます。探索者組合の規則やスキルの扱い等、様々な事を学べる機会ですので是非ご参加下さい。日程はカウンター横の掲示板に貼り出されています。今後のあなた方の活躍に期待します」
新人は講習を受けられるというのは初めて知ったが良い制度だと思う、探索者になったは良いが右も左も分からないなんて事にはならないからな
その掲示板を見れば、基本的には昼過ぎに行われているらしい
この世界にはまだ腕時計のような小型の時計はないが、通りに大きな時計が設置されているし、昼間は一時間ごとに鐘が鳴っている
基本的な時間や日付は地球とそこまで変わらず、一日24時間、一年は360日で30日ごとで一月と計算がしやすい
俺のバイザーを始めとした各種端末も時間の表記がこの世界に対応しているから、遅れるという事はないだろう
「この講習を受けるのに予約があったりはするのか?」
「特にはありません。ただ、メモ等は各自の負担になりますのでご了承下さい」
「成る程、ありがとう。瑠璃、後は依頼を適当に眺めて今日は帰ろうぜ。宿も取らないといけないしな」
「宿でしたら探索者組合と提携している宿が近辺に幾つかありますが、どうされますか?」
「後でお願いします」
「分かりました。リストをご用意しておきますね」
この受付嬢さん、かなり仕事が出来るな
見た目まだ若いのに、落ち着いて仕事が出来ている
だから総合受付という様々な業務がありそうな場所に居るとは思うが、後でまた宿屋の方を教えて貰うとして、軽く依頼を見る事にした
依頼内容の書かれた羊皮紙が貼られている掲示板は大きく三つに別れていて、それぞれが討伐、採取、その他となっている
討伐はその名の通りで指定された魔物の討伐や、その魔物の素材の納品だ
採取は薬草や鉱石、それと納期が決まっていない魔物の素材、つまりはあったら欲しいといった素材だ
その他だが、此方は本当に上の二つに当てはまらない物だ、商人や旅人の護衛はまだ分かるが子供の家庭教師やら引っ越しの手伝い、ドブ掃除といった物まである
明らかに雑用なのだが、ランクの低い内はこんな依頼なのだろう
「特にめぼしい依頼はないし、今日は帰るか」
「そうね。受付で宿のリストを教えて貰って帰りましょう」
だが討伐依頼というのもホーンウルフやらゴブリンやらだった、ありふれた魔物で繁殖力も強いから常時依頼として存在しており、討伐数に応じて報酬が支払われる仕組みだ
それなら少しの間は講習を受けて、それから依頼を受けるという形に決定した
俺達はカウンターに戻ると先程の受付嬢からリストを受け取って宿探しに探索者組合を後にした




